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異世界ピッツァ戦記〜魔王も並ぶ伝説の窯〜  作者: たむ


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123/267

第123話『海を越える窯』

満月の晩餐から数日後――和平の兆しが見え始めた魔王領とセリュード。

だがレンの元へ、思いもよらぬ「海外出張依頼」が舞い込む。

 ルグリースの港は、朝日を受けて金色に輝いていた。

 魔王領の西の海は荒波で知られており、頑丈な魔導船が行き交う。

 レンはその桟橋で、木箱に詰めた石窯のパーツを確認していた。

 カイルは腕を組みながら、不安そうに海を見つめる。


「……本当に行くのか? 海の向こうは未知の大陸だぞ」

「行くさ。依頼があるなら、ピザ屋はどこへでも」

 レンは笑い、依頼状をカイルに見せた。


 そこには、見たことのない文字と、簡単な翻訳文が添えられていた。

『我らは海の彼方の“ソレイユ諸島”。祭礼のため、あなたのピザを求む』

 さらに追伸として――『特に甘いピザを』とある。

「……甘いピザ?」

 カイルが眉をひそめる。

 レンは顎に手を当てて考え込む。

 魔族にも人間にも通じる甘さは作ったが、異国の舌となれば話は別だ。


 出港の鐘が鳴る。

 積み荷の中には小麦粉やチーズだけでなく、魔王領で手に入れた珍しい果実もある。

 瘴気酒は持ち込み禁止とされたが、代わりに海藻糖と呼ばれる甘味料を仕入れていた。


 魔導船が波を割り、ルグリースの港が遠ざかっていく。

 甲板には魔族の船員、セリュードの水夫、そして数人の商人たち。

 皆、レンが背負った小型窯に興味津々だ。

 昼食時、レンが余ったパン生地で即席ピザを焼くと、あっという間に甲板の人だかりができた。

「これ、売ったら航海費用が浮くぞ」

 カイルの提案に、レンは苦笑する。

「……それも悪くないかもな」


 だが、海は甘くなかった。

 航海三日目、海霧が立ちこめ、船が速度を落とす。

 甲板の向こうに、ぼんやりと巨大な影が見えた。

「……クラーケンだ!」

 船員の叫び。

 海面から現れたのは、長大な触手を持つ海魔。

 船は回避行動を取るが、触手がマストに絡みつく。


 そのとき、レンが窯を開き、焼き立てのピザを触手へ向けて放り投げた。

 驚くカイルの横で、海魔はふんわりと漂う甘い香りに反応し、触手を離す。

 巨大な口がピザを丸呑みにし、しばらくして満足そうに海中へ沈んでいった。


「……ピザで命拾いする日が来るとはな」

「ピザは世界を救うってことだな」

 二人は顔を見合わせ、笑った。


 こうして魔導船は、再び進路を西へと取る。

 海の彼方、ソレイユ諸島の港が見えるのは、あと五日後。

 レンは甲板で潮風を受けながら、新しい甘いピザの試作を始めていた。

海を越える初めての仕事は、すでに波乱含み。

だが異国の食文化は、レンにとって未知の宝庫だ。

次回、ソレイユ諸島の港と、その華やかな祭礼が待っている。

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