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転生した異常者、真空術式で異世界を支配する  作者: 笑顔猫


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第15話 訓練



 ジョンを勧誘してから一ヶ月が経過した。


 奴はやはり優秀だ。

 近代経営の視点で商売を考えている。


 私の知恵と奴の発想があれば、ジョンの父の商会であるイルシアン商会を大陸一の商会にする事も容易いだろう。


 他人からのヒントも無しにマニュアルの整備という、属人化の排除の視点を持っているのは最高だ。

 これでヒイロとの役割分担が可能になった。


 ジョンは代替可能な人物を育成するため、ヒイロは代替不可な特殊な人材を発見するため、それぞれ動く事ができる。


 私のやる事は、彼らの邪魔になる存在を排除する事だ。



「なぁ? アステルとやら」


「はぁ、はぁ。勿論、おっしゃる通り、かと……」


 私は今、ジョンと相部屋の貴族の男を脅迫している最中だ。

 どうやらジョンが平民だということを知って、影でコソコソ排除しようとしているらしい。


 ジョンへ何か困っている事は無いかと聞いた時、アステルという貴族が鬱陶しい事この上ないと相談された。


 そんなもの、私が一言何か喋るだけで止まるだろう。

 簡単なものだ。


「ジョンの邪魔をするなら殺す。お前の家ごと潰す。お前の母も父も妹も、この手で八つ裂きにしてやろう。お前は最後に殺す。陛下にはお前の(はらわた)を裂いて見せつけてやろう。裏切りの末路としては結構じゃないか。死後だが、陛下に謁見できるのだからな」


「…………は、はぃ」


 跪いて私の話を聞いているアステルは、今にも泡を吹いて倒れそうだ。

 これは真空術式の影響である。


 真空術式というか、最早気圧の操作と言った方が近いだろうが。

 現在このアステル君を襲っているのは0.45気圧。


 頭痛や吐き気、呼吸困難に陥っているはずだ。

 地球で言うならば、無防備な状態でヒマラヤ山脈の頂上にいるような気圧差が生じているからな。


 魔術で対抗できるならしてみるといい。まともな思考ができるのならな。

 呼吸を封じられるというのは、痛いだろう。


 まぁ、こんなものか。


「以上だ。ジョンは私の手足である。必ず忘れることのないようにしろ」


「はっ。かしこまりました……。私の仲間にも、そうお伝えしておきます。なので、どうか……」


 懇願するように生に縋り付く。

 その姿をみっともないとは思わん。


「あぁ。貴様の名を覚えておく。アステルよ、それは良い方向にもなり得る。私の覚えを良くしておけ」


「はっ! これ以上無い幸せであります殿下!」


 これでこやつはジョンの手足にすらなるだろう。

 犬のように従えばいい。




 ◇◇




 時は変わって、授業後の運動場にて。

 私はリズベット相手に魔術の訓練をしていた。


「ヴィクトール様! それではいけません!」


「チッ。クソッ」


 高度な魔力コントロールの方法を伝授してもらっている。

 これは学院式のものだ。私は独学だったから大変非効率だったらしい。


 努力量でカバーしていたが、長時間真空術式を使っていくには必須だろう。

 前世で存在していなかった魔力という物は、なかなか扱いが難しい。


 今まで私が用いていたのは古代の魔術師が用いていた旧世代の魔力コントロールだそうだ。

 新世代の方が容易く、力強いものになる。


 その違いは、少ない魔力量で最大限威力を高めるための効率化だ。


 二の魔力で十の威力を出すより、一の魔力で六の威力を出す事を目指したものだ。

 優劣を競うものではなく、現代の術式ではこれがあっているらしい。


 私の真空術式に威力というものは存在しない。

 魔力を抑えられた方がいいに決まっている。


 だが、今までやってきた事を急に変えるのは、分かっていても難しいものだ。



 訓練が一通り終わった後、真空術式についてのレクチャーをするのがいつものパターンだ。

 私はリズベットを見放してはいないし、私の数少ない弱点になり得るのも現時点では事実である。


 多少感情的だからといって、リズベットを優秀な魔術師へ育て上げることに躊躇はない。


「つまり真空とは、先程の酸素や二酸化炭素等が一切ない、無の状況の事をいうんですね」


「そういう事だ。だが、酸素などの原子は常に動いている。何も無くなった真空状態の所に、猛烈な勢いで原子が集合するんだ」


 顎に手をやり、メモを取りながら理解に努めるリズベット。


「真空状態における爆縮の威力は一万キログラムの圧力の塊だ。もしこれを人体の内部で発生させることができれば、回避方法は極めて限られるだろう。私が想像できるものと言えば、魔術の発動から爆縮が発生する極わずかな時間で瞬間移動の魔術を使われる……とかか? そんな使い手は見た事がないがな」


「……私は、聞いた事すらありません。なるほど、これは確かにヴィクトール様が長年研究なさっている理由が分かります。体内で真空状態を作り出すこと自体が、相手にとっては致命傷になるんですね」


 リズベットは優秀な生徒だ。

 伝えた事を素早く理解し、言語化して反芻する。


 まぁ、体内ではなくとも人体の近くにある程度の規模の真空状態を発生させるだけで、身体中の内臓や骨はバキバキになる。

 術式を起動した段階で、勝ちだ。


「リズベット、お前にはこれを習得してもらう。私の妻になれるかどうかは、これにかかっている。死ぬ気で学び、習得しろ」


「はい! 望むところです」


 妖しげな笑みを携え、リズベットはそう答えた。 



 

 

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