『カードショップ大会』の開催
ショップ『トレカ・スタジオ』の開店から2週間。
路地裏の小さな店舗は、連日、戦術を磨きたい冒険者や口コミを聞きつけた若い駆け出しで、押し合いへし押しの熱気に包まれていた。
「ジン様ぁぁぁッ! 大変です! 本日入荷した仕入れ分、ノーマルカード百枚が開店からたった一時間で完売してしまいましたッ!」
カウンターの奥で、アリアが悲鳴のような声を上げながら、猛烈な勢いで羽ペンを走らせている。
几帳面な彼女は、売上帳と金庫の銅貨を一銅貨のズレもなく合致させなければ気が済まない性分だ。
売り切れが出るたびに悲鳴を上げる彼女の大げさなリアクションは、いまや店の名物となりつつあった。
「いい傾向じゃないか、アリア。予定通り、週末に第1回『カードショップ大会』を開催するぞ」
「カ、カードショップ大会!? 大会ですか!? まだルールが広まり始めて二週間ですよ!? そんな大きなイベントを開いたら、興奮した冒険者たちで店内が暴動騒ぎになりますッ!」
「心配いらない。大会の参加費は銀貨1枚。そして優勝賞金は……金貨1枚だ」
「き、金貨1枚ぇぇぇッ!? 銀貨10枚分の価値がある大金を賞金にするのですか!? ジン様、正気ですか!? 正気で仰っているのですか!?」
アリアがメガネを跳ね上げ、両手で頭を抱えて叫ぶ。このお決まりの絶叫に、店内にいた冒険者たちがどっと沸き立った。
「金貨1枚だと!? おいおい、参加費の銀貨1枚を出せば、10倍になって戻ってくるかもしれねぇってことか!」
「一獲千金のチャンスだ! 俺もエントリーするぞ!」
俺は頭を抱えるアリアの肩をポンと叩いた。
「カードの価値をまだ知らない連中を最も惹きつけるのは、分かりやすい『現金』だ。高額な賞金をぶら下げれば、腕に覚えのある冒険者や熱心なやつらが確実に集まる」
「し、しかし……本当にそんな金を払って、大会なんて成り立つんですか……?」
「初回の今回は枠を絞って、定員は10名から20名程度にする。公式の大会としてルールを提示し、参加費と賞金で現金を回す。」
「そうやって集まった連中に『カードそのものの価値』を理解させれば、ここから市場が一気に出来上がるんだよ」
アリアは羽ペンを止め、深く溜息をつきながらメガネの位置をキュッと直した。
「……はぁ。ジン様がそこまでお考えなら、私は何も申し上げません。では、第一回大会の参加者名簿と賞金台帳を直ちに作成いたします」
「ああ、頼んだぞ」
そして大会当日の朝。
『トレカ・スタジオ』の前には、開店を待ちわびる冒険者や街の住人で長蛇の列ができていた。
「ジ、ジン様……凄いです。予定していた定員の20枠が、あっという間に埋まってしまいました……!」
アリアが参加費の詰まったずっしりと重い木箱を抱え、感激の声を漏らす。
「まだまだこれからだぞ、アリア。……さあ、異世界初のトレカ大会を始めようか」
熱狂に包まれる店舗の片隅で、俺は胸ポケットの中の『双月の銀狼・アルジェンタ』に触れた。
元々外れドロップと言われていたカードは、市場は動力を得て、凄まじい速度で回り始めた。
だが――開店して間もない店への大きな資金の動きに対し、不穏な視線を向ける者がいた。
街の最高権力者である若い貴族当主、デュラム・ニディカーナ。
その日の夜、屋敷の豪華な執務室で報告書に目を通していたデュラムは、ワイングラスを傾けながら冷たい目を細めた。
「開店して間もない小さな店で、銀貨数十枚の金が動いた……だと?」
控えていた側近が深々と頭を下げる。
「はっ。平民や冒険者たちがこぞって参加費を払い、その『トレカ・スタジオ』なる店に集まっております。まだ規模は小さいものの、このままの成長で行くと、領内の資金を脅かす存在になりかねません」
「外れドロップのカードを使って……領内の資金を動かす存在になりうるということか。ずいぶんと面白い商売をする商人がいたものだ」
デュラムは指先で報告書を叩き、薄く笑った。
その報告書の端には、小さく「ジン」という名が記されていた。




