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ステラセイド  作者: うつつ戯言


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魔族との邂逅⑥

 漆黒の刃は、魔族の胸元を斬り裂く――はずだった。


 ギィィィィンッ!


 刃が魔族の肉体に届く数ミリ手前。虚空に突如として現れた『半透明の壁』が、俺の放った魔装剣をまるで滑るかのように受け流した。


「……ッ!」


 俺はすぐさま床を蹴り、大きく後方へ跳んで魔族との間合いを取った。


 自身の魔法を消し飛ばされて驚愕していたはずの魔族は、いつの間にかその醜悪な顔に密かな笑みを浮かべていた。


(……今の感触、ただの魔法の防壁じゃない。まさか!?)


 攻撃を無効化したあの半透明の壁、心当たりがある。


 俺の脳裏に故郷を滅ぼした騎士団との戦いが蘇る。イヴミラと契約し、力を得た俺は魔装剣で次々と騎士団員を葬ったが、騎士団長だけは半透明の壁――『星の加護ライフガード』によって通用しなかった。


 この魔族から出現した半透明の壁も、あの時の騎士団長と同じものだろう。


 つまり、目の前で薄ら笑いを浮かべているこの魔族は、『星命者ホルダー』ということになる。


「ククッ……さっきまでの威勢はどうした?自分の技が全く通用しないと分かって、絶望に怖気付いたか?」


 魔族は、自らの勝利は揺るがないと、絶対の自信を見せつけてくる。


「いや、技が通用しないのはお前もだろ」


 俺は狩猟剣を軽く肩に担ぎ、鼻で笑った。


「さっきお前が放った『魔刃旋風ヴォーパル・ストーム』とかいう大層な名前の技くらいなら、俺はいくらでも斬り捨てて無力化できる。」


「フン、分かっていないようだな。良いか? 俺は星の力を得た特別な存在、『星命者』だ」


 魔族は自身の分厚い胸を誇らしげに叩いた。


「俺は何もしなくても、お前の剣や魔法は『星の加護』に阻まれて、文字通り一切通用しない。だが、お前は違う。お前は俺の猛攻を、一度もミスせず回避し続けなければ生き残れないのだ。この絶望的な差が、理解できないほど馬鹿ではないだろう?」


 魔族の言っている理屈は、概ね理解できる。


 相手は無敵のバリア持ちで、こちらには何もない。普通の人間であれば、絶対に勝てない絶望的な条件だ。だが……。


「……確かにお前の言う通りだ」


 俺は剣の切っ先を魔族へと真っ直ぐに向けた。


「でもそれは、『お前だけ』が星命者だった場合の話だろ?」


 その言葉を聞いた瞬間。


 魔族の余裕を見せていた表情が凍りつき、驚愕に目を見開いた。


「……まさか!? 貴様も、星命者だとでも言うのか!?」


「そうだ。なんだったら試してみるか? 避けないで受けてやるよ、お前の攻撃」


 俺が堂々と宣言すると、魔族は先程までの絶対の余裕から一転し、ビリビリとした警戒心を全身から放ち始めた。


 ただの人間ではなく、同じ星命者が相手となれば、力任せの殺し合いでは決着がつかない。


 やがて、魔族は何かを決意したかのように表情を固め、口を開いた。


「……よかろう。貴様が本当に星命者であると言うならば、最も相応しい戦いで決着をつけようではないか」


 魔族は右手のひらを虚空にかざし、眩い魔法陣を展開した。


 魔法陣から、一枚一枚のカードが束になった『デッキ』が出現し、その手に握り込まれる。


「俺の名前はギヴァー! 貴様に、『星の聖戦ステラセイド』を申し込む!」


 ギヴァーと名乗る魔族のリーダーから、星の聖戦を挑まれた。


 まさか、初めて訪れた街で、他の星命者と勝負することなりそうとは。


 だが、この展開は俺にとって願ってもないことだった。


 俺は、この理不尽な世界を変えるため、星の聖戦で最強の『一番星命者ステラ・ホルダー』にならなくてはいけない。そのために必要な実戦経験を積めるのは、非常に貴重な機会だ。


 それに、殺し合いではなくカードバトルの星の聖戦であれば、これ以上街の建物を破壊されることもなく、住民に被害を出さずに済む。


「……俺はアルス。お前との星の聖戦、受けて立つ」


 俺は腰に取り付けていたケースから、デッキを取り出し、手に掴んだ。


 星の聖戦に敗北すれば、『星の加護』は失われ、再び展開されるまで時間が掛かる。つまり、敗北直後は殺される可能性が極めて高くなる。


 それでも、俺は戦わなければならない。一番星命者になるためにも、勝負を避けるわけにはいかない。


「俺が勝てば、アルス。貴様には私の手駒としてこの街……いや世界を支配するための道具になってもらうぞ」


 ギヴァーは勝利報酬として、思いがけない内容を提示してきた。


 てっきり、あの時の騎士団長のように俺の持つカードか、あるいは俺の命そのものを要求してくると思っていたのだ。


 俺という目障りな存在を排除さえすれば、コイツら魔族は暴力でこの街を支配できるはずだ。それなのに、あえて俺を生かし、協力させる理由とは一体なんだ……?


 相手の真意は分からなかったが、深く考える必要はない。


 そもそも、俺が勝ちさえすれば何の問題もないのだから。


「いいだろう。なら、こっちが勝てば……あんたには、これからこの街を『守る立場』になってもらう」


「……なに?」


 俺の提示した勝利報酬に、今度はギヴァーが怪訝そうに眉をひそめた。


 魔族のリーダー的ポジションかつ星命者であるギヴァーを街の守護者にすれば、今後このメトランジェに他の魔族が危害を加えることはなくなるかもしれない。


 そうなれば、アイリの住むこの街に恒久的な平和をもたらすことができるはずだ。


「よかろう! そのふざけた条件、呑んでやる!」


 ギヴァーが大きく頷き、俺の条件を受諾した。


 その瞬間。


『――双方の宣誓を受理』


『星の意志の下に、これより絶対なる闘争領域フィールドを展開する』


 誰もいないはずの虚空から、『星の意志』たる機械的な音声が開戦を宣言する。


 直後、俺とギヴァーを中心に、外界のあらゆる干渉を完全に遮断する巨大な半透明のドーム――星の聖戦の結界が展開された。


 およそ一年……村を滅ぼされた時以来の星の聖戦になる。過酷なダンジョン攻略の修行を乗り越えた俺はあの時より強くなっているはずだ。


 先の実戦では、魔族側に対して負ける気はしなかった。奴らより遥かに強いダンジョンの魔獣を倒してきたからだ。


 だが、星の聖戦――カードバトルとなれば、俺は経験不足。正直、不安がないと言えば嘘になる。


 しかし、この一年間でカードバトルに対して何もしてこなかった訳ではない。実際にプレイはできてないが、徹底的に戦略を見直し構築も変えている。


 こんなところで負けてしまうようだったら、ルミナを連れ戻すことも、世界を変えることも夢のまた夢だ。


 この勝負、必ず勝ってみせる!


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