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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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8 つまらないものですが

よく寝た。本当によく...


私は、今まで嗅いだことがないような良い香りを感じて、鼻をひくひくと動かした。



ゆっくり目を開けると──


「あれ?ここは......」


体が浮いてないのに、重力が.......ない。



そーっと、自分の身の回りを手探りで確認してみる。


(なんなの、このふかふか!)


体験したことないんだけど、すごくあったかい。

もう一度目を閉じてしまいたい。


温かい布団が自分にかかっている。


これが布団かぁ、聞いたことはあったけど。

浮かんでないのに、沈んでない。

さらに、ベッドにいる自分自身から華やかな香りがする。


ほぇっ?自分から!


どういうこと?


目をぱちぱち瞬きして、ゆっくり起き上がるとだんだん事情が飲み込めてきた。

目の前に広がるのは、お風呂に入る前に見たふかふかのベッドがあったお部屋だ。


「お目覚めですか?眠りに入られて二日経っております。」


カレンが音も立てずにすーっと私の横に立つ。


ギョッ!!

うわぁ!いつのまに!


「.......」


こっちが驚いてもカレンは気にしないんだ。

やっぱり本当に人形なんだわ。

気配を消しているというより、生存反応がない。


「まずは、水分をお取りください。」


「は、はい」



目覚めと同時に、お盆に載せられたコップに入った水を渡され、私はそれに、おそるおそる手を伸ばした。


「んぐっ!これは?」


「失われた体液の補液です。まずはこの水分を摂り、胃が落ち着いたらゆっくり固形物に移行しましょう」


「体液の?血のことかしら?」


カレンの有無を言わせない圧に、飲みなれない甘じょっぱい水を最後までごくごく飲み干す。


口の中がカラカラだったが、液体が入り喉のひりつきが少し和らいで行く。

ふと自分の金髪が目に入った。



(やばい!見つかる!!)



一瞬そう思ったが、私ははたと気づく。


ここはもう魔女狩りをしていた世界でもなければ、ダンジョンでもないんだ。


(誰も私を探していない)


そう自分に言い聞かせてつぶやく。


そして、自動人形と知りつつも、カレンに向けて口角をぐいっと上げて笑いかけた。


「髪の色が落ちちゃいましたね。びっくりされたんじゃないですか?色が変わってしまったから...」


私は、肩から流れる髪を一房掬い上げた。

久しぶりに自分の髪の色を見た。

忌々しい金色だ。


「染める場所はありますか?その...この色、好きじゃなくて」


「染めることは可能です。しかし、髪がかなり傷んでおります。今は染められません」


カレンは、こちらの作り笑顔には反応せず、淡々と事実を述べる。

どうやら、自動人形は与えられたことは対応できるが、こちら側が感情に訴えても、「マニュアル外」の受付は不可能らしい。


もちろん、カレンに無理やり言うことを聞かすことはできる。

カレンが攻撃してくるなら、瞬時に、軽い雷を落としてもいいし、身動きできなくなるように捕縛魔法を展開してもいい。


だが、意に沿わないからと言ってそんなことをしたらダメなことは私にもわかる。


「ええと、他の皆さんはどうしたの」


会話を変えてみよう。

私は周囲を見回した。外から何か物音がしている。


「レグスタイン様とキリフ様はダンジョン踏破と消失の連絡のため、枢機院に。グレン様とヘンケル様は、デボラ様の買い出しに。バイン様は、ここで皆様の食事を用意しておられます」


それを聞き、真っ青になった。

居候の身でありながら、寝込む前に嘔吐して、風呂を占領し、ベッドで図々しくも眠って、買い出しまで!


「や、やばい!私も何かします。」


ベッドから飛び出て、カレンの声の自分を呼ぶ声を振り切り部屋から外に出る。


いい匂いは自分からもするが、外の部屋からもしていた。

食べ物の匂いだ。


「バインさん!すいません。寝てしまって」


「うわぁああ!デボラ!起きたの?大丈夫?ええと、もう少ししたら服も買ってくる予定だからそこに座ってて」


大きな体のバインが慌てて、料理道具を手にしたまま駆け寄ってくる。

歳は私と同じぐらいだろうか?

この間は、バタバタしてじっくり観察もできなかったが、他のメンバーに比べると、行動は可愛い弟分的な感じだ。


服??


見れば自分は、ダボダボの男物の服を着ていて、袖も裾も余って、まるで幽霊だ。

眠ってしまったので、カレンが着せてくれたのだろう。


「だ、大丈夫です。ごめんなさい。お風呂に入っている間に、眠り込んでしまって。あ、あの突然きて、滞在費のご相談もしてなくて......」


服や日用品まで買ってきてくれるというと、流石に申し訳ない。

私の持っているもので物々交換出来るものはあるだろうか?


「あ、あの.......遅ればせながらですが!つまらないものですけど皆さんで食べてください」


私は空間バッグを開ける。


せめて食材ぐらい提供しなくては。


みんなで食べてもらうのに、喜ばれそうなものは.......


みんな男性で、しっかりした体つきをした人が多いから、肉がいいかもしれない。


私はうんと頷きながら、300年前の解体しておいた肉を思い浮かべた。

瞬間保存してくれるからお腹は壊さないはず。


「下層250階のボス、ドラグラディアスドラゴンの背肉です。」


これは、赤身に適度なサシも入りなかなか脂がなって美味いはずだ。

ボスだから滅多にみることもないし、渡されて嫌な顔をするものはいないだろう。



空間バッグから、ヨイショっと軽い浮遊魔法をかけながら机の上に置く。



ドカン!!



あっ、やっぱり大きすぎたかしら?

スライスしてないし、1000キロはあるものね。

肉で、バインの姿も隠れてしまった。


「一人のダンジョンでは、のんびり食べることもないし、大きさ的に、ダンジョンで切るのは難しかったので空間バッグに入れてました。時を止めて保存したので腐ってません。安心して、ステーキにしていただければと思います」


私は、肉の向こうにいるバインにそう声かけする。

だが......バインの返答はない。


「バイン......さん?」


ひょこっと肉の横から顔を出すと、目の前のバインが腰を抜かしている。


「ええっ!バインさんどうしたんですか!」


「あ......あのね、デボラ!どうしよう。見なかったことにしたいぐらい、色々おかしなところありすぎて。ツッコミどころ満載なんだけど」


ツッコミどころ??

何かしら?


ああっ!

やっぱり300年前の肉を渡すなんて衛生上失礼だったかしら。


私は真っ青になる。


「すいません。喜んでもらえるかと......食べ物だと最近のものがなくて。な、なにか金目のもの。ええと!ああそうだ!ブラックコウモリの魔石が貴重なら、ドラグラディアスドラゴンの魔石も貴重にはならないかしら。私にとってはこっちの方が珍しかったんです。これなら、ご挨拶に適切でしょうか?」


ドラグラディアスドラゴンは、黒竜よりは小さいが、部屋の半分を使って暴れるぐらいの凶暴さと大きさを持つ。


最終的には氷結魔法で、足元を瞬間冷凍させた後、雷を落として気絶させ、切断したのだ。

ドラグラディアスドラゴン自体かなりの大きさなので魔石も漬物石サイズだった。


しかも、血が滴りそうなほど真っ赤で心臓の拍動が今でも聞こえてきそうなハート型の魔石だ。


これなら、失礼がないかもしれない。


「食べられないですけど、ダンジョンでは結構珍しい大きさの魔石だったんですよ」


私は再び空間バッグから、真っ赤に光るドラグラディアスドラゴンの魔石を床にドンと置いた。



だが──



「うわああああああああ!デボラ!もうだめだ。どうしてそれを手に入れたのかとか、見ないふりも聞かないフリもできない!許して!!」



なぜか、バインは手を前に突き出して振りながら、半泣きで私に縋り付いてきた。


そこに......


「ただいまぁって、デボラ起きたのか!!」


「なんだ!おい!バイン!!なんだこれは!!」


玄関から、両手に大量の荷物を持って入ってきたヘンケルとグレンが


ボトリ


荷物を落とす音がする。


それと同時に、女性用の化粧品の瓶や衣服、ブラシなど色々な小物が床に散らばる。


しばらく、口に出してはいけないと言わんばかりの静寂が流れる中で、音もなく静かにカレンが現れた。


「おかえりなさいませ。グレン様、ヘンケル様。帰って早々散らかすのはおやめください。

あら?いつのまにか大きなお肉がありますが、本日の食材でしょうか?どのようにカットされますか?」


出迎えたカレンが、首を傾げて、机の上の大きなドラグラディアスドラゴンのお肉をしげしげと見つめて話す。


この場で相変わらず、何事にも動じないのはやはり、自動人形のカレンだった。


メイド服のどこからともなく家庭用包丁を取り出し、その手に肉を前に直角に握りしめた。










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