第16話 気のいい奴ら
「だ〜れだ?」
オレたち連合チームの面々は、甲子園球場の室内練習場にて3回戦の試合直前の調整を行い、汗を流している。
そしてちょっとした休憩をしていたら……背後から手のひらで目隠しをされ、それが誰の仕業であるかを問われたのだ。
それはいいのだが。これが女子の可愛い声で柔らかな手のひらであれば、どれ程良かっただろう。
だが現実にオレの両目を塞いでいるのは硬くゴツゴツした大きな手のひらであり、問いかけた声はどう聞いても野太い野郎のものであった。
っていうか、誰だって言われても聞いたことねえ声なんだけど?
「ちょ、ちょっと! い、いったい誰? ふざけんのやめてくれよおっ!」
「だ〜め! 当てるまで離してあげない!」
相変わらずの野太い声で可愛く言われても……。オレはさらなる抵抗を試みるが、手のひらでガッチリ顔を固定されてどうにもできない。
「ほ、ほんとマジ勘弁! ずっと真っ暗なの嫌だああっ!!」
「ぷっ……くっくっくっ!」
「あっはっはっはっ! 二刀流の怪物が情けねェ声出しちゃって!」
「あー、腹が痛い……も、もう可哀想だから、離してあげなよ〜?」
な、なんなんだよいったい! 明らかにオレの周りに知らない野郎どもがいて、なんか勝手なことばかり言ってやがる!
そしてこの騒ぎの張本人である野太い声が名残惜しそうに渋々と解放を言い渡してきた。
「うひゃひゃひゃ……あー、当ててもらえなかったのは寂しいけど仕方ないなあ。はいっと」
「ふう、ようやく光が……ぎゃああああー!!」
「ばあーっ! この顔が質問の答えだぜ〜!?」
オ、オレの目の前にニタっと笑いかける男の大きな顔が! く、暗闇よりこっちのが怖いっ!!
「なんだよ、せっかく人がフレンドリーに挨拶してるのに、失礼だなあ!」
「あはは……そりゃお前の顔がいきなり目の前に出てきたら!」
結局騒ぎが落ち着くどころか余計酷いことに……そして背後からは聞き慣れた声がオレにさらなる衝撃をもたらしたのだ。
「ギャハハハ! オージロウ、お前ちょっとビビり過ぎだろぉ〜! お、おかし過ぎて腹がよじれそうだぜ〜!」
「……な、言ったろ? コイツはウチで一番イジリがいがあるって……クククッ」
阿戸さんに大岡……というか奴らにオレをからかうようにけしかけたのはお前らか!
「す、すまんオージロウ。だってよぉ、お前が気持ち入りすぎてる感じだったから、ほぐしてやろうと思ってよ」
「おかげで俺たちも楽しませてもらった……ウクククッ!」
「ゴメンゴメン、俺がちょっとやり過ぎた。ところで俺は……」
「青懸巣学園の鯨路選手、でしょ? もちろん知ってる……さっきは不意打ちだったからさ」
「おおっ! オージロウくんに知っててもらえて感激だぜ〜!」
もちろん知ってるよ、これから対戦する相手のことくらいは。声までは知らなかったけど。
北の大地から甲子園にやってきた青懸巣学園高校……最近、甲子園にちょくちょく私学の通信制高校が出てくるけど、ここもその一つなのだ。
もっとも、通信制とはいっても野球部員は全寮制で午前中は勉強、午後は練習という羨ましい……いや独特のカリキュラムらしい。
まあ外から見るよりも実際は大変だったりするのかもしれないけどね。
で、鯨路はオレと同じ2年生ながら青懸巣学園の中心打者でチームの精神的支柱……古池監督からも試合のキーマンの1人に挙げられていた要注意選手だ。
それにしても実際に目の当たりにするとデカい。身長もだが、名前通りのクジラみたいな巨体に圧倒されそうだぜ。
そんなオレの思いとは裏腹に、鯨路はその場にいた他のメンツのことも嬉しそうに紹介してくれた。
「この背が低いのに立派な腹回りなのがキャッチャーの賀来だ」
「まあ見ての通りのずんぐりむっくりな身体つきだけど、我ながら動きは結構機敏なんだぜ?」
低いといってもオレよりは高いのだが、確かに体型はアンコ型と言ったらいいのか。でもピッチャーからすると思い切り投げ込んでも大丈夫そうな安心感はある。
「次はサードの本岡。コイツは1年生だけど4番として期待されてるんだぜ〜!」
「えへへ、どもっす」
確かにがっしりした体型で飛ばしそうだ。まあ性格的にはマイペースっぽいけど。
「そして俺たちの頼れる譲二兄ちゃん、3年生で切り込み隊長の発条さんだ!」
「あ〜、まあ、よろしくなオージロウくん」
穏やかな顔と口調だが、この選手も要注意……地方予選では重要な試合でことごとく先頭打者ホームランを放ち、相手の出鼻をくじいてきたらしい。
「よろしくっす。ところで兄ちゃんって呼ばれてるのは」
「あ〜、ウチは開校3年目で3年生の部員が3人だけ。だから先輩っていうより兄貴分みたいな感じなんだよ〜」
なるほど、こんなユルユルな関係も今時でいいよね。
それはいいけど発条譲二……こ、これは聞かずにはいられないッ!
「あだ名はひょっとして、『◯ョジョ』ですか?」
「あ〜、よく言われるけど実際にはないよ。大抵はジョージだね〜」
「ですよね〜、あっはは」
まあそんなもんだよな。その後も少しだけ雑談しながらお互いの手の内を探りつつ、最後はお互いの健闘を祈って別れる。
「それじゃあグラウンドで!」
「ああ! 俺もオージロウくんからホームランを打つのが楽しみなんだ!」
聞き捨てならないことも言ってたが、コワモテで無精ひげもそのままという迫力ある顔に似合わず人懐っこい鯨路を始めとして、みんな気のいい奴らだった。
ここまでの2試合は殺伐とした雰囲気だったので、たまにはこんな相手と試合するのも楽しい。
そして長いようであっという間の待ち時間が過ぎ去って……いよいよ今日の第4試合、ウチと青懸巣学園の試合開始時間となった。
16時過ぎに始まったので、スムーズにいけばナイターは避けられるかな。まあ、ウチは一度経験してるからやってもいいんだけど。
そして今回の先攻は青懸巣学園。
挨拶も終わってマウンドに立っているのはもちろんオレ。
右打席には、先程とは違って獲物を狙うような、攻撃的な顔と目つきの発条が既にバットを構えている。
<あとがき>
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