第二十章
エドランの頼みは、ほとんど事務みたいな口調で告げられた。
そこが、いちばん嫌だった。
別に王が冷淡だったわけではない。むしろ逆で、彼はこれが何を意味するかをよく分かっていたから、飾らなかっただけだ。だが、戦後に国家が“戦争の残りかす”を片づけようとする時、その言葉はいつも事務的になる。片をつける。鎮める。制御を戻す。まるで腐った倉庫でも処理するみたいに。実際には、長く“殺してよい”側にいた人間が、もうそこで止まれなくなっているという話なのに。
エドランは彼を一人で呼び、すぐ本題へ入った。
「ホウセイの一隊が、聖女の徴を受け入れなかった」
彼は言った。
「あるいは、受け入れなかったことにしている。和平のあとも解散せず、帰らず、ただの盗賊にもならずに残った。軍隊の残骸みたいな顔をしているが、やっていることはもう純粋な無法だ。小さな集落を脅し、備蓄を奪い、人も持っていく」
彼は、その“人も”が何を意味するかをわざわざ確認しなかった。
分かっていたからだ。
エドランも、それを見て、さらに言った。
「女。子ども。場合によっては、抵抗しようとした少し大きい男の子もだ。だが中心は、女と娘だ」
それで、部屋の中の沈黙は少し質を変えた。
「どうして俺だ」
彼が訊くと、エドランは答えた。
「普通の鎮圧隊では遅すぎるか、派手すぎる。今回は“終わり”が必要だ。しかも、もう軍と軍の戦いではないと分かったうえで動ける人間がいる」
「数は?」
「三十はいない。だが核には、神殿の訓練を受けた連中がいる」
彼は短く頷いた。
「アヤノを連れていく」
エドランは驚かなかった。
ただ、一つだけ訊いた。
「確かなのか」
違う。
だが、彼はそうは答えなかった。
「そうだ」
支度は早かった。
それだけに、妙に無機質だった。
カイラが最初に、顔を見ただけで“これはいつもの外出じゃない”と分かった。
「何があった?」
「ホウセイの残党だ」
彼は言った。
「和平を受け入れなかった。あるいは、それを口実に好き放題してる。片づけに行く」
リラは杯を卓へ置いた。音がほとんどしないくらい静かに。その静けさが、逆に重かった。
アヤノは窓辺に立って、余計なことは訊かずに彼を見た。彼が自分を連れていくなら、単に力が必要だからだけではない。そこにホウセイが絡んでいるなら、なおさらだ。彼女もそれを感じている顔だった。
隅で草を選っていたサレットが、ゆっくり頭を上げる。
「何日くらい?」
「分からない」
カイラは、真っ先にアヤノのところへ行った。
彼ではなく。
それは正しかった。
「ほんとに駄目そうになったら、一人で処理しようとしないでよ」
彼女は短く言った。
「分かった?」
アヤノは頷いた。
「分かった」
リラは彼のほうへ来た。
止めようとするでもなく、引き留めるでもなく。ただ、肩のところで外套の布を整える。その仕草で、どうにかこれを“人間の形”へ戻そうとしているみたいだった。
「ちゃんと連れて帰ってきて」
彼女は静かに言った。
彼は彼女を見た。
「できるだけ」
カイラがそこで舌打ちに近い音を立てた。
「そういう答え方、ほんと嫌い。まるで全部あんたの腕だけでどうにかなるみたいな顔するから」
「タイミングよく正しいの、やめてくれ」
と彼は言った。
そこへ着いたのは、翌日の夕方近くだった。
痕跡は、野営地そのものに辿り着く前から見えた。
軍の痕跡ではない。
秩序ある移動の残りでもない。
無法者の匂いだった。無駄に散らかった跡。意味もなく焼かれた小屋。布切れ。割れた器。働ける年齢の男が、近くの二つの家からごっそり消えている。老人女たちの顔に、声に出す前から“見たくないものを見た人間”の沈黙がある。
最初の娘を見つけたのは井戸のそばだった。
生きていた。
十二、十三か。裸足で、汚れていて、顔にはもう子どもらしさが残っていない。ただ、震えないようにしようとしている痕跡だけがあった。
最初にしゃがんだのはアヤノだった。
「どこ?」
娘は答えない。
最初はまったく。
唇が少し動くだけで、声は出ない。
彼には分かった。アヤノが、自分の焦りでこの子をさらに怯えさせないように、かなり抑えていることが。かなりうまく。かなりぎりぎりで。
やがて娘は、ようやく手を上げて、林際のほうを指した。以前なら納屋か何かがあったらしい場所だ。
「……あそこ」
それから、ほとんどすぐに付け足した。
「姉ちゃん、連れていかれた」
その言葉を聞いた時、アヤノの顔が変わった。
大きくではない。
だが、彼には分かった。
それまでの集中の中へ、別の硬さが入った。
二人はそのまま、ほとんど無言で進んだ。
作戦の確認をする必要はなかった。作戦はもう縮んでいた。入る。見る。終わらせる。それだけだ。
野営地は、壊れた農家の跡に張られていた。傾いた屋根。馬の繋ぎ場。二つの火。男たち。まだ“ただの盗賊”には崩れきっていない訓練の名残を持ち、それでいてもう兵士ではない顔。
最初の女は、すぐ見えた。
壁際に縛られている。
生きている。
そして、その立ち方と肩の持ち方と目の逸らし方だけで、もう充分だった。
そのあとに、納屋があった。
低い。
息苦しい。
恐怖と血と汚れと古い藁と、洗われていない身体の臭い。いったん覚えたら二度と取り違えない種類の臭い。
中にいたのは、娘たちだった。
そして子どもたち。
全員が生きているわけではなかった。
そこで、アヤノの中で何かが折れた。
外に出るような折れ方ではない。
叫びにも涙にもならない。
ただ、一瞬、完全に止まった。行動の前の静止ではない。人が、現実を一度そのまま見てしまい、そこから元の位置へ戻れなくなる時の止まり方だった。
彼自身の中にあったのは、非常に狭く、非常に冷たい怒りだった。喚かない怒り。意識が刃物みたいに細くなるほうの。こいつは喉。こいつは二歩後。あっちの扉を壊す。先に、生きている者を出す。歩ける者から。
だが、アヤノは彼より深いところで見た。
彼女にとってそれは、ただの戦争の残りかすではなかった。ホウセイの人間たちだった。かつて自分が聖女として、道具として、秩序の顔として生きたあの世界の側の人間たちだった。和平を受け入れず、ここまで来た連中だった。
彼は最初の男を、ほとんどすぐに殺した。
短く。
喉へ。
叫ぶ時間を与えないために。
二人目は二歩先で剣に手をかけようとしていたところを落とした。
三人目は、もうアヤノの間合いへ入れなかった。
彼女はただ斬ったのではない。まず膝を、力の塊で内側から砕いた。男はその場に崩れ、立てないと理解するためだけの時間を与えられた。それから二撃目を腹へ入れた。即死ではない。彼はその濁った呼吸を聞いて、すぐに分かった。アヤノは、今、速さだけで終わらせる気ではない。
それがいちばん怖かった。
間違っているからではない。
なぜそうなっているかを、彼があまりに分かってしまったからだ。
そのあとは、短く、近く、血にまみれた連続だった。
一人は、彼らが入ってきた時に“冒涜だ”と叫びかけ、アヤノはその顎を力で横へ裂いた。言葉は血の中で途中で切れた。
別の一人は、壁へ見えない圧で押しつけられ、そのまま息を潰されていた。
もう一人――納屋の前で笑っていた男――には、アヤノは一度目で死を与えなかった。腕を折り、反対の腕も折り、それからようやく終わらせた。
彼はそれを見ながら、自分もまた清くはないと知っていた。
一人の男が、最後の手段みたいに納屋の隅へいる娘へ手を伸ばした時、彼はその腕を落とした。兵士相手にやるような綺麗な切断ではない。低く、荒く、二度と何にも触れさせないための斬り方だった。
男たちは死んだ。
速く。
そして遅く。
同じようには。
ある者にはもっと速い死を与えてもよかった。単に戦っていたなら、そうしただろう。
だが納屋の中を見たあとでは、もう“正しい戦い方”のための空間が消えていた。
全部終わった時、そこは、戦争がようやく自分の本当の顔を見せた場所みたいになっていた。ただし、遅すぎて、狭すぎて、何一つ救済にはならない形で。
彼はその真ん中で息をしていた。気づいていたことは二つ。
一つ、彼らはこいつらを全部終わらせた。
もう一つ、そのことでは、見たものは一つも消えない。
アヤノは、その時、納屋の入口に立っていた。
中にも入らず、外にも出ず。
手は震えていた。疲労ではない震えだった。
彼は、ゆっくり近づいた。
「アヤノ」
彼女は返事をしない。
顔は真っ白だった。綺麗な青白さではなく、内側が一度割れたあとの白さだ。目は乾いていた。ひどく乾いていた。それが余計に悪かった。
「分かってる」
やがて彼女は言った。
声がほとんど自分のものではないみたいだった。
「何をしたか、分かってる」
彼は黙った。
そうだろうとしか言えなかった。
「痛くしたかった」
彼女は言った。
「ただ死ねばいいじゃなくて。痛く。長く。自分たちが何をしたのか、その端だけでも身体で分かるくらいに」
彼は、そこで何も言えなかった。
言い訳もない。
非難もない。
あるのは、そのどちらでもない最悪の中間だけだった。
なぜ彼女がそうしたのかは分かる。
だが“正しかった”とも言えない。
同時に、“そうするべきじゃなかった”とも言い切れない。なぜなら彼自身も、少しだけ違う速度で、ほとんど同じ手で殺していたからだ。
生きている者は連れ出した。
歩ける者から。
のちに血と煙の匂いを辿って来た近くの詰所の衛士を二人だけ残し、簡潔に事情を伝えた。ここで何があり、誰がまだ息をしているかだけを。
帰り道は、ほとんど無言だった。
アヤノはすぐ横を進んでいた。だが、同じ場所にはいない感じがした。距離を取っているのではない。ただ、自分の中へ深く入り込みすぎている。彼は何度か声をかけようとした。だが、そのたびに、どんな言葉も小さすぎるか、嘘になる気がした。
城壁が夕方の湿った光の中に見えた時、彼はようやく気づいた。安堵ではなく、恐れのほうが近いのだと。
これを抱えたまま、“家”の中へ戻ることへの。
最初に彼らに気づいたのは、カイラだった。
立ち上がる速度で分かった。二人の顔が、それだけ多くを語っていたのだ。
リラも立つ。
サレットは、部屋の隅で乾いた葉を選り分けていた手を止めた。あの女は、そういう時、ただの“年長の女”ではなくなる。余計な問いを一つも挟まず、身体がまだ自分へ戻れていない人間のための静かな点になる。
「何があったの?」
リラが訊いた。
彼はすぐには答えなかった。
外套を脱いだ。
指は問題なく動いた。なのに、どこか自分のものではない感じがした。
「全員終わらせた」
彼は言った。
「でも、その前に見た」
それで充分だった。
何を見たかを、細かく言う必要はなかった。
カイラは一瞬だけ目を閉じた。
それからアヤノへ行く。
「怪我は?」
アヤノは首を振った。
その直後に、体勢が崩れた。
気絶ではない。
もっと悪い。
怪我の話になったことで、身体が“問題は身体じゃない”と認めてしまったような崩れ方だった。彼女は一歩後ろへ下がり、椅子の横を外しかけたが、カイラが肩を掴んだので倒れなかった。
「違う」
アヤノは言った。
「違う、私はただ……」
それで止まった。
リラがもう、隣にいた。
最初は触れずに。
アヤノが、自分の意志で人の手を受け入れられる瞬間まで待つように。
それからようやく、背へ手を置いた。
「こっちへ」
リラは静かに言った。
「大丈夫」
アヤノはあまりにも早く答えた。
「私は大丈夫」
カイラが、そこでひどく悪い笑いを一瞬だけ浮かべた。
「今、“大丈夫”ってもう一回言ったら殴る。かなり優しく。でもちゃんと」
それで、ついにアヤノの形が崩れた。
泣き崩れたのではない。
もっと嫌なほうだった。身体の奥から来る、醜い震え。人が自分で自分の形を保てなくなった時の震え。彼女は椅子へ座るというより、ほとんど落ちるみたいに腰を下ろし、片手で顔を覆った。
サレットが立ち上がった。
彼を一度だけ、素早く、だがしっかり見た。
そして何も言わずに湯を取りに行った。
それが正しかった。
リラはアヤノの前に膝をついた。上から覆いかぶさらないように。視線より低く、自分の存在だけを差し出す形で。
カイラは横に残った。柔らかい声を出せる状態ではないから、逆に黙っているしかない。
彼は二歩離れたところに立っていて、その時になって初めて、何もできないという感覚をはっきり味わった。
戦術の話ではない。
殺せるかどうかでもない。
エドランにどう報告するかでもない。
いま自分の目の前で、別の人間が、見たことと、したことの両方で壊れかけている。その時に、何をすればいいのか。そこが、まるで分からなかった。
最初に言葉を出したのは、アヤノ自身だった。
手で顔を覆ったまま、低く。
「私、あいつらを憎んでた」
誰も割り込まない。
「敵としてじゃない。兵士としてでもない。もっと下のところで。見て、嫌悪して、憎んで……それで、止めるだけじゃ足りなかった。何かをさせたかった。痛みって言葉でも足りないくらいのものを」
リラは背中をゆっくり撫でた。
「うん」
彼女はそれだけ言った。
“そうしてはいけなかった”でも、“それでもあなたは優しい”でもない。
ただ、“うん”。
アヤノは顔を上げた。
まだ涙はない。
そのこと自体が、かえって悪かった。
「私、あの瞬間、あいつらが苦しむのを見ていたかった」
彼女は言った。
「殺すことじゃなくて。そこを。死ぬことじゃなくて、そこへ行くまでを。あれが嫌だ。あれを自分の中でどうしたらいいのか分からない」
部屋はしんとした。
カイラが鼻から荒く息をしている音だけがあった。
彼はやっと近づいた。
向かいへ座った。
アヤノを見る。
「それを、お前の正しさとしては言えない」
彼は言った。
アヤノがわずかに動いた。殴られたみたいに。
「言わないで」
「でも、お前をそれで裁くこともできない」
彼女は、そこで止まった。
それが、ここで唯一まともな言葉だったのだろう。
彼にも、そうとしか言えなかった。
「俺自身のこともだ」
彼は少し間を置いて続けた。
「だから、ここで“きれいな立場”を期待するな」
カイラが小さく悪態をついた。
彼に対してではない。
その正しさの汚さそのものに対して。
サレットが湯と布を持って戻ってきた。
それらを静かに置く。
そしてアヤノに向かって言った。
「今は、言葉できれいにされる必要もないし、言葉で裁かれる必要もない。今夜、一人でいさせないことのほうが先よ」
その言い方はあまりに落ち着いていて、カイラですらそこでようやく少し息を抜いた。
「ほら」
彼女はぼそっと言った。
「やっぱりこういう時の年寄り女って、ちゃんと役に立つのよね」
サレットはそちらへ目を向けた。
「男の暴力のあとと、女の沈黙のあとを、私は長く見てきたの。多少は分かるようにもなるわ」
リラが彼を見上げた。
「今夜、どうしてあげればいいか分かる程度には、話して」
彼は目を閉じた。
一瞬だけ。
それから言った。
全部ではない。
細部までは。
だが、充分だった。
納屋のこと。
娘たちのこと。
アヤノがそれを見た瞬間のこと。
そして、そこからの殺し方のこと。
リラは動かずに聞いていた。
カイラは、途中で最初の数語を聞いたところで、壁のほうへ向きを変えた。棚の縁を握る手が強すぎた。
サレットは、ほとんど顔を変えなかった。
最後にただ一つだけ訊いた。
「子どもたちは、生きて出せたの?」
「何人かは」
サレットは目を閉じた。
短く。
それから開く。
「それなら、せめてそこは」
アヤノは、そのあいだずっと、“自分への判決”を聞いているみたいに座っていた。反論も、否定もない。
その時になって、カイラが急に彼女の前へしゃがみこんだ。荒っぽく。怒っているみたいに。
そして、アヤノの手首を掴んだ。
「聞いて」
彼女は言った。
「私は今から、あんたを怪物にも、悲劇の聖女にもしてやる気はない。あんたは見て、嫌悪して、壊した。それも、自分の中の一番汚い熱がそのまま手に行った形で。そう。最悪。最低。で、それはそれ。だけど、そこにさらに“私は最後の倫理審判者です”まで背負い込み始めたら、本当に私が殺す」
アヤノが、ようやく彼女を見た。
ちゃんと。
「分かってない」
彼女は言った。
「分かってるよ」
カイラは返した。
「私は憎しみがどうやって手に出るか、かなりよく知ってる。だから言ってるの。今ここで、一人でそれ抱えて“これで少しでも自分をきれいにしよう”とか思うなって」
そのあと、リラは何も言わずにアヤノを抱きしめた。
静かに。
しっかりと。
余計な優しさの演出ではなく、ただ体重を預けてもいい場所として。
アヤノは最初、硬くなった。
だが、やがてほんの少しだけ、そこへもたれた。
ほんの少し。
だがそれで充分だった。
彼はその光景を見ながら、自分の中にひどく空いた場所があるのを感じていた。安心でもない。単純な罪悪感でもない。もっと嫌なものだった。大きな戦争が終わろうが、旗が下りようが、和平が結ばれようが、神殿が平和を語ろうが、どこか数日行った先では、女と子どもが相変わらず“いちばん簡単に踏みつけられる側”として存在してしまう。その事実を、またしても殴りつけられたみたいに思い知らされたあとの空洞。
サレットは、そのあいだにもう台所を動かしていた。
ぬるすぎない湯。
何か少しでも胃へ入るもの。
柔らかくて、味を感じなくても飲み込めるもの。
それで何かが解決するわけではない。
だが、そこまでしなければ朝を越えにくい夜というのがあることを、彼女は知っている。
彼は卓へ座った。自分の手がまだ、生きた肉を断った感触を残している。そんな手の中にある杯は、まるで別の世界の物みたいだった。
リラはアヤノのそばにいる。
カイラも。
最初は張りつめたまま。
それでも次第に近く。
甘やかすのではなく、彼女なりの乱暴な正直さで、“ここに一緒にいる”という形を崩さないまま。
そして、アヤノがようやく泣き始めた時――唐突に。前触れもなく。しかも自分でその涙すら憎んでいそうな、あの鋭い泣き方で――誰もそれを言葉で止めようとはしなかった。リラは抱いたまま。カイラは、誰に向けてともなく、たぶん世界へ、たぶん男たちへ、たぶんホウセイ全体へ、ひどく小さな声で悪態をつき続けていた。サレットは、少し離れたところに座っていた。年老いた女が、何も正しいことを言えない時にだけ持てる形で。ただ、そこにいて、人が最後まで崩れきるのを防ぐためだけに。




