第124話『黄金の果実祭』
魔導船での長い航海を経て、レンたちはようやく海の彼方の“ソレイユ諸島”へ到着する。
そこは太陽の恵みを受けた、果実と歌と踊りの島だった。
港に降り立った瞬間、レンは甘く濃密な香りに包まれた。
潮風に混ざるのは、熟れた果実が放つ芳香。
波止場では花飾りをつけた島民たちが太鼓を打ち鳴らし、踊りながら船を迎えている。
「すげぇ……祭りが始まってるみたいだ」
カイルが目を丸くする。
船員が笑って答えた。
「いや、これが日常だ。祭りの日はもっとすごいぞ」
レンたちの目的は「黄金の果実祭」。
年に一度、島で最も甘い“サンレモパイン”の収穫を祝う祭典だ。
招待状を持っていたレンは、港長から手厚く歓迎を受け、会場となる中央広場へ案内された。
広場では、巨大な山車に果実が積み上げられている。
丸ごと黄金色のパイン、星型に切られたマンゴー、赤く透き通るようなドラゴンフルーツ。
露店からは果汁の滴る串焼き果物や、果実酒の香りが漂う。
レンは思わずつぶやく。
「……ここ、甘党の天国だな」
「お前のためにある島だろ」
カイルが笑う。
祭りの主催者である長老“マフナ”がレンを呼び止めた。
「海の彼方から来たピザ職人よ。われらはお前の甘いピザを待ち望んでおった」
「期待に応えますよ」
レンは即答するが、長老はひとつ条件を出した。
「ただし――島の黄金果実を使い、我らが“舌の試練”を通らねばならぬ」
その試練とは、三種の果実を使い、審査員三名それぞれの好みに合わせて甘い料理を作ること。
審査員は、蜂蜜を愛する村の女王、香辛料好きの青年漁師、そして――辛党の老婆。
「……最後の人、甘いピザなのに辛党?」
「だからこそ腕の見せ所だ」
カイルが肩を叩く。
レンは市場へ向かい、果実を吟味した。
パインは焼くと香りが立ち、マンゴーはクリームとの相性抜群。
だが問題は辛党向け。
そこで見つけたのは「フレイムパパイヤ」――甘さの奥にピリッとした刺激を持つ珍果だった。
試練当日、レンは三つの窯を同時に使い、異なるピザを焼き上げた。
パインと蜂蜜の“太陽ピザ”、マンゴーとココナッツクリームの“月光ピザ”、
そしてフレイムパパイヤと少量のチーズ、黒胡椒を合わせた“火のピザ”。
審査員たちは一口ごとに表情を変える。
女王は甘美に目を細め、青年は香り高い辛甘に笑い、老婆は鼻をすすりながらも完食した。
結果――合格。
レンは黄金果実祭の“名誉職人”に任命され、島民たちと共に夜通し踊り明かした。
海辺の夜空に花火が咲き、甘い香りと波音が混ざり合う。
「……この味、また作りに来たいな」
「次は辛さ三倍で頼む」
二人の笑い声が、南国の夜に溶けていった。
異国の果実と文化が、またレンのレシピ帳を豊かにした。
次なる舞台は、さらに西――“潮風の交易都市”。
そこではピザよりも硬い交渉が待ち受ける。




