魔族との邂逅⑦
俺と魔族であるギヴァーの『星の聖戦』が幕を開けた。
互いのライフが数値化され、空間に浮かび上がる。
【プレイヤー:10】
【エネミー:10】
「先攻は俺だ。緑のマナを追加する」
マナを追加したギヴァーが獰猛な笑みを浮かべ、手札からカードを一枚フィールドへ叩きつけた。
同時に、ギヴァーの背後の光(マナを表す光)が5つ消費される。
「クラス6『緑角の小悪魔』をガーディアンゾーンに召喚!」
魔方陣から、鋭い緑の角を生やした小柄な悪魔が実体化し、ギヴァーの前に舞い降りる。
どうやら、奴が使うのは緑属性のデッキらしい。緑マナを一つ得たことで、緑のクラス6ユニットを5コストで召喚している。
白属性しか戦ったことない俺にとって、初めての属性の相手だ。油断はできない。
登場した小悪魔が怪しげな光の魔法を放ち、ギヴァーの背後にマナの光が一つ生み出された。
「召喚時効果でエクストラマナを一つ獲得だ。俺はこれでターンを終了する。さぁ、何ができるか見せてみろ」
【プレイヤー:10】
【エネミー:10】
「俺のターン、黒のマナを追加する」
後攻の俺に与えられたマナは、今追加した黒マナを合わせて7マナだ。俺は手札を確認し、冷静に戦術を組み立てる。
緑属性の特徴の一つとして、エクストラマナを活用した戦術があると、エルマさんに教えてもらったことがあるが、実際はどのような動きをしてくるか分からない。
だが恐らく、エクストラマナを蓄積し大きなアクションを起こしてくるはずだ。このターンはそれに備えて、何が起こっても対応できる盤石な状態にしよう。
「黒魔法、クラス3『黒の奔流』を発動!」
手札からカードを放つと、黒い魔力の奔流が空間を駆け抜け、俺に新たなカードを1枚もたらす。そして役目を終えた『黒の奔流』は、魔力の溜まり場であるアナザーフィールドへと配置された。
「さらに、クラス4『黒の盾兵』をガーディアンゾーンに召喚!」
影の中から漆黒の重装甲を纏った盾兵が、俺の前に実体化する。
「バトルフェイズ! 『黒の盾兵(BP5)』で、『緑角の小悪魔(BP7)』にアタック!」
「ほう?BPで負けているユニットで突っ込んでくるか」
「 『黒の盾兵』はガーディアンゾーンにいる時、BPが+2される! さらに、アナザーフィールドに黒魔法のカードが存在するため、追加でBP+1だ!」
『黒の盾兵』の身体から、黒い魔力が溢れ出す。合計BPは8へと跳ね上がり、盾兵の強烈な突進が『緑角の小悪魔』を弾き飛ばし破壊した。
「少しはやれるみたいだな。ガーディアンが破壊されたことで、俺はエクストラマナを追加する。さらに『緑角の小悪魔』の破壊時効果で、エクストラマナを獲得だ」
ギヴァーはガーディアンゾーンのユニットが破壊された時に受けれる恩恵を、手札補充ではなくエクストラマナを選択した。
『緑角の小悪魔』が光の粒子となって消えるのと同時に、ギヴァーの背後にエクストラマナの光が二つ灯った。
奴は既にエクストラマナを3つ獲得している状態だ。まだ序盤だが、次のターンから大きなアクションをしてくる可能性がある。高クラスユニットを出されると、それを倒すためにマナを消費してしまい、ギヴァー自身にダメージを与える手段が限られてくる。
それを見越し、俺は今の段階で少しでもダメージを与えることを選択した。
「残り2マナを使い、スキル『魔装剣』を発動! 」
俺は手にした狩猟剣に魔力を纏わせ、『魔装剣』を構築しギヴァーに斬りかかる。漆黒の斬撃が、ギヴァーの身体を切り裂く。
「ぐはぁッ」
星の聖戦では、プレイヤーに対して外傷は与えられないよう護られているが、痛みは感じてしまう。
俺の放った『魔装剣』によってギヴァーのライフ3を削り取った。
「ターン終了だ!」
【プレイヤー:10】
【エネミー:7】
「ククッ……この痛みが……戦っていることを実感させてくれる!」
ギヴァーはダメージを受けたというのに、むしろ歓喜に打ち震えるように肩を揺らした。
「さぁ!ここからが本当の戦いの始まりだ!超越宣言!」
「なにぃ!?」
先攻2ターン目で、超越宣言だと!?
ゲーム中に一回しか宣言できない代わりに、勝負を決めるための様々な恩恵を得れる貴重な超越宣言を、こんな早いタイミングで使うのか!?
奇抜な戦術に驚愕していた俺を見て、ギヴァーは嘲笑うかのように語りかけてくる。
「この程度のことで驚いているとは。貴様の実力も底が知れるな」
ギヴァーは緑マナを追加し7マナ、さらに超越宣言のボーナスによってエクストラマナを獲得。合計4個と脅威的な数のエクストラマナを所有している。
「貴様はこれから圧倒的な絶望を知ることになるだろう。出でよ、我が最強のしもべ! クラス8『緑角の獣王ベヒモス』を盟約召喚!!」
空間がひび割れ、そこから山のような巨体で緑の角を持つ魔獣が、咆哮を上げて実体化した。
クラス8……初めて対面したがなんて圧倒的な存在感だ。ベヒモスが放つプレッシャーだけで、ガーディアンゾーンに立つ俺の盾兵の重装甲がミシミシと悲鳴を上げている。
俺の持っている最もクラスが高いイヴミラでもクラス7だ。クラス8、一体どれほど強力なユニットなんだ……。
「ベヒモスのオーバースキル発動! 手札3枚をエクストラマナに変換する。さらに変換した枚数分、俺のライフを回復する!」
「なっ!?」
手札を3枚消費するとはいえ、ライフ3回復とエクストラマナ3個獲得を同時に行う脅威的な能力に、俺は動揺した。
ギヴァーの周りに癒しの光が広がり、ライフが全回復する。背後には大量エクストラマナが漂っていた。
「まだまだァ! クラス4『緑角の小鬼』を召喚。召喚時効果でエクストラマナを1つ消費し、1枚ドロー! 」
生み出したエクストラマナを消費して、手札補充を行えるのか。これが緑属性の戦術……。
「さぁ、絶望のバトルフェイズといこうか!」
ギヴァーが意気揚々と腕を振り下ろす。
「バトルフェイズ開始時、ベヒモスの効果発動! エクストラマナを2つ消費し、BPを+3、さらに『貫通』を得る!」
ベヒモスの巨体がさらに膨張し、BPは圧倒的な13と到達する。
「踏み潰せ、ベヒモス! 『黒の盾兵』をスクラップにしろ!」
「くっ……!」
『黒の盾兵』は、ベヒモスの巨大な足に踏み躙られ、一瞬で光の粒子となって破壊された。ガーディアンゾーンの『黒の盾兵』が破壊されたことで、俺はエクストラマナを1つ追加した。
だが、貫通効果を持つベヒモスの攻撃はおさまらない。ベヒモス(AP4)のダメージが衝撃波となって直接俺を襲う。
「がはァッ!」
俺は圧倒的な衝撃波に吹き飛ばされ、結界の壁に激突する。激しい痛みが全身を襲う。
俺が立ち上がる暇も与えんと、ギヴァーは再びユニットに攻撃命令を送る。
「さらに『緑角の小鬼(AP2)』でプレイヤーにアタック!」
小鬼の鋭い爪が俺の身体を切り裂き、さらに2ダメージを受けた。
【プレイヤー:4】
「ハァッ……ハァッ……」
ユニットニ体の攻撃を受け、ライフはあっという間に半分以下になり、危機的状況に陥った。あの魔族、実戦では大したことないと思っていたが、星の聖戦においてはかなりの実力者かもしれない。
「どうした? もう立てないのか? ならばトドメだ! フィナーレフェイズ!」
「マジかっ!」
先攻2ターン目にも関わらず、ギヴァーの繰り出す猛攻に驚愕した。超越宣言、そしてフィナーレフェイズ。それぞれ破壊力はあるが、マナを大量に消費する大きなアクションだ。基本的にはマナが増えてきた後半に行うことが多い。それを僅か2ターン目から出力を落とさずプレイできるマナの数……これが緑属性の戦術か。
ギヴァーはエクストラマナの光を2個握りつぶし、巨大な魔法陣を展開する。展開された魔法陣は、周囲の空気とマナを吸引し圧縮していく。
この技はまさか……
「今度こそこの技で消し去ってやる! 奥義、『魔刃旋風』!!」
魔法陣からすべてを切り刻む風の刃が発生する。
「この奥義は、俺がこのターンに消費したエクストラマナの枚数分のダメージを貴様に与える!」
このターンに消費されたエクストラマナは、小鬼が1個、ベヒモスが2個、そして奥義発動のコストで2個。つまり合計5ダメージということになる。
俺の残りライフは4。5ダメージを受ければ敗北してしまう。
「暴風の刃に切り刻まれろ!!」
放たれた『魔刃旋風』がこの身体を切り裂こうとしたその瞬間。俺は正面に手をかざした。
「させるかッ! エクストラマナを消費し、スキル『魔装の盾』を発動!!」
俺の手のひらの先から、分厚い漆黒の盾が実体化する。
「『魔装の盾』の効果!アナザーフィールドに黒魔法が存在するため、受けるダメージを3軽減する!」
「チッ、姑息な真似を……!」
風の刃と漆黒の盾が激しく激突する。盾は砕け散ったが、『魔刃旋風』の威力は弱まり、俺の受けるダメージは2まで抑え込まれた。
「俺はターン終了だ。首の皮一枚で繋がったな、アルス」
【プレイヤー:2】
【エネミー:10】
「ハァ……ハァ……」
特大のダメージを負い、俺の息は荒くなっていた。
まさか、先攻二ターンに合計10ダメージ以上与えてくるとは予想もしていなかった。
盤面のユニットは0体、ライフは僅か2しか残っていない。このギリギリの状態でギヴァーの前に聳え立つクラス8のガーディアンユニットを倒して、ライフを削りにいかなくてはならない。
あまりに絶望的な状況だ。
……だが。
「ふっ……あははっ」
俺は膝に手をつきながら、自然と笑みが溢れ出していた。
「強がりか? 哀れな奴め」
「違うさ。……ああ、最高だよ。これほどの絶望的な劣勢! これをひっくり返せなくて、何が『一番星命者』になるだ!」
全身の痛みに耐えながら身体を起こし、真っ直ぐにギヴァーの目を見据える。
「いくぞ、俺のターン!」
俺の闘志の炎は燃え上がっている。




