表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5校連合チームで挑む甲子園 〜160cm台の怪物二刀流、全国を震わせる〜  作者: ウエス 端
3回戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/34

第28話 戦略の修正

「あ〜。結局、オージロウくんから1本しかホームラン打てなかったよ〜!」

「打てたんだからいいだろう? 俺はマルチヒットは打てたけどさ、スタンドまで届かなかったのが悔しいなあ〜!」

「へへっ。来年のセンバツでは打たせてもらうっす」

「次はささやきの話術もっと磨いてくるわ!」


 青懸巣アオカケス学園との試合終了後の挨拶を終えて、もう敵味方もなく歩み寄って一言二言声を交している。


 オレのところには発条、鯨路、本岡、賀来と次々にやってきたので笑顔と笑い声だけ返しておく。


 そして最後にもう一人。


 青懸巣学園のリリーフエースで、この熱戦の最後にオレと相対した射座しゃざが声をかけてきた。


「せっかく対オージロウくん用にカーブを取っておいたのに……初球のそれを狙い打たれるとは」


 マウンドでの鬼気迫る表情と人を寄せ付けないような言動を思い起こして内心ビビったのだが。


 案外普通の喋り方と穏やかな顔で近づいてきたので、俺は警戒を解いて言葉を返す。


「オレがキャッチャーとしてオレと対戦するなら、最初に大きな変化と球速差を見せてリズムを崩してからストレートかスライダーの2択で勝負すべきだと思ったんで」


「配球を読まれてたのか……緩急を使うどころじゃなかった。これは完敗だわ」


 そんなに褒められると照れるぜ……まあでも読みが外れたら、恐らく狙いを絞れずに打ち取られて勝敗は逆になってたと思う。


 それくらい射座の投げるボールは全てがすごかった。


「それはどうも……んっ?」


「ああ、この両眼が気になるんだろう? これはいわゆるオッドアイ。猫とかマンガのキャラでよく見かけるアレだよ」


 マジかよ、初めて見た。確かに左の瞳が褐色で右が碧眼だ。


 そういえばマウントから感じる視線の強さが独特だと思ったが……もしかしたら照明を反射する瞳の色の違いがそう感じさせたのかもしれん。


 そして射座はそのネタを絡めてはにかみながら話を続ける。


「おっと忘れてた。甲子園のマウンドで強打者と出会ったらやろうと思ってたことを」


「何をですか?」


「右眼に手を当てて『お前のせいで俺の右眼が疼きやがる……!』ってな感じのことをだな」


「アハハ……また次の機会に見せてくださいよ」


「そうだな、って俺は3年生だ。まあ、大学か社会人か、あるいはプロか……お前とまた対戦できるのを楽しみにしている。それじゃあな」


 オレも実は物足りないと思ってたんだ。だって彼の持ち球の1つだけしか打席で見てないんだから。ということでオレも楽しみにしておく。


 射座ははにかみながらベンチへと去っていった。普段は気さくなアニキって感じの人なんだな。


 それからオレたちはホームベース付近に整列して校歌が流れるのを待つ。


 今回は田白やわだちくんが所属する埜邑のむら工業の順番だ。


 元は男子校だったが数年前に共学化した際に校歌も一新したということで、ポップで軽いイマドキの曲調が球場内に鳴り響く。


 改めて空を見渡すと既に薄暮と言っていい程に夕闇が広がっている。16時過ぎに始まった第四試合で延長まで戦ったから仕方がないけど、現時刻は18時を大きく過ぎていた。


 残っていた観客も帰り支度を始めている。さすがにアルプス席の応援団は校歌斉唱と挨拶が終わるまで待っているだろうけど。


 ……そうだ、兄ちゃんのことはどうなったんだ?


 今日は姉ちゃんと直接話をする時間は無さそうだし……でも気になって仕方がない。


 いや落ち着けオレ。ホテルに帰ってからスマホで聞けばいいんだ。それまでは我慢……。


 応援団の前に並んでお礼の一礼をしたあとは急いでベンチ内を片付ける。そして最後の難関、公式インタビューに臨む……!


「オージロウ選手。今日もホームラン2本で既に今大会8本目……どこまで記録を伸ばせる自信がありますか?」


「う〜ん。まずはチームの勝利が最優先で、ホームランはそれに付いてくる結果でしかありませんので。どうなるかは分かりません」


 ふふふ、我ながら隙のない受け答え……実は事前に監督や先生たちと特訓してきたのだ。


 1回戦では翌日のスポーツ新聞に変な煽り記事を書かれて酷い目に遭ったからな。もうああいうのは繰り返したくない。


 それにしても特訓はキツかった。後でどうとでも解釈できたり期待を持たせるような曖昧な回答をすると容赦なく指摘を受けて……野球の練習よりもよほど疲れた。


 そんなこんなでホテルに帰り着いたのは20時近く。もうお腹が爆空きだし疲れがピークに達していたので、風呂入って夕飯を食って部屋に戻ったらすぐにベッドに倒れ込み、あっという間に眠りについてしまった。


 姉ちゃんに確認を……もう明日でいいや、おやすみ。



「ごめんなさいオージロウ。兄さん……らしき人たちが入っていった出入り口に突入したのだけど、結局は見失ってしまったの」


「……」


 やはりか。激闘の翌朝、たぶんそうなのではと思っていた通りの結果を姉ちゃんから聞かされた。


 オレはそれを冷静に受け止め……られず、何も言えなくなってうつむくことしかできない。


 近くのホテルに由香里さんたちと一緒に泊まっている姉ちゃんは、結果を直接伝えるためにこちらのホテルまで足を運んでくれたというのに。


 一緒に話を聞いたチームメイト、それに古池監督を始めとする先生たちも、ざわついてはいるけど声をかけてはこない。


 気を使わせちゃってるな……わかってはいるのだがまだ声を出せない。沈黙が場を支配しかけたところでそれを破ったのはしょーた。


 わざとなのか、いつもより強い口調で姉ちゃんに話しかける。


「あの。横から口を挟んでもいいですか雛子さん?」


「いいわよ田中くん。それで何かしら?」


「あの2人、結構目立つ格好でしたよね。お兄さん……かもしれない人は恐らく190センチ超えでシャツがパンパンになるような筋肉質だったし、連れのギャルっぽい女性も帽子に角のアクセサリーを付けてました」


 姉ちゃんは、その質問は想定の範囲内と言いたげな落ち着きで、だけどほんの少し眉間にしわを寄せて返答を準備している。


 ああそうか、この質問をオレがしなかったのが不満なんだな……でもここはしょーたに任せよう。どうしてもショックがまだ拭いきれないのだ。


「言いたいことはわかってる。もちろん、そのあたりで見かけた人がいなかったか、とにかく聞いて回ったのだけど……誰も見かけなかったって。まるで忽然と姿を消したかのような……正直、わたしも戸惑っているのが本音かな」


「そうでしたか。失礼しました」


「別にいいのよ、それくらいの質問。で、オージロウはまだ何も話せないのかしら〜?」


「……もういいだろ、ダメだったのはよーく分かったから。これ以上、何があるってんだよ?」


「確かに今回は空振りに終わったけど。これでもう諦めるつもり? わたしは全くそんなつもりは無いのだけど」


「誰も! 誰も、そんなこと言ってないだろ!」


 なんだよ急にけんか腰な言い方して。


 思わず声を荒げかけたが、こんなところで姉弟ゲンカを始めるのはみっともないし、グッとこらえて話を繋げるための問いかけをする。


「つまり姉ちゃんは、次の準々決勝の試合にも兄ちゃんは現れるから待ち構えようってわけだな?」


「そういうこと。まあ根拠なんて無くて勘だけど。でも絶対にまた現れる、そんな気がしてならないの」


「じゃあ、昨日と同じく姉ちゃんはアルプス席から、オレはマウンドとベンチから探すってことで」


「うーん、それなんだけどね……実は昨日、内野指定席側に入り込むのはダメだって怒られちゃって」


「あっ……そういやアルプス席側からは移動禁止の決まりがあったような」


「ゴメン、こちらもそれを失念してた……先に言っておくべきだったね」


「古池監督が謝る必要なんてないです……とにかく戦略の修正が必要になったのは間違いないので、わたしが考えた対策を説明しておこうと思って」


「じゃあ頼むよ」


「わたしだけでなく、ゆかりんとあやちゃんにも協力してもらうことにしたの。3人で内野指定席、ライト側とレフト側それぞれの外野席に分散して」


「そういや外野席もアルプス席から物理的に直接行けないんだった。だけどチケットはどーすんだよ?」


「それは問題ない。お父さんに相談して、わたしだけでなくゆかりんたちの分も出してもらえることになってるから」


「結構な出費になるじゃん」


「それでも……やれるだけのことはやらないと、後悔したくないって。お父さんもお母さんもそう言ってる」


 もうそこまで話を進めてるんだ。さすがは姉ちゃん、テキパキと手際がいい。


 それはいいのだが、単純に思った疑問をぶつけてみる。


「でも今度はアルプス席がガラ空きになるじゃん」


「それは考えがある、っていうか古池監督と先生方にご協力をお願いしたくて。だからこっちに出向いてきたのよ」


「いいよ雛子ちゃん。で、何をすればいいんだい?」


「連合チーム側のアルプス席については、笹木ささき先生と松笠まつかさ先生にお願いできないかなって」


 なるほど。埜邑工業の笹木先生、御野ヶ島高校の松笠先生はベンチに入らずにアルプス席で応援してくれているのだ。


 とはいえウチの家族のことに巻き込んでしまうのは気が引けるけど……2人の返答は。


「あらまあ。それくらいのことやったら、もちろん協力させてもらいます」

「昨日、我々もお兄さんの姿を確認したから大丈夫です」


「あ、ありがとうございます! オレ、この恩は一生……」


「あらまあ、そんな大袈裟な。困った時は相談してもろたら、できる限りのことはやりますから」

「だから大船に乗ったつもりで安心していいですよ!」


「はい、ありがとうございます。あとは相手側のアルプス席か……。」


「それについては古池監督から運営の方に相談していただけないかと」


「わかった。任せておきたまえ!」


 そして交渉の結果、相手側のアルプス席については、連絡さえすれば特別に近くの警備員たちが可能な限りの対応をするということで手はずを整えることになった。


 あとは明後日の試合当日を待つばかり。


 今日は3回戦の2日目が行われており、明日も休養日なので2日間の休息をとることができる。


 組み合わせも決まっていて、ウチは第2試合……相手も決まっている。


 そして一通り説明を終えた姉ちゃんは、今日の分の当日券を購入するということで宝塚大劇場へと向かっていった。


 そもそも姉ちゃんたちの第一の旅行目的はタカラヅカ鑑賞なので……そんな中、これだけのことをやってくれてありがとよ、姉ちゃん。


 そして協力してくれる由香里さん、仲尾さんにもこの場で感謝する。あとで会ったら直接言うけど。


 ようやくヤル気が湧いてきたオレは、同時に腹が減ったことを感じて……ああ、早く昼食の時間にならないかな〜。



<あとがき>

いつも読んでいただいてありがとうございます

次回更新は5月1日(金)の予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ