第52話 洗礼と繋ぎ
「オージロウ! お前はやはり上級生に対する礼儀がなっとらん! 喝じゃっ!!」
浪速筋高校との準決勝。
今さっき試合開始して1回表、先攻の浪速筋高校は1番バッターのハリー伊佐武が左打席に入っているのだが。
いきなり上級生への礼儀とか、わけわからんことで絡まれてしまった。
「いやいや、さっきベースを挟んで挨拶したでしょ!」
「あんなものは形式だけ。お前には真に上級生を敬うという気持ちが入っとらん!」
「なんでそこまでアンタに言われなきゃなんねえんだよ!? たまたま対戦相手ってだけでオレより1年早く生まれただけの人にさあ!」
「うぬううっ! その不遜な態度と言葉遣い、大喝じゃあーっ!!」
「なんだとー!!」
「君たちいい加減にしたまえ! 特にオージロウくん!」
あーあ、球審に怒られちまった。
オレは相手が絡んでくるから仕方なく応じているだけというのに。
準々決勝でも革新学院のエスカンダリ有人に絡まれて注意を受けたから、審判団から目をつけられてるのかも……最悪だよホント。
さて、一応は静かになったハリーを睨みつけつつ投球準備に入る。
ハリーはセンバツでは準決勝までの4試合で7割5分という、とんでもない記録を残した男。
その準決勝で革新学院の江側と金正一に抑え込まれるまでは、ほぼ10割近い打率だったというから無茶苦茶だ。
あと、名前でわかる通り日系アメリカ人で小学校の頃に日本へ帰国したらしい。
だからなのかはわからんが、185センチ90キロという堂々たる体格で身体全体が分厚いというか。
そして構え方に特徴があって、バットを高く構えて先端をややキャッチャー側へ倒している。
つまり、既にほぼトップを作ってそのまま最短で振り抜いてくるってことかな。
ということは高めに強いはず。だけどあのままスイングしたらヘッドを遠心力で走らせにくい気もするんだけどなあ。
で、しょーたの要求は内角低め。
一応は首を縦に振りつつも、オレは初球をここに投げると心に決めていた。
それじゃあ行くぜ……礼儀がなってないっていうから、挨拶代わりにこのボールをなあ!
「うりゃあああっ!!」
「内角の胸元ストレート……だがお前の『挨拶』は中途半端で甘いっ! かーーつっ!!」
バシィーーッ!!
嘘だろっ!?
いきなりのピッチャー返し……オレの顔面に迫ってくる!
「うわあーーっ!!」
ビュンッ!! と凄まじい速さの打球が目の前を通り過ぎっていった。
間一髪のけぞるように打球を避けきって、咄嗟に右手を上げてグラブを差し出したが間に合わず。
実際には頭の上を通過する軌道だったが、あまりの勢いで顔面直撃かと錯覚するほどであった。
そのまま二遊間を破った打球はあっという間にセンターの阿戸さんの元へワンバウンドで届き、先頭バッターの出塁を許したのである。
「おっしゃあ! 生意気な2年生に洗礼浴びせたったぞ! このままいてまえ!」
「さすがハリーじゃあ! 怪物がなんぼのもんじゃい!」
浪速筋高校側のスタンドから、これまでとは違うノリの応援がやかましい。さすがヤンチャ高校。
ショートの大岡と今日のセカンド先発のひょ〜ろくくんはなすすべ無し……というかオレがグラブに当ててたらなんとかなったかもしれないのに。
「すまねえ2人とも! 避けるのが精一杯だったんだ」
「……まあさっきのは仕方がない」
「オージロウさんに怪我が無くて良かったです〜!」
優しいなあ2人は。しかししょーたからは容赦ない怒鳴り声が聞こえてきた。
「だから低めを要求したのに! 何やってんだオージロウ!」
「あー、悪い。立ち上がりの初球だしまだ制球が定まってないんだよ、仕方がないだろ」
「……次はちゃんと投げてくれよ!」
へいへい、と心の中で返答しつつ次のバッターへの投球準備を始める。
2番バッターは相手先発ピッチャーの頭崎か。コイツともハリーと同じく開会式のリハーサルの時にイザコザがあったのだ。原因は阿戸さんと近海なんだけど。
身長は180センチ前後ってところかな。オレと並ぶ今大会の速球王と呼ばれてるだけあって肩周りと下半身の厚みがある。
そしてコワモテで眼光鋭くいかにも強気な顔つき……なんかこの高校はこんなのばっかじゃん。とか考えてるとまたもや向こうからなんか言ってきた。
「おい……お前も169キロを準々決勝で出したんやってなあ! ワシの真似すんなや!」
そういえばウチの試合の後で頭崎も169キロ出したってニュースが目に入って驚いたっけ。
ヤツのこれまでの最速は167キロで、オレが1キロだけだが今大会最速だったのだ。つまり並ばれたのはむしろオレの方だってのに。
「いやいや、ウチの試合の方が先だったからアンタがオレの真似をしたんでしょうが!」
「じゃかましい! 高校野球界の速球王はワシの代名詞やったのに、お前ばっかり話題になりやがって! 言っとくけど170の大台に乗せるのはワシが先やからな、よう覚えとけ!」
ひええっ。どうしてもこういう話し合いが通じない展開になるのね……。
さすがにもう相手してられないから答えるのはやめた。それにコイツにばかり注意を向けるわけにはいかない。
1塁ランナーのハリーは風貌に似合わず足も速い。今大会も既に5盗塁を決めているのだ。
セットポジションでハリーと向き合う。今のところはその表情から仕掛けてくるかどうかを探れない。
というわけでバッターの方を仕留めよう。初球は……そうきたか。
右足を上げて強く踏み込んで、外角低めに渾身のストレートを投げる!
「うりゃあああっ!!」
「弾き返したる! ぬおおおっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク!」
豪快に振り回してきたのであっさり空振り。
そんなんじゃオレのストレートは捉えられんぜ。
ハリーは盗塁のタイミングが掴めなかったの動きはない。
さてどうしようかな次は。
今度は1塁へ牽制球を送りつつ組み立てを考える。
しょーたのサインは……またもやそこか。まあいい、盗塁を刺すのもその方が都合がいいのだろう。
というわけで続けて外角低め、際どいところを突いていく!
「うりゃあああっ!!」
「ワシに続けて同じコースは通じんわ! ぬおおおっ!!」
バコッ!!
つまりながらも1塁線に鋭い当たり……。
「ファウル!」
ふう。結構際どかった。
一見振り回してるだけに見えて、そこからタイミングを合わせて来てる。2球目の方が格段にスイングが鋭かった。
安定した下半身で足を大きく上げなくても強く踏み込めるから、って感じかな。
3球目はさすがにしょーたもそっちを要求してきたか。そして念のため牽制をしつこく入れといてから、投球モーションに入る。
行くぜ3球目、クイックモーションから内角高めにノビるストレートで三振に仕留める!
「うりゃあああっ!!」
「次はクシジマくんやからのう! せめて必ず当ててチャンスを広げる! ぬおおおっ!!」
バコーンッ!!
クソッ! 無理矢理当てて一二塁間方向へ転がしてきやがった!
「ヒットエンドランを考えとらんとはやはり甘いんじゃオージロウ! 喝じゃ!」
マジかよ、ツーストライクから下手したら三振ゲッツー覚悟で仕掛けてきたってのか!
打球にひょ〜ろくくんはなんとか追いついたけど、3塁はもう難しい。せめて1塁は……。
「アウト!」
なんとか間に合った。これでとりあえずアウト一つ。
それにしても、串島の奴はチャンスでチームメートに絶大な信頼があるらしい。
どう見ても暴れん坊で自分優先に見える頭崎が繋ぐバッティングをしてきたぐらいだから。
「オージロウくん! 早速俺に回ってきたチャンス、モノにさせてもらうで〜! もちろん雛子さんも……クククッ!」
コノヤロー、調子に乗りやがって。だがもちろん、先制点も姉ちゃんもお前にくれてやるつもりはないけどな。
<あとがき>
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