10 紅から白へ、そしてもう一度
『ククク…今日は素晴らしい日だ!練度の高い人間を!二人も同時にヤれるなんてなぁ!』
ナイトキングデーモンが俺の方へ振り向いたことで初めて姿を捉えた。
漆黒のマントに身を包んだソイツは刀身だけで2メートルはありそうな巨大な剣を軽々と片手で持ち、全身を鎧で覆っていた。
そして何より恐怖を抱かせたのが頭部。
むき出しの頭蓋骨であった。
『…ん?なんだお前は?……死ね』
俺に向けて伸ばされた手の先が青白く光りだした。
逃げないとヤバい…!走れ!死ぬ!
動け!動けよ!
くそったれ!全然体が言うことを聞かない!
頭ではわかっているのに、恐怖で体が竦んで動かない。
(ちょっと!?何もしないつもり!?死ぬわよ!?)
その時、フォルティが飛んで行った方から破裂音が轟く。
ナイトキングデーモンがフォルティの方を確認したため、手の角度が微妙にずれた。
その刹那、俺の頬の真横を青白い閃光が走る。
遅れて風を切るような音と凍てつくような冷気が頬を撫でる。
俺の真横には氷柱が突き刺さっていた。
頭が理解した瞬間、ブワッと気持ちの悪い汗が噴き出してきた。
「いいね!キミ、最高だよ…!もうボクも出し惜しみはしないよ、簡単には壊れないよねぇ!?」
目の上から血を流したフォルティが、口角を吊り上げながら横に剣を構えていた。
鎧が薄いピンク色に変色している気がする。
『フハハハハハ!!いいぞ、楽しめそうだ!』
ナイトキングデーモンとフォルティが同時に地面を蹴った。
二人のいた場所は岩がせり上がっている。
上空で火花を散らしながら、目にも止まらぬ速度で斬り合っている激しい高音だけが響く。
今の汗で体に力が戻った…!
数十メートル先の上空、音の聞こえてくる方が一瞬青白く光る。
またアレが来る!とにかく走れ…!
フォルティの掛けてくれた身体強化がまだ残っていて助かった。
轟音と共に一瞬前までいた場所に氷柱が突き刺さる。
腰に吊り下げた剣の重みすら今の俺にとっては足かせだ!
鞘から抜きはしたが、ポーションを取るのに邪魔になる…!
「ボクと撃ち合いながら魔法を放つなんて、ずいぶん舐めたマネをしてくれるじゃないか…!」
『ならばもっと我を必死にさせてみろ!』
また空中が青白く光った!マズイ!
さっきよりも気付くのが一瞬遅れた…!
その瞬間足元に氷柱が刺さり地面が爆ぜる。
直撃は免れたが、衝撃で俺は吹き飛ばされた。
「ぐぉっ!」
痛みに悶えている余裕なんてない…!
俺は急いで立ち上がり、手に持っていた剣を投げ捨てた。
少しでも身軽にしておかないとマズイ!
そしてポーションを取り出しながら走る。
(ちょ!?えっ!?今剣捨てた!?何してんの!)
『まだまだ足りんぞ!そろそろお前も戦え!!』
「何を言っている!ラグくんは魔法を引き付けてくれているのだろ!ボクに集中しろ!」
そんなつもりは毛頭ない!
こっちは逃げ回るので必死だ!
また光っている!
間に合うか…!?
(え!?ちょちょちょちょちょ!)
「ひゃあぁあぁ!!」
え?
氷柱は俺のところへは飛んでこなかった。
氷柱が突き刺さった場所は俺のはるか後方。
そして氷柱の横から赤髪ツインテールの女の子が飛び出してきた。
あの子は俺に舌打ちをした子じゃないか…!?
なんでここに!?
『んなっ!?…ぐぉっ!?』
ナイトキングデーモンの叫び声と爆発音が同時に聞こえ、俺と赤髪の子の前方に砂埃が勢いよく舞う。
その数メートル横にフォルティが降り立ち、砂埃の方へ剣を構える。
あれ?
フォルティの鎧の色が明らかに赤く染まっており、頭の血が完全に引いている。
そんなに返り血を浴びるほど斬れたのか?
というかコイツは血が出るのか…?
「まだまだボクはこれからだぞ…?」
フォルティの腕に流れていた血が鎧へ吸い込まれるかのように消え、さらに深い赤に変色していく。
『なんだ…?何が起こった…?』
砂埃から無傷のナイトキングデーモンが起き上がる。
なんで無傷なんだよ…
「キミについてこれるかい?」
フォルティが消えた…!?
と思ったらナイトキングデーモンの懐にいた。
そのままの勢いで剣を振り上げナイトキングデーモンの顎を弾く鈍い音が響く。
『うぐぉ!』
『貴様ァ!』
ナイトキングデーモンが剣を振り払うが、フォルティがまた消えていた。
と思ったらナイトキングデーモンの後ろ、懐、左と、全力で斬りつけては姿が消えるのを繰り返していた。
フォルティが姿を現す度に骨が軋むような音が響く。
大きくはないが確実にダメージを与えていた。
これなら…!
「す、すごい…!これが"紅蓮"…!」
『ぐっ…!いい加減に…しろ!』
「がっ…!」
ナイトキングデーモンがフォルティの腹を殴り飛ばした。
フォルティの口から血が大量に飛び出す。
ナイトキングデーモンの砕けたはずの骨が、軋みながら元の位置に戻っていく。
「フォルティ!!」
「爆炎!!」
赤髪ツインテールが叫ぶと、ナイトキングデーモンの中心から炎が炸裂した。
『魔導師か…面倒な』
手を払っただけで炎をかき消しやがった…!
「う、うそ…!?」
「り、白化…!」
フォルティが蹲りながら叫ぶと鎧が一瞬で純白に戻った。
フォルティの傷も治っている気がする。
『ふん…なるほど、面倒な能力を使える装備だな…』
「あはっ、お互いまだ壊れてないねぇ!さぁ、仕切り直しだ…!」




