第19話 流れを取り戻して反撃開始
「ストライク、バッターアウト!」
緊迫した1回表裏の攻防から試合は0−1のまま進んで、今は3回表。つまり青懸巣学園の攻撃中だ。
そして今しがた三振に仕留めたのは、先頭打者初球ホームランを喰らった相手……1番バッターの発条である。
「しまった〜、球が速いから思わず高めの釣り球を振っちゃったよ〜」
穏やかな口調で嘆きながらベンチへと引き上げていく発条だが。
前の打席で見せた、獲物を狙うような強い気迫は感じられなかった。本人が呟いていた通り、そこで今日一日分の集中力を使い果たして疲れてるのだろうか。
でもなんか違う気がする……なぜなら、どう見ても一発狙いの大振りをしてたから。
まあ、ずっとMAXの集中力を維持するのは消耗が激しいから、ランナーがいない時は適度に緩めてメリハリをつけているのだろう。
つまりその分、次の打席が怖いと思うのは警戒しすぎだろうか。
「さあ来い! 今度は俺がホームラン打つ番だぜ〜!」
おっと、2番バッターの場者がもう左打席に入ってる。コイツも地方大会では満塁ホームランを放っている強打者、長打力と勝負強さを警戒すべき相手だ。
それに次は相手の中心バッターである鯨路。ここで打線を分断する必要がある。
しょーたの要求は……。まずは外角、か。
それはまあ当然とも言える配球なんだけど。前の打席ではそれを簡単に見極められてフォアボールを出したわけだし、どうしようかな。
あの時とはオレの精神状態が違うとはいえ……いや、だからこそ相手の反応の違いを確かめられる。
というわけで初球は、外角高め!
ズバンッ!
「ストライク!」
特に反応なしで見送り。待ってたのと違ったか。
続けて外角低め……これはどうだ?
「ストライク! カウント0−2!」
不気味なくらい無反応。どうやら完全にインコース狙いで引っ張るつもりらしい。
ここまでの印象だけど……このチームは全体的にパワフルだが淡白なところもあって、狙い球以外はあまり食いついてこない。
だけど1回表みたいにきっかけがあると畳み掛けてくる。だから不用意にランナーを出さないことが大事なのだ。
ツーアウトまでこぎつけてるのだから、ここでコイツを絶対に仕留めないと。そしてこちらに流れを取り戻して反撃といきたい。
3球目は外へはずしてカウント1−2。次はさすがに目先を変えてみよう。それで打ち取れたら尚良しで……!
「うりゃああっ!!」
「内角高め……ようやく来たぁ!」
バコォーーッ!
待ってたのは高めの方だった。165キロのノビてホップするストレートをボール気味に全力で投げたのだが。
一発狙いの大振りなのに空振りを奪えず、身体ごと回転させながら捉えて引っ張る……コイツも結構とんでもないヤツだ。
でも力で押し勝って平凡なセカンドフライ。高く上がってなかなか落ちてこないのは少し不安だったけど。
まあ、何にしてもこれでスリーアウトチェンジだ!
「ちくしょう〜、でもタイミングは掴めた……次こそは打てる!」
イヤな感じの負け惜しみが聞こえてきた。ニヤリと笑いながら自信がありそうな顔をしている。
だけど、オレだってまだ最高球速は出ていない。次に対戦する時は決着つけてやるよ。
◇
「ボール! フォアボール!」
「よっしゃあ! これでノーアウト一二塁!」
「一気に逆転もいけるぞー!」
3回裏ウチの攻撃、8番から連続フォアボールを勝ち取った!
相手の先発ピッチャー伊佐部寺は帽子を脱いで額の汗を手で拭っている。
暑いのもあるだろうけど……思うようにストライクが入らないからというのもあるだろう。
オレたちは結局、当初のプラン通りに待球策でコントロールの良くない伊佐部寺の自滅を狙っている。
1回裏は低めにズバズバとストライクを決められたので、オレを含めて選手たちから早いカウントで打ちに行くことを古池監督に提案したのだが。
伊佐部寺の高い集中力がずっと続くとは思えないとのことで、もう少し様子をみることになったのだ。
そして監督の読みは的中した……2回裏に早くも1人フォアボールを出して、この回は既に崩れかけている。
そして打順は上位に戻って、パンチ力のある1番バッター中地さんが右打席へと向かう。
「中地さーん! 必ず甘いコースにストライク取りにくるから、逃さずに仕留めましょう!」
「あいよ! わかってるって!」
おおっ、頼もしい返事が元気よく返ってきた……これならば!
しかしその期待は初球で打ち砕かれた。
「ストライク!」
内角高めギリギリに決まったストレート……中地さんは全く手が出なかった。
高いリリースポイントからそのままの高さでノビてくるボール球を振らされないようにと、高めは基本的に手を出さないことにしたのだが。
相手バッテリー……恐らくキャッチャーの賀来に見透かされ、配球を変えられて意表を突かれたのだ。
そしてこのストライクで伊佐部寺は集中力を取り戻して復活してしまった。
「ストライク! カウント0−2!」
続けてテンポよく2球目を外角高めに決められて、あっという間に中地さんは追い込まれた。
3球目は……恐らくアレで来る。
「中地さーん! 次の高めは振っちゃダメだー!」
「……!?」
オレはベンチから精一杯叫んだが、スタンドの歓声でうまく伝わらない。そして……。
スカッ!
「ストライク、バッターアウト!」
「おっしゃあ! 伊佐部寺の奪三振ショー再開だあ!」
「あーあ、何であんな高めのクソボール振っちゃうんだよー!」
まあ、スタンドの観客がそう思うのも無理はないけどさ。
高めで追い込まれた中地さんは、やっぱり3球目のノビてくる高めボール球に手を出さざるを得なかった。それはオレもよく分かる。
「ドンマイです! いきなり配球を変えられたんで仕方がないっすよ!」
「……」
珍しく悔しさを思い切り顔に出してる中地さん。こっちの狙いを逆手に取って心理的に追い込んでくる賀来のリードは手玉に取られたって感じで、それが余計に悔しく思うのだろう。
そして2番のしょーたも。
ガコッ!
あちゃー。今度は一転して低めを攻められて、落ちるスライダーを引っ掛けさせられた。
それでもなんとか三遊間に転がしたが、ショートが機敏に捌いてセカンドへ……2塁はあっさりとフォースアウト。
このままじゃゲッツーを食らいそうだ。それを阻止せんと必死で走るしょーた。なんとか頑張れ!
「……セーフ!」
ふう。タイミング的には微妙だったが、送球が逸れてファーストの足がベースから離れた。
ラッキーだろうがなんだろうが、これでオレに打席が回ってきたことに変わりはない。ありがとよ、しょーた。
「ああイヤだな〜、ゲッツーでオージロウくんに回さずに済んだと思ったのにさ」
左打席に入ると早速、賀来がつぶやいてきた。そんなこと思っても……いや、思ってるはず。
では何が目的でボヤいてるのか。と考えること自体が狙いなのかも。ならば……。
「へへへ。悪いけど」
「……うわっ、なんかオージロウくん怖いわ〜」
ふふふ。短く圧縮しきった返しで黙らせてやったぜ。
だけど相手バッテリーの狙いまでは分からない。というかスプリットとストレートの見分けは未だに掴めていないのだ。
だからこそ狙いを絞らないと……バットを構えながら考えを巡らせる。
決めた。アレを必ず打つ……!
対する伊佐部寺は、セットポジションから高角度で右腕を振り下ろしてくる!
「むんっ!」
内角高め……見送る!
「ボール!」
いきなりクソボールできたか。そうそう引っ掛からないっての。
2球目は高低差で攻めてくるかな。だとすれば……伊佐部寺はテンポよく投げてくる。
「むんっ!」
「ストライク! カウント1−1!」
予想は外れて外角高めボール……と見せかけてグイッとストライクゾーンに落とすスライダー。
まあどっちにしても狙い球じゃない。もちろん続けて投げてきたら仕留めるけど。
さあそろそろ……と思ったがまた高めか!
「うりゃああっ!」
バシィーッ!
「うぎゃああっ! レフトにデカいのが!」
「惜しい、ファウルだ!」
ストライクを取りにきた中途半端なストレート。もうそういうのはオレには通じないよ。
一気に顔が引き締まった伊佐部寺。一応は追い込んだわけだから、そろそろ決めてくるか……?
そしておもむろに投げ込んで来た4球目!
「むんっ!!」
低めに投げられたら見分けがつかない……ことはない!
「うりゃあああっ!!」
バシィーーンッ!!
レフト線に強烈なゴロで……外野へ抜かせてもらったぜ。スプリットをなあ!
「よっしゃ同点! デカいのじゃなかったけど!」
「あんな流し打ちしてくるなんて」
流し打ちじゃないんだけど。今のは思いつきで根拠はないが、なんとかこの試合中に攻略できそうだぜ。伊佐部寺の必殺技を……!
<あとがき>
いつもありがとうございます
次回更新は4月10日(金)の予定です
よろしくお願いします




