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異世界ピッツァ戦記〜魔王も並ぶ伝説の窯〜  作者: たむ


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122/266

第122話『満月の晩餐』

満月の夜――魔王領とセリュードの代表者たちが一堂に会する晩餐会。

レンの作る「瘴気酒ピザ」が、戦を止めるか、火をつけるか。

今宵、窯の炎が運命を決める。

 魔王領の城砦都市ルグリース。

 黒曜石で築かれた城壁が月光を反射し、あたりを銀色に染めていた。

 城門前には厳つい鎧をまとった魔族兵が並び、その背後にはセリュードから派遣された使節団の馬車が停まっている。

 互いに睨み合う視線、張り詰めた空気。

 その中心を、レンは淡々と歩いていた。背中には、魔族の鍛冶師が特注で作った小型の石窯を背負って。


 広間に入ると、赤と黒の絨毯が長い宴席へと伸びていた。

 片側には魔王領の重鎮たち。角や牙、羽や鱗を持つ姿は威圧的だが、その眼差しには好奇心が混じっている。

 反対側にはセリュードの将軍や貴族たち。彼らは緊張の面持ちで席についており、中央には白い髭を蓄えた大使が座っていた。

 両者の間に、ぽっかりと空いた中央スペース――そこが、レンの舞台だった。


 まず、瘴気酒の瓶を開ける。

 とろりとした赤黒い液体が、空気に触れると甘くも危険な香りを漂わせる。

 周囲の魔族は懐かしそうに、セリュード側は露骨に警戒して鼻を覆った。

 レンは構わず鍋に注ぎ、弱火でじっくり煮詰める。

 立ちのぼる蒸気は、鉄臭さが消え、代わりにカラメルとハーブを混ぜたような香りへと変わっていった。


 次に、魔王領特産の黒燻香草を刻み、溶かしたバターと合わせてソースを作る。

 そこに煮詰めた瘴気酒を混ぜ、艶やかな紫色のソースが完成した。

 生地は事前に仕込んだ特製――セリュード産の小麦粉に、魔族の発酵種を加えたハイブリッド生地。

 表面に肉厚の魔獣ステーキを薄切りにして敷き詰め、その上から瘴気酒ソースをたっぷりとかける。


 窯の中で、生地はふっくらと膨らみ、肉から滴る脂がソースに混ざって芳香を放つ。

 広間に漂う香りは、もはや誰もが鼻をひくつかせるほどだった。

 魔族たちは唸り声を漏らし、セリュードの兵士たちですら顔を上げてレンの手元を見つめている。


 やがて一枚目が焼きあがった。

 レンはそれを中央の長机に置き、カイルに目配せする。

 カイルは魔族側から、セリュード側から、それぞれ代表者を呼び寄せた。

「――食べるか、拒むかは、あなたたち次第だ」

 その言葉に、一瞬の沈黙。

 だが魔族側の代表が先に一切れを掴み、豪快にかぶりついた。

 目を見開き、すぐに低く唸る。

「……甘い。なのに力が満ちる。これは……」


 続いてセリュードの大使が慎重に一口。

 噛んだ瞬間、彼の顔に驚きが浮かび、やがて柔らかな笑みに変わった。

「……戦の酒が、平和の味になっている」

 その言葉が、広間の空気をわずかに変えた。


 レンは二枚目、三枚目と焼き続ける。

 気がつけば、魔族も人間も同じテーブルで皿を取り合い、笑い声すら混じっていた。

 瘴気酒は毒ではなく、宴をつなぐ甘い香りとなり、満月の光がそれを祝福するかのように降り注いでいた。


 最後の一切れがなくなったとき、魔王領の代表が静かに立ち上がった。

「……これを作る人間に、我らは刃を向けられぬ」

 セリュード側もそれに頷き、和平の約束が、その場で口約束ながら結ばれた。


 レンは石窯を片づけながら、深く息をつく。

 ――これで戦は止まったかもしれない。

 けれど、また別の旅路が、自分を待っている予感がしていた。

満月の晩餐は成功し、瘴気酒は戦の象徴から平和の象徴へと姿を変えた。

だが、この宴が新たな物語の幕開けになることを、レンはまだ知らない。

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