↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/22

第4話『引退剣士が――世界でバズる』

――――スライム叩きをはじめた3年前。


どんなのが最強の剣士なのかを考え、「相手の攻撃をするりと避けて一発で仕止める」のが一番達人っぽくてカッコいいという結論に至った。



そこで俺は、スライム叩きでレベルが上がるたびに上位スキルの解放には目もくれず初期スキルの【回避】と【剣撃】だけを符文《ルーン》でただひたすら伸ばした。



極限まで鍛えた【回避】によって、振り下されたスケルトンの剣も、ドラゴンが吐く炎も――――当たらない。


そして避けたあとに、極限まで強化してどんな防御もまとめて叩き割る事ができるようになった【剣撃】を一発だけ叩き込む。



勝負はほぼそれで終わる。

それが俺の戦い方のすべてだった。


この無駄のないシンプルさが最強剣士っぽいのだ。



走って近づいてくる俺に気づいたコロッサスデスワームは大きく口をひらいた。

無数の歯の奥から白い液体が噴き出す。



“来た!”

“消化液!?”

“ぎゃあああああ!”

“あかんあかん!!!!”

“あれ当たったら終わるぞ”

“ちょっと卑猥じゃね?”

“モザイクかけたらヤバい”

“怖くてみれねぇ”

“\(^o^)/オワタ”



ワームの消化液が一直線に飛んでくる。



発動【回避】RANK99+α



俺の体が、勝手に最適な位置へと移動する。

白い液体は俺のいた場所を通過し、ジュワっと音をたてて地面に穴をあけた。



「当たらなければ……どうということはないッ!!!」



ワームは巨体をくねらせ、今度は俺を飲み込もうとしてきた。



“消化液あっさり避けやがった”

“なんかどっかで聞いたセリフ叫んでた?”

“次の攻撃きたぞ!”

“口でかすぎ!”

“食われるー!”



もちろんまた【回避】で避ける。

いや、避けるというよりはまるで攻撃のほうが俺を避けているような感覚だ。


俺はワームの側面に移動した。

俺の剣の長さよりも、このワームはずっと太い。



発動【剣撃】RANK99+α



だが、剣先を当てて撫で斬るだけで【剣撃】の衝撃波によってスパンと切り落とす事ができる。


シュバッ! シュバッ! シュバッ!


剣を縦に振り下ろし、ワームをどんどん斬っていった。

巨大ミミズは綺麗な切断面の伊達巻きのようになっていく。



“……は?”

“またあっさり避けたと思ったら、今度はスパンスパンと切ってる”

“気がついたらワームが輪切りになってるし”

“モンスターはB級とかじゃなくて普通に上位種のやつだぞ”

“あの剣がすごいとか?”

“いやいや、剣以前にまず全部避けるのおかしい”

“無駄がなさすぎてちょっと怖い”

“笑えないよこれ”

“洗練されすぎてる最小限の動きしかしてない”

“蝶のように舞い、蜂のように刺す”

“この人何者ですか?”



俺はロングソードを鞘に納めてワームの頭から5メートルくらいの場所にあった新型計測機を回収した。


その機械はアイステータスと似ていたが、ごちゃごちゃとした配線や無理やり取り付けたアンテナが、いかにもプロトタイプという感じだ。


宮ヶ瀬来花《みやがせらいか》のそばまで歩いていって機械を手渡す。

彼女はポカンとした表情をしていた。



「ええと、あの……」


「とりあえず機械は大丈夫? 壊れてない?」


「あ……チェックしないと」



宮ヶ瀬来花は新型計測機を起動させた。

そして画面をタップすると、眉間にシワを寄せた。



「この計測機はこれまでのアイステータスにはできなかった周囲のモンスターや人間のレベル測定ができるけど……」



彼女は顔を上げた。



「レベル999って……まさか……」



フードに隠れた俺の顔を見ながら絶句している。


そんな数字は、ありえないからだ。

ただひとつだけの例外を除いて。


高難度ボス討伐ログに、レベル999と共に残された名前。



――――クロウ・クロスボーン。



彼女はそのクロウ・クロスボーンが俺だと気がついたようだ。


引退した最強の男は正体を知られたらすぐに姿を消す。

これも映画や漫画で何度も見た、最高にカッコいい展開だ。


ならば俺も――。



「あっ! ワームが生き返って変な踊りしてる! 夜の踊り子のダンスみたいな!」


「えっ!? うそ!?」



宮ヶ瀬来花が驚いて振り返った隙に、俺は懐からゴルフボールのような形状の煙玉を取り出した。


これはバイト先の「臭くてクレームが入った」商品で、どうせ廃棄処分するのならと貰ってきていたのだ。


俺は煙玉を勢いよく地面に叩きつけると走って逃げた。

白い煙に包まれた宮ヶ瀬来花の叫び声が聞こえる。



「煙!? くっ、臭いですよ!  放置したゆで卵と靴下を一緒に煮込んだような臭いです! 何ですかこれー!!??」



今日はここに潜ってよかった。


あのワームは最強引退者の相手としてはちょっと歯応えなかったけど、楽しかった。


さらばだ、天才少女よ。



“逃げたwwwww”

“臭いのかよww”

“レベル999って言ってた?”

“999ってクロウ・クロスボーン以外にいないよな”

“マジマジ!?”

“あの強さもクロウなら納得できるかも”

“女の子に見惚れていて逃げたの気が付かなかった!”

“煙なくなったな、臭すぎて女の子涙目だぞww”

“すげえ美少女”

“カメラ見てなんか変な顔してる?”

“公開設定になってるの今頃気がついたかw お〜い!”

“あのクロウの戦いの生配信……すごい瞬間に立ち会ってしまった”

“震えが止まらないマジでクロウなのか”

“同接人数すごい事になってる”

“引退してたよね? 復帰したって事?”

“どんなビルドであんな動きができるんだ?”

“ロングソードと布のローブで装備シナジーがあるように思えない”

“未知のスキルを解放してるとか?”

“想像してたよりヒョロくて声も若かった”



そして翌日。


ネットのどこを見てもクロウがワームを倒す映像の話題で持ちきりだった。

動画は拡散され、切り抜かれ、ショート動画にもなり世界中で大バズりだ。


どうやらあの時に俺が押したのは、自動で動画配信できるようにセッティングされていたボタンだったらしい。


フードをかぶって顔は見えていない俺は、宮ヶ瀬来花の「レベル999」という呟きとその戦いぶりからクロウ・クロスボーンだとネット上で断定されている。



『伝説の剣士クロウは実在した』


『レベル999の最強者が帰還』


『特大デスワーム瞬殺の衝撃映像』



SNSやネットニュースにはそんな文字ばかりだ。

俺は復帰した事になっている。



違う違う、そうじゃない!

そうじゃな〜い!


困っていた少女を助けるために、引退している最強の男が仕方なく一度だけ剣を抜いたんだ。復帰とは違うんだよ!


俺が小学生の時からずっと憧れていた、あの展開だろうが!

どうして誰もそれに気が付かないんだ!?


おかしい!

世間の連中は何もわかっていない!

もしかして、俺の感性がズレてる……いや、そんなはずは……。



自分のアパートでPC画面を見ながら頭を抱えていると、ドアをノックする音が聞こえたので、俺は玄関に立った。



「勧誘とかセールスならお断りですよ」


「隣に引っ越してきた者です。ご挨拶に伺いました」



そういえば朝から、ガタゴトと荷物を運び込むような音がしていたな。

あれは引越しの音だったのか。


俺はすぐにドアを開いた。

するとそこには……薄手のニットの上に白衣を着た宮ヶ瀬来花が立っていた。



「こんにちは、クロウ・クロスボーン……いいえ、工藤空一郎《くどうくういちろう》さん」


「な……なんで俺のアパートの場所が? それに俺の名前まで……」


「新型測定器で採れたあなたのステータスから調べましたが、詳しい方法は研究機密です」



そう言ってから、宮ヶ瀬来花はにこりと笑った。



なんで隣に引っ越してきてんの?


なにこの子……コワイ、コワイ、コワイ、コワイ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。