6 紅蓮の白騎士
「そういえば、今回のターゲット…ナイトキングデーモン?って知ってる?」
馬車に揺られながらフォルティに聞いてみる。
何も無く王都につけばいいな…
「デーモンナイトキングね。ボクも実際に会ったことはないなぁ」
ある程度の道はできているが、下は岩と土。
ガタガタと馬車が揺れる度にフォルティの胸も揺れていて、思わずチラ見してしまう。
「近接戦闘と氷の攻撃が得意で4.5mほどあるらしいよ」
デッカ…
え?フェンリル並じゃね?
「氷の棘を飛ばしてきたりとか…」
あー、これは死んだな。
マジやべえ。それでAランクかよ…
「でも確か、Sランク相当の魔物だったと思うんだけどね」
…話が違いますねぇ?
いや、Aランク相当だったとしても俺には全く歯が立たないんだが。
俺が拠点にしていた街が遠のいていく。
王都に近づいていると思うと気が重い…
「Aランクの依頼じゃなかったっけ…?」
「たまにあるんだよねぇ。実力を試されてワンランク上の依頼振られること」
もしかして、コレって達成しない方がいいのでは…?
カチャ…
無意識に腰の剣の所在を確認する。
「…やる気は充分って感じだね」
そんな訳ないだろ。
どこをどう判断してそんなこと言ってんだ。
節穴か?本当にSランクか?
「キミの実力をこの目で見るのが楽しみだよ」
「う、うわぁあぁ!」
叫び声と共に馬車が急停車する。
俺は急停止に耐えられず、座席から勢いよく滑り落ちた。
いってぇ…
横を見るとフォルティはいなかった。
彼女の座っていた先、馬車のドアが開いており、外からフォルティの叫び声が聞こえてくる。
いつの間に飛び出したんだ…
「ラグくん!オークとゴブリンだ!」
襲われてるのかよ。
最悪じゃねぇか。
ただここで外に出ない訳には行かない。
フォルティが俺を含め護衛として無料で乗車させて貰えるように交渉したからである。
「俺は普通にお金払いたかった…」
しぶしぶ馬車の外へ出る。
剣を抜き警戒しながら。
剣を握っていない方の手はマジックポーチの中へ。
不意にやられても問題ないように。
ポーションに指をかけ、いつでも取れるように。
ポーションさえあればゴブリン相手なら生き延びられるはずだ。
馬車から降りると、フォルティは太めの剣を両手で振り抜き、ゴブリンの首を跳ね飛ばしていた。
「ラグくん、どうする?」
気づけば馬車の周りはゴブリンで包囲されており、奥にはオークの姿が見える。
ゴブリンにビビっているのか馬が暴れ始め、御者も慌てている。
「ぅおっ、落ち着けっ!」
コカトリスの装備をしているが、俺はゴブリンが相手でも死ねる自信がある。
ましてや包囲されている状況だ。
出来ることなら戦いたくない。
というか倒せるかも分からない。
ここはフォルティに頑張って欲しいところ…
「フォルティ!作戦立案のためキミの力を確認しておきたい、任せてもいいかな?」
「なるほど確かに…分かった!ボクの力を見せるとしよう!」
よしっ!
咄嗟とはいえ、上手くいった!
純粋にSランク冒険者の力を見てみたいのも本当だ。
「ハァァァァ!」
さっきまでゴブリンと彼女の間にあった距離は既に無くなっていた。
フォルティは剣を振り切った後、すぐに切り返して逆方向へ振り抜いていく。
バッサバッサと彼女の両サイドにゴブリンの首が飛んでいき、断末魔が響く。
「ギィェエェェエ!!」
「まだまだぁぁ!」
彼女は笑っていた。
しかも余裕の笑みだ。
紅蓮の白騎士という異名に相応しく、ゴブリンの赤い鮮血を浴びても彼女は止まらなかった。
ゴブリンを一掃したフォルティが地面を強く蹴ったと思うと、彼女は一瞬で空高く飛翔した。
人間ってあんなに高く跳べるのか…?
そしてそのままオークの首に目掛けて跳んでいき、両手で剣を振り抜き着地した。
オークの首はゴブリンと同じようにスパンと切れて飛んでいく。
切断された首の付け根から血飛沫が噴き上がり、地面に叩きつけられた首がドシャリと鈍い音を立てた。
これがSランクの力…!
Cランクと一緒になったこともあったが、ここまでオークを容易く切っていた人などいなかった。
…オークの首はゴブリンより数倍ほど硬い記憶があったんだが…
わずか数秒で馬車を囲んでいたオークとゴブリンが滅んでいた。
すっげぇ…!
言葉が出なくなるレベルで凄い…
勝利の安心感からか、フォルティの強さに興奮したからか。
自分でも分からないが、気づけば彼女の方へ1歩踏み出していた。
その拍子に落ちていたゴブリンの首を蹴飛ばしてしまう。
…最悪だ。感触が気持ち悪いし汚れた…
「どうだったかな?と言ってもオークとゴブリンじゃ本気も出せないし力量は測れないと思うけど」
はー…
アレは全く本気じゃないと。
Sランク冒険者こわ…
同じ人間とは思えないわ…
「もう少し手強い魔物が出てきたら分かりやすいのにね」
そんなのお断りだ。
確かにSランクの力は見てみたいが、命を賭けてまで見たいものではない。
襲われなければ、それが一番いいに決まっている。
「…王都まではまだ距離ある?」
「んー、そんなにないよ。30分くらいかな」
お粗末とはいえ、街から王都までの街道だぞ。
もう襲撃なんて起きないよな…?
「あと、撃ち漏らしがいたのかな?ごめんね、しっかり全部斬ったつもりだったんだけど」
…何の話だ?
フォルティはしっかり全て斬り伏せていた。
「蹴りでゴブリンの首、飛ばしてたでしょ?」
「流石だね。ショートソードでフェンリルを討てるわけだよ」
……はい?
「あ、ありがとうございます!最強の2人組というのも納得です…!」
「え、いや、俺は何も…」
このパターンはまずい…!
「うおぉぉぉ!ありがとう!!」
「さすが噂になってる二人組だ!」
「オークとゴブリンが瞬殺!すげぇ!」
…ほらね?乗客が騒ぎ出した。
俺は何もしていないのに…
フォルティの手柄を奪った気分だ。
いや実際に奪ったようなものか…
ごめんフォルティ…




