魔女と契約した日③
星の意志により聖戦の領域が展開される。俺と騎士団長の背後には、互いの命の残量を示す光の数字が浮かび上がった。
【プレイヤー:10】
【エネミー:10】
「私の先攻だ。カードをドローし、白のマナを追加する」
騎士団長が傲慢な声と共に宣言すると、奴の背後に白い光が一つ灯った。
先攻は手札5枚と5マナ、後攻は手札6枚と6マナから始まる。そして自分のターン開始時、自身が使う色のマナを一つ追加できる。カードを使用する為には必要なコストをマナで払う必要がある。色付きのマナは同色のカードを使う際、カードのコストを軽減できる重要な役割を持っている。
(奴が扱うのは白か。薄汚い人殺しのくせに……)
白のデッキは村長やルミナが好んで使用していた属性だ。その色を、村を滅ぼした奴が使うのを許せなかった。
「まずは小手調べだ。クラス4『白銀の突撃兵』を召喚」
突如現れた光の中から、白銀の甲冑と鋭い槍を構えた重装兵が実体化し、俺を威圧するように盤面へ降り立った。
今召喚された『白銀の突撃兵』はクラス4。カードを使用するにはクラスの数字だけマナをコストとして払わなければならない。だが団長は白のマナを1つ獲得してるため、払うコストは1つ減り、クラス4『白銀の突撃兵』を3コストで召喚している。
現れたその姿は、先ほどまで村を蹂躙していた騎士たちそのものだった。怒りで奥歯が軋む。
「ターンエンドだ。さあ、どう動く?」
「……俺のターン」
俺はカードをドローし、黒のマナを追加する。元々の色無しの6マナと合わせ、7マナ使える状態になってる。
追加されたマナは黒い光となって背後に灯った。そのひどく淀んだ黒い光は俺の殺意と共鳴していると感じた。
「ガーディアンゾーンに、クラス6『黒の巨兵』を召喚」
漆黒の岩石で構成された巨大なゴーレムが俺の目の前に現れる。
ガーディアンゾーンとは、そのゾーンにユニットを置くことで、相手はそのユニットを破壊しなければプレイヤーに攻撃できなくなる守りのエリアだ。
ガーディアンゾーンは3つある。ゲーム開始時にデッキの上から3枚をそれぞれ裏向きで置くことになっており、裏向きのカードの上にガーディアンゾーンのユニットとして召喚できるようになっている。
ガーディアンゾーンのユニットが破壊されると、その下にあるカードを手札に加えるか、エクストラマナ(使い捨ての色無しマナ)にすることができる。
「随分と醜悪な魔物だな。だが、ガーディアンの定石は理解しているようだな」
奴は俺を初心者と甘くみているのだろう。実際、村長やエルマ達とカードバトルの経験はあるが、星命者として命を賭けて戦うのはこれが初めてだ。
「さらに黒魔法、クラス3『黒の奔流』を発動」
俺がカードを掲げると、盤面に禍々しい黒き魔力の渦が発生する。
「効果により、カードを1枚ドローする」
俺のデッキから新たなカードが手札に加わる。
「その後、『黒の奔流』をアナザーフィールドに置く」
使い終わったカードは通常、墓地へと送られるが、俺の使う黒魔法は違う。使用済みの『黒の奔流』は、墓地とは別のエリア――AFへと送られ、黒い魔力の残滓となって俺の周りに滞留する。
「ふん。たかが1枚ドローするだけのカードか。貴様の実力もたかが知れてるな」
「どうやらお前の実力もたかが知れてるようだ。この1枚にお前は負ける」
冷たく言い放つ俺に、団長は鼻で笑った。俺は冷静に盤面を見据え、指示を出す。
(ここからは、苦痛でその傲慢な面を歪ませてやる)
「バトルフェイズ。『黒の巨兵』で、プレイヤーにアタック」
AP(プレイヤーへのダメージ量)3を誇る巨兵の重い拳が、団長の身体を包む見えない壁――『ライフガード』を激しく殴りつける。
外傷的ダメージはないが、直接殴られるような激痛がプレイヤーを襲う。団長は苦痛に顔を歪め膝をついた。
ダメージを与えたことで背後にあるライフの数字が変動する。
【プレイヤー:10】
【エネミー:7】
(いい気味だ。だが、まだ足りない。みんなが味わった絶望は、こんなものじゃないはずだ)
「ターンエンドだ」
団長は痛みが治っていくのと同時に立ち上がりながら不敵な笑みを浮かべた。
「そろそろ……愚かな初心者に戦略というものを教えてやらなくてはな」
団長のターン。7マナに達した奴は、手札から流れるようにカードを切る。
「クラス3『白銀の盾兵』を召喚」
分厚い大盾を持った兵士が現れる。俺は無言で身構えた。
「さらに、ガーディアンゾーンにクラス5『白銀の支援兵』を召喚だ」
団長を守る位置に、杖を持った女兵士が配置される。
「バトルだ! 突撃兵と盾兵で、貴様のガーディアンへ同時攻撃!」
ユニット同士のぶつかり合いはBPで計算される。『黒の巨兵』はBP7だが、ガーディアンゾーンにいる場合BP+2する効果を持っている。さらにアナザーフィールドに黒魔法がある場合BP+1。効果でBP+3され合計BP10。
対する突撃兵と盾兵の同時攻撃はBP5+4でBP9だが、突撃兵はガーディアンゾーンにユニットが入ればBP+2されるため、合計BP11となり『黒の巨兵』はバトルに敗北した。
「くっ……!」
連携した白銀の槍と盾が、黒の巨兵を完全に粉砕した。白の兵士達に巨兵が砕かれた様子は、まるで白銀の騎士達によって魔女達が殺された時のようでひどく胸が締め付けられた。
俺は『黒の巨兵』が召喚されていたガーディアンゾーンの裏向きカードをエクストラマナとして獲得した。
「貴様を守る壁はいなくなった!『白銀の支援兵』でプレイヤーへ攻撃!」
支援兵の杖から白いエネルギー弾が俺に放たれる。AP3のダメージが、俺のライフガードを容赦なく打ち据える。
「ぐはっ……!」
激しい痛みが全身を襲う。ただでさえ骨が軋み、血を流しすぎている身体だ。ライフガード越しの衝撃だけでも、身体を焼かれるような激痛が走る。
「これで終わりではないぞ! プレイヤースキル『ライトソード』を発動!」
「なんだと……!」
俺の息つく間もなく、団長は攻撃を仕掛けてくる。
団長自身が放った光の剣閃が、追撃として俺を襲う。AP2の追加ダメージ。息が止まるほどの痛みが走り、俺は片膝をついた。
【プレイヤー:5】
【エネミー:7】
ボロボロの身体でカードバトルをしているためか、攻撃を受けた時の痛みだけで意識を失いそうになる。
「フハハハハ! その様子ではライフガードが0になる前に貴様は死んでしまうかもなぁ」
「それが……どうした……。家族達を皆殺しにしたお前達を俺は絶対に許さない。この勝負、必ず勝つ」
意識が飛びそうになるのを、奥歯を噛み締めて強引に引き留める。満身創痍になりながらも、俺は立ち上がった。
(死んでたまるか。ルミナを取り戻し、こいつらを皆殺しにするまでは)
「良い度胸だ。ターン終了時、『白銀の支援兵』の効果で、『白銀の盾兵』をスタンド(行動可能状態)させる」
攻撃を終えて行動不能だった盾兵が再び行動可能になった。あのカードはブロッカーを持っているため、俺の攻撃を防ぐことができる。
「攻撃も防御も完璧な布陣だ。これが戦略だよ。貴様のような無駄な行動が一つもない美しいプレイングだ」
こちらのユニットは0体。対して奴のユニットは3体。さらにブロッカーとガーディアンユニットまでいる。次のターンで勝つのは難しいだろう。
認めたくは無いがこの男は強い。だが、俺は負けるわけにはいかない。必ず勝利して家族の仇を取る!そのための布石を次のターンで打つ!




