価値の不均衡と最初の一歩
ギルド受付のフラウがダンジョンに持っていくように勧めてくれたポーションのおかげで、ダンジョンから命からがら脱出でき、家に着くやいなや、自室のベッドへと転がり込んだ。
身体は疲れ切っていたが、ダンジョンで本物のモンスター『アルジェンタ』を召喚できたことで、俺の脳内は覚醒しきっていた。
「ふぅ……まずは、現状を整理しよう」
俺は机の上に、今日手に入れたノーマルカード数枚と、祖父の形見『双月の銀狼・アルジェンタ』を並べた。
灯りの下で並べて見比べると、その構造的な差は歴然だった。
●ホーンラビット(ノーマルカード)
紙質:前世で言うところのプラスチック素材でできたようなカードで、高級感はない。
印刷:カラー印刷された普通のトレーディングカード。キラキラしたホログラム加工はされていない。
召喚結果:手のひらサイズのウサギが出現。攻撃力・耐久力ともに皆無。
●双月の銀狼・アルジェンタ(レアリティカード)
紙質:滑らかでしなやかな手触りの高密度紙のような特殊な素材。
印刷:多重層の色彩。角度によって輝きが変わる精緻なホログラム加工。
召喚結果:本来の巨体と戦闘力を有した『実体召喚』。
この世界の人間は、カードを単なる「討伐証明の紙切れ」としてしか扱っていない。
ギルドで討伐報酬を受け取った後は、保管期間が過ぎるまで倉庫に乱雑に保管され、期限が過ぎれば、焼却処分されるか、子供たちの玩具として無料で配られる。
それはなぜか?
この世界の人間にとってカードから出るモンスターは「手のひらサイズのミニチュア」でしかなく、この経験から「カードを使って本物サイズのモンスターを召喚できる」というスキルが存在するという発想がない。
また、カード自体についても、前世のようなトレーディングカード特有の美しく描かれたカードを集めたり、交換したりする文化はなく、ましてお金を払ってまでして、カードを手に入れようとするという価値観が存在しない。
だから『双月の銀狼・アルジェンタ』のような強力なカードであっても、「ちょっと絵が綺麗なカード」として家に飾る程度で、今まで放置されていたのだ。
前世のトレーディングカードの中古市場でも構造は同じだ。
『価値を知る者』と『価値を知らない者』が存在する。つまり、『情報の非対称性』。
これこそが、ビジネスにおける利益を生む源泉となる。『価値を知る者』が、適正な価値観を世界に提示することで、市場が形成され、利益を生み出す。
「……さて、これから忙しくなるな…」
俺は引き出しの奥から、これまでに溜め込んだ銅貨と銀貨の袋を取り出し、卓上にぶちまけた。
「銀貨三枚と、銅貨八十枚……か」
15歳の駆け出し冒険者の全財産としては、お世辞にも多いとは言えない。
だが、カードが「ゴミ」として処分されているこの街なら、十分すぎる金額だ。
「まずは、冒険者ギルドが抱える『処分待ちのドロップカード』を引き取るところから始めるか!」
翌朝、俺は脇腹の痛みをかばいながら、上着を羽織ると、街の冒険者ギルドへと向かった。
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