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ギルドとの交渉(後編)

 ギルドの地下倉庫に通された俺の目の前に広がっていたのは、木箱に山盛りにされた膨大な量のカードの山だった。


 「ここにあるのは、ここ数ヶ月で集まった処分対象のカードです。薄暗くて埃っぽいですが、自由に見てくださいね」


 「助かります、フラウさん。少し集中して選びたいので、終わったら声をかけますね」


 「はい! ごゆっくりどうぞ!」


 フラウが倉庫の重い扉を閉め、足音が遠ざかっていくのを確認すると、俺は目の前のカードの山に向き合った。


「……よし。カードの査定開始だ」


 前世で15年間、毎日何千枚ものカードを査定し続けていた俺の指先と眼光が覚醒する。


 カードの束を握り、指先で高速で弾きながら、紙の質、厚み、そして表面の「光の反射」を一瞬で見極めていく。


(ノーマル……ノーマル……ノーマル……コノーマル……)


 全体の99%は、『ホーンラビット』、『スライム』、『プチゴブリン』といった、ただのノーマルカードだ。


 これらのカードは、大量に手に入るので、大した価値はない。

 ただ、子どもたち向けに「カード収集遊びを流行らせる」と説明した以上、まとまった枚数のカードを買い取らないと、怪しまれてしまうので、数百枚は買い取ろう。


 そして、俺が探している本命は、その膨大なカードの中に紛れ込んでいる「珍しいカード」  


 ーーすなわち、上位モンスターを倒した腕利き冒険者が価値を知らずに捨てたホログラム加工や箔押しが施されたレアカード、そして特殊なグラフィックが描かれた「ノーマルレア」だ!


(ノーマル……ノーマル……――ん!?)


 俺の指がピタリと止まった。


 山の一角、スライムのカードの間に挟まれていた1枚。


 紙の表面に、かすかにだが重厚な金属質の光沢が走っている。


 取り出して、ランプの光の下で角度を変えてみる。


 描かれているのは、漆黒の重甲殻を纏った巨大な鋏を持つ蟹――『鉄甲蟹(アイアンクラッド)』。


 (……見つけた!!)


 ノーマルカードのザラついた表面とは明らかに違う。二重のコーティング処理と、甲殻部分に施された微細な銀箔押し。間違いなく、レアカードだ。


 『鉄甲蟹』は、ダンジョン五層以降に現れる強敵で、並の剣撃を弾き返す圧倒的な防御力を誇る。中級冒険者が討伐証明として提出した後、ギルドの査定係が「ただのカード」としてここに放り込んだのだろう。

 

 さらに、査定を進めていた俺の目が、もう一枚の「奇妙なカード」に釘付けになった。


 (な……なんだ、このカードは……!?)


 手に取ったのは、どこにでもいるモンスター『粘液スライム』のカードだった。


 しかし、ノーマルカードとは明らかに異なっていた。


 通常なら白い余白があるはずのカード枠全体に、鬱蒼とした沼地の背景と、妖しく紫色に発光するスライムの全身画が全面(フルアート)で描かれている。


 「これが子どもたち以前言っていた『ノーマルレア』なのか!」


 カードの表面を指でなぞると、細かな文字のような感覚が感じ取れた。


(……読める! 前世の知識とこの世界の言語が重なって、効果が読み取れるぞ……!)


 そこには、こう記されていた。


【粘液スライム(フルアート仕様)】

【特殊効果:毒胞子分泌】破壊時に周囲の対象へ『継続毒ダメージ』を付与する。

【属性付与:毒】攻撃対象に『毒効果』を付与する。


「……ビンゴだ!!」


 俺は思わず暗い倉庫内で拳を握りしめた。


 ただのカードの中に、明確な【特殊能力】を持ったレアカードが存在していたのだ!


 もし、このカードを使用すれば、通常の何倍もの戦術的優位(アドバンテージ)を確保できる。


 その後も集中して査定を続け、約2時間の捜索で以下の成果を得た。


買い取りカード:約500枚(銅貨5枚分)


内訳

●レアカード(ホログラム加工・箔押し):2枚『鉄甲蟹』、及び『オーガ・ウォリアー』


●フルアート仕様のカード(ノーマルレア):3枚(『粘液スライム』、『疾風ウサギ』、『暗視コウモリ』)


 合計で銅貨5枚というわずかな出費で、俺は強力なカードと、特殊能力を持つノーマルレア、そして今後の販売・実験用の大量のノーマルカードを手に入れたのだ。


 倉庫を出て、受付で会計を済ませた俺に、フラウが感心したように声をかけてきた。


 「本当にそんなにたくさん持っていくんですね! 木箱が重そうですが、大丈夫ですか?」


 「ええ、なんとか持てます。街の子供たちに見せたら、間違いなく大興奮して目を輝かせるはずですよ」


 俺は爽やかに笑いながら、去り際に振り返って言った。


 「あ、そうだフラウさん。近いうちに、村の外れの路地裏で小さな店舗を借りようと思っておりまして。冒険者の方々から、個人で不要になったカードを買い取る『買取ショップ』を開くつもりなんです。もしカードの処分に困っている冒険者さんがいたら、ぜひ紹介してください」


 「えっ、ギルド以外からも買い取るんですか? わかりました! 掲示板の端っこに案内を出しておきますね!」


 ギルドを後にした俺は、ずっしりと重いカードの入った木箱を抱え、夕暮れの街を歩いた。


 市場の原理は極めて単純だ。


 誰も価値に気づいていない間に、安価でかき集める。


 そして、トレーディングカードの適切なルールと「カード対戦(バトル)」という新しい価値を世界に提示し、爆発的なブームを作り出す。


 需要が跳ね上がった時、市場の在庫とカードの情報を独占している俺が、市場の決定権(イニシアチブ)を握る。


 「さて、次は……異世界初のトレカショップ』を作る番だな」


 夕日に染まる街並みを見下ろしながら、俺は次の戦略――カードショップの開店へと力強い一歩を踏み出したのだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


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