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第三十八章

報せは、ほとんど同時に届いた。


最初は、ラヴァルンへ送っていた使者たちから。


そのあとに、ホウセイ側へ潜らせていた者たちから。あちらから来る文は、いつも少し遅く、そしてたいてい、紙の匂いよりも他人の警戒心の匂いがした。


どちらも夕方に届いた。外の光が石壁に灰色の帯を落とし、家の中でようやく灯りが入り始める頃だった。彼は最初、それをまたいつもの組み合わせだと思った。ひとつは国境、ひとつは храмовники、ひとつは誰かの騒がしい野心。そういう類の報せだと。だが、エドランが珍しく間を置かずに呼び出した時点で、すでに分かっていた。今回はもっと大きい。


小さな執務室は、ほとんど薄暗かった。卓の上に二つの灯りがあり、そのせいで皆の顔の線はいつもより硬く見えた。エドランは窓際に立ち、ヴェイルはすでに開封された一通を手にして座っていた。卓の上には地図が広がっていた。前山地だけではない。山脈全体、その稀な峠道まで、分かる限りの線が引かれていた。


「悪い話から始めるか、それとももっと悪い話から始めるか」


エドランは振り向かずに言った。


彼は答えた。


「正確な話からだ」


エドランは鼻で笑った。


「正確なものがいちばん少ないがな」


ヴェイルが最初の紙を上げた。


「使者は到達しています」と彼は言った。「全員ではありませんが、充分な数は」


彼はその文を受け取った。


筆跡は乱れていた。読み書きのできない人間の文字ではない。急いで、しかも落ち着かない場所で書いた人間の文字だった。冒頭はまだ報告の形をしていた。峠の一部は通れる。道は例年よりは埋もれていない。国境沿いに新しい往来は少ない。


その先で、文の調子が変わった。


ラヴァルンは、もう以前のラヴァルンではなかった。


ヴァルガルドの側では長らく、「向こうには妙に寛いだ共和国がある」程度の認識で済まされてきた国だ。獣人が人間と同じ卓につき、半端な血の者も、変わった魔法の徴を持つ者も、別に珍しくはない。商人が魔術師と口論し、評議会がうるさく回り、外から来た人間は一年いても、誰が本当に国を動かしているのか分からない。そんな国。


その共和国が、なくなっていた。


名目の上では、まだ残っている。


評議会の名も、古い役職も、何かしらの手続きも、印章も、協議の形も。


だが、中身はもう違う。


権力は軍に集められていた。ひとりの独裁者が冠をかぶったのではない。もっとたちが悪い。複数の軍司令たちが「一時的な非常権限」を握り、そのまま返さなくなったのだ。共和国の顔は残っている。中では、もう軍事独裁が動いている。


それだけでも充分に嫌な話だった。


だが、さらに嫌なのはそこではなかった。


ラヴァルンは、もともと異質なものに寛いだ国だった。


優しいという意味ではない。


耐えて共存することに慣れていたという意味だ。


獣人、混血、人と少し違う魔法の徴を持つ者、山の斜面に住む小さな民。別の国なら、低い身分へ押し込められるか、秩序の外へ追いやられるか、そういう者たちが、ラヴァルンでは面倒がられながらも生きていた。商いをし、争い、役職につき、評議の席にも入る。嫌われることはあっても、ただそれだけで焼き払われる対象ではなかった。


今は違う。


文の中にはまだ「迫害」という単語こそなかった。だが全体の織り目で分かる。軍に権力が集中したことで、この国の“寛さ”は急速に変質していた。新しい支配は、思想の純粋さや宗教的な清めからではなく、もっと俗悪な尺度で人を見始めていた。


有用か、そうでないか。


それだけだ。


そして、人を有用性だけで見るようになった国で、寛さが長く生き残ることはない。


「続きだ」


エドランが言った。


彼は読み進めた。


そして、その先からが本当に悪かった。


ラヴァルンでは、魔法の根そのものが変わっていた。


新しい技が見つかった、という話ではない。


強い儀式が生まれた、という話でもない。


もっと深い。


彼らが力を力として感じる、その感覚の土台自体がずれていた。


文にはそれがうまく書かれていなかった。書いているほうも、きちんと理解できていないのだろう。だが、それでも異様な一貫性があった。魔術師たちは言っている。流れの“聞こえ方”が変わった、と。今まで難しかったことが、急に近くなった。逆に、以前は自然だったものが、手の中で崩れる。近距離では不可能に近かった精密さが、突然できるようになる者がいる。だがその代わり、全体の構成は安定しない。大きな術式を保てない。属性の境が曖昧になる。意志と発動のあいだの距離感そのものが、狂っている。


彼は読み進めて、ある一行で止まった。


どうやら、現地の魔術師が口にした言葉を、そのまま書き留めたらしい。


**「力が近すぎる。だが同時に、遠すぎる」**


彼は顔を上げた。


「どういう意味だ」


ヴェイルが先に答えた。


「今のところは、本人たちも古い言葉で説明できていない、という意味です」


エドランがそこで窓際を離れた。


「魔術師が自分たちの魔法を説明できなくなった時、それはたいてい隣国にとってもよくない」


彼は文を卓へ戻した。


「何が変えた」


ヴェイルは小さく肩をすくめた。


「分かっていれば、これは報告ではなく幸運です。今あるのは結果だけです。魔法運用の混乱。山脈側への魔物の流出。軍権の集中。そして、噂です」


「どんな噂だ」


ヴェイルは次の紙を取った。


「ひとつは、深い山中で古く危うい何かを掘り当てたという話です。別の筋では、複数の魔法系統をひとつの軍用体系へ統合しようとして、基盤そのものを歪めたとも。ほかに、大規模な境界防衛儀式が失敗し、力の扱い方そのものをずらしたという話もあります」


エドランは短く言った。


「つまり、何も分からんということだ」


「少なくとも、それが外へ漏れ始めていることは分かります」とヴェイルは答えた。


彼は黙ったまま、あの一行を見ていた。


力が近すぎる。だが同時に、遠すぎる。


その言葉が腹立たしかったのは、それが妙に正確な気配を持っていたからだ。頭ではまだ理解しきれない。だが感覚としては分かる。そういうずれ方はありえる。世界が魔術師の指先へ近づく。だが同時に、意志からは遠のく。触れやすくなり、従いにくくなる。力と、それを形へ結ぶ距離の安定が壊れる。そんなふうに。


「ホウセイは?」


彼が訊いた。


エドランが別の巻紙を顎で示した。


「ここから先は、少し笑える」


もちろん、笑えるような話ではなかった。


ホウセイからの情報は、いつもの線で来ていた。 храм の内側の者、商人、昔の私的な縁、ひとつのことを言いながら別のことを聞き、三つ目のことを書く連中。その情報が示していたのは、ホウセイもすでにラヴァルンの異変を知っているということだった。


全部ではない。


だが、十分なところまでは。


そして、その知り方がまたいやらしかった。ホウセイは、ラヴァルンの混乱そのものよりも、「魔法の基盤が変わりうる」という事実に神経を尖らせていた。


ミライとセイゲンは、表向きには落ち着きを保っているらしい。 храм は騒がない。まず理解しようとしている。


だがその水面下で、別の動きが走っていた。


ホウセイは、魔法の根が不変ではないかもしれない、という思想そのものを恐れていた。


それは当然だった。あの国の秩序のかなりの部分は、世界の構造が神聖に安定している、という感覚の上に乗っている。もし今日ラヴァルンで変質が起きるなら、明日は何だ。


もし魔法が単なる技術ではなく、世界と人間のあいだのほとんど宇宙的な取り決めであり、その取り決めそのものが動くなら、聖性は何を拠り所にするのか。


だからこそ、ホウセイの目は今この件に食らいついているのだろう。好奇心ではない。まだ声になっていない恐怖のために。


「向こうは、外交線より先に自分たちの閉じた線で探ろうとしています」


ヴェイルが言った。


「そして、もしラヴァルンがこの変質を先に使いこなしたら、山脈の向こうの均衡は、誰も理解しきる前に崩れると見ています」


エドランは卓へ近づいた。


「素晴らしい。つまり我々は、自分たちの問題を抱えたまま、ホウセイが『遅れるな』というだけで倍の速さで動き始めるのを横で見ることになる」


彼は指で山脈の線を叩いた。


「しかも、まともな関係すらない相手を挟んでだ」


彼は言った。


「関係があっても、楽にはならなかっただろう」


「少なくとも公式に嘘をつける相手くらいはいただろう」


エドランがそう返し、ヴェイルでさえ少し笑った。


そこから先の話は、さらに重くなった。前山地の部隊を厚くするか。厚くしすぎて、こちらの不安を見せる形にするのは得か損か。もっと大きい遠征を用意するか。追加の使者を送るか。それとも、最初の者たちからの返答を待つか。ホウセイと情報を共有するか。それとも、あちらの焦りを利用して先に掘らせるか。


彼もその話に入った。答え、反論し、指摘し、必要な線を引いた。だが内側では、ずっとあの一文が回り続けていた。


力が近すぎる。だが同時に、遠すぎる。


その言葉は、何かに似ていた。


事実としてではない。


感覚として。


リラが喪失のあとで持つようになったものにも。


ここしばらく、自分が自分の正しさに対して抱いている違和にも。


世界が見た目はそのままに、半歩ずれただけで、急に以前と違うものになる、その感じにも。


外に出れば、もう夜だった。


家へ戻ると、そこにはあの、外の崩れた話とはあまりにも対照的な、暖かい密度があった。カイラは卓の上に座り、脚を組んだまま、皿も使わずに何かを手で食べていた。行儀も何もない。アヤノは窓辺で本を開いていた。読んでいるのか、ふりなのかまでは、もう判別しようともしなかった。リラは少し離れたところにいて、膝を抱くようにして、厚い布にくるまっていた。部屋には、人が生きている熱があった。


「それで?」


真っ先に訊いたのは、もちろんカイラだった。


「世界はまた新しいやり方で嫌なものになってた?」


「そうだ」


彼が答えると、カイラは頷いた。


「結構。いつも通りね」


彼は中へ入り、外套を外し、書状を卓へ置いた。


それから、隠さずに話した。


ラヴァルンのことを。


かつては共和国だった国が、今は軍事独裁の中身を持ちながら古い顔を貼りつけていることを。


混乱のことを。


魔法の変質のことを。


ホウセイの нервозность のことを。


獣人や、ほかの「少し違う」者たちが、 полезность だけで測られる秩序では真っ先に窒息するだろうということを。


リラは、静かに聞いていた。


カイラは、節目ごとに小さく鼻を鳴らした。


「へえ。共和国ね」と彼女は言った。「外から見てると、ずいぶんまともそうに見えてたのに」


アヤノが、本から目を離さずに言った。


「見た目がまともなものほど、中から壊れる時は静かだよ」


カイラがそちらを見る。


「それ、今ラヴァルンの話? それとも世の中全部?」


アヤノは頁をめくった。


「どっちも」


彼は卓へ歩き、地図を広げ、山脈の灰色の線を指でなぞった。


「これが止まらなければ、山からの圧はもっと強くなる」


リラが顔を上げた。


「もし止まったら?」


「何で止まるか、が次の問題になる」と彼は答えた。「魔法の根がずれた国が、しかも軍に握られている。元に戻るとしても、痕が残らないほうがおかしい」


リラは地図を、ただの紙としてではなく見ていた。


そこにまだ到達していない чужい痛みを見る人間の目で。


「もともと、あそこは寛かったんだよね」と彼女は言った。


「そうだ」


「なら、いちばん先に苦しくなるのは、弱い人じゃない。違う人たちだよね」


彼は彼女を見た。


そこを、彼女はすぐにつかんだ。


軍でもない。


統治の形式でもない。


もっと根のところを。


秩序が壊れ、新しい硬さを急ぐ時、最初に追いやられるのは単に弱い者ではない。単純な схемы に入らない者だ。


「たぶん、そうなる」と彼は言った。


カイラが小さく舌打ちした。


「さすが世界。ただ嫌なだけじゃ足りなくて、ちゃんと選り分けまでしてくるわけだ」


そこでアヤノが本を閉じた。


「もし本当に魔法の根が動いてるなら」と彼女は言った。「ラヴァルンは、国として残ったとしても、もう前のラヴァルンじゃない」


「そうだ」


その一言のあと、部屋にはあの種類の沈黙が落ちた。言葉がないからではなく、皆が同じことを思っていて、それがまだ十分にはほどけていない時の沈黙だ。


ラヴァルンは遠い。


ほとんど чужой 国だった。


山脈で隔てられ、政治で隔てられ、長年の無関心で隔てられていた。


そして同時に、もう近すぎる。


魔物はそこから来ている。


ホウセイの нервозность もそこから始まっている。


誰かの国で魔法の根が動けば、それは決して誰か一人の問題では終わらない。


彼は卓の端に指をかけたまま、ひどくはっきり感じていた。世界はまた、あのやり方を始めている。距離を保っていたい時に急に近づき、理解しなければならない時に限って、遠くなる。


近すぎる。


そして同時に、遠すぎる。


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