第48話 デタラメな性能
「ふおおおっ!」
ズバーンッ!!
「ストライク!」
ひええっ!
165キロのノビるストレートが内角胸元に迫ってきて、思わず声を出しそうになった。
革新学院高校の江側がオレを左打席に迎えて明らかにギアを上げての投球……実際に打席に立ってみると、わかっていても怖さを感じるほどだ。
まあ、今は延長12回表で無死満塁。もちろん革新学院も点を取られるわけにいかないので当然ではあるけど。
そんなことを考えながら再び足場を固めつつ構える準備をしていると、両側のスタンドからヒートアップした歓声がイヤでも聞こえてくる。
「いいぞ江側ー! この調子でここから三者連続三振に仕留めちまえー!」
「お前のストレートの方がオージロウより上だってのを証明してやれー!」
「オージロウー! いつもみてーに、ここでグランドスラム見せてくれよなぁ!!」
うわあ。応援はありがたいが、そういう期待はプレッシャーかかるんだよなあ。それに応えるのが主人公の宿命とはいえ……!
そういや江側はどうなんだろう。
「ふう〜。久々に燃えるねぇ、こういうのは。センバツで緊迫した場面で登板したの思い出しちゃうよ〜、ふふふ!」
プレッシャーどころか楽しんでる。やっぱりセンバツでいろいろと経験積んでるのは強みだよなー。
さて、2球目はどうくるのか。
セットポジションから豪快に左足を上げて、一見ゆったりとしたフォームなんだけど。
そこから右腕をコンパクトなテイクバックで振り上げて、鞭のようにピュッと右手からボールを弾きとばしてくる!
「ふおおおっ!」
外角高め、クソボール。
じゃないな。そこからバックドアでストライクゾーンに入ってきて、一気に膝上まで落下してくる……落差の大きいキレのあるカーブ!
「うりゃあああっ!!」
ズバンッ!!
「ストライク! カウント0−2!」
「おっしゃあ! もう追い込んだー!」
「どっちが本物の怪物か教えてやれー!」
「なんとかここで打ってくれー! でないと」
わかってるよ。革新学院はまだもう一人、金正一が……いや、ローテーションに入っていない待合も含めれば2人ピッチャーが残ってる。
対してウチは7回途中から投げ始めたオレしかいない。
回が進めば進むほど、どんどんウチが不利になっていくのだ。
だから何としてでもここで……だけど、カーブもとんでもないボールだ。膝上に落ちきると思ったのが、そこから更に加速して膝下に落ちて捉えられなかった。
似たようなのとしては、地方予選で対戦した本所の三段ドロップを思い出す。
いや、あれはバッターの手前で一気に落ちてくるけど、江側のは典型的なカーブの軌道なのに加速してくる。比べてみると違いは結構多い。
「ストレートもカーブも走ってる! これならどっちを投げてもオージロウを打ち取れますよ江側さん、うん!」
キャッチャーの比出木ハカセが挑発するかのごとく叫びながら江側にボールを返球する。
ちくしょう。それに反論できない自分がもどかしい。
正直言えば1打席だけで打つのは難しい。球種は2つだが球質や威力は圧倒的に高いからだ。
ならばどっちかに狙いを絞って、どの方向へ打つのかまで明確にイメージしないと。
そして江側は3球目を投げてくる。
「ちょっと物足りないけど、これで終わりかな? ふおおおっ!!」
一転して外角低めというかボール球……だけどノビてホップしてくる……!
ズバンッ!!
「……ボール!」
危うくスイングしかけたが我慢できた。ハカセがチッと舌打ちするのが聞こえてきたから、できれば三球三振で仕留めたかったのだろう。
ストレートだけど初球とは回転が微妙に違った……回転数を少なめに調整してノビを抑えたボールだった。
だけどこのあとも165キロのボールを一瞬のうちに見極められるとは限らない。集中力が続くうちに決着をつけたいが。
4球目もストレート。内角、ベルトの高さだけどボール……いやストライク、どっちだ!?
判断が遅れた。ここから振っても詰まらされるかも。
……見送るッ!!
「ボール! カウント2−2!」
これもかなりギリギリ。今日の球審はストライクゾーンが辛いのはわかってたけど、判定が出るまでドキドキもんだった。
相手バッテリーは3球使えるボール球のうち2つを有効に使った。このあと、もう一つを使ってくるのか、それとも……。
「なかなか面白くなってきたね〜。それならこういうのはどうかな〜! ふおおおっ!!」
マウンドの江側が不敵な笑み浮かべ、右腕を鞭のように振り切ったあとで出てきた5球目……。
今度は外角高めというか暴投かってくらいのクソボール!
でもそこからストライクゾーンに落としてくるカーブだってのはわかる。問題はどこへ落としてくるか。
普通なら高めギリギリを狙ってくる……でもヤツのカーブならば、そう見えても実はッ!
「うりゃあああっ!!」
バシィーッ!!
「ファウル!」
「ヒヤッとした〜! いきなりレフトに大ファウル打ってきやがって!」
「次はスタンドに入れてくれよ〜オージロウ!」
一瞬にして観客たちのどよめきが大きくなった。それだけ力強く捉えられてたってことだ。
外角高めに落としてきそうに見せて……一気に膝上の高さまで加速して落としてきたカーブを。
滅茶苦茶な落ち幅だよなホント。自分で言うのもなんだが、オレの超絶スイングスピードあってこそ見極めて落ちきったところを捉えられた。
さすがにやや引き締まった表情の江側。ハカセはなんか青ざめてそうな気配を後ろから感じる。
6球目は内角にカーブ。でも完全にボール球にするのが見え見えのワンバウンドするボールだった。
これでフルカウント。満塁だからボールは投げにくいだろうけど、どこをどう狙ってくるのか。
カーブを続けて見せたことで緩急も……見極められる時間がより少なくなる。
そして追い詰められるどころか逆に今日一番の笑顔を見せた江側がオレに向かって呟いてきた。
「オージロウくん! 本当に楽しいね〜、キミは! まだ延長が続くかもって抑えていこうと思ったけど。これで全力を出し切れそうだよぉ〜、ふふふふっ!!」
コイツなかなかの勝負の鬼だ、実は。
そんな相手を前にして、オレも自然と顔がほころぶ。他人のこと言えねえな。
さあ来い……これが最後!
江側はセットポジションからこれまでより力強く左足を上げて。
加速するような速さで踏み込んで、一気に右腕を振り切る!
「ふおおおおっっ!!!」
内角、膝上の高さ……からもちろんノビて!
「うりゃあああっっ!!!」
バッシィーーーンッ!!!
今の時点で、オレから空振りを取るにはこのコースでこのボールしかなかった。
膝上から胸元まで一気にノビ上がってくるデタラメな性能の165キロストレートしか……!
江側が投げた瞬間に脳内に軌道が思い浮かんだオレは、もう迷いなくスイングして振り切った。
結果的には得意の内角高めをライトポール目掛けて弾き返した打球は、放物線を描いて浜風に押されていく。
そして最終的には右中間まで流されていくと、ライトスタンド中段へと消えていった。
塁審の腕がグルグル回るのを確認してからベースを回る速度を速める。
浜風に押されてなければ場外まで行ったかな……なんて頭の中で考えながら、気がつくとホームベースを踏んでから阿戸さんに、そしてベンチに戻ってからもみんなから手荒い祝福で迎えられたのであった。
<あとがき>
いつも読んでいただいてありがとうございます
次回更新は6月17日(水)の予定です
よろしくお願いします




