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5校連合チームで挑む甲子園 〜160cm台の怪物二刀流、全国を震わせる〜  作者: ウエス 端
2回戦

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第14話 簡単じゃなかった

「さて。どれに狙いを絞ろうかな」


 オレは一旦ベンチの前まで下がってドリンクを飲みながら、この打席での戦略と方針を頭の中で練っている。


 というのも原塚はらづかさんとしょーたの連続ヒットでツーアウトながらランナー一三塁のチャンス、赤石あかいし高校にとってはピンチでマウンドに伝令が送り込まれてタイムとなっているから。


 まあ、話し合う内容とすればオレを敬遠して満塁策をとるか、それとも勝負するか。満塁策なら守備位置をどうするか。ってところかな。


 9回と言っても表なので、例え打たれても反撃の機会はのこっているけど……見ている限り、そういうのは関係なくエースで大黒柱の楠元くすもとの意思を確かめているっぽい。


 それから程なくして伝令が引き上げていく。それじゃオレもボチボチと打席に戻ろう。


 申告敬遠なら球審に1塁へ行けと言われるのでゆっくりとボックスに近づいて……何も言われずにそのまま入れた。


 どうやら勝負してくれるらしい。楠元の表情は相変わらずの仏頂面だが闘志は落ちていない……どころかますます気合いが入ってるって感じ。


 いいねえ。それでこそ打ちがいがあるってもんだぜ……!


 あとはどっちで投げてくる……グラブを右手にはめ替えて球審に明示したので左投げにスイッチで確定。


 スイッチ投げは一度決めたらそのバッターの打席が終わるまで変えられない。だから内角攻めに戻るってことだ。


「オージロウ! 俺は……ウチはお前から逃げない。赤石高校の完全復活、それにはここで正面突破あるのみ!」


 赤石側の方針を熱くぶっきらぼうに語られたが、オレは淡々とバットを構えてグリップをいつもより強く握りしめるだけにとどめる。


 そしてセットポジションで静止する楠元。


 しょーたの打席でもセットでトルネードはさすがに身体をやや捻る程度になったが……威力はさほど落ちてなかった。


 そしてどっしりした下半身で捻りに十分なタメを作ってから。


 一気に右足を踏み出して左腕をスリークォーターで鞭の如く鋭く振り抜いた!


「えやあああっ!!」


「……外!」


 ズバンッ! と初球はカーブが外角いっぱいに決まってストライク。


 まあ2人続けてナチュラルシュートを弾き返されて連打を許したのだから、当然リズムを変えてくるわな。


 オレは全く狙っていなかったのでそのまま見送ったけど、また同じボールでストライクを取りにきたら反応させてもらう……もう軌道は見切っているから。


 続く2球目は内角膝下にシンカーでボール、カウント1−1。


 思ったよりも揺さぶりかけてくる。まるで、どの時点で真っ向勝負しようかと探ってるみたいな。


 つまりオレは打席が終わるまでずっと集中力を保たねばならない。


 そしてポイントになるであろう3球目……楠元が左腕を強く振り切る。


「えやああああっ!!」


 今度こそ……って外角高めに大きく外れたクソボール。これは……!


「うりゃあああっ!!」


 バシィーーッ!!


 初速がストレートと変わらず、手前でパラシュートの如く急激なブレーキがかかるチェンジアップを上からストライクゾーンに落として来やがった。


 あれを漫然と見送ると見逃した感が心に残って主導権を相手バッテリーに渡してしまう。


 軌道を見極めつつレフト方向へ広角に打ち返したけど果たして。


「ファウル!」


「ああ、もう〜! ヒヤヒヤさせやがって!!」

「惜しかったぞオージロウ! もう一丁頼む!」


 スタンドのどよめきがなかなか収まらない。まあ当たり前か、この打席に勝負の行方がかかってるのだから。


 さあこれでどうする。変化球で枠をいっぱいに使った揺さぶりはもうオレには通じない。


 つまり勝負できるボールとコースはもう決まっている。それともまだかわし続けて満塁策やむなしとするのか。


 でもオレは次の阿戸さんが必ず返してくれると信じてるから……狙いは変えない、その必要もない。


 表情を変えない楠元は少し長めにセットポジションで静止したあと、力強くグッと右足を上げて身体を捻ると。


 一瞬のタメから素早く踏み出し、身体ごと回転するかの勢いで左腕を振り抜いた!


「これで勝負! えやああああっ!!」


 内角胸元へストレートの軌道……ここから。


 オレはクローズドスタンスから更に右足を踏み込んで、ヘッドを最短で振り抜く!


「うりゃあああっ!!!」


バッシィーーーンッ!!!


 向かってきてノビてくるボールに逆らわずセンターから左へと打ち返した打球は、放物線ではなく低い角度でミサイルのようにすっ飛んでいく。


 外野手は誰もほとんど動かない。自分で言うのもなんだが打球速度が速すぎて追う気力が出ないのだろう。


 そして甲子園の巨大バックスクリーンの左側に突き刺さるように到達した打球はポーンと一度跳ねたあと、そのままスタンドのどこかに消えていった。


「入っったああああーーっ!! 逆転スリーランがああああっ!!」

「待ってたぞおおっ! 今日の2本目を!!」

「楠元の内角ストレートがいとも簡単にはじき返されたなんて……」


 簡単じゃなかったよ、見た目ほどには。


 ボールがノビてくる始めの瞬間を見極められなければ、振り遅れて詰まらされた。


 更にチェンジアップであれば、踏み込んだ分スイングの軌道を合わせられずにあえなく三振だった。


 今日最速の157キロ剛球ナチュラルシュートを見切る集中力を、もう限界まで発揮してへとへとだよ。


 なのでオレはゆっくり目にベースを一周させてもらった。別に余裕の確信歩きってわけじゃないんだ。


「オージロウ! やっぱりお前はスゲー野郎だぜ!」


 ホームで笑顔で出迎えてくれた阿戸さんと軽く手を合わせてから、優勝したかのようにはしゃいでるベンチで手荒な祝福を受けたのであった。



 9回裏ノーアウトで先頭打者の赤石高校の主砲、楠元が右打席で構えている。


 オレはまだマウンドに立っている。キャッチャーはしょーたがそのまま入って、セカンドはひょ〜ろくくん、ファーストは原塚さんに交代。


 そして古池監督とは一つ約束を交わした。オレはどっちにしても楠元の打席終了でマウンドを降りると。


 球数がもう100球を余裕で超えてるのもあるけど。しょーたの左手の負担を考慮してのものだ。


 楠元は全力を出し切らなければ打ち取れない。申し訳ないが勝崎さんには本気のつもりでもどこかブレーキをかけて投げていた。


 やっぱりしょーたでないと……!


 そして2球でツーストライクと追い込んだオレは、今日最後の1球を渾身の力を込めて投げ込む!


「うりゃああああっ!!」


「真ん中高め……ナメるなあ! えやあああっ!!」


 ズバンッッ!!


「ストライク! バッターアウト!」


「よっしゃきたー! 今日最速の168キロ!」

「確かに速いけどあのノビ……楠元があんなに振りおくれるなんて」


 ふう〜。これでオレの役割は完了。あとはショートの大岡にマウンドを譲るべくボールを手渡しする。


「オレの後で大変だろうけど、なんとか頼んだぜ」


「……テメェと違って俺はキレで勝負するタイプなんだ。後も先も関係ねえから!」


 おっと、また些細なことで機嫌を損ねてしまった。でも仕事はキッチリやり遂げるのがウチのリリーフエースなのだ。


 そして更に守備位置交代。ショートはあと守れるのがしょーただけなのでそちらに回り、オレがDH解除でキャッチャーとなる。


 これでまたスタンドがどよめいたがもう慣れた。左というだけでそれ以外は普通のキャッチャーと変わらんのだし人手不足だからやってるだけで。


 3刀流とはおこがましくてとても言えない。オレは淡々と大岡のボールを受けて投げ返すのみ。


 2番打者は楠元の次に実力が高い左バッター中多なかた。大岡はアンダースローから内角高めに浮き上がりながら曲がっていくスライダーで。


 ズバンッ!!


「ストライク、バッターアウト!」


「これであと1人! 逆王手だあー!」

「頼む、何とか塁に出てくれー!」


 興奮状態ともいえる両側スタンドの盛り上がりの中、3番の相手キャッチャーと大岡の勝負の行方は……。


 ズバンッ!!


「バッターアウト! ゲームセット、4−2で5校連合チームの勝利!」


 最後はキレのいいシンカーで空振りを奪って、オレたちはようやく苦しかった接戦をものにしたのであった。


 スタンドの大声援も整列とともに止んで……オレに楠元が近づいてくる。


「完敗だ、今回は。だが次のセンバツでリベンジして赤石高校を今度こそ復活させてもらう」


 そうだった、オレと同じ2年生なのだヤツは。老け顔……もとい年齢の割にしっかりした顔つきと言動でつい3年生のつもりになってたけど。


「ああ。次は違う構成の連合チームかもしれんけど」


 オレたちは再戦を誓い合って別れた。


 そして今回の校歌は松花高校。元々は明治時代から長い伝統の公立女子校だったということで、何となく柔らかな印象の校歌が甲子園を包み込む。


 そしてこのあとは……。



「オージロウ選手! 今日の試合の感想を一言お願いします!」

「5打席連続ホームラン達成できませんでしたが反省のコメントは?」


 ひええ〜! どこのかはわからんが記者数人に追いかけ回されてオレはとにかく逃げている。また変な煽り記事を書かれたらたまらんからな!


 公式インタビューはキャプテンのしょーたが受けただろうが、しつこいなあ!


 そしてようやく記者たちを振り切れそうな時だった。


「うわあっ! ぶつかる!」

「今日は間に合わなかったか……おっと」


 危ねえ! 直撃は何とかかわしたがお客さんと接触してしまった。


「だ、大丈夫……です、か」

「……問題ない。では失礼」


 相手は190センチは超えているであろう長身の若い男性……顔を隠すかのように侍◯ャパンの帽子を深くかぶって、すぐに立ち去ろうとしている。


「あ、あの」

「いたぞ! オージロウ選手、コメントを!」


 くそっ! 記者たちに見つかった、早く逃げないと。


 そして走り回りながらもさっきの男性に声をかけ損ねたのが、オレは気になって仕方がなかった。


 あの身長……身体つきはあの頃よりもひと回り、ふた回りほど大きくなっていたけど。


 帽子の奥に一瞬だけ見えた顔……特にあの眼差し。


 そしてあの声……間違いない。いや間違えるものか。


 あれは、兄ちゃんだ……!



<あとがき>

いつも読んでいただいてありがとうございます

次回更新は3月30日(月)の予定です

よろしくお願いします

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