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転生した異常者、真空術式で異世界を支配する  作者: 笑顔猫


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第13話 平民



 俺はジョン。

 ただの平民だ。


 いや、ただのと言うには少しばかり賢い方かもしれない。


 何故なら、フェルギオール帝国第一学院に通っている平民だからだ。

 現在高等部二年。特技は勉強。


 それぐらいしか特筆すべきものが無い生活を送ってきた。


 家は平民と言っても商家だ。

 商人の父のおかげで少しばかりお金に余裕がある生活をさせてくれていた。


 俺は暇な時間を見つけては勉強していた。

 理由は、他にやる事が無かったからだ。


 父の仕事である商家の手伝いをしながら、片手間で勉強するだけでもいい暇潰しになった。


 父は、俺が店の仕事を手伝うと喜んでくれた。


 勿論、販売員なんてできない。

 得意な勉強を活かして店の利益計上をしたり、客の行動分析をしていただけだ。


 どのような年齢の、どのような客が、どのような商品を買って、どのようにリピートしてくれているのか。


 それを調べるだけで父は大層褒めてくれた。


 だが、こんな物は調べた所で活用しなければ意味が無い。

 調べた上で、どの戦略がいいのか。

 どの棚にどのような商品を置いて、どの商品が客にとっての磁石になっているのか。


 俺はそれを調べ、店の利益向上に貢献できた。


 ……俺は、それだけでも良かった。

 勉強と父の手伝い、どっちが暇潰しなのか分からなかった頃、度々父は言ってきた。


「お前なら第一学院にも入れる。我が家の希望だ」


 そう言われたのは十歳の頃だから、入れるとしたら中等部からの編入になるだろう。


 試験に受かる自信はあった。

 日頃から勉強しかしてないんだ。


 貴族家や帝国の歴史、植民地の理由、属国については完璧に把握した。

 算術は父の仕事の手伝いがてら覚えたし、活用している。


 魔術の実戦試験があるかもしれないと思っていたが、中等部までは無いようだ。



「合格、か」



 当然の結果だった。

 俺にとっては当たり前の事を聞かれ、当たり前のように答えただけだからだ。


 算術に関しては満点。

 系統地理については少々問題が複雑で難しかったが、合格するには十分な点数を稼げたようだった。


 そうして、晴れてフェルギオール帝国第一学院の生徒となった。

 父は大層喜び、母の命日であるにも関わらず立派な食事を用意してお祝いをしてくれたんだ。


 飯は美味かった。


 その時は、何だか誇らしく感じたんだ。

 歴史ある第一学院の試験を難無く突破するだけで、ここまで父が喜んでくれるとは。


 それに、編入試験での点数が良かったからか、平民用に用意された特待生としての入学を認められた。

 入学金は無料、授業料は半分まで免除。

 学生寮は平民用のトップレベルである第三学生寮が確約された。


 特別待遇で入学が認められた事自体は喜ぶべきだろう。

 俺自身、悪い気分ではなかった。


 特権階級である大半の貴族よりも良い成績でスタートを切り、父は褒めてくれて、学院も俺の成績を認めてくれている。


 嬉しかったんだ。

 俺の今までの人生の努力が認められたような、そんな気がした。


 でも……。

 浮かれた気持ちで入学した俺に待っていたのは、色鮮やかな学生生活なんかじゃなかった。



 俺が第一学院で見た光景は、貴族の社交場と化した第一学院の姿だった。


 優秀そうな貴族の子息が綺麗な所作で挨拶をしていたり、将来の婚約相手と逢瀬を重ねていたり、または婚約相手を探すための人脈を広げていたり。


(何だ、これ)


 第一学院にも平民はいるが、ほとんど貴族のようなものだ。

 既に傘下に入った貴族が平民に対して命令したり、口を出したり。



 期待はずれだった。

 俺はもっと、学術的な会話がされていたり、平民と貴族が垣根無く過ごしている、平和な場所だと思っていた。


 でも、違った。


 あるのは外の世界の縮図。

 平民が特権階級の貴族に謙り、低級の貴族は大貴族の顔色を伺う。


 決まりきった世界の掟。

 覆る事の無い無駄で冗長な会話。


 そんな物が、学院で広がっていたんだ。


 俺は心底落胆した。

 勿論学院の授業自体は面白いし、平民の友達も何人かできた。

 魔術についての授業は新鮮だったし、齧り付くように机に向かった。


 でも、寮で相部屋になった相手は……。


「ジョン、何度も言っているだろう。夜十時には灯りを消すと。いつまでみっともなく机に向かっているつもりだ」


 小うるさい貴族様だった。


「……申し訳ありません」


「全く……そこまで勉強しないとついていけないとは、やはり平民はなるべくして平民になっているということか」


 俺が勉強しているのは授業についてじゃあない。

 将来父の仕事を引き継ぐための、商家の為の勉強だ。


 今どきは義理人情で営業している側面があったが、もっと理論立てて店を営業するべきだ。


 俺は、経営者自ら店頭に立つ時代に終止符を打ちたいと考えている。

 俺自身、接客が苦手というのもあるけど……従業員を教育する手順書のようなものをしっかり整備するべきだと考えている。


 今は教育者の裁量で、特に決まりも無く自由にさせられている。

 これでは個人のスキルに差が出てしまうだろう。


 どうしたら良い手順書ができるのかを毎日考えていたり、客の購入分析の雛形のようなものを作り今後に活かせないかも考えたりしていたんだ。


 決して授業についていけないから追加で復習をしている訳じゃない! 


 あの栄えある第一学院ですら、ここまで平民への差別が横行しているとは思わなかった。


 しかも、相部屋とは恐れ入る。


 でも、俺は平民だ。

 寮長に直談判など出来ないし、ましてやもっと偉い貴族様に声をかけるなどできやしない。



 悶々としながらも高等部まで進学し、商家の為のノウハウも色々考える事ができていた。


 留年する事もなく、無事に二年生を迎えることが出来そうだと分かったある日の事。

 第一学院に激震が走った。


 高等部編入試験の、史上初の満点合格だ。


 幼少の頃から机と睨めっこしていた俺ですら、高等部の編入試験はかなりレベルが高いと感じる。

 今受けても八割程度の点数が取れるかどうか、といった所だろう。


 しかも、満点合格をした人間はこのフェルギオール帝国の第三皇子様だ。


 俺にとっては天上の人だが、同じ学び舎にいる事実に少し興奮した。


 天上人である皇族が、すぐ近くで同じ事を勉強している。


 そう意識するだけでも、不思議といい気分になれた。

 しかも、満点合格者。

 第一学院に賄賂やコネなどは不可能である事から、それは本人の努力によるものだ。


 俺のことを見下していた低級貴族など、話にもならない程の絶大な権力だろう。


 勿論声など掛けられないし、近づく事すら烏滸がましい。

 だが、同じ学院にいるんだ。

 いつかは一目見て、父に伝えてあげたい。


 俺は第三皇子様を見た。

 稀代の天才努力家であらせられるヴィクトール殿下をこの目で見た、と。


 それだけでもこの学院に来てよかったと思える。


 この優越感、たまらない……。



 そんな、どうでもいい事を思っていたんだ。


 

 父のいびきが煩くて、勉強に集中できなかった夜の事などを思い出していたある日。


 学院の講堂で、授業後にいつもの様に経営について想像をふくらませていた時、事件は起きた。


 俺の人生史上、ダントツ一位で困惑した瞬間が今だ。



「ジョンよ。私の部下にならないか?」



 噂の第三皇子様が話しかけてきた。

 平民の俺に、直接。



「え、あっあの、えーと、あっあっ、はぃ……」



 そして、人生史上最も情けない返答をした。


 仕方ない。

 仕方ないだろ?


 あぁ、仕方ない。




 全くもって、仕方の無い事だ。


 

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