第21話『引退剣士が――相棒を信頼する』
カメラに挨拶をした九鬼アノンは俺のとなりにきた。
ヘッドセットをつけている宮ヶ瀬来花はどこにいてもその声は配信される。
しかし俺と九鬼アノンの声はドローンに搭載されたマイクが拾っているだけなので、離れてしまえば配信には乗らない。
なのでデーモンの情報については俺の近くで小声でしてもらえば、九鬼アノンがデーモンだと視聴者にバレる事はなかった。
宮ヶ瀬来花は視聴者に向かって、今回は「九鬼アノンのダンジョン体験企画」だと説明した。
「アノンちゃんの活動にインスピレーションを与えられる、素晴らしいダンジョン探検になればいいと思いますわん!」
“もしかしてスランプ状態の九鬼アノンの為にクロウは立ち上がった?”
“ニューアルバム出したばっかだけどなぁ”
“若衆ですが、正直この状況が信じられない”
“アノンって自分のファンの事を「わかしゅう」って呼んでるんだっけ?”
“アノンファンまで入ってきて同接数ヤバい事になってるぞ”
“ゴスロリ冒険者服のアノンの破壊力すごい”
“ライカ犬、配信に慣れてきたっぽいわん”
宮ヶ瀬来花はよどみなく話し続け、コメントに楽しそうに応えたりもしている。
もしかして……こいつ。
研究に役立つとか、情報を共有すべきとかカッコつけた事言ってたけど単純にこういうのが好きなんじゃないのか?
宮ヶ瀬来花から少し離れて歩く俺と九鬼アノンは小声で会話をした。
「九鬼アノンって凄い売れっ子アーティストだけどさ、ダンジョンに潜るのを所属事務所がよく許してくれたな」
「事務所社長は従者の佐藤ですから問題ないですわ。ちなみにマネージャーは山田で、汚れ仕事担当は鈴木ですの」
「いまさらっと汚れ仕事って言った!?」
まあ、デーモンの世界からやってきて日本で生きていく為には、色々と非合法な事も必要だったのかもな……偽造とか……詐称とか……。
「このダンジョンに出てきたアズラックってデーモンは知り合い?」
「わたくしが知っているアズラックは「心掌の魔人・アズラック」だけでございます。もしそのアズラックでしたら心を意のまま操る術を得意としております」
「心を操る……か。もしそいつだったらなんか面倒臭そうなヤツだな」
その後は出てきたモンスターを俺が倒したり、発売したばかりのアルバムについて九鬼アノンが視聴者に話したりしながらダンジョンをさらに深く進んでいった。
そして、深度50を超えたあたりから俺は平本大輝の事を考えていた。
彼はクロウ・クロスボーンが現れるまでは日本1位のレベル保持者で、デーモンとダンジョン内で遭遇したシーカーだ。
内閣官房ダンジョン対策連絡室室長の米長さんは別れ際に、平本大輝はもう生きてはいないだろうから俺が調査に協力するかどうかの判断は急かさないと言った。
今回は配信をしている。
もしかすると平本大輝の亡骸が映ってしまうかもしれない。
平本大輝のドローンに残っていた映像は、彼の奥さんが提供したものだ。
その人が、夫の無惨な姿を全世界に晒される事を望むとは思えない。
俺は宮ヶ瀬来花のそばに寄った。
「あのさ、俺が先に進むよ。そしてもしさ……」
「……わかってます。私もクロウさんと同じ事を考えていましたから。もしも発見した場合はそれを伝えてください。すぐに配信を止めますんで」
ヘッドセットのマイク部分を手で覆ってそう言った宮ヶ瀬来花は、ドローン用の小さなリモコンを俺に見せた。
俺はモンスターの情報を提供してもらう時よりも、もっと強い信頼感のようなものを彼女に感じた。
俺が先行して歩き、宮ヶ瀬来花と九鬼アノンとドローンが10メートル以上後ろをついてくる。
時々笑い声が聞こえたが、ふたりが何の話をしているのか分からないくらい離れている。
その時、ずっと先の暗闇に……人影があった。
アズラックか?
いや、違う――――あれは。
“向こうに誰かいない?”
“んん〜?”
“お、おい。あれって……”
“え?”
“平本大輝じゃね?”
“あの装備は平本大輝っぽい”
“マジかよ”
“ダンジョン内で元レベル1位と新1位が鉢合わせ?”
“今回の配信、いろんな事がありすぎて理解が追いつかない”
“平本って最近情報が出てなかったよな?”
“近づいてきてるな”
“なんか様子が変だぞ”
“歩き方……?”
“剣を構えてるよな”
“おい、止まれよ平本、クロウはモンスターじゃねえぞ”
“なんか怖くね?”




