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異世界ピッツァ戦記〜魔王も並ぶ伝説の窯〜  作者: たむ


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119/262

第119話『魔王領の香り』

赤砂の峠を越えたレンたちは、広大な草原を抜けて中央交易都市セリュードへ向かう。

だがその空気には、どこか張り詰めた匂い――魔王領から流れてくる瘴気が混じっていた。

 馬車の前方に、石造りの城壁がそびえ立つ。

 交易都市セリュード――四方の道が交わり、物資も人も絶え間なく行き交う場所だ。


 だが門前は、普段の賑やかさとは違い、兵士たちの目が鋭く光っていた。

「魔王領からの密輸やスパイが増えているらしい」

 門番が検問しながら、低く呟いた。


 市内に入ると、広場で香辛料の香りが漂っていた。

 だがその中に、レンは異質な匂いを感じ取った。

 湿った土と鉄、そして焦げた樹皮のような――鼻の奥に残る重い香り。


「……魔王領でしか採れない“黒燻香草”だ」

 リリアが声をひそめる。

 それは強力な防腐作用を持ち、長距離輸送に最適だが、同時に瘴気を帯びる危険な素材でもあった。


 その夜、レンは宿の厨房を借りて試作を始める。

 黒燻香草を微量だけ使い、他の香辛料で瘴気を中和する。

 焼き上がったピザは、深く香ばしい香りと甘みが立ち、噛むほどに旨味が広がる。


 味見をした宿の主人は、目を丸くした。

「これ……魔王領の物を使ってるのに、まったく嫌な重さがない……!」


 だが、扉の外でその香りを嗅ぎつけた者がいた。

 黒い外套をまとった長身の男――肌は死人のように白く、瞳は赤い。

「ほう……人間が、この香草をこのように扱うか」

 声は低く、冷ややかだが、どこか楽しげでもある。


 男はテーブルに座り、ピザを一切れ口にした。

「面白い……だが、これは戦の匂いだ。いずれ貴様の店にも、戦火が届く」

 そう言い残し、闇の中へと消えていった。


 残されたレンは、手の中のピザを見つめ、静かに呟いた。

「……魔王領の香り、か。なら、俺はそれを“平和の香り”に変えてみせる」

セリュードで魔王領の素材を扱い始めたレン。

だが、それは旅の方向を大きく変える“魔王との最初の接触”でもあった。

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