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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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7 【サイド】魔女と5人の男たち

「洗ったら気を失ったので、サイズの合わない服を着せてベッドに寝かせました」


そうカレンから報告を受けて、5人は慌てて立ち上がった。

どうして300年ぶりにゆっくり休んでもらおうと思ったのに、気を失ってしまったんだ。



嘔吐に続き、気絶ときて黒竜の怒りを買わなければいいが。



5人は一斉に青ざめ、気を失ったデボラの元に集まり、再び唖然とした。


「コレ??誰?」


ヘンケルが呆然とつぶやく。

目の前には、先ほどのデボラと人を入れ替えたのか?と疑うぐらい、別人の女の子が眠っている。


「どうしてあの子がこの子になったんだ??」


理屈に合わない問いだと自覚しながらも、言葉を漏らさずにはいられない。

更に、カレンによって洗われた時に使われたと思われる石鹸や香油の香りに、彼女が先ほどまで纏っていた野生の香りを完全に上書きしていた。


髪をかきあげ、訳がわからないと頭を抱えるレグスタイン。


「レグ、やばいよ。本当に女の子が我が家に来ちゃったよ」


心配が通り過ぎて、思わず、間近で見る年頃の女の子にバインは、眠っている白雪姫をみた小びとのような顔でデボラの寝顔を覗き込んだ。


「痩せて、肌の色すらわからないような感じだったのに、真っ白な肌だったんだねぇ」


「いや、日にあたってなかったからだろう。しかも、嘔吐してたし、気も失って土気色になっちゃったんだよ。これは、白でも青白いってやつだ」


ヘンケルとキリフも、いろんな方向からデボラを見ながら、痛ましいものを見るかのように目を細めてつぶやいていた。


「髪はどうした?こんな色じゃなかっただろう」


レグスタインは、やはりデボラの変わってしまった姿に動揺を隠せない。


ほんとにデボラだよな?とカレンに何度も確認するが、


「デボラ様で間違いありません」


とにべもなく言われてしまう。


「だけど、くすんだ茶のような色だったよな?なぜきれいなブロンドに変身するんだ?」


「先ほどお風呂のお湯を見たら、茶色に濁っていた。汚れもあるが、それとは違うようだ。おそらくだが、植物の染料で頭を染めていたんじゃないか?」


デボラの疑問の解決のため、驚く4人を置いて、グレンだけはデボラの様子や脱いだ衣服、茶色に変わったお風呂の湯を確認して色々調べ回っていた。


脱いだ衣服の確認なんて、本来なら変質者扱いだが、この変貌ぶりを前にして誰も何も言わなかった。


「金髪なんて魔女狩りの最中目立って仕方なかったはずだ。とにかく肌や髪も、わざと汚して過ごしたんだろうな」


グレンのその言葉を聞き、みんな黙り込む。


「カレン、デボラは何かお前に過去のことを話してなかったか?」


「いえ、ベッドで眠ったことがないような口ぶりで、姫のようだと喜んで話しておられました。

ですが、汚れた自分が寝るのは良くないのではないかと言われるのでお風呂を準備いたしました。

あとは、自動人形の役割を聞かれたのでお答えしました。」


動揺していないのは、自動人形のカレンだけだ。



ヘンケルもグレンの様子を見て、気を取り直す。


ヘンケルは諜報活動が特技だ。

デボラの手に触れて脈をみたり、肌や指の辺り、何か彼女のことがわかるものがないかを見ていく。

デボラの指先は、指先は冷たく驚くほど細い。



だが、ある一点でヘンケルの目が止まった。



あるはずの硬い爪の感触がない。

思わず、その見た目が痛ましく、触れるのも躊躇する。


その皮膚は、こんもりと生々しい皮膚がそのまま剥き出しになっており、「ちょっと見てみろ」とみんなを手招きをする。


そばにいたキリフもデボラに近づくが、ヘンケルの指差す方向を見て、思わず二度見して顔をしかめた。


「爪が......全部剥がされている」


「ええっ!」


他のメンバーの顔にも動揺が走る。

見れば、明らかに爪がなく、淡いピンクの痕跡だけか残っていた。


みんなそれをみて黙り込む。


「......魔女狩りは残虐だったとは聞くが.....おぞましいな」


ようやく、キリフは吐く息に任せたように言葉を紡ぎ出す。


「そこまで人は邪悪なものに残酷になれるということだ」


ヘンケルも、デボラが助かってくれて良かったと胸を撫で下ろした。


もし300年前の皇帝が魔力を持って産まれていたら、おそらく「魔力至上主義」になって、またこの国の未来も変わっていたかもしれない。


「結局、みんな、自分が持たないものを人が持つことが恐怖で、女に負けるかもしれないという矮小なプライドが、人をそこまで残酷にさせたんだろうな」


「男の風上にもおけない。そんな暗黒時代だから、時代は長くは続かず、みんな神頼みになっていったんだよ」



魔力を高く持つ女がいなくなり、魔力を宿す男もほとんど産まれず、やがて男性の魔力に頼る時代は衰退していった。


そうなると、300年の間に、人心を掌握し、力を持ったのは神を崇める聖職者たちだ。


そして、その聖職者を支援したのは、かつて皇帝を支援していたはずの、この国で少ない魔力を受け継ぐ貴族たちだ。


彼らは、魔力を持たない皇帝から、聖職者という新たな権威に鞍替えしたに過ぎない。


結局、何が変わったか?


支配の形が変わっただけだ。


本質は変わらない。


「彼女のような被害者がたくさんいたんだろうな」


最後の生き証人か。


グレンも自分が魔法使いということもあり、時代が違えば、自分がその立場でもおかしくないのだと感じていた。


「ダンジョン制覇を、枢機院に報告するんだろう?デボラのことをどう説明する?連れて行くのはかわいそうだよ。彼らの餌食にされそうだ」


神官のキリフですら、聖職者への接触や情報を出すことを拒み、レグスタインに意見を求めてきた。


ヘンケルも困ったように、デボラの観察を終えてみんなに説明した。


「黒竜の時と同じなんだ。力を推し量れない。黒竜の加護を受けているせいかもしれない。ただ、本人が高い魔力を持っていたことを認めているし、お偉方からしたら彼女の価値は貴重だろうね。あの黒竜に守られた魔力の高い女となれば、縁繋ぎで済めばいいが、下手をすると繁殖馬扱いだ」


レグスタインは、考えを巡らせながら、うーんと唸っていた。


「黒竜が彼女の面倒を見ろというのはそういうことなんだろうな。この世の彼女を狙うものから守れと。その代わり俺たちの命は見逃してやるってことだったんだろう。

それなら、デボラの身分は買うことにして、ギルド登録したら、俺たちのパーティーメンバーに加えよう」


「パーティーに入れたら余計目立たないか?」


バインは心配そうに片眉を下げて、再びデボラを見下ろした。


「そうは言っても、いない時にデボラをこの家に一人にする方が危ないだろう」


レグスタインも、本当ならデボラを外に連れ回すのは避けたかった。

だが、本来、ここにいる5人は普段は一緒に行動しない。

それぞれに個々の仕事をしている。


一緒に活動する時は、魔物討伐や、依頼を受けた時、ダンジョンに潜る時でこの家は拠点のようなものだった。


「パーティーでは何の役にするんだ?」


「弓とかは?うちは剣と斧、杖に盾だろう?」


「空中戦に必要だったので雇いましたと言えばなんとかだろう。それよりもだ!」



レグスタインは、もう一つの心配事があった。

それを伝えるために、みんなの顔を見回す。


「一番危険なのは俺たちじゃないか?この中で、女性耐性のあるやついないよな?」


その声に、みんなの行動は止まり、デボラを見ていた5人の目は泳ぐ。


意外にも5人とも潔癖。

夢見る夢男だ。


感染症を恐れて、外で女性を買うことはしない。


一途に一人の女性と付き合いたいと思っているのに、寄ってくる女性たちに声をかけると遊びと誤解される。


もしくは、長続きしない。


野郎ばかりのパーティーで、慣れきって気の利いたことも言えない。

任務から帰ったら彼女が結婚していたパターンもあった。



「ダメだ。危なすぎる。俺、こんな子に次に微笑まれたら、恋に落ちる自信がある」


「俺もだ。抱き上げたらお前らと違って柔らかったんだよ。触れたくなったらどうする?」


「私は年齢的に範囲ではないが...こんな娘がいたらほしい」


「ブラックコウモリの魔石よりも、俺たちに迷惑かけないことを優先しようとするあの神々しさと優しさ。心を奪われない方がおかしい!」


みんな真っ青な顔をして、叫び声を上げる。


「一番やばいのは俺たちだ!いいな!抜け駆け禁止。触れ合い禁止。アピール禁止だ!」



そう叫ぶ声が室内に響き、デボラが「うーん...」と寝返りをうつとみんなの行動がピタッと止まり、口を一斉に押さえる。


「し、静かに......だな」


デボラの再び寝息が聞こえ、それと同時に5人は鼻息をふーっと吐き出す。


「黒竜との誓いを果たすぞ」


5人は、目を合わせてうんうんと頷きあった。


















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