異世界カードバトル(前編)
15日公開の内容から話の展開を修正しました。
「コイントスで表、俺が先攻だ。ドロー!」
教官の男が山札から勢いよくカードを一枚引き、ニヤリと笑いながらカードを場に出した。
「先攻の最初の番は、カードを伏せられないんだったな。レベル1モンスター『オーク戦士』を召喚するぞ!」
ズン、と軽い音とともに場に現れたのは、手のひらサイズのミニチュアオーク(攻撃1/防御1)。
見た目の武骨な威圧感だけで、ギャラリーの新人冒険者たちから「おお……」と歓声が漏れた。
「俺のターン。ドロー」
山札から冷徹に一枚引き、手札の5枚を素早く吟味する。
「カードを一枚、場に伏せてターンエンドです」
「あぁ!? モンスターも出さずにカードを伏せるだけだと? なめやがって! 俺のターン、ドロー!」
教官の男は山札から引き、待ってましたとばかりに叫んだ。
「場にモンスターがいねぇなら直接攻撃だ! オーク戦士で攻撃! 一つ目のライフを減らさせてもらうぜ!」
「――では、その攻撃宣言に割り込んで、伏せていたカードを表にします」
俺が指先でカードを裏返すと、紫色の怪しい光が円を描いて走った。
「な……『レベル1モンスター・ロックスライム(攻撃0/防御2)』だと!? おいおい、レベル1のモンスターなら、最初から表で出せばいいだろ!」
「確かにそうですね。ですが、このカードは【伏せて出すこと】に本当の意味があるんです」
「なに……? どういうことだ?」
「もしこのカードを最初から表で出していれば、防御力が高い壁だと一目で分かり、あなたは攻撃せず、別の準備をしていたでしょう。……前の番に防御力の高いモンスターを伏せておき、相手の迂闊な攻撃を誘って表にする。このカードゲームにおける基本的なブラフ(ハタリ)の戦術です」
「ぐ、ぐぬっ……!」
教官の男は言葉に詰まり、悔しさを滲ませた。
「さて、ゲームの判定に戻りましょうか。『オーク戦士』の攻撃力1に対し、表になった『ロックスライム』の防御力は2。……したがって、攻撃を仕掛けた『オーク戦士』が返り討ちに遭います」
「ぐあぁっ!?」
オーク戦士が光の粒子となって砕け散った。
「おい見ろよ! モンスターを出さずに伏せて相手の攻撃を誘い、教官のオークが返り討ちにあったぞ!」
「伏せるカード枠が一枚しかないから魔法カードかと思ったが、まさか防御特化のモンスターだったとは……!」
ギャラリーの冒険者たちから、どっと歓声が上がった。
攻撃を防がれ、さらに直接攻撃の機会を失ったことで、教官の男の顔から余裕が消えていく。
「さて、次は俺の番です。山札を1枚ドロー」
相手の場にモンスターはおらず、伏せカードもない。絶好の攻撃機会だ。だが、俺の場にいる『ロックスライム』は防御特化(攻撃力0)のため、相手のライフを削ることはできない。
(焦る必要はない。戦線の補強だ)
「レベル1のモンスターが場に存在するので、召喚条件成立。レベル2モンスター『双月の銀狼・アルジェンタ(攻撃2/防御3)』を召喚して、ターンエンドです」
青白い月光のような光とともに、美しくも獰猛な銀狼のミニチュアが地を蹴って現れた。
「くっ……! 俺のターン、ドロー!」
教官の男は額に汗を浮かべながらカードを引いた。手札を何度も見比べ、苦渋の決断のようにカードを一枚伏せ、自分の番を終えた。
「では、俺の番ですね。山札をドロー!」
(ふむ……男が伏せたカードは、さっき俺が見せた『防御モンスターの潜伏』と同じ狙いだろう。俺のアルジェンタの攻撃を誘って返り討ちにするつもりか。……なら、もう一つ先の戦術を見せてやる)
「カードを一枚伏せて、ターンエンドです」
「おいおい、攻撃しなくてよかったのか? 俺のライフを削れるチャンスだったぜ?」
教官の男が強がりの混じった軽い挑発をしてくるが、俺はあえて答えず無言で流した。
「じゃあ、俺の番だな。ドロー!」
カードを引き当てた瞬間、教官の男の目が大きく見開かれた。
「よしっ……!! 俺に流れが来たみたいだな! 見ろ、俺が引き当てたのは……レベル2のレアカード『サイクロプス』だ!」
男は伏せていたカードを力任せに表に返しながら、一気に捲し立てた。
「伏せていたのは、レベル1のモンスターカード『ゴブリン(攻撃2/防御0)』だ! 残念だったな、さっき攻撃してりゃあ倒せたのに! だがこれでレベル2の召喚条件は満たした! サイクロプスを召喚するぜ!」
男が場に叩きつけたのは、巨体を誇る一ツ目の巨人――レベル2『サイクロプス』(攻撃2/防御2/固有スキル)のカードだった。
ドォンッ! と地響きのような重厚な効果音が響き、圧倒的な存在感を放つサイクロプスが現れる。
「おおぉぉ……!!」
ギャラリーの冒険者たちから割れんばかりの歓声が上がり、場の熱気は最高潮に達した。
「このサイクロプスは固有スキルを持っていてな!『味方モンスターの攻撃力を自分のモノにする』! つまり、ゴブリンの攻撃力2が合算されて、サイクロプスの攻撃力は【4】になるんだよ! さあ、どうする!?」
教官の男は勝利を確信したように、ニヤリと口元を歪めた。
「どんな小細工をしようが、強力なモンスターが出てしまえば終わりなんだよ!」
「……くっ、攻撃力4のサイクロプスは想定外だ……」
俺は呻き、険しい表情で伏せカードと手札を見つめた。
サイクロプスの圧倒的なパワーの前に、戦況は一変したかに見えた…




