第三十五章
リラの戻りは、遅かった。
あの分かりやすい意味での回復ではない。日ごとに少しずつ楽になっていく、その小さな足し算へ皆がしがみつけるような、ああいう戻り方ではなかった。もっと不揃いで、妙に途切れ途切れで、時にはほとんど進んでいないように見え、時には逆に、その変化の鋭さのほうが不安になるような戻り方だった。
身体そのものは、たしかにやるべきことをやっていた。
力は少しずつ戻る。
顔色も戻る。
最初の頃のように、部屋の中を数歩動いただけで消耗しきることは、もうなくなっていた。サレットがいつもの乾いた声で「まだ横になっていなさい」と言うより少し早く、自分で起きてくる日もあった。
だが、問題はもうずっと前から身体だけの話ではなくなっていた。
そこが、いちばん悪かった。
彼には、どう近づけばいいのか分からなかった。
昔のリラとして扱うべきなのか。喪失の前の、前山地へ行く前の、あのやわらかく深いリラとして。だが、そうすると、今の彼女の中にすでに生まれてしまったものを見ないふりをしている気がした。彼女が「戻る」のを待っているようで、それはどこか間違っている気がした。
では逆に、今の彼女をそのまま受け入れるべきなのか。もう以前には戻らないものとして。だが、それはそれで、昔の彼女への裏切りのように響いた。あの静かな女らしさ。あの深い柔らかさ。あの生きた温度。それらは、もしかすると消えたのではなく、ただ痛みのもっと深いところへ沈んでいるだけかもしれないのに。
彼には分からなかった。
しかも、分からないのは彼だけではなかった。
家の中のずれは、すぐには表に出なかった。最初のうちは、まだ疲れのせいにできた。山から戻ったあとの、喪失のあとに当然あるべき気づまりや、慎重さのせいにできた。
だが、少しずつ分かってきた。
これは一時的な気づまりではない。
本当に、家の中の感覚そのものがずれてしまっているのだと。
カイラには、リラをどう見ればいいのか分からなくなっていた。
そこが、いちばん意外だった。どんなことにも、乱暴でも正直な態度を持てるカイラが、今は時々、リラのそばでふいに黙る。何か言いかけて、やめる。声の置き方そのものが分からなくなる。女として怖れているのではない。もっと別のものだ。
リラの中に、何かあまりにも大きく、あまりにも古く、あまりにも人間の感情の尺度に収まらないものがあると感じているのだ。まるで、そこにいるのがもうただのリラではなく、自然そのものの一相であるかのように。人はそれに向かって親しげに手を伸ばすより先に、まず少し身を引いてしまう。
ある夜、彼はそれをはっきり見た。カイラがいつもの調子で何かを言いかけた。たぶん食べ物か、リラがまた窓辺に立ちすぎていることについてか。そのままなら乾いた一言で終わるはずだった。だが、カイラは途中で言葉を切った。リラを一瞬だけ長く見て、それからそのまま台所のほうへ行ってしまった。何もひっくり返さず、何にも毒づかずに。
アヤノは、別の意味で難しかった。
彼女は、起きていることの質をよく分かりすぎていた。
そのせいで、リラを見る目がほとんど修道女めいて慎重になった。怖れているのではない。だが、そこにはひどく静かな畏れがある。人がただ傷ついているのではなく、傷のあとで別の在り方に入ってしまった時にだけ生まれる種類の畏れだ。アヤノは、おそらく三人の中でいちばんよく分かっていた。今のリラが、取り乱しているのでも、壊れているのでも、復讐に酔っているのでもないことを。もっと深く、もっと元素的なところで形が変わってしまったのだということを。
そして、そういうものに、いつもの人間らしいやさしさだけを持って近づいても、きっと足りないのだということを。
リラ自身は、何もおかしなことをしていなかった。
癇癪を起こすわけでもない。
不気味なことを言うわけでもない。
死の顔をして家の中を歩くわけでもない。
むしろ、静かだった。
それが余計に悪かった。
彼女は чашку を持ち、布に触れ、カイラの悪態を聞き、外から見れば普通に座っている。だが、ふと顔を上げると、その瞬間だけ部屋の空気が少し変わる。そこにいるのは以前と同じ女なのに、同時にそうではない。何かが彼女の中で、あまりに根源的に、あまりに強くなりすぎて、人間の普通の受け取り方そのものが追いついていない。
しかも、その力は「怒り」ではなかった。
そこが、いちばん怖かった。
もし怒りだけなら、まだ扱いやすかった。怒りなら、時間で薄れることもある。受け止めることも、分け合うこともできる。だがリラの中にあるのは怒りではない。もっと深い、「世界が一度そうだったという事実を、もう一度当たり前として見たくない」という拒絶に近いものだった。
そしてその感覚は、あまりにも深いせいで、普通の人間の感情というものをすべて少し薄く見せてしまう。
サレットも、それを見ていた。
そしていつものように、それをもっとも短く、もっとも不快な言葉で言った。
「みんな、あの子がまた自分たちにとって扱いやすい形へ戻るのを待ってる」
その日、診たあとで彼が少し残っていると、サレットはそう言った。
彼はすぐに強く返していた。
「扱いやすさなんて求めてない」
サレットは彼を見た。声の強さなど最初から興味がない顔で。
「いいえ」と彼女は言った。「便利さじゃない。でも、前と同じように愛せる形を待ってる」
その言葉は、予想していたより深く入った。
そうなのだ。
彼は「扱いやすい女」など求めていなかった。求めていたのは、見慣れた輪郭だった。どう立ち、どう触れ、どう欲し、どう近づけばいいかが、また分かる状態。だが今、その輪郭はひび割れている。そして分かった。前の、やわらかく穏やかな近さだけでは、もう十分な鍵にならないのだと。
偽りになったからではない。
足りなくなったのだ。
エドランにとっても、リラの変化は大きな意味を持った。
大きすぎるほどに。
彼はそれを、まず人間の悲劇としては見なかった。少なくとも最初には。彼にとって、それは新しい力の要素だった。つまり、新しい影響力の可能性でもある。報告を受け、兵や魔術師がリラをどう見るかを知るほどに、彼の中では嫉妬ではなく、統治する者としての警戒が強くなっていった。
その話は、小さな執務室で出た。余計な耳に入れたくない話だけを持ち込む部屋だ。夜は冷えていて、窓からは石の寒さが滲んでくる。卓の上には前山地の地図、ヴェイルからの短い書き付け、部隊ごとの報告がいくつか置かれていた。エドランは同じ一行を二度読んでから、紙を置き、彼をまっすぐ見た。
「これは、もう看過できる段階じゃない」
「分かってる」
「いや」とエドランは言った。「お前はまだ、夫として分かっている。私は統治者として言っている」
彼はそこで口を挟まなかった。
エドランは立ち上がり、卓の端まで歩いた。
「強すぎる要素だ」と彼は言った。「人はもう、あの女を“お前の女”としてだけ見ていない。“強い魔術師”としてだけでもない。あれはもう、普通の尺度の外へ出かけている。そういうものは、秩序に組み込まれるか、問題になるかのどちらかだ」
彼は顔を上げた。
「脅しか」
「警告だ」
エドランはそう答えた。
「お前がそれを何とかするか、でなければ私が手を入れる。その結果は、お前にとって好ましいものにはならん」
部屋の空気が、そこで少し詰まった。
恐怖ではない。
エドランが、軽い口でこういうことを言う男ではないと知っているからだ。「手を入れる」が、必ずしも露骨な暴力を意味しないことも分かっていた。隔離かもしれない。近づく人間の選別かもしれない。サレットを常時つけることかもしれない。ヴェイルを通して意味づけし直すことかもしれない。もっと悪ければ、リラを“国家にとって便利な形”へ押し込むことさえありえる。象徴にする。道具にする。特別な存在として棚へ上げる。
何であれ、それは確実に「彼らのもの」ではなくなる。
「分かった」と彼は言った。
エドランは、なお一瞬だけ彼を見ていた。
「そう願う」
そこで話は終わった。
彼が家へ戻る道は、妙に長く感じられた。
エドランそのものが怖かったわけではない。
ただ、もうこの問題は家の内側だけのものではないとはっきりしたからだ。どうやってリラと共に生きるか、どうやって新しい彼女を愛し、古い彼女を裏切らずに済むか、そういう内輪の問題だけではなくなっている。
時間の問題になった。
彼ら自身が形を見つけられなければ、外から形が来る。
そして、その時にはもう、その形は彼らのものではない。
家は、その夜ひどく静かだった。
カイラは火床のそばに膝を抱えて座っていた。炎にさえ悪態をついていないのだから、かなり悪い。アヤノは卓で何かを書いていたが、背中があまりに真っ直ぐすぎて、それが仕事のためではなく、自分の視線をリラから逸らすためだと分かった。リラは窓辺に立ち、指先を窓枠に軽く置いていた。木の冷たさを確かめるみたいに。
彼は戸口で止まり、そのまま彼女を見た。
どう近づけばいいのか、まだ分からない。
以前なら、もう後ろから歩み寄っていただろう。
髪へ触れた。
首筋へ。
肩へ。
それは「動作」ではなく、そのまま生活の続きをなす自然な線だった。
今は、それをすることが、正しい答えになるのか、それともただ古い習慣で新しい深みを覆い隠そうとするだけなのか、彼には分からなかった。
そこで、もうひとつのことがはっきりした。
以前の、やわらかく穏やかな親密さは、もうそれだけでは答えにならない。
彼はまだそれを欲している。
まだそれを愛している。
だが、それだけでは足りない。
リラが別の女になったからではない。
二人とも、大きすぎる喪失のあとに立たされていて、以前の言葉と触れ方ではもう届かない深さができてしまったからだ。
ならば、また探すしかない。
前を捨てるのではない。
だが、前だけで全部を解決しようともしない。
今の彼女――昔からのリラでもあり、子を失った母でもあり、そしてこの静かで恐ろしい力の器でもある彼女――に対して、これからどう触れ、どう欲し、どう近づいていけるのかを、また一から探るしかない。
彼は結局、近づいた。
後ろからではなく。
横から。
熱は感じるが、侵入にはならない、その距離まで。
リラが顔を向けた。
その目には、冷たさもなければ、切り離しもない。助けを求める色もない。ただ、ひどく深い、ひどく疲れた眼差しだけがあった。まだここにいて、まだ生きている。けれど、もう以前いた場所へは戻れない、そのことを自分でも知っている人の目だった。
「エドランが何か言った?」
リラは静かに訊いた。
彼は少し笑った。
「そこまで分かるのか」
「分かるよ」
リラはまた窓のほうを向いた。
「たぶん、あの人はあの人なりに正しいんだと思う」
「だからって、好きにさせるつもりはない」
「うん」
彼はそばに立ったまま、触れなかった。
その触れなさの中に、昔ならありえなかったほどの緊張があった。
以前なら、この先どうすればいいかを、彼はもう知っていた。
今は知らない。
そして、たぶん初めて、その知らなさを、安い自信や慣れた動作でごまかしたくなかった。
火床のそばで、カイラがこちらを見た。
それから、また視線を落とした。
アヤノは、書く手を止めていた。
誰も何も言わなかった。
家そのものが、まだ名を持たない何かの縁に立っているようだった。破局ではない。和解でもない。ただ、新しい形が必要とされている、その手前に。まだ誰も持っていない形を、これから手探りで作っていかなければならない、その手前に。




