第57話 両手を離す
「うりゃあああっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! バッターアウト!」
「おっしゃあっ! 1回表に1点取られたあとは立ち直って4連続三振だあ!!」
「これでリズム作って次こそはホームラン打ってくれー!」
ウチの側のスタンドから応援と期待の声が届くのは、本当にありがたいし力も湧いてくる。
だけど、素直にそう受け取れない自分もいて、なんかモヤモヤするんだよなー。
まずは奪三振数。
浪速筋高校の先発ピッチャーで、オレと並ぶ今大会最速169キロの男、頭崎は2回まで投げ終わって5奪三振。
対してオレは3回表の途中でまだ4奪三振。
ちくしょう。このオレが奪三振数で相手にリードを許すなんて……!
そしてもう一つは、『次こそ』ホームランを期待されているということ。
第一打席の頭崎との直接対決では、結果としてセンターフライだった。
だが芯を外されながらも強引にパワーで打ち返した打球は、高い放物線を描いてフェンスギリギリでスタンドに入るはずだった。
それをフェンスによじ登ってホームランキャッチしたのは、『魔術師』の異名を持つセンターの低井田。
ホームランを1本損した。それに、せっかく同点に追いつけると思ったのに……!
そんな納得のいかない気持ちで右打席に迎えた9番バッターは。
「低井田〜! 今度はヒットを頼んだぞ〜!」
「いつも通りにガツンと引っ張ってやれー!」
オレが今、最も腹立たしい男なのだ。
ただ、『魔術師』なのはあくまで守備の話で、バッティングはそうではないらしい。
というか、むしろ強引に引っ張る力ずくなスイングが特徴と聞いている。
体格はそんなに大きくないのに、人は見かけによらないなあ。って、オレが言うのもアレか。
そんなことを考えていると、打席の方から騒がしい音声が耳に突き刺さってきた。
「ズビズバァ! と低井田ちゃんが打席に舞い降り立ったで〜! いやはあー!」
なんかやたらテンション高い野郎だな。ウチだと近海に近いタイプってところか。
「オージロウのタマは〜全然ショボいんやでぇ〜! ギャハハハ!」
こ、この野郎!
下手したら下ネタにも聞こえかない挑発を……いや、いちいち反応するのはやめよう。また球審に怒られる。
まあコイツがなんだろうが、力でねじ伏せるだけ。そうなりゃショボいなんて言った自分が恥かくだけさ。
初球は……しょーたの要求通りに行くぜ。
「うりゃあああっ!!」
「内角高め! ざっしゃあっ!!」
ズバンッ!
「ストライク!」
クククッ。なんだよ、全然振り遅れてんじゃん。
どうってことないのはお前のスイングだったな。
「うーん。ちょいと間隔を調整するやで〜!」
なんだあの野郎。元からバットを握った両手を指一本くらい離してたけど、今度は指2本分離した。
たまにああいう握りで打つヤツを見かけるけど、打ちにくくないのかな。まあ人それぞれなんだろうけどさ。
ああすることでヘッドが立てやすくなるし、右手を強く押し込めるから、高め対策ってか。
ならば……次もしょーたの要求通り。
「うりゃあああっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! カウント0−2!」
さあ追い込んだ。次はトドメ……その前に、またヤツが両手の間隔を空けてる。今度は指3本ってか。
それに対してしょーたの要求は当然すぎるものだった。
文字通りトドメと行くぜ……外角低め!
「うりゃあああっ!!」
「それを待っとったんやで〜。ざっしゃあっ!!」
バチィーーンッ!!
脇を締めて身体を傾けながら思いっきり引っ張られた……クソッ!
確かに高めよりはノビと威力が落ちるから、最初からそこへ誘導されてたのか。
しかしサードの田白の正面。これなら問題ない。
と思ったのだが。
「痛ってえっ!! 強烈過ぎてグラブが弾かれた!」
マジかよ。サード強襲安打……。
そして次のバッターはあのハリーなのである。
<あとがき>
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