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第三十三章

前山地へは、いくつもの部隊が出た。


エドランは、この新しい脅威を一つの名前に背負わせた英雄譚にはしたくなかった。そこは、いかにも彼らしい判断だった。獣や魔物が山脈からいつもより濃く下りてきているなら、大きな決壊を待つのではなく、前山地を面で削るべきだ。早く、強く、広く。すでに出てきているものは片づける。そのうえで、問題がどこまで深いのかを見る。ただの厄介な季節なのか、それともラヴァルンの側で、本当に何かがこの生き物とも呼びたくないものどもを押し下げているのか。


そのうちの一隊に、彼は入った。


そして、自分の女たち全員を連れていった。


宮廷の目から見れば、かなり露骨で、挑発的ですらあるだろう。だが、彼はもう、とっくに「私生活」「魔法」「危険」「彼女たち」を別々の棚に入れるふりをやめていた。カイラとリラに実戦を与えたいなら、力を家の中の狭さから引きずり出し、火床や中庭で形を作るだけでなく、生きたものへ打ち込み、生きたものを守り、一呼吸のうちに選ぶことを教えたいなら、連れていくしかない。


部隊は早朝に出た。


空気は冷たく、まだ夜の湿り気を少し引きずっていた。馬の脇から白い息が上がる。山裾へ近づくにつれ、地面の質も変わった。乾き、灰色を帯び、石が増える。危険に気づくのが一拍遅れやすい、あの嫌な開け方をした土地だ。斜面は重たく、ところどころは針葉樹で黒く、ところどころは剥き出しで崩れやすく、山そのものが下へ余計なものを吐き出しているみたいだった。


リラは、よく持っていた。


多くの者が想像するより、ずっと。


腹の膨らみはもう、十分に見て分かる。彼ももちろん、無理は一切させなかった。もっと深く、もっと危険な行軍なら、そもそも連れてきていない。だが今回は前山地の第一線だ。護衛もある。自分の目も届く。危険は読める。そう思っていた。


そこが、あとで何よりひどく彼の中へ戻ってくることになる。


見えなかった失敗ではない。


ちゃんと考えたうえでの、「大丈夫だ」という確信だったからだ。


最初の接敵は、ほとんど訓練の延長に見えた。


それが逆に腹立たしかった。


大きい山狼が数頭。痩せ、飢え、荒れている。どう見ても、上で獲物を失って押し出されてきた顔だった。そのあとに出たのは、小型だがいやに速い、骨と皮を余計な関節で継ぎ足したような連中。こういう相手に対しては、彼の隊は安定していた。兵は陣を崩さず、随伴の魔術師も命令通りに打つ。その中で彼は、この短い戦闘をそのまま教練へ変えた。


「溜めすぎるな」


最初の衝突のあと、彼はカイラにそう言った。


「実戦で力は、美しい意志なんか待ってくれない。掴め、まとめろ、打て」


カイラは、刃についた血を草へこすりつけながら鼻を鳴らした。


「それは、私がいちばん分かってる」


実際、その通りでもあった。


カイラは戦いに入ると、ほとんど自然に身体が合っていった。完璧ではない。いまだに、一撃で世界ごと片づけたがる癖はある。だが、衝突そのものへの飢えが彼女にはある。それがここでは利点になった。炎も、もう中庭での練習のようには出ない。神経のある、裂けるような、怒りを含んだ火だ。雷も同じだった。濡れた毛皮へ。開いた口へ。傷の走った脇腹へ。指先から走る短い白い稲妻。二度目の戦いのあとには、もうカイラの呼吸そのものが、以前より広く、荒く、少し幸福そうですらあった。


「ほらね」と彼女は言った。焼けた喉で狼が横倒しになるのを見ながら。「もうこれは匙を鍋に落とす練習じゃない」


「調子に乗るな」


「一度も乗ってない」


アヤノは、言うまでもなく、いちばん平らだった。


経験が違う。


余分な動きがない。自分の当たりに見惚れもしない。戦いに入ること自体が、彼女にとってはもう“状態”であって、事件ではない。土は、とくに戦いの中で強かった。足元へ石を一枚立たせて獣の踏み込みを崩す。礫の塊を重くして進路を潰す。薄い光の刃で止めを刺す。闇は見せ技ではなく、相手の意識を一瞬だけずらすための実用として使う。彼は彼女を見ながら、ますますはっきり理解していた。アヤノには、もう“魔法全般”ではなく、“魔法でどう戦うか”を教える段階に来ている。


リラは、やはり別だった。


弱いからではない。


自分の根にある柔らかさを越える必要があったからだ。


彼女の水と光は、きれいで、生きていて、強い。だが現実の衝突では、きれいであることは何の役にも立たない。そこに、相手を壊す意志が乗らなければ。


彼は、それを実際の戦闘の中で教えた。


岩の割れ目から、大きな個体が這い出してきた時だった。石に近い皮膚を持ち、壊れた機械みたいなぎこちなさで、それでも速かった。リラは反射でまず光へ行こうとした。守るために。受け止めるために。


「違う」と彼は強く言った。「今はそれじゃない。水は流れるだけじゃない」


リラはほんの一瞬、彼を見た。


それで十分だった。


「氷にしろ」と彼は言った。「綺麗にするな。細く、刺すために」


リラは腕を出した。水とも氷とも言い切れない白い細い針ができ、怪物の顎の下へ突き上がった。深さは足りない。だが方向は合っていた。


「もう一度」と彼は言った。「それと、水は息も奪える」


次の獣が横へ跳んだ。兵の足へ入るつもりだった。


「鼻と口だ」と彼は短く言った。「呼吸を奪え」


リラは、そこでわずかにためらった。


考えが、その発想そのものに引っかかったのが見えた。


それでも、やった。


水気が獣の顔へ集まり、一気に密度を持ち、鼻と口と目を塞いだ。獣はそこで空間を失い、一瞬だけ止まる。その一瞬で、アヤノの土が肋の下から入った。


リラはそのあと、ひどく青ざめていた。


彼は馬を寄せた。


「俺を見ろ」と静かに言った。「水は善くも悪くもない。ただ水だ。形を与えるのはお前だ」


リラは息を吐いた。


頷いた。


その次の戦いでは、もうそこまで長くはためらわなかった。


彼自身も、もちろん傍観者ではなかった。


それでなければ、ただの講義だ。血の背景がついただけの。彼は剣でも、魔法でも、当然のように動いていた。彼にとって最も自然なのは、もう個別の属性ではなく、その継ぎ目のない接続だ。歩幅。刃。短い力の押し。足元の石をずらして体勢を崩し、その半拍のずれへ剣を通す。あるいは、怪物を一瞬だけその場へ縫い止め、その一瞬で喉を裂く。彼にとって、剣か、土か、光か、ただの意志かは、もうほとんど問題ではなかった。全部が一つの動作へ溶けていた。


だからこそ、彼は失敗した。


自分が、その流れに乗りすぎたからだ。


石の魔物を見た時には、もう遅かった。


見張りが馬鹿だったわけではない。あれは最初から“生き物”に見えにくかった。岩場に紛れ、灰色で、角ばった突起を持ち、山そのものが立ち上がって殴ってくるみたいな塊だった。跳び出してきたのではない。ただ、気づいた時には、もうそこにいた。距離の中に。


そこで彼は、しくじった。


はっきり、自分が。


重さも速さも、石混じりの斜面であの種のものがどれだけ一気に距離を潰すかも、甘く見た。自分の魔法で受け止め、そのあとで切れると思った。間に合わなかった。


魔物は深く入ってきた。


彼は打った。力で関節を崩し、剣を脇へ入れた。カイラの雷も走った。アヤノの土も下から食い込んだ。それでも、その一瞬だけ、魔物は届いた。


リラが、その線に入っていた。


本来なら、絶対に入れない位置に。


打撃は掠った。


腹ではない。


そこではない。


あとで彼の頭へ何度も戻ってきて、何度も違う恐怖を産む場所ではなかった。


胸だった。


高い位置で、横へ走る斬り傷。


布も、皮膚も、その下の肉も裂いて。


深くはない。


命に届く傷でもない。


だが、血はすぐに出た。そして何より、その瞬間の光景――灰色の塊が近すぎるところまで来て、リラが衝撃でよろめき、顔に最初に浮かんだのが痛みではなく、あまりにも剥き出しの驚きだったこと――それが、彼にとっては傷そのものより深く入った。


彼は、ほとんど目を潰したままの勢いで魔物を仕留めた。


刃は岩の板の隙間へ入り、アヤノが下から支えを壊し、カイラが眼窩を雷で焼いた。巨体はそのまま横へ落ちた。だが、そこで何かが“間に合った”ことには、まるでならなかった。


リラはすぐに手当てされた。


傷は悪くはない。深くない。外へ出た血のほうが印象を悪くしているだけで、中身まで壊れてはいない。彼女は話せた。むしろ、自分から彼らを落ち着かせようとしたくらいだ。サレットが、幸いこの遠征にも“家のための年長の女”としてではなく、治療役も兼ねて同行していて、それをきっぱり止めた。


その日の夕方までには、彼はほとんど自分を説得しかけていた。


今回は、本当に危ういところまで行ったが、最悪には至らなかった、と。


夜になって、それがどれほど浅い安心だったかを知った。


リラは、その夜のうちに子を失った。


傷そのもののせいではない。


打撃と、恐怖と、痛みと、身体全体が受けた衝撃のせいだ。


始まりは静かだった。


静かすぎた。


最初、彼女はただ目を覚ました。顔を見た瞬間、彼には分かった。あれは叫びではない。取り乱しでもない。もっと悪い。女の身体が、もう先に知ってしまった時の顔だった。何かが内側で狂ったと、身体のほうが先に理解した顔。


それから血。


サレットは、即座に“年長の女”ではなくなった。冷たく、正確な必要そのものになった。


カイラの顔は、一瞬で変わった。世界そのものに向けるしかない怒りで、文字通り暗くなった。


アヤノは逆に、あまりにも静かだった。静かすぎて、彼には分かった。それは平静ではない。崩れないように自分を押さえつけているだけだ。


そのあとに来たのは、空白だった。


あまりにも速い。


あまりにも決定的な。


リラは、大きくは泣かなかった。


そこが最悪だった。


叫ぶでもなく、壊れるでもなく、ただ涙が流れていた。白く、疲れ果てて、もう何も守れなかった腹の上に手を置いたまま。


彼はそのそばに座っていた。


そして、自分の手をどうしていいのか分からなかった。


それがいちばん屈辱的だった。


男の自尊心の意味ではない。


もっと深いところで。


ここで、これほどはっきり、自分の持っているものの多くが役に立たない瞬間があるのか、という意味で。判断も、知識も、経験も、魔法も、意志も、抱えて進む癖も、全部が、一枚の血に濡れた布と、一人の女の空になった腹の前で無力だった。


彼らは、沈んだまま帰った。


敗走したわけではない。前山地の掃討そのものは失敗していない。損害も大きくはない。他の部隊も役目を果たした。報告だけ見れば、エドランはきっと「有益で、必要で、適切な遠征だった」と言うだろう。


そして、それは事実ですらあるかもしれない。


だが、その事実には、もう何の重さもなかった。


彼らが持ち帰ったのは敗北ではなく、もっと個人的で、もっと鋭い喪失だったからだ。


家へ戻ると、リラはほとんどすぐに横になった。


弱いからではない。


もう、横になること以外に残っていなかったからだ。


カイラはじっとしていられなかった。動き回り、怒り、黙り、また何かをしようとして、結局何もしていない。世界が、いちばん痛いところだけを正確に持っていったことが、どうしても許せないという動き方だった。


アヤノはもっと静かだった。だが、彼には分かる。これは静けさではない。抑えつけだ。ひどく固い、壊れないための抑えつけ。


彼自身の頭の中には、ひとつの考えだけが残った。


――戻さなければならない。


最初、その考えはあまりに真っ直ぐすぎて、自分でも嫌だった。速すぎる。男の反応としても、ひどく粗い。失われたものを、次で塞ごうとするみたいで。


だが、その考えは消えなかった。


なぜなら、その下にあったものが、もっと違うものだと少しずつ見えてきたからだ。


子を持ちたい、という意志。


はっきりと。


偶然ではなく。


なし崩しでもなく。


前の世界では、彼の家の子どもたちは、最初から選ばれていたわけではない。どちらかといえば逆だった。都合や、タイミングや、恐れや、生活の流れを超えて、あとから現れた。リラの腹の子だってそうだ。先に「今こそ欲しい」と決めていたのではなく、あとからそれが幸福になった。


だが、今はそれでは足りない気がした。


リラにとって、この喪失があまりにも深く痛かったからだ。


彼にははっきり見えていた。ここで必要なのは、ただの慰めではない。時間でも、言葉でも、やさしさでも、身体の近さだけでもない。それらは全部いる。だが、そのさらに下にもう一つある。


自分が、子どもを欲しいと思うこと。


家の抽象的な続きとしてではなく。


相続人としてでもなく。


彼女への応答として。


彼女を愛していること、その感じ方に対する理解として。


彼女が失ったのは、ただの肉ではない。すでに一度、自分の中で始めていた生だ。その始まりを、彼女はもう信じていた。もし自分が、ただ“そこにいる男”ではなく、本当に彼女の夫でありたいなら、次を「できればそうなればいい」ではなく、自分から欲しがらなければならない。


その考えは、新しかった。


ほとんど、怖いくらいに。


彼は今まで、そういう欲し方で生きたことがない。


避けるためではなく、迎えるために日を数える、そんな生き方をしたことがない。


そのせいで、今の自分が少し他人のようにすら感じられた。


だが、たぶんそこが次の変化なのだろう。


政治でもなく。


魔法でもなく。


古い意味での男らしさでもなく。


もっと単純に、人として。


リラは重く眠っていた。彼はそのそばに座り、呼吸を聞きながら考えていた。これからは、欲しがり方そのものを変えなければならないのだと。


偶然に任せるのではなく。


欲情だけに流されるのでもなく。


体の遊びだけでもなく。


はっきり「お前との子が欲しい」と思うこと。


だからこそ、それはひどく重かった。ほとんど怖いほどに。子を望むということが、これまでのどんな選択よりも深く感じられた。そこにはもう、偶然も、運命も、「そうなってしまった」も使えない。ただ、自分の意志しか残らないからだ。


ある時、カイラはとうとうベッドの脇の床へ座り込んだ。背を寝台へ預けたまま。アヤノは窓辺に立ち、暗いガラスを見ていた。そこにはもう、部屋の弱い灯りしか映っていない。


家の中は、静かだった。


空ではなく。


押し潰されたような静けさだった。


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