第118話『赤砂の峠を越えて』
アルカンシェルで“橋の守護者”となったレンたちは、大陸中央へ向けて出発。
だが次なる道は、昼は灼熱、夜は氷のように冷える危険な地――赤砂の峠だった。
馬車の車輪が、赤茶けた砂と小石を巻き上げながら進む。
頭上の太陽は容赦なく照りつけ、視界の彼方まで岩と砂が続く。
リリアは額の汗をぬぐいながら、呟いた。
「これ……オーブンの前より暑いよ……」
「ピザ焼くより暑いのは反則だな」
レンは笑いながらも、水袋を大事そうに揺らした。
途中、峠の入り口で旅人たちが野営をしていた。
理由を尋ねると、彼らは口を揃えて言った。
「この先には“砂鬼”が出る。荷を奪い、時に命も……」
砂鬼――砂の中に潜み、獲物を待つ盗賊集団。
夜になると足跡も風で消え、追跡は不可能とされる。
「つまり……次は人間相手のバトルってわけか」
レンは目を細めた。
日が傾き、峠道の岩陰で野営を始めたその時。
砂のざわめきと共に、フードをかぶった数人の影が現れた。
「おやおや、美味そうな匂いだ。荷物と馬車、それにそのピザも置いていきな」
先頭の男は、刃こぼれした曲刀を構える。
レンは静かにピザ生地を広げた。
驚く盗賊たちを前に、炉を起こし始める。
「お前ら、腹減ってるだろ。俺のピザ食ってからにしろ」
「……は?」
戸惑う盗賊たちの鼻を、香ばしい匂いがくすぐる。
生地に赤砂峠で採れる香草“火の葉”を混ぜ、乾燥肉と辛味油で仕上げる。
一口食べれば、舌が燃えるように辛く、次の瞬間すっきりとした香りが抜けていく。
「……っ! これ、旨ぇ!」
「なんだこの辛さと爽やかさのバランス!」
盗賊たちは夢中で食べ、やがて刀を置いた。
頭領は、ぽつりと言った。
「俺たちも……昔は旅商人だった。けど、この峠で全部を失って……」
レンは何も言わず、追加のピザを渡した。
「また商人に戻ればいい。腹が満たされりゃ、道も見えるさ」
その夜、砂鬼たちは馬車を護衛して峠を越えることを申し出た。
こうしてレンたちは無事に赤砂の峠を越えた。
次の目的地は、大陸中央の交易都市――そこでは、とうとう“魔王領”の影が見え始める。




