異世界初のトレーディングカード
開店準備と並行して、俺はカードの「新しい価値」をこの世界に提示するため、行動を開始した。
ただ「カードゲームとして楽しい」とアピールするだけでは、子供や一部のマニアにしか刺さらない。
市場を爆発的に広げるには、その社会において大衆に影響力のある層――つまり、大衆が憧れる「冒険者」や「騎士団」、そして権威の象徴である「貴族」を取り込む必要がある。
そのためには、まずトレーディングカードが「価値あるもの」、「実用性のあるもの」ということを認知をしてもらう必要がある。
さっそく俺はギルドの訓練場へ足を運んだ。
そこでは、訓練場では冒険者の教官が、新人の教育で頭を抱えていた。
「おいおい! なんで前衛が引いたタイミングで魔法を撃たないんだ! タイミングがバラバラだぞ!」
「そんなこと言ったって、戦いながら、戦術判断なんて、頭がパニックになってできないんですよ!」
怒号が飛び交う現場に、俺は木箱を抱えて足を踏み入れた。
「戦術訓練でお困りのようですね」
「あん? なんだお前は……駆け出しの新人か?」
振り返ったのは、顔に古傷のある、いかにも冒険者という男だった。男が放つ雰囲気からして、中級冒険者のリーダー格だろう。
以前、受付のフラウに中級冒険者が新人冒険者の教官をしていると教えてもらったことがある。
「実戦をしなくても、安全に『戦術』の訓練ができる方法があるんですが……試してみませんか?」
「そんな方法がありゃ、苦労しねぇよ!」
男の怒りの混じった声を聞きながら、俺は木箱から、ルール用に調整した二十枚のカードセット――構築済みデッキを取り出した。
「ルールは至ってシンプルです。デッキは二十枚。お互いに手札五枚からスタートし、自分のターンが来たら、まずデッキからカードを一枚引く。そのあと、行えるアクションは【一つだけ】です」
俺は指を立てて説明を続けた。
「モンスターを出すか、魔法を使うか、攻撃するか、あるいはカードを【一枚だけ伏せて】出すか。アクションを一つ終えたら、即座に相手のターンへ移る高速スピードバトルです」
「……カードを伏せるだと?」
「ええ。伏せカードは一枚しか置けませんが、相手のアクション中にいつでも表にして割り込めます。相手の手札と伏せカード――隠された選択肢を読み、次の行動を予測して最適な一手を選ぶ。極限の心理戦シミュレーションです」
「ハッ! そんな子供のカード遊びで、実戦的な戦術が身につくのかよ!」
嘲笑するベテランリーダーに対し、俺は不敵に笑った。想定どおりの反応だ。むしろ、嘲笑ってくれた方が都合がいい。
「では、勝負しましょう。勝利条件は、相手のモンスターがいない隙を突き、先に3ポイント取った方が勝ち。」
「取ったポイント、それぞれのプレイヤーの残りライフが分かりやすいように、『ライフカード』として、山札からカードを3枚置き、プレイヤーが攻撃を受けるごとに、そのライフカードを取っていく流れにしましょう。自分のライフカードがなくなった時点で負けです。」
「俺が使うのは、『ホーンラビットとスライムの弱小デッキ』。あなたが使うのは、俺が用意した『サイクロプスという強力なモンスターが入った上級デッキ』でどうですか?」
俺は一呼吸置いて、ニヤリと挑発した。
「名のある冒険者さんが、さすがに弱小カード相手に負けるとは思いませんが、もしもあなたが俺に負けたら、用意したカードセットを銀貨1枚で買い取っていただく。…というのは、いかがです?」
訓練場にいた冒険者たちがざわついた。
格下の弱小モンスターが、格上の強力なモンスターに勝てるわけがない――誰もがそう思っている。
それこそが、この世界の常識だった。
「面白い、乗ってやるよ! そんなゴミカード相手に負けるわけねぇだろ!」
ギャラリーが集まる中、異世界初の「カードバトル」が始まった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ここから『カードバトル編』がスタートします。
頭脳戦の展開にしようと思うので、「面白かった!」「続きが気になる!」などと思っていただけたら、ブックマークや評価、それに感想をいただけると嬉しいです!
カードバトルのルールは、今後まとめておこうと思います。




