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店舗探しと店長候補

 ギルドから大量の「外れドロップカード」を仕入れた翌日、俺は店舗となる物件を探して街の裏通りを歩いていた。


 狙いは大通りの一等地ではない。冒険者がダンジョン帰りについでに寄れて、かつ賃料――ランニングコストを極限まで抑えられる「表通りから一本入った路地裏の居抜き物件」だ。


 前世、俺が最初に店を構えたのも似たような立地だった。駅前の一等地に大きく構えて三年で潰れていったライバル店を何軒も見てきた。


 固定費は商売の心臓だ。小さく始めて、太らせてから広げる。それが鉄則だった。


「ここか……」


 見つけたのは、廃業した小さな薬屋の跡地だった。

 カウンターといくつかの棚、奥には小さな検品用のバックヤードがある。


 カードの買取と査定、そして対戦スペース卓を作るには十分な広さだ。何より、大通りの喧騒から外れているぶん、賃料は相場の半分以下だった。


 大家と直接交渉し、半年分の前払いを条件に家賃をさらに一割引かせ、契約はその場で成立した。


 だが、問題が一つあった。


 店が軌道に乗るまでの収入源として、俺自身が冒険者としてダンジョンへ潜る必要がある。


 また、モンスターの『実体召喚』やカードのレアリティについての検証作業もあり、ずっと店に張り付いているわけにはいかない。


 信用できる「店番・実務担当者」が必要不可欠だった。


 そんな折、ギルドの受付でフラウから紹介されたのが、アリアだった。


「ジンさん! おすすめの人材がいますよ! 以前、大手の商人ギルドで帳簿係をしていたんですが……」


 フラウは声を潜め、周囲を警戒するように囁いた。


「真面目すぎて、上役の横領を告発したら、逆に追放されちゃったらしくて。今は職を探してるみたいなんです」


(真面目すぎて追放か……)


 前世でも、腐った職場で正しいことを言った人間が割を食う光景は嫌というほど見てきた。


 だが、そういう人間こそ金を預けるに値する。


 ギルドの隅で、使い古された羽ペンを几帳面に手入れしている女の子――アリア。


 見た目は細身で神経質そうだが、目には強い芯があった。


 羽ペンの毛先を整える手つき一つとっても、彼女の几帳面さが不気味なほど滲み出ている。


「はじめまして、ジン様。アリアと申します。……単刀直入にお聞きしますが」


 挨拶もそこそこに、彼女は眼鏡の奥から鋭い視線を寄越してきた。


「あんな『子供のおもちゃ』を買い取って、どうやって利益を出すおつもりなのですか? 帳簿を預かる身として、破綻するビジネスには付き合えません」


 初対面から鋭い突っ込みだ。普通なら気分を害するところだが、俺はニヤリと笑った。


 ビジネスの構造を即座に疑問に思うということは、彼女が数字とロジックで動く優秀な実務家である証拠だ。


 経営者に必要なのは、夢を見てくれる仲間だけじゃない。夢に穴がないか、冷徹に検算してくれる人間だ。


「アリア、これはただのおもちゃじゃない。『頭脳戦』という価値を売る商売だ。それに……」


 俺はポケットから一枚のカードを取り出し、彼女に見せた。ウサギ型モンスターの、何の変哲もない量産品のノーマルカードだ。


「俺は、近いうちに、このカード1枚が金貨数枚で取引される、そんな市場を作りたい。お前にはその帳簿管理と、不正のない厳格な査定を任せたい。俺と一緒に新しい『経済圏』を作らないか」


「……」


 アリアはしばらく黙って俺の顔とカードを交互に見つめていた。値踏みされている。

 前職での苦い記憶が、彼女を慎重にさせているのが分かった。


 やがて、彼女はメガネの奥の目を丸くし、それからフッと口元を緩めた

。

「……面白いですね。その口車に乗りますね。採用していただけるなら、一銅貨の狂いもなく管理してみせますよ」


「ああ、頼んだ。――ちなみに、給金は歩合制も混ぜたい。店が儲かれば、お前の取り分も増える」


「そ、それは願ってもない条件ですが、本当によろしいのですか? まだ売上の見込みも立っていない段階で……」


「お前が不正のない帳簿をつけてくれるなら、安い投資だ」


 こうして、カードショップ『トレカ・スタジオ』の店長兼・実務責任者として、アリアが仲間に加わった。


 開店前夜、二人で看板の文字を磨きながら、アリアがぽつりと呟いた。


「……ジン様。正直に申し上げますと、前の職場を追われたとき、私はもう二度と誰かの帳簿を預かる仕事はできないと思っていました」


「そうか」


「ですが、今は不思議と怖くありません。……あなたの帳簿なら、嘘がないと分かるからかもしれません」

 俺は看板を磨く手を止めずに、短く答えた。


「嘘のない帳簿は、お前が作るんだよ、アリア」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


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