10|『Dr.ウィンターとはじまりの青』
陽は沈み、リューガローガの街は夜に沈んでいた。
アリィスとウィンターは、ストリートを進んでいる。
この街をうっすらと覆う、かすかな煙。夜の闇の中ではそれが、銀の灯火を宿した鱗粉のように、空中をゆっくり舞っている。その淡い輝きによって、リューガローガの夜景はどこか輪郭が滲み、ノイズがかっているような錯覚を覚えさせた。
企業の看板を掲げた高層ビルは、最上階まで明かりが灯っていて、まだまだ休む気配はない。――すれ違う人々の何気ない会話。車道を滑っていく、青い金属光沢を纏ったスポーツカーから漏れ聞こえる、知らない音楽。
いつものように街並みを観察しながら頬を膨らませているアリィスへ、前を歩いていたウィンターが振り返って声をかけた。
「どしたー、アリィス。サナのことが心配?」
「いや、心配は当然あるけど……街を見てた。綺麗だから」
「ほっほー。アンタ、そゆとこは案外オトナなんねぇ。見た目ガキのくせに」
「……うん。もう声出して怒るのもいいや。疲れる」
「にゃはー、じゃあ言いたい放題やね。うぃー、このガキー。ちびっ子アリィス~」
「う……んにゃろーっ!! 言わせておけばよぉ。このヤブ医者っ!!」
「最強の傭兵アリィスさーん? 診察室へどうぞー?」
「どこも調子悪くねぇよ、アル中女!! あとは、えっと――」
すこし放っておくだけで、すぐ口喧嘩を始めるアリィスとウィンター。その様子を空白の世界で眺めていたイフは、深くため息をついて頭を抱える。
〈あ~、カオスだ~。まさかアリィスと同じくらい口の悪い人がいるなんて~〉
なぜこの二人が一緒に街を歩いているのか、その理由は――目を覚まさないサナの様子を落ち着かない様子でちらちらと見ながら、オフィスチェアを延々とくるくる回していたアリィスに、ウィンターが「来て」と声をかけたのだった。
アリィスは街の景色を細かく観察しながら、サナの鎮圧に現れた重装甲の兵士たちのことを考えていた。四角形を二つ組み合わせたような、赤い企業ロゴ。あの兵士たちも、サナと同じ“テロメア”という企業に属しているのだろうか。
アリィスは、その疑問をそのままウィンターへぶつける。
「なぁ、テロメアってなんだ?」
「んーとね。テロメア社は、この竜理の国で有名な超巨大企業の一つだよー。都市の治安維持から、兵器開発、インフラ、金融、法律関係まで幅広くやってんね」
「ただの会社が?」
「そだよー。アリィスがいたアスハイロストだと、コミュニオンだっけ。都市国家とか、宗教の一教派が強い権力を持ってるんだよねー。ま、そんなカンジ」
「ふーん。あれ? 私、ウィンターに話してないけど。アスハイロストのこと」
「見りゃ、わかるにゃ。私、異邦人ですーって、わかりやすく顔に書いてる」
「書いてるわけないだろ」
「ひっひ! ま、簡単に騙されはしませんわな……っと。着いた着いた」
前を歩いていたウィンターが、急に足を止めた。
クリニックから三十分ほど。大通りを歩き、突き当たりにあったのは、高い鋼鉄の壁だった。まるで街を横一文字に断ち切るみたいに築かれた、黒い壁。その手前には、侵入を拒む境界線のように、八車線の広い車道が横たわっている。
鋼鉄の壁に、扉もゲートもない。
壁の前まで続く横断歩道すら存在しない。
車道を流れる車は途切れず、
壁のすぐ近くまで寄ることさえ難しそうだった。
アリィスは壁面に刻まれたものへ目を留める。
「あれ、テロメアのロゴだ!」
「――そう。ここは、テロメア社が持つ数多くある軍事工場のうちの一つだ」
ウィンターはそう答えると、
白衣の内ポケットから、赤く煌めくバッジを取り出した。
テロメア社のロゴのバッジだ。
「んで、アタシがもともと働いていた場所でもあるのだ。どどん!」
「……は?」
さらっと重要なことを明かされ、アリィスは口を開けたまま固まる。爽やかな香りのする風が吹き抜け、彼女の黄金色の髪をふわりとなびかせた。
ウィンターはお構いなしに、急に話題を変える。
「そういえばー、この竜理の国では、企業で働く人のことをラビットって言ったり言わなかったり。いつも時間ばかり気にして早足だからウサギみたいだねー。って」
「いや、話を逸らすなよウィンター」
「逸らしてないってば、落ち着きなー? だからぁ、企業で働く人がラビットなら、そこから逃げ出したアタシは、脱兎のごとく。ってワケ」
「……うん」
いよいよアリィスは、ウィンターの謎のノリに付き合うことを諦めた。この酒好きの医者は、まるで煙みたいに掴みどころがない。
「あーあ、アリィスが面白くなくなっちゃった」
「自覚がないのが一番怖い」
〈今回はイフもアリィスの味方になります〉
「ま、いいやー。じゃあスイッチ切り替えて、本題。――アンタに依頼したいことがある」
真剣な目つきに変わったウィンターへ、
アリィスも自然と姿勢を正した。
「依頼内容は?」
ウィンターは、目の前の鋼鉄の壁を見ながら口を開く。
「あそこに侵入して、アタシが残してきた研究データを全部削除してきてほしい」
「データを? なんでそんなこと」
「……アタシが開発したんだ。テロメアのために、軍用エクスマキナを」
かすかな煙に沈んだ黒の都市。目の前を流れていく車のヘッドライト。その光に照らされるウィンターの横顔には、うっすらと白い髪がかかっていた。
アリィスは近くの壁へ背を預け、
そのまま膝を折ってしゃがみ込む。
「つまり、自分がクソみたいなシロモノの開発者であるという事実を隠蔽したいのか。それとも、意味のない罪滅ぼしでもしたいのか」
「傭兵モードのアリィスはなかなか厳しいねー。ま、強いて言うなら後者かな。意味のない罪滅ぼしのためだよ」
「本当に理由はそれだけか、ウィンター?」
アリィスは、すでに見抜いていた。
ウィンターが、まだ何かを隠していることを。
「やっぱ、隠し事は通用しなさそうだねー。わかった、全部吐くよ」
ウィンターは、一度だけ息を吐く。
「……アタシがいた開発部に、仲のいい同僚がいた。そいつと二人で軍用エクスマキナを開発した。――んで、そいつが最初の被検体に選ばれて、改造されて、結果。そいつは自我を失って、ただテロメアのために武力を行使する兵器になった」
「その子を救いたいから?」
ウィンターは、両手で自分の髪をくしゃくしゃとかき乱しながら答える。
「どーだろ、わかんないや。べつにデータを消したところで、その子がもとに戻るわけでもないし。アリィスの言う通り、結局は意味のない罪滅ぼしだねー」
「そっか、いいよ。旅の金も稼ぎたいし、依頼は受ける」
大きく深呼吸をして、アリィスは立ち上がる。
その瞬間。
胸のバッジから、鐘の音が鳴った。
授業の予約が入った合図だ。
「悪い、副業の時間だ。もう行かないと。サナのこと頼んだ」
「もちろん。アタシの本業は医者だからねー」
キャンピングカーへ戻る前に、アリィスは一瞬だけ立ち止まる。そして振り返ることなく、ウィンターへ言葉だけを残した。
「私は善人でも正義の味方でもないから、そこは安心しろ。小うるさい正論も綺麗事も言うつもりはない。あと、報酬には期待してる。……それだけ」
街の夜景の中へ消えていくアリィスの背中が、
ウィンターには、決して触れられない朧のように見えた。
―― 10.『Dr.ウィンターとはじまりの青』 ――
キャンピングカーのハッチから教室に入ると、一席だけになった椅子に、すでに今回の生徒が座って待っていた。アリィスは、その顔を見る。
もう一度、見る。
きれいに二度見する。
何度見ても、そこにいる人物は変わらない。
透き通るような長い白髪。
星のような形をした不思議な瞳。
薔薇の刺繍が施された修道服に、シルクの長手袋。
そして、額から生えた二本の竜の角。
「え……? 本物?」
「当然、わたくしは本物ですわ」
今回の生徒は、アリィスが追っていたギンスナ本人だった。
会うのは、アスハイロストの牢獄艇以来である。
「なんで? 私、理解できない」
〈イフも理解できない。これぞ、飛んで火にいる夏の虫~〉
「それはもちろん、わたくしがこのデルタ・クラスを選んで、授業を予約したからに決まっています。それにしても、アリィス・テレジア。授業料が高すぎよ」
「それは私に言われても困るんだけど」
あまりにも予想外の再会に、アリィスは珍しく動揺していた。
この女は、任務の対象なのか。
倒すべき敵なのか。
その線引きすら、いまは曖昧だった。
アリィスは首をかしげる。
「じゃあ、その……自己紹介タイムは必要ないか」
「いえ、せっかくですから、自己紹介タイムいたしましょう」
「するの? えー、じゃあ。アリィス・テレジアだ」
「ギンスナ・カフ・シスターフェアリーですわ」
「…………」
無言。
静寂。
波の音。
互いにとって気まずい時間が流れる。
アリィスはわざとらしく咳払いをして、話題を探った。
「……ギンスナの目標は何だ? どんな魔法を契約したい?」
「えぇ。わたくし、アリィス先生に時間跳躍の魔法を教えていただきたいですわ」
「いや無理ってわかって言ってんだろ。やっぱり冷やかしか?」
「いえいえ、そんなつもりはございません。だって、この学園のシステムでは、目標を達成したら卒業ですのよね。でしたらわたくし、卒業せず、ずっとアリィス先生の授業を受けていたいので、無理難題な目標を設定したのですわ」
「え、何がしたいの? 怖すぎるんだけど」
ウィンターに続いてギンスナ。
アリィスはもう、真意の読めない人間はお腹いっぱいだった。
〈ねぇ、アリィス~。この状況どゆこと~?〉
「私もさっぱりわかんねぇよ」
小声でイフに答えるアリィス。
その様子を見て、ギンスナが淑やかに微笑んだ。おもむろに立ち上がると、教壇のアリィスへ向かってゆっくり歩み寄ってくる。
アリィスは警戒して、そっとホルスターのピストルへ手を添えた。
「まぁ、そう警戒しないでください。アリィス先生」
ギンスナは、りんご一個分ほどの距離まで顔を寄せて、にっこりと笑う。甘い花のような香りが、ふっとアリィスの鼻先を抜けた。その特徴的な瞳は、アリィスの赤い右眼――ナスタルギアの圧さえ、吸い込んでしまいそうだった。
ギンスナは静かに目を閉じる。
次の瞬間。ぱっと目を見開いた彼女は、
妖気を帯びた微笑みを浮かべた。
「ねぇ、アリィス。久しぶり。私があげた“テレジア”、いまも使ってるのね」
声色が変わる。
アリィスの瞳が揺れた。
「……ソフィア? やっぱりお前、ソフィアなのか」
「魔法使いなら、自分で解いてみなさいよ?」
聖戦で滅んだイザヴェルシアの姫、ソフィア。牢獄艇でギンスナとはじめて出会ったときも、アリィスは彼女をソフィアだと見間違えた。たしかに顔は似ている。
けれど、言葉では言い表せないような、はっきりとした違いも感じていた。
そもそも、ソフィアは竜人族ではない。
だが、いま目の前にいるのは、竜の角を持つ女だ。
アリィスは、本当にソフィアなのかを確かめるため、問う。
「私にテレジアの名をくれたのはソフィアだ。古代アーキ語で、意味は色彩。でもそれは、ソフィアに初めてもらったプレゼントではない。じゃあ、私がソフィアに初めてもらったプレゼントはなんだ?」
「――答えは、青。アリィスは生まれつき、色覚に異常があった。青だけ見ることができなくて、空も海も、アリィスにとっては灰色だった」
「続けろ」
「キィズ魔法体系では、青は特別な色とされている。青が見えないのは、魔法使いとして致命的。だから私が、最初のプレゼントとして、アリィスに青をあげた。当時のアリィスはあまり魔法には興味がなかったようだけどね」
その答えを聞いて、アリィスは確信する。
間違いない。
この女はギンスナであり、同時にソフィアでもある。
かつてソフィアは、新たな魔法を組み立て、その力でアリィスの世界に“青”を与えた。――二人は特別に仲が良かったわけじゃない。ただ、幼い研究者仲間として、日常の小さな問題や謎を持ち寄っては延々と討論していた。
アリィスは教室の中を歩き回りながら、思考を整理する。
そこへ、右眼の内側からイフが話しかけてきた。
〈ねぇねぇ! すごいことわかっちゃったよ~、アリィス。ね、聞きたい?〉
「そうね。一人で考える必要はない。イフがいるんだし。……うん、聞かせて」
〈ね~、あの人。もしかしたら、イフたちと同じかもかも~〉
「同じ……なるほど。ぜんぶ理解した」
アリィスは、教壇の上で待つ“彼女”のもとへ歩み寄る。
そして、自分の考えを口にした。
「――お前は、ギンスナだ。しかしソフィアでもある。私とイフがまったく同じ関係だからわかったけど。ソフィア……いまの君は、ナスタルギアの主なんだろ」
竜人族の女、ギンスナは、牙をのぞかせて微笑む。
「お見事、正解ですわー! わたくしは、ナスタルギア『深海の脳』と契約していますの。その主こそが、ソフィアなのですわ」
「ってことは……やっぱりソフィアは、イザヴェルシア聖戦で死んだんだな。そのあと、ナスタルギアに魂を拾われた」
「さすがは、“晴の歯車”の契約者ですわ」
そこまで聞いて、アリィスにはひとつだけ疑問が残っていた。
「なら、顔が似ている理由は?」
「あぁ、そのことですか。すごく単純な仕組みですわ。わたくしのナスタルギアの力を使えば、姿かたちを自由に変えることができますの。つまり、この顔はソフィアからお借りしているものなのですわ」
「えーっと……ん? じゃあ、ギンスナ本人の顔は? そもそも、お前は誰?」
「わたくし、覆面魔法使いですのよ。素顔と正体は明かせませんわー」
〈いや、覆面魔法使いってなんだよ~!〉
ギンスナは高らかに笑いながら、自分の席へ戻っていく。
「ではでは、雑談はこれくらいにして。アリィス先生。授業をお願いしますわ」
「え? いまからやんの? しかも、時間跳躍の魔法について?」
「当然です。わたくし、それはそれは高い授業料を払って、このデルタ・クラスを予約したのですから、ちゃんと教えてくださいな」
アリィスは、とりあえず教卓に立つ。
いつものように頬を膨らませて――そこで、あることを思いついた。
「そうだ、こうしよう。なぁギンスナ。私からも無理難題を押し付けるからさ、どっちが早く難題を解けるか、勝負しようぜ。互いに魔法使いのプライドをかけて」
「教師と生徒の無理難題バトル。いいですわ、受けて立ちましょう」
アリィスは、まっすぐギンスナを見る。
「私は昔、禁術の代価で右眼と記憶を失った。しかも、その記憶は未来の記憶らしい。――その意味を、私はいまでも解けてない。だからギンスナ、お前には“未来の記憶を失う”っていう代価の意味を解いてほしい」
「面白いですわね。では、アリィス先生は時間跳躍の魔法を、わたくしに契約させてくださるということでよろしくて?」
「あぁ。勝負は、どっちかが諦めるか、死ぬか、解けるまで続くってことで」
〈うわ~、またアリィスがよくわかんないこと始めちゃったよ~〉
アリィスが担任を務める竜理魔法学園。
デルタ・クラスの新しい生徒は、ギンスナだった。
そして一回目の授業は、
お互いに解けないまま終了した。
◇ ◆
◇
授業を終えたアリィスがクリニックへ戻ると、そこには、黒い患者衣に身を包んだサナの姿があった。オフィスチェアでは、ウィンターが座面に顔を突っ伏したまま、気持ちよさそうに眠っている。
鼻を刺すようなアルコールの匂いに、アリィスは思わず顔をしかめた。
「なにこのにおい?」
「あぁ、おかえりなさい。見ての通り。ウィンターさん、お酒で潰れちゃって」
サナはそう言って、ぺこりと丁寧に頭を下げる。
重装甲もガスマスクもない今の彼女は、どこにでもいそうな、ほんわりとした雰囲気の美人なお姉さんだった。街中でライフルを乱射するような人物には見えない。
アリィスは部屋の隅に雑に放り出されていた毛布を拾い上げると、ウィンターの背中へぽさっとかけた。それから近くのパイプ椅子へ、ぽすんと腰を下ろす。
「あの! アリィスさんが私のこと助けてくれたって、ウィンターさんに聞きました。本当にありがとうございます……!」
「いや、べつに。真相を知らないままでいるのが気持ち悪かった。それだけだよ」
「それでも、感謝しています。あのまま連れていかれていたら……たぶん、記憶を消されて、そのままどこか知らない街にぽいってされてたかもなので」
〈なにそれひどい~!! ブラック企業反対~!!〉
アリィスの右眼の内側で、イフがぷんすかと怒っていた。
あらためて、アリィスはクリニックの中を見渡す。そして、デスクの上で伏せられている写真立てを見つけた。椅子から立ち上がり、迷いなくそれへ手を伸ばすアリィスに、サナが慌てて声を上げる。
「だ、ダメですよ! 勝手に見たら怒られちゃいますよ!」
「いいよ。怒られるのは慣れてるから」
「そういう問題じゃなくってー!」
〈ふふ~。これぞアリィスなのだ~!!〉
アリィスが手に取った写真立ての中には、一枚の写真が飾られていた。
そこに写っていたのは、テロメアのロゴが胸元に入ったスーツ姿のウィンター。写真の中の彼女の顔には、いまのような傷痕はなく、髪も黒かった。
そのとなりには、背の高いブロンドヘアの女が立っている。控えめにポーズを取るその女へ、ウィンターは親しげに肩を寄せていた。
「この人が例の仲のいい同僚、ね」
アリィスは小さくそう呟き、
写真立てを元の位置へそっと戻す。
サナが不安そうに尋ねた。
「ウィンターさんと、なにかあったんですか?」
「傭兵として依頼を受けたんだ」
「えっ! どんな依頼ですか?」
「それは話せないな。一応プロの傭兵なので、私」
「あっ、そうですよね。ごめんなさい」
大きな寝息を立てて眠るウィンターを見て、アリィスは小さく息をついた。それから、そのままクリニックの入り口へ向かって歩き出す。
その背中へ、サナが声をかける。
「どこに行くんですか?」
「お腹がすいたから何か買ってくる。すぐ帰るけど、サナは?」
「あっ、私はもう食べたので大丈夫です!」
「そ。じゃあ、行ってくる」
アリィスはそのまま、薄暗い裏路地へ消えていく。その背中を見送りながら、サナは静かに拳を握りしめた。そして、ひとりで頬をぱちんと叩き、気合いを入れる。壁に立てかけられていたマークスマンライフルを手に取ると、サナは立ち上がった。
「警備部に志願したのは、私なりの正義で街を守るため――」
そう自分に言い聞かせて。
サナは、アリィスを追って裏路地へ走り出した。




