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転生した経理女子は、また厄介な仕事を押し付けられる  作者: kkkkk


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4/10

4.ストーカー

 露店から立ちのぼる煙が茜色の光に照らされてゆらゆらと揺れていた。


「ねえ、この肉串を九本買って、銀貨三枚で支払うと、お釣りはいくら?」


 串肉をくれた男が声を弾ませた。小学生でも答えられるような問題。揶揄われているのだろうか?


「サンクニジュウシチ、だから……銅貨三枚です」

「肉串を十五本買って銀貨五枚で支払ったら?」

「ええっと……銅貨五枚です」


 男は目を丸くしてから、口元に手を当てて黙り込んだ。


 店じまいを始めた従業員が木箱を積み重ねる音が聞こえてきた。

 間違えた? 不安になったけれど、間違ってはいない。


「ねえ、僕のもとで働かないか?」


 その男はクリスと名乗った。クリスは内務省で働いていて、優秀な人材を探していた。


「いえ、結構です。串肉ありがとうございました」


 マリアは深々と頭を下げて、その場から立ち去った。この世界のことをよく知らないし、面倒ごとに巻き込まれるのは避けたかった。

 近くの商店の店員が点けた松明の灯りが揺れていた。


 **


 面倒ごとを回避できたはずだった。でも、クリスは諦めてくれなかった。

 クリスはマリアが実家の雑貨屋を手伝っていることを調べ上げ、ある平日の昼下がり、雑貨屋にやってきた。


 荷馬車の車輪の音、教会の鐘の音。のどかな午後の空気が店内に流れていた。窓から差し込む光が、木製の棚に並んだ陶器や布地を照らしていた。

 店に客がいないことを確認して、クリスはカウンターに小さい袋を置いた。


「これ、新しい焼き菓子なんだ。食べてみて」


 マリアが袋を開けると、りんごに似た匂いが店内に広がった。棚に陳列された乾燥ハーブの香りと混ざり合って、懐かしい匂いが漂った。焼き菓子の味や香りはアップルパイに似ていた。食感はずっと硬かったけれど。


「美味しい」とマリアは頬をゆるませた。クリスは笑みを浮かべて、書類をカウンターに置いた。羊皮紙の端が光で透けて見えた。


「融資の申請が二件ある。予算の関係で一件しか承認できない。どっちを承認すればいいかな?」


 客がいなくて暇だったマリアは、書類を手にした。焼き菓子をもらったお礼に、少しくらい手伝ってもいいだろう。店の奥では、母が棚の埃を払いながらマリアたちの様子を窺っていた。


 二件とも五年間の融資案件だった。うち一件は、融資額の二倍の額を五年後に期限一括返済する。もう一件は、融資額の二倍の額を五年間で均等返済する内容だった。


「こちらを承認してください」


 マリアは均等返済の書類を指差した。時間的価値を考えれば、当然の回答だった。

 ※期限一括返済の利回りは年率約15%、均等返済の利回りは年率約28%です。


「理由は?」

「先に元利金を回収するほうが、利回りが高くなるからです。利回りが高いほうを承認するべき、ですよね?」

「そうだね。その知識と才能を国のために使ってみないか?」


 クリスは声を弾ませた。


 国のためにと言われても、この世界に来たばかりのマリアに愛国心はなかった。愛想笑いするマリアに「とりあえず、週に一度だけでも来てくれないか」とクリスは頭を下げた。


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