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第四十五章

翌日、彼は自分から逃げる場所を見つけられなかった。


ただ気分が悪いとか、眠れなかったとか、そういう単純な話ではない。もっと始末が悪かった。後悔だけなら、まだ形がある。何をしたか、何を悔いているか、どこが痛いのかを指で示せる。だが彼の中にあったのは、もっと曖昧で、もっと息苦しいものだった。自分というものを、どこへ置けばいいのか分からない。昨夜のあとで、同じ家にいて、同じ女たちのそばにいて、同じ空気を吸っていること自体が、すでに何か間違っているような感覚だった。


朝は、ひどく普通だった。


それがいちばんこたえた。


窓の外は冷たい明るさに満ちていて、昨夜の風が空気の濁りを全部攫っていったように見えた。下ではもう使用人たちが動いている。隣の部屋では器が触れ合う音がした。台所のほうからは、焼いたパンと温めた乳の匂いが流れてくる。カイラのために、今ではそれがほとんど毎朝の匂いになっていた。


家は壊れていなかった。


世界も、彼から背を向けてはいなかった。


誰も出ていかなかった。


誰も扉を荒く閉めなかった。


裁きのような沈黙も、断罪のような視線も、どこにもなかった。


ただ、生活だけがあった。


その中へ、自分がどう戻ればいいのか、彼には分からなかった。


彼は長く目を開けたまま横になっていた。眠ろうとしたわけではない。まだ動かずにいられる、そのわずかな猶予にしがみついていただけだ。起き上がって誰かの顔を見ることのほうが、今はずっと難しかった。


隣はもう空いていた。


それが妙に痛かった。もちろん、誰もいつまでも寝台に留まっているはずがない。起きて、着替えて、食べて、今日を始める。それが生きるということだ。分かっている。けれど、それでも、そこに誰もいないというだけの事実が、彼にはほとんど罰のように感じられた。


ようやく身体を起こし、両手で顔を覆った。


身体の奥には、昨夜の名残がまだ生々しく残っていた。欲望ではない。もっと嫌なものだ。硬さを失ったあとに残る重みと、羞恥と、記憶の明るさ。彼はあまりにもよく覚えていた。リラをどう掴んだか。どう声を荒げたか。自分の中の暗いものが、どれほど自然に身体へ流れ込んだか。カイラが飛び込もうとしたこと。アヤノがそれを止めたこと。最後に、自分がリラの上で完全に崩れたこと。


そしていちばん耐えがたかったのは、その全部がどこまでも「自然だった」ことだった。


そこが、彼にはどうしても許せなかった。


崩れたことそのものではない。


あの崩れ方に、身体があまりに素直に従ったことだ。


彼はずっと、男はそうであってはならないと思って生きてきた。少なくとも、自分はそうであってはならないと。激情にまかせて女へぶつかるな。寝台の中で形を失うな。泣くな。弱さと欲望と怒りを一度に剥き出しにするな。そういうものを抱え込んだまま、人の上に崩れ落ちるような男になるな。


それなのに、昨夜の自分はまさにそれだった。


彼はようやく起き上がった。


部屋はすでに整えられていた。寝具は替えられ、乱れた衣は片づけられ、窓は少し開けられていて、夜の残り香まで押し出されている。何もかもが整いすぎていて、それがかえって彼を追い詰めた。まるで、昨夜のことはもう家のほうで引き受けて片づけたから、お前だけがまだそこに立ち尽くしているのだと言われているようだった。


服を着て部屋を出ると、カイラが卓につき、両肘を張って椀の匂いを疑っていた。今にも毒見役の顔で。腹はもうはっきりと形を持ち、身体つきも以前とは違ってきている。それでも、あの不遜な座り方の中にいるのは、間違いなくカイラだった。


アヤノは火のそばにいて、パンを返していた。必要以上に集中した手つきだった。何かに気を向けていないと、こちらを見すぎてしまうのだろう。


リラは窓の近くに座っていた。


彼は、彼女だけはすぐに見られなかった。


視線が触れた瞬間に、また昨夜へ引き戻されそうで。


もちろん、その不自然さはすぐに気づかれた。


最初に気づいたのは、やはりカイラだった。


「ほら出た」と彼女は言った。椀から顔を上げずに。「死んだみたいな顔で現れれば、まわりが勝手に楽になると思ってるやつ」


彼は何も言えなかった。


アヤノが振り向いた。


不安そうではなかった。


ただ、静かに見ていた。


リラも彼を見ていたが、その視線の質が、いちばん彼には重かった。責めていない。退いてもいない。昨夜のあとで、何か線を引いた顔でもない。


ただ、見ていた。


それがいっそう苦しかった。


「座って」


リラはそう言った。


あまりにも普通の声音で。


彼は、従ったというより、拒む力がなかった。


誰もすぐには話さなかった。


カイラはとりあえず一口飲み、それからものすごく嫌そうな顔をした。


「これで少しでもましにならなかったら、この子は生まれる前から復讐を覚えてる」


普段なら、彼も少しくらい笑えたかもしれない。


今は無理だった。


彼の前にも杯が置かれたが、手だけが落ち着いていて、中身はずっと揺れていた。


「さっさと言えよ」


カイラが言った。


彼は顔を上げた。


「何を」


「今、自分がどうしようもない屑みたいに感じてるってこと。言えば少しは進むだろ。男ってやつは、黙って沈んでれば誰かがうまく扱ってくれると思いすぎなんだよ」


アヤノは、一瞬だけ目を閉じた。呆れと同意のどちらも含んだような顔で。


リラは何も挟まなかった。


待っていた。


彼は、カイラ、アヤノ、そして最後にようやくリラを見た。


「どうやってお前たちの前にいればいいのか分からない」


それが、今言えるいちばん正直な言葉だった。


カイラが椀を置いた。


「“お前たちの前”?」と彼女は言った。「“自分の前”じゃなく?」


彼は苦く笑った。


「それもある」


「そっちのほうが大きいだろ」


何も言えなかった。


アヤノがこちらへ来て、向かいに座った。


「昨夜のあとで、何か別の人間になっていなきゃいけないと思ってる?」


「思ってるというか……あんなふうであってはいけなかったと思ってる」


「どんなふうに?」


アヤノの問いは静かだった。


彼は息を吐いた。


「崩れるように。ああいうふうに、女の前で形を失って。怒りと欲望と、みっともなさをそのまま出して。泣いて。……あんな男であっていいと思えない」


「泣いたことが?」


「それもある」


「形を失ったことが?」


「そうだ」


「醜かったことが?」


彼は、アヤノを見た。


「そうだ」


アヤノは少しだけ首を傾けた。


「なら、問題は“そうだったこと”じゃない」と彼女は言った。「“男はそうであってはいけない”って、ずっと自分に言い聞かせてきたことのほう」


その言葉は、妙に深く入った。


彼はそれに反論できなかった。


カイラが鼻を鳴らした。


「ほんと馬鹿みたい。お前ら男って、殺したり決めたり命張ったり女抱いたりは平然とするくせに、いざ人間としてぐちゃっとなった瞬間に“これは男らしくない”とか言い出すんだよな」


「カイラ」


リラが静かに名前を呼んだ。


「何。言ってることは間違ってないだろ」


間違っていなかった。


そこが、また彼には堪えた。


そしてその時、唐突に、別の痛みが胸の中へ入ってきた。


昨夜のこと。


あの崩れた夜。


あまりにひどいかたちで、自分が全部を剥き出しにした夜。


もしかしたら――本当に、もしかしたらだが――あれが、リラにとって二度目の受胎の夜になったのではないか。


彼にはまだ確信はなかった。


知りようもない。


だが、感覚だけがあった。


あまりにも馬鹿げていると思う一方で、どうしても消えない感覚が。


そして、それは彼を別のかたちで傷つけた。


もしそうだったなら、なぜ、あんな夜なのか。


なぜ、自分のいちばん醜い崩れの中で、そんなことが起きるのか。


それは救いなのか、それともさらに残酷な皮肉なのか。


考えたくないのに、そこから離れられなかった。


リラが、彼の中でまた痛みが動いたことを感じ取ったように、静かに言った。


「逃げないで」


彼はほとんど身をこわばらせた。


その通りだったからだ。


彼はまさに逃げようとしていた。足でではない。もっと賢そうな顔をして。政治へ。国家へ。他人の問題へ。


実際、そのあと彼はエドランのもとへ行き、ヴェイルのところにも寄った。体裁だけなら、十分な理由はあった。ラヴァルンの新しい指導者。権力の組み替え。ホウセイの反応。山脈沿いの圧。魔法の変質の痕跡。話題はいくらでもある。


エドランは、三つ目の答えくらいで顔をしかめた。


「お前、今日は眠ってないか、眠っても何の意味もなかった顔をしてるな」


「後者だ」


エドランは少し見た。


「家か」


彼は黙っていた。


それで十分だった。


「なら、ここで時間を潰しても無駄だ」とエドランは言った。「解くなら家で解け。私を避難先に使うな」


ヴェイルはもっと露骨だった。


「お前は今、国家の話を使って、自分の顔を見るのを避けている」


「今日は特にありがたいな」


「そうか。役に立っているなら何よりだ」


だが、どちらの部屋にいても救いにはならなかった。


今回ばかりは、政治は避難所になってくれなかった。ラヴァルンの構造を論じ、ホウセイの出方を考え、権力の節を読み、変質した魔法の線を追っても、内側には同じものが残ったままだった。


家。


リラ。


カイラ。


アヤノ。


昨夜。


自分の崩れ。


そして、そのあとでなお、自分が裁かれていないという事実。


夕方近くに戻ると、家の中はやはり生きていた。カイラがサレットに何かを噛みつくように言っていて、サレットはそれを年寄りの余裕で受け流している。アヤノは窓辺で紙を見ている。リラは卓のそばで布をたたんでいる。何も変わっていないように見える。


その“変わっていなさ”のほうが、むしろ恐ろしかった。


彼は一度、本気でそのまま引き返したくなった。


だが、朝のリラの声が残っていた。


逃げないで。


彼は入った。


カイラが真っ先に気づいた。


「お帰り、政治家様」


「カイラ」


アヤノが、ただ名前だけを呼ぶ。


咎めるのでもなく、止めるのでもなく、「そのくらいにしておけ」という呼び方だった。


カイラは肩をすくめた。


「何。助けてやってるだけだろ」


「ずいぶんありがたい」


彼が言うと、ようやく少しだけ、空気が動いた。


リラが自分から彼のところへ来た。


彼が言葉を整えるのを待たずに。


彼の前で止まり、腕に手を置いた。


「もうやめて」


「何を」


「私たちが、そのうち急に別の目で見るようになるって待つの」


彼は、動けなかった。


図星だった。


彼はずっと、彼女たちの中に“変化”が起きるのを待っていたのだ。昨夜のあとで、当然そうなるべきだと思いながら。


「そんなこと、起きない」


リラはそう言った。


その一方で、カイラも口を挟んだ。


「お前さ、まだ思ってんだろ。今そのうち誰かが“やっぱ無理”って顔を始めるとか。あるいは急にお前を道徳的に精査し始めるとか」


彼は苦く笑った。


「そのほうが楽かもしれない」


「誰にとって?」


アヤノがそう訊いた。


彼は答えられなかった。


答えがないのではない。


答えが嫌だったからだ。


それは彼女たちのためではない。彼自身のためだ。誰かに拒まれれば、その拒絶の中で生きていける。償いの形も、距離の置き方も、全部わかりやすくなる。だが今、彼に突きつけられているのはもっと難しいことだった。最も醜い自分を見られたうえで、なお拒まれていない。そこに留まることを許されている。その事実を、自分のほうが受け止めきれていない。


アヤノが立ち上がった。


彼の近くまで来て、まっすぐ見た。


「聞いて」と彼女は言った。「あなたはずっと、自分なりの“ちゃんとした男”でいようとしてきた。崩れすぎないように。弱すぎないように。汚すぎないように。必要以上に欲しがるように見えないように。そういうふうに、自分をずっと整えてきた」


彼は、何も言えなかった。


「でも私たちは、そういう像と一緒に生きてるんじゃない。あなたと生きてる」


その言葉の意味は、三人それぞれ違う形で彼へ届いた。


リラは、深さとして彼を受け入れていた。


カイラは、荒くて生々しいままの現実として彼を受け入れていた。


アヤノは、誤魔化さない理解として彼を受け入れていた。


「良い男に見せなくていい」とリラが言った。


「あなたでいればいい」とアヤノが続けた。


「毎回それで世界の終わりみたいな顔すんなって話だよ」とカイラが言った。


彼はそこで、ようやく少しだけ、息を抜くように笑った。


ほんのわずかだったが、それでも確かな亀裂だった。朝からずっと自分を閉じ込めていた、あの硬くて恥ずかしい殻に、初めて入ったひびだった。


リラが一歩近づき、彼を抱き締めた。


子供を宥めるような抱き方ではない。


罪人を赦すような抱き方でもない。


長く生きてきた女が、自分の男を抱く。そのままの抱き方だった。便利な姿だけを愛しているのではなく、不恰好な形まで含めて、もう知っている者の抱き方だった。


アヤノは彼の肩に手を置いた。


カイラは前腕に触れた。


その時、彼は二つのことを同時に強く感じた。


ひとつは、やはり昨夜が、リラにとって二度目の受胎の夜だったのではないかという感覚が、まだ消えていないこと。確信ではない。けれど、どうしても消えない内側の予感。


もうひとつは、もしそれが本当なら、もし命というものが、彼の最も醜く、最も恥ずかしい崩れのただ中を通って来るのだとしたら、世界は彼が長く信じてきたものとは、まるで違う仕方でできているのかもしれない、ということだった。


つまり、愛されるために、先に正しくならなくていい。


受け入れられるために、先にきれいにならなくていい。


家にいるために、先にどこかの理想の男へ一致しなくていい。


その考えが、彼をただちに軽くしたわけではない。


だが、深く入った。


残った。


その夜の家は、そのあとまた普通に動き始めた。カイラは五分もしないうちに、「この草の汁をもう一口でも飲まされたら、この子は生まれる前から治療という概念を嫌悪する」と宣言した。別室からサレットが「もともと役に立つものを嫌う気質は、親の代から十分に継いでいる」と返した。アヤノはまた紙のところへ戻った。リラはしばらく彼のそばにいた。


家は、ちゃんと生きていた。


何かを隠したあとではなく。


真実が一度通り抜けたあとで。だからこそ、その夜の空気は前より重く、それでも前より澄んでいた。


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