異世界カードバトル(後編)
【これまでのあらすじ】
冒険者の訓練場にて、新人教育に頭を抱える教官に対し、カードゲームが『戦術トレーニング』になることを証明するため、カードバトルを提案したジン。
教官は『オーク戦士』で攻め立てるが、ジンはカードを1枚伏せる『ブラフ(ブラフ)の伏せ召喚』を駆使。
攻撃を誘い出し、防御特化の『ロックスライム』で返り討ちにする戦術を見せつける。
しかし、教官もさるもの、ジンの伏せ戦略を応用し、レベル1『ゴブリン』を潜伏させ、レベル2のレアカード『サイクロプス』を召喚。
固有スキルでゴブリンの威力を吸収し、攻撃力【4】という高火力のモンスターを完成させる。
相手の切り札であるサイクロプスの圧倒的なパワーの前に、絶体絶命に見えるジン。
だが、彼の場には、密かに伏せられた「1枚のカード」が残されていた――
――厳しい状況のようだが、俺の胸の奥で、元チャンピオンとしての冷徹な計算が、狂いなく弾き出されていた。
(……かかったな。相手が『伏せカードのレベル1』を表にしてレベル2を重ねてくるのは、折り込み済みだ)
俺が前の番、無防備な相手に攻撃しなかったのは、相手が置いていた伏せカードを警戒したからではない。
(相手に「強いカードを出せる!」と思わせておいて、俺の場に出ている「伏せカード」への警戒をなくすための言わば【撒き餌】だ)
「……教官。カードゲームにおいて、圧倒的な強力なカードが出現した時、どう対処するか分かりますか?」
「あぁ!? 負け惜しみを言っていられるのも今のうちだぞ!」
「いいえ、負け惜しみではありません。――力には『仕掛け』で返すんです。伏せていたカードを表にします、魔法カード『強者の傲慢』発動!」
俺が伏せカードを開くと、サイクロプスの足元に魔法陣が現れ、サイクロプスは光に包まれた。
「な、なにぃ!?」
「『強者の傲慢』は、攻撃力3以上のモンスターが場にいる時、そのモンスターの防御力を1ターンの間『ゼロ』にする効果があります」
「防御力が……ゼロだと!? 馬鹿な、ゴブリンを吸収して攻撃力4になったところだぞ!?」
「それを待っていたんです!ゴブリンの攻撃力を吸収しなければ、サイクロプスの攻撃力は2、魔法カードは使えなかった」
「しかし、『双月の銀狼・アルジェンタ』の防御力は3だから、必ず攻撃力4のカードを用意してくるはず。そう考えて、先に魔法カードを伏せていたんです」
「…さて、教官の切り札、サイクロプスの防御力は0(ゼロ)、俺の場には攻撃力2の『双月の銀狼・アルジェンタ』がいる」
俺はアルジェンタのカードを静かに指で叩いた。
「俺のターン、ドロー。――アルジェンタで防御力0になったサイクロプスへ攻撃」
『グルオオオンッ!!』
銀狼が鋭い牙で跳びかかり、弱体化したサイクロプスの首筋を噛み千切った。
一ツ目の巨人は断末魔の叫びを上げ、ガラスのように脆く砕け散った。
「ば……馬鹿な……!? 俺のサイクロプスが……一発で消えた……!?」
教官の男はその場に崩れ落ちた。
静まり返っていたギャラリーから、耳を塞ぎたくなるほどの歓声が沸き起こった!
「おいおいおい見たかよ!? 攻撃力4のサイクロプスに罠を仕掛けて、一撃で粉砕しやがった!!」
「このゲーム、攻撃力て押し切ろうとしても勝てねぇ……!」
「――これが『カードバトル』です」
俺はカードを指で挟み、呆然とする教官を見下ろした。
「どんなに強いモンスターでも、魔法の組み合わせ、そして出すタイミング次第で容易に倒される。……場の状況を見ながら、相手の行動を読み合う訓練をすれば、実戦でも冷静な戦術判断ができるようになります」
教官の男は力なく笑うと、深々と溜息をついた。
「……参った。サイクロプス以上のカードはない…俺の負けだ」
男はポケットから銀貨1枚を取り出すと、俺の手のひらに力強く握らせた。
「約束の銀貨1枚だ。……ジンと言ったな。そのカードセットを俺に売ってくれ。新人の教育用に、あと何セットか欲しい。店はどこだ?」
「毎度あり。路地裏の『トレカ・スタジオ』でお待ちしています。戦術指導もしますよ」
この日を境に、冒険者たちの間で「教官の厳しい訓練を受けるより、カードゲームをした方が役立つ」という噂が広がり始めた。




