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5校連合チームで挑む甲子園 〜160cm台の怪物二刀流、全国を震わせる〜  作者: ウエス 端
準々決勝

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第30話 稲とか岩とか言われても

「おい! お前、なにをさっきからワイのことジッと見てんねん。けったくそ悪いのぉ、いねやコラ!」


 今日はいよいよ準々決勝。そして今は、我らが5校連合チームが出場する第2試合の開始30分ほど前ってところだ。


 チームメイトたちと共に甲子園球場の室内練習場で身体をほぐしたあと、オレとしょーたは休憩がてらウロウロしていたのだが。


 通りがかった通路の端にヤンキー座りした男が叫んだのは、どう聞いてもバリバリの関西弁だ。


 ソイツは今日の対戦相手、革新学院高校のユニフォームを着ており、今年のチームで1人だけ関西出身の男がいるのは分かっている。


 それはともかくとして、『いねや』ってどういう意味なんだ?


 稲と何か関係あるのだろうか。だがオレもしょーたもそんなもの持ち込んでないし……2人してどう反応すればいいか分からずに顔を見合わせる。


 そして気になるのが、ソイツが右手の人差し指と中指で挟んで持っている白いスティック状の何か……あれはもしや!?


 このまま通り過ぎるのもアレだし、意を決して返答してみる。


「稲なんてオレたち持ってねーんだけど。方言なのかもしんねーけど、どういう意味なんだ?」


「はあっ!? 『いね』っちゅうたら『いね』じゃ、それくらい分かれや!」


「そう言われても。それとさ、その右手に持ってるタバコ……まだ火ィつけてないみたいだし、今のうちに捨てるなら見なかったことにしてやるぜ?」


「違うわい! 持っとるのはスティックシュガーや、よう見ぃ!」


「何でそんなものを。まさか糖尿病とか」


「ええ加減にせーよワレ! これはなんか挟んどかんと、落ち着かへんっていうか。ええからサッサといねっちゅうとるやろ! イワしたろかコラァ!」


 うわあ、ますます苛立たせてしまった。怒鳴りながら立ち上がって、今度は岩がどうとか言ってる。


 これも意味がよくわからんが、そのブチ切れそうな表情から脅しの言葉っぽいのはわかる。


 何よりもそのガタイが威圧感満載で……2メートル近い細マッチョなイカつい男が見下ろしてくるのだから、そりゃ怖いよ。


 でもここまで来たらオレも引き下がれるかっての。もう行こうぜと袖を引っ張るしょーたに構わず睨み返して……。


「あ〜っ、有人ありひと! やっと見つけたよ〜、うん。ミーティングなのにどこ行ったのかって、みんな心配してるよ、うん!」


 一触即発ってところで相手側の選手が現れて、睨み合いはうやむやとなった。


 背はオレと同じくらいか、もう少し低い。身体つきは貧弱……いやよく見ると肩や胸に立体感があって、いわゆるガリマッチョって感じだ。


 これでホッとひと安心……と思ったら今度は奴ら同士で不穏な雰囲気が続く。


「心配してるだぁ〜!? 嘘つけ、誰もワイのことなんて」


「そんなことないって。有人が勝手に思い込んで勝手に孤立してるだけなんだよ〜、うん。」


「うっさいんじゃハゲ! お前もいねや!」


「ハゲ? 誰のこと? ひょっとして僕のこと言ってんのかな〜、うん!?」


 ハゲ……確かにオデコが広いけどさすがに酷い言い草だ。なんか、思ってたのと雰囲気が違うな。


 春のセンバツを制した革新学院はこの夏も連覇を目指して順調にここまで勝ち上がってきた。


 だからチーム全体が強くまとまっているのだろうと勝手に思っていたが……実際にはそうでもないのかもしれない。知らんけど。


 ま、別にいいんだけどさ。これ以上はオレたちには関係ないからどうでもいいや。


「もう行こうぜしょーた」


「ああ。そう、だな」


 しょーたがなにか言おうとしてるような……そうかわかった。


「なあ、声をかけたらいいじゃねーか」


「でもなあ」


「この期に及んで何をウジウジと」


「あっ! 誰かと思えばしょーたくんだよね〜。うん、久しぶり!」


「……ああ、久しぶり。ハカセ」


 向こうから気づいてくれたか、やれやれ。


 後からやってきた小柄な選手は、しょーたと同じ大化東おおばけひがし中学校出身のキャッチャーで名前は比出木ひでき 博士ハカセ、オレたちと同じ2年生。


 もちろんしょーたとはかつてのチームメイトなのだが。


 しょーたはその時の同学年チームメイト5人とイザコザがあって険悪な関係のまま別れ別れになっていたのだ。


 しかしこのハカセというヤツとは一番仲が良くて、これまで再会した木崎きざき五次浦ごじうらに比べれば暴言を吐かれたことは無かったという。


 それでも徐々に距離を置かれて無視されたことも多かったらしいが……この様子ならわだかまりは解消したのかも。


 などと楽観視したオレは、他人の感情や思いというものがまだまだわかっていないようだ。


「五次浦たちや木崎に聞いたけど。今のしょーたくんは昔とは一味違うってさ、うん」


「あいつら、そんなこと言ってくれてるんだ。直接言ってくれたらいいのに」


「話は最後まで聞こうよ。それとこうも言ってたんだ。そのうち化けの皮が剥がれるかもしれないから、まだ油断できないって」


「……」


「僕もその意見に賛成だなあ、うん。それに僕は自分の目で確かめないと信じられない性分なんだ。知ってるだろうけど」


 やっぱりこの流れになっちまったか。しょーたの自業自得な面があるとはいえ、こうも不信感が根強く残るものなんだな。


 でも今のしょーたは……と口を出しかけたところでオレを制止したのは、そのしょーただった。


「それならさ、試合中によーく見てて。それで納得いかなかったら、今後おれのことは無視してくれていいから」


「言われなくてもそうするつもりだよ〜、うん。まあ楽しみにしてるから……あれ? 有人のヤツどこへ行った? 折角見つけたのにまいったな〜、うん!」


 ハカセは独り言を呟きながら急ぎ足で行ってしまった。


 そしてチラリと横目で見たしょーたは、五次浦たちに会った時みたいにはオドオドしていない。


 これならいい結果となるだろう。そんな予感を胸にオレたちも引き上げる。


 そうそう、ちなみにあのヤンキー座り男が言ってた言葉だが、あとで調べると方言としては大阪の『河内弁』らしい。


 『いね』は『去れ』、これはまだいいのだが。


 『イワしたる』は『ぶん殴ってやる』って意味らしい……ひええ、あくまで脅しの言葉のようだけど気分は良くないよ……。 


 だけどヤツに対する闘志は湧いてきた。身体的特徴と名前からピッチャーの一人だと分かったし……グラウンドではオレがヤツのボールを思い切り引っぱたいてホームランにしてやるさ。



「あれ。先発ピッチャーが予想と違うじゃん!」


 お互いのメンバー表の交換も終わってオレたちが真っ先に確認したのは、もちろん相手の先発が誰なのかってことだ。


 革新学院は4人の160キロ超えピッチャーを擁する投手王国……もちろん誰が出てきても強敵ではあるのだが。


 大会中は基本的に2人ずつ2グループに分けてローテーションを組んでいるので、毎試合休養十分なピッチャーを出すことができるってわけだ。


 改めて考えると、とんでもねえ相手だよホント。まあその代わり誰が出てくるかは読みやすい。


 で、この試合の先発予想は『エスカンダリ有人ありひと』、さっきのヤンキー座り男だった。


 父親が中東系の人で母親は日本人のハーフってことらしい。それはともかく、196センチの長身から投げ下ろすボールはそれだけでも威力満点だ。


 しかし実際には、3回戦で先発した昔野せきのが連投で先発ピッチャーになっている。


 どういうつもりだ? 準決勝に向けての温存策なのだろうか。


 相手の思惑はともかく、オレたちは急いで昔野のデータを確認する作業に追われるハメとなった。


「えーと。昔野は1年生で上背は180センチ……それでも4人の中じゃ一番背が低いのか」


「持ち球はチェンジアップにカットボール、あとはスライダー。ストレートとスライダーの組み合わせが中心ってか」


「でもコントロールはあまり良くない……つけ入るとしたらそこかな」


 そんなオレたちの様子を見ていた古池監督だが、一言でオレたちに落ち着きを取り戻してくれた。


「革新学院はもしかしたら、4人のピッチャーを次々に投入する『スクランブル体制』でこの試合に臨んでいるのかもしれない。でもね、4人の160キロピッチャーと一度に対戦できる機会なんてそうないんだ……このイベントを楽しんでいこうよ!」


「そうだな。確かにもう一生ないかも」

「それじゃ監督のお言葉通りに楽しんでくるかな!」

「お祭り騒ぎといこうぜお前ら!」


 すげえ。なんかいけそうな雰囲気になってきた。ウチの監督、結構やるじゃん。


 そして先攻を取ったウチは、打順をいつもより変化させている。1番しょーた、2番オレと1つずつ繰り上げるという形で。


 狙いはもちろんオレに1つでも多くの打席を回すため。そしてオレにできるのは、その期待に応えてホームランを1本でも多く打つことのみ。


 さあ、連合チーム内がかつてないほど盛り上がる中、いよいよ試合が始まる……!



<あとがき>

いつも読んでいただいてありがとうございます

次回更新は5月6日(水)の予定です

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