第20話 勝ち越し点を狙う
「ストーップ! しょーたくん、すぐベースに戻って!」
「えっ? うわあっ!」
オレのタイムリーツーベースによって1−1の同点には追いついたが……。
ヤバい、勝ち越し点を狙おうと3塁を回りかけたしょーたが返球に刺されそうだ!
ズザーッとヘッドスライディングで右手をベースに伸ばすが返球を受け取ったサード本岡がそこにグラブを伸ばしてくる。
「へへっ、これでスリーアウトチェンジっす!」
「ちくしょう、アウトになってたまるか〜!」
しょーたは右手をとっさに引っ込めて、タッチを躱しつつ地面を泳ぐみたいに左手をベースに伸ばすが果たして。
「セーフ!」
ホッとしたぜ〜。これでオレも2塁ベース上で一息つける。
もう少しで危なかったけど、控えキャッチャーで3塁コーチャー役の勝崎さんがナイス判断だったよ。
攻守ともパワフルな青懸巣学園だが、守備力も結構高い。外野手は強肩揃いで、打球に追いついたレフトから矢のような送球が内野に返ってきたのだ。
まあ、一気に勝ち越しとはならなかったのは残念だけど、それは次のバッター阿戸さんに託そう。
その前に相手はタイムを使って伝令を出すつもりらしい。
相手ベンチではこれまた怖そう……もとい迫力ある顔つきとガッシリした体格で、いかにも体育教師っぽい砂井田監督が選手にあーだこーだと伝えて送り出した。
そうだ、この間に……甲子園の広いスタンドをグルっと見渡す。目的はもちろん兄ちゃんを探すため。
うーん。ざっと見た限りではそれらしい人……侍◯ャパンの帽子をかぶった人すら見当たらないな。
まあそもそも以前と同じ格好で試合を見に来てくれるとは限らない。あくまでこちらの勝手な希望的観測なのだ。
そういえば姉ちゃんは……アルプス席にいない、というか戻ってくるのが見える。どうやらスタンド内を見て回っていたようだ。
そして席に戻って再度、由香里さんと仲尾さんに挟まれて座る姉ちゃん。どっちかの端に座れば窮屈な思いをせずに済むのに、なんか変に律儀というか、2人の気持ちに配慮してるのか。
ところで、もうだいぶ日差しが傾いて、このあと観客は減る一方のはず。今日は諦めるしかないのかな。
「オージロウ! もうプレー再開だぞ!」
しょーたからの声、いつの間に……試合の方に意識を戻す。
さて、少しでもホームへと近づきたいところだが。けん制で刺されたら意味がないので控え目にリードする。
右打席の阿戸さんは低め……というか落ちるボールをカチ上げるのが得意だから、相手エース伊佐部寺には相性がいいはずだ。
だけど、どちらかといえばスプリットではなく落ちるスライダーを狙ってほしい。なぜなら……おっと、もう初球を投げてくる。
「むんっ!」
ズバンッ! と真ん中にストレート……。
「ストライク!」
恐らく高めか低めどっちかに的を絞ってたと思うけど、相手キャッチャー賀来に裏をかかれて渋い表情だ。
そして続く2球目も狙いを外されて追い込まれてしまった。
だけど相手バッテリーはフィニッシュをどうするつもりなのか。阿戸さんは恐らく何が来てもアッパースイングでカチ上げるつもりだろう。
高めでも中途半端にストライクを取りに行くとホームランボールになる。というかそうなってくれ。
3球目は……高め、いやクソボールの釣り球!
「オラァッ!!」
バコォッ!!
「ファウル!」
スゲー! なんとかバットを当ててバックネットへのファウルで逃げた。
相手バッテリーはこれでも高めで来るのか、それとも。
伊佐部寺は慌てることなく……少なくとも表面上はゆっくりとセットポジションに入ると、2塁と3塁を目で牽制してから。
4球目をいつもの高いリリースポイントから投げ下ろす!
「むんっ!!」
「低め……もらった! オラァッ!!」
スカッ!!
「ストライク! バッターアウト!」
うーん、残念だけど阿戸さんのスイング軌道とスプリットが噛み合わず、あえなく空振り三振を喫してこの回の攻撃は終了。
「あああ〜。もう一息で逆転だったのに〜!」
「よっしゃ、同点で踏ん張った! 次の回ですぐ突き放そうぜ!」
スタンドのため息と歓声がすごい。第4試合で観客はかなり減っているのに。それだけ応援に熱が入ってるというか、ありがたい。
さあ、ベンチへ戻らないと。その前に阿戸さんに声をかけておくか。
「最後はスプリットを振らされたけど、あともう一歩ってとこでしたね」
「……やっぱスプリットだったか。俺はよぉ、結局ストレートと見分けがつかなくてバットをブン回しただけだ。オージロウはどうやって」
「それはですね……まあ、次の守備が終わってから話します」
「あっそ、じゃあ頼むわ。それにしても、なんかお前だけどんどん俺らとは違う次元に進んで行くっつーか」
そんなことは……と言いかけたところで到着したので、ベンチメンバーが出しておいてくれたドリンクをあっという間に飲み干してからマウンドに向かう。
◇
「オージロウくん! 俺さあ、これから勝ち越し場外ホームラン打つから。ちゃんと心の準備しておいてくれよ〜!」
人懐っこい笑顔でとんでもないことを言いやがったのは、青懸巣学園の3番バッター鯨路だ。
うーん、でもなんか憎めない……だがこっちも言われっぱなしじゃねえぜ!
「オレもここからギア上げていくんで。そっちこそ落ち込む準備しといてくれよ!」
鯨路はアハハと笑って受け流す……いや、バットを構えるとガラリと雰囲気が変わった。
「さあ、どこからでもかかってこい!」
グッと目に力が入って、本当にどこに投げても弾き返されそうな、そんな感じ。
オレも負けじと、ノーワインドアップからスリークォーターのフォームへと力を溜めるようにゆったり動作して。
そこから一気に左腕を振り切る!
「うりゃあああっ!」
「内角高め……ぶおあああっ!」
ズバンッ!!
「ストライク!」
「うおおおっ! 今日最速、167キロ出た〜!」
「嘘だろ、鯨路が振り遅れてる!」
ふふふ。まずは一発カマしてやった。
表情からは読み取れないが、これで多少は怯んだはず。次のしょーたの要求は……外角低め、ボール球ってか。
それで行こう。相手の目線を変えて、振ってくれればもうけもんだし。
「うりゃああっ!!」
「……俺を相手にしてるのに外し方が甘い! ぶおあああっ!」
バシィーーンッ!!
「おっしゃああ! ファーストの頭を越えてったー!」
「右打ちなのに打球が速すぎて目で追えねえ〜!」
嘘だろ……思い切り踏み込んで、尚且つ身体の開きを抑えて腰の回転から鋭く振り抜く基本に忠実なスイングで捉えて……とんでもないライナー打ってきやがった。
打球はあっという間にライトの端のフェンスへ……鯨路は巨体を揺らしながら2塁へ激走する。
「うおおおおっ!!」
「セーフ!」
「決まったあ! 豪快なヘッドスライディング!」
「あの巨体で、と、とんでもねえ迫力……!」
たぶんそこまでせずとも間に合ってただろうけど……一気に青懸巣学園のスタンドとベンチの雰囲気が盛り上がってきた。味方を鼓舞する狙いもあったんだろう。
いや、しかし落ち着け。後続を抑えればいいだけのこと。まずは次の4番バッター本岡を三振に仕留めれば……。
バコンッ!!
本岡があまり得意でない内角に強いボールで攻めたのに……詰まりながらもとにかく右打ちしてセカンドゴロを打って、鯨路を3塁へ進めやがった。
いやいや、スクイズに警戒しつつも連続三振を奪えばいい。
というわけで5番バッター賀来への初球は内角高め……バントはさせねえ、打ってもせいぜいポップフライだ!
「うりゃあああっ!!」
「俺のこと舐めすぎだよ! とりゃああっ!!」
バコーーンッ!!
無理やり引っ張って打ち上げたフライ……あの腹回りで思ったよりも鋭い腰の回転で外野には持ってかれたが浅いレフトフライ。
これでツーアウト。次の打者こそは三振に仕留めてこの回は終了……とオレたちは気を緩めてしまっていた。
「うおお、鯨路が走ったぞー!」
「あんな浅いのでか!? 無謀だろ!」
アレでタッチアップしかけてくんのか。だが間に合うまい………とオレはのんびりしていたが。
「おい、レフトもたついてないか?」
「これじゃ送球間に合わないぞ!」
……オレだけでなく、レフトも、キャッチャーのしょーたも走ってこないとタカをくくって、誰一人予想しなかった鯨路の激走。
そして結末は……。
「セーフ!」
「おっしゃあああ! スゲー走りだっだぜ鯨路!」
「これで一気に畳み掛けちまえー!」
「ああー、油断しすぎだよ連合チームはよぉ!」
そう、あんな浅いレフトフライでというオレたちの思い込みと油断に対してどこまでも勝利に貪欲な鯨路と青懸巣学園。
先に勝ち越し点を奪われたのは必然のことだったのかもしれない……!
<あとがき>
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次回更新は4月13日(月)の予定です
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