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第四十二章

彼の内側の段取りは、気づかぬうちに変わっていた。


以前は、女たちの周期を頭の片隅で数えていた。安全な日を探すためだった。こちらの世界には、彼が元いた場所のような避妊の手段はない。だからこそ、なおさら癖のように数えていた。まだ育てる覚悟のない命を増やしたくない。それは前の世界で身についた、ごく当たり前の責任感だった。作ってしまったのに引き受けられない、ということだけはしたくなかった。その感覚が深く染みついていて、この世界に来てからも、身体のどこかが勝手に同じ計算を続けていた。


今は、その向きが逆になり始めていた。


以前は「外せる日」を探していたのに、今はむしろ、誰の身体がどの時期に近いのかを考えるようになっていた。自分でも、その変化を認めるのは少し居心地が悪かった。子を望むこと自体が嫌なのではない。ただ、そういう計算を自分がする側に回っているという事実が、思っていたよりずっと深く自分を変えているのを見せつけてきたからだ。


もちろん、これまで通り数えることもできる。今度は「安全な日」ではなく、逆に、可能性が高い日を。気分や体調や、女たち自身の身体の小さな変化をつないで、おおよその見当をつけることはできるだろう。だが、別のやり方もあった。少し贅沢で、少し怠惰で、けれど今の彼には妙に魅力的なやり方だ。つまり、そこから一度、意識的な計算を引いてしまうことだ。避けもせず、無理に狙いもせず、ただ偶然ではなく「起こりうること」として受け入れる。明確な意志を消すのではない。ただ、あまり露骨な管理から外してしまうのだ。身体と生活に、ある程度は自分たちで選ばせる。


それは、完全に穏やかな考えではなかった。


その中には、やはり責任があった。


だが、もう以前のような恐れ方ではなくなっていた。


そのころラヴァルンのほうでも、事態は少しずつ変わっていた。あちらから届く報せは依然として乱れていたが、全体の流れだけは見えた。どうやらラヴァルンは、本腰を入れて山から下ってくる獣や魔物の件を調べ始めたらしい。原因そのものに辿り着いたのか、それとも見える症状を手際よく叩いているだけなのかは分からない。彼には後者に思えた。だが、結果としてそれは十分だった。山からの襲撃は目に見えて減った。完全には止まっていない。そんな都合のいい話ではない。だが、減り方があまりに急だったことで、向こうで誰かがただ混乱を受け流すのではなく、きちんと手を打ち始めたことだけは分かった。


そのことは、彼の呼吸を少しだけ軽くした。


脅威が消えたからではない。


世界が、ようやく一瞬だけでも、連続した崩落をやめたように感じられたからだ。


そのせいか、彼自身も家の中では少しずつ変わっていった。


以前より、衝動に寄るようになった。


前はもっと見ていた。リラが今どんな状態か、カイラが何を欲しているか、アヤノがどこまで疲れているか、まず言葉がいるのか、手がいるのか、それともただ隣に座るだけでいいのか。そういうことを細かく拾ってから動くことが多かった。今もそれが消えたわけではない。だが、その上に別のものが立ち始めた。ただ見て、欲しくなる。少し長く目を留めた、その瞬間に、もう答えが出ている。そういう直線が、以前よりはっきり身体の内側を走るようになっていた。


それは時に心地よかった。


同時に、少し気味が悪くもあった。


そこに、どこかエドランに似たものを感じる時があったからだ。乱暴さではない。欲した時に、その欲望をいちいち内側で裁きすぎないところだ。彼は、自分がそういう男になりたかったわけではない。自分の欲望だけで他人を動かすことを、当然のように扱う人間にはなりたくなかった。


けれど、家の中では事情が違った。


それは他人への侵入ではなかった。積み重ねてきた близость の延長にある、新しい言葉のようなものだった。欲望そのものが、そこで通じるやり取りの一つになりつつあった。


アヤノとの夕方のバルコニーでの会話は、いつのまにか習慣になっていた。


儀式ではない。習慣だった。毎回同じ型をなぞるのではなく、そこへ出れば、自然に言葉が出る。そういう場所だった。食後か、あるいはもっと遅く、家の中が静まってから、二人はよくそこへ出た。ラヴァルンのこと、ホウセイのこと、子のこと、この国の古い仕組みのこと。城の中では話しづらいことも、外気に触れながらだと妙に口にしやすかった。


その夜、月はよく出ていた。


白く強いというより、薄く冷えた光だった。物の輪郭を消さず、ただ少しだけ鋭くするような光だ。バルコニーは中庭の上へ張り出していて、手すりの下には暗い空間が広がっていた。見ようと思えば下から見える場所ではある。だが、夜の深さと距離が、身体の細部を影へ沈めてくれる。開かれているのに隠れている。その中途半端さが、妙に神経を高ぶらせた。


二人はラヴァルンの話をしていた。山からの襲撃が減ったからといって安心はできないこと。賢い統治者は愚かな者より扱いづらいこと。表に出ている改善が、必ずしも根本に届いているとは限らないこと。アヤノは手すりに軽く両手を置き、少しだけ身体を預けるようにして話していた。髪はいつもより少しだけゆるく、首筋に数本の乱れた束がかかっていた。月の光がその頬と首に落ち、白くもなく、ただ静かに形だけを際立たせていた。


彼は、いつから話を聞かなくなったのか、自分でも分からなかった。


ただ見た。


少し長く見た。


それだけで、欲望はもう十分だった。


「アヤノ」


彼が名前を呼ぶと、彼女は肩越しに振り返った。


「何?」


彼はそのまま近づいた。


会話の続きにはならない距離まで。


その瞬間に、彼女の目の奥がわずかに変わった。何をするかまでは分からなくても、今、言葉の流れが切れたことだけは彼女も知った。


彼は許可を求めるような言い方はしなかった。ただ後ろから首筋へ手を置き、そのまま背へ、腰へと滑らせた。もう片方の手は横腹から腹へ回り、しばらくその温度を掌で測るように留まった。アヤノは、ごく浅く息を呑んだ。


「ここで?」と彼女は訊いた。だが、身体は離れていなかった。


「そうだ」


その答えに、彼女は言葉を足さなかった。


彼は彼女の身体をそのまま手すりへ向けた。乱暴ではないが、躊躇いもない動きだった。腿へ手を入れ、衣をたくし上げると、アヤノはすぐに意味を理解し、自分から両手を石の上に置いて前へ体重を移した。月光が頬、首、露わになった脚の線をなぞった。下には夜の中庭、遠くの見張りの気配。届くか届かないか分からない視線の可能性が、むしろ現実味の薄い熱となって背筋を撫でた。


「足を広げろ」


彼が低く言うと、アヤノはすぐ従った。


その迷いのなさが、彼をひどく強く打った。壊された服従ではなく、今この場で彼を信じて預けるという、大人の意志としての従い方だった。


彼は手を衣の下へ差し入れ、腿の内側をゆっくりなぞりながら、その奥の熱へ辿り着いた。すでに反応は早かった。指先が触れただけで、アヤノの背がわずかに反り、指が石の縁を強く掴んだ。


「今日は、ずいぶん真っ直ぐね」


声は抑えられていたが、もう普段の乾いた調子ではなかった。


「そうだ」


彼も隠さなかった。今夜は欲しいと思った。見て、欲しくなって、だからそうする。ただそれだけだった。


彼の指は、ためらいなく、しかし急がずに彼女を開いていった。何度も知った身体だ。どこに触れれば、どの順に熱が上がるかも知っている。だが今夜のアヤノは、部屋の中とは違っていた。外気の冷たさ、月の光、下に広がる暗い空間、そして開かれた場所であること。その全部が、彼女の反応をいつもより鋭くしていた。彼が指を深く入れるたびに、アヤノの呼吸は短く乱れ、身体はわずかに後ろへ押し返してきた。


「静かにしろ」と彼は言った。自分の声もすでに平静ではなかった。


「これでも……かなり静かにしてる」


その返しに混じる掠れが、ひどく生々しかった。


彼は指を止めず、むしろ深くした。外側の反応だけではなく、内側までしっかりと熱が満ちるように。アヤノの脚は次第に力を失い、だが膝は閉じなかった。逆に、もっと開いて彼を迎えるようになっていく。首筋の線が震え、肩が上下し、時折噛み殺しきれない小さな声が漏れた。彼はその全部を見ていた。月光の下で、普段なら隠している部分まで露わになっていくアヤノを。


十分に熱が上がったと感じたところで、彼はようやく手を離し、自分の衣をほどいた。片手で彼女の腰を押さえ、もう片手で腿を支え、位置を整える。そのまま奥へ入った。


アヤノの身体が、ひと息のうちにきつく受け止める。彼女は声を上げかけ、すぐに唇を噛んで押し殺した。石の冷たさの上に預けた腕、夜気、月光、その中で彼が後ろから貫く感覚は、閉じられた部屋の中とはまるで違った。彼自身にとってもそうだった。開けた場所でありながら隠されている、その矛盾が、動くたびに欲望をさらに煽った。


最初は深く、ゆっくりとした。彼女にこの場所での感覚を飲み込ませるためでもあり、自分がいま本当にここで彼女を抱いているという事実を確かめるためでもあった。だが、それは長くは続かなかった。アヤノの身体があまりにも正直に答えるからだ。彼女は手すりを掴んだまま、少しずつ自分から後ろへ腰を押し返し始めた。押さえつけられているのではない。受けながら、自分でも欲していることを隠さなくなっていた。


「前を向け」


彼が耳元近くで言うと、彼女はさらに前へ視線を向けた。


その命令めいた言葉に、彼は一瞬だけ、エドランの影を自分に見た。欲したら取るという、あの男の硬い権力の匂いを。だが、その考えは次の動きで消えた。これは чужая 支配ではない。彼女が知って、選んで、今ここで受け入れていることだった。


彼はさらに深く入り、リズムを強めた。片手は彼女の腰を、もう片方は腿を支え、逃がさないように、だが壊さないように。アヤノはアヤノのままだった。リラのように溶けるわけでも、カイラのように噛みつくわけでもない。だが、そのかわり、彼女は身体の芯から正確に返した。どこで深く入るか、どこで強く受けるか、そのたびに彼女の中ははっきり応じた。もはや会話の続きでも、情緒の延長でもなかった。夜と身体だけの、露骨なやり取りだった。


やがてアヤノの呼吸は完全に崩れた。手すりを握る指先が震え、首が少し後ろへ仰ぎ、月の光がその喉と頬を白く浮かび上がらせる。彼がさらに速く、深く打ち込むたびに、彼女は抑えきれない声を短く漏らした。掠れて、熱く、あまりに直接的な音だった。


それでも、彼女は耐えているのではなかった。欲しがっていた。そこが彼をさらに煽った。


彼女が達した時、それは激しくはないのに深かった。身体の奥が一気に締まり、手すりに預けていた腕が崩れかけ、頭が下がる。声は大きくなかったが、そのひとつの震えが、彼の内側まで強く撫でていった。彼はそれに引きずられるように、最後の数度をほとんど制御なしに打ち込み、そのまま彼女を支えながら果てた。


しばらく、二人ともそのまま動かなかった。


夜の音が戻ってくる。遠くの足音。風が城壁に沿って流れる気配。どこかで小さく金属が鳴る音。


彼はゆっくりと彼女から離れたが、すぐには手を放さなかった。アヤノもまた、しばらく石の上に手を置いたまま、荒れた呼吸を整えていた。


やがて少しだけ顔を横へ向けて、彼女は言った。


「今の、すごくあなたらしかった」


彼は口元だけで笑った。


「文句か?」


「ううん」


アヤノはようやく身体を起こし、衣を直しながら肩越しに彼を見た。


「前のあなたは、もっと長く、自分の中の検閲を装ってた」


彼はその背に手を滑らせ、乱れた呼吸の熱が少し落ちるのを感じた。


「今は?」


彼女はすぐには答えず、衣を整え終えてから、低く言った。


「今は、見て、欲しくなって、取った。それだけ。で……たぶん、私、それを思った以上に好きだった」


彼は何も返さなかった。


まだ手の中に、彼女の腰の感触が残っていた。耳には、さっきまで堪えきれずに漏れていた声が残っていた。頭の中には、月光の下で手すりに折れたアヤノの姿が、妙に鮮やかに残っていた。欲望は、時々、理由を必要としない。ただ生きているというだけで、十分すぎるほど強い。


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