75 【レグ視点】本当の狙いは誰だ?
俺─レグスタインはこれからデボラに起こることなど、想像もしておらず、絨毯に乗り、みんなに声をかけていた。
「みんな、武器は持ったか?」
「OK!カレンに留守を任せたのは失敗だったな。ソフィアと違って戦闘系じゃないから、すぐに押さえ込まれてしまう」
キリフも、渋い顔をしている。
いつも依頼をこなすため留守にしたり、冒険に出ている間は、自動人形のカレンに留守を任せてきた。
家のセキュリティはしっかりしているし、今までなら、一番高価なものは自動人形であるカレンそのものだったからだ。
ただ、今回は、いつもと違って大量の魔石があるので、失念していた。
デボラの狂った常識に俺たちも侵されていたのだろう。
魔石は高価だ。
強盗の可能性もあるし、その量も普通ではない。
家に5トンの魔石があれば話は違う。
もちろん強盗とは言い切れない。
いや、むしろそうではない可能性が高いと思っていた。
ヘンケルやバインの家族が何度か問い合わせに来ているといっていたから、どちらというとこっちのトラブルの可能性の方が高い。
ただ、カレンがSOSを出すということは、相当切羽詰まった何かが起きているということだ。
ギルド長の家から拠点までは、そこまでの時間はかからないので、絨毯で飛べば、すぐ到着できた。
「ドアが開いたままだ!」
俺たちは、絨毯から飛び降り、すぐ武器を構えて家の中に飛び込む。
だが、予想外の家の状況に、俺たちの行動は止まり、目の前に広がる景色に唖然としていた。
「父上?」
俺の家だけじゃない。
ヘンケル、バイン、グレンの両親まで、家の床に色とりどりの魔石が大量に広がり、そこに這いつくばりながら、物色している。
その魔石の量の凄さもだが、綺麗な洋服を着た彼らが、当然のように、他人の家にある魔石をかき集める異様さに思わず眉をひそめる。
「おい、これすごい魔石じゃないか?この取り分は?5等分だとしても各家に相当配分があるじゃないか」
「これとか、大きい魔石ですよ。ただ、みんなで5等分じゃ困ります」
俺たちが、入ってきても目線を少し向けるだけで、ポケットやカバンに詰め込もうとする。
さらに、部屋の端に動くものがある。
「カレンです!」
ソフィアが助けにいくと、カレンをぐるぐるに巻いて、大きな袋に入れて、紐で括り、部屋の端に放置していた。
「大丈夫?」
ソフィアが急いで、縄を切り、カレンを袋から出して自由にさせる。
服が破れたり、変な方向に腕が曲がっている。
強い力で、カレンを押さえ込んだことがわかる。
「お前たち、何をしているんだ!父上、これは、俺たちの命の恩人のもので、俺たちのものではない。それに、この家には誰にも入らせないようにカレンにも伝えていたはずだが?」
そう言って、俺は魔石に這いつくばる自分の父親の襟を掴み上げる。
父親の臭い息が近くにやってきて、顔を逸らしたくなるが、それ以上に許せない気持ちが高い。
父親は、「親に向かってお前はなにをするんだ!」と、暴れたが冒険者S級の俺に叶うわけもなく、うごうごと動いては睨みつけるだけだ。
「なんで、貴族の私たちが、お前の人形にへりくだらなければならない?入れろと言うのに言うことを聞かないから、邪魔をしないように処理しただけだ!」
「はあっ?」
分かっていたが、俺の父親は、そういう奴だ。
愛しているのは後妻であっても、それ以上に、貴族という身分とその特権階級にいる自分を愛している。
人形や身分の低いものを見下し、物のように扱う。
だから同時に、政略結婚もしたし、貴族のステイタスである魔力を持つ息子が捨てられない。
弱いものに強く出る。
俺の一番嫌いな人種だ。
「その人形に指示しているのは、この家の主人である俺たちだ。もう一度言う。これは、お前たちの息子の命の恩人のものだ。俺たちは、ただ、預かっているにすぎない。もちろんお前たちが勝手に触る権利もないし、勝手にここに入ったり、人形に危害を加える理由にはならない」
俺は怒りを抑えきれず、出ていけと態度で示すために魔石の前に立ち、魔石をかき集めていた奴ら全員を無理やり引き剥がす。
俺たち全員、魔石の前に立ち、彼らを近づけさせない盾となる。
「なんてこと!暴行罪で訴えるわよ」
無理矢理引き剥がされ、俺に力づくで移動させられたバインの戸籍上の母親が、魔石を握りしめたまま怒鳴る。
「命の恩人って、あのプラチナカードを持った怪しげな女のことだろう?調べたら貧民出身というじゃないか?これだって、盗んでかき集めたものかもしれないだろう?そいつの証拠というのがどこにある?」
ヘンケルの父親も、恨めしそうに魔石を見つめ、それは俺たちのものだと言う姿勢を崩さない。
仮にデボラのものではなかったとして、なぜお前たちのものになるんだ?
その思考回路に吐き気がする。
その時、その様子を見て埒があかないと判断したギルド長が、自己紹介をした後に、目の前のハイエナに宣言した。
「私は、デボラ=マッケンジーの力量や聞き取りから真贋も含めて本人のものと判断して、彼女の資産は売買も含めて、管理を任されている。もちろん、貴殿たちのものではない。まずそこから離れてもらおう。ああ、もし一つでもポケットに間違えて入っていたら窃盗で引き渡す。離れろ」
ギルド長は、枢機院と張る組織の長だ。
しかも、貴族の支配が入らない組織だ。
ギルドというのは、彼らが頭を下げて、その中で、領地経営に必要なものや、自分の虚栄を満たすために、必要なものを準備してくれる組織なのだ。
時には、金を貸してくれることもある。
ギルド長の機嫌を損ねたら、この国で生きていけない。
俺たちの親が敵う相手ではない。
魔石に群がっていた奴らは、顔色を変えて、ポケットから魔石を返す。
「ソフィア、カレン、彼らの全身をチェックしろ」
ギルド長が冷たい視線を彼らに示し、目線で行けと指示する。
「な、なにを!」
「そんな!息子たちの家に顔を出しただけよ!」
彼らは、怒り狂う気持ちを抑えられないが、ポケットや靴の中から小さな魔石がポロポロでてくる。
情けない。これが貴族かよ。
俺は、浅ましい親たちをみて、情けなさと悔しさが混じり、嫌悪する気持ちで一杯になった。
「父上、あなたには廃嫡届けを出すつもりだった。これを最後に、縁を切らせて頂きたい」
俺は、父親の顔を睨みつけて言い放った。
「何を!」
「息子の知人のものを勝手に盗もうとする段階で、十分縁切りする要素はあるだろう。愛する妻と残った子供をかわいがってやれ。そうすれば窃盗は見逃してやる」
その俺の姿に、ヘンケルとバイン、グレンも同調する。
「俺も同意だ。勝手な時にだけ親の顔をするな。死んだと思われていた俺がダンジョンで生きて帰っても、なんの音沙汰もなかったのに、アレンより力があるプラチナカード持ちが仲間になった途端手のひらを返して一気に寄り付いてきやがって。愛人の子供を含めて、残り9人にでも少しでも愛情をかけてやったらいい」
ヘンケルは、拳を震わせながら怒りを抑え込もうとしている。
俺には、勝手な時だけ親の顔をするヘンケルの怒りがわかっていた。
「はん、ドマイン教の総長ともトラブルになったような女とつるんでいるんだろう。ドマイン教から連絡が入ったんだよ。女が息子の力を奪い取ろうとしているってな。息子の心配をして、ここまでやってきたんだろう?」
グレンの両親も、全く反省していない。
彼らの家は代々魔法使いを輩出する名家なので、一応気になってそんなガセに踊らされてやってきたら、目の前の魔石に目がくらんだと言うパターンか……
ん?
ガセに踊らされて?
「ちょっと待て!だれからそんなガセを入れられた?」
おかしい。
突然なんでみんな同じ時刻、同じ場所に、一斉に集まっているんだ?
ドマイン教から連絡って言っても、アレンを預かっていることも、魔力が回復したことも知らないはずだ。
アレンの力を奪ったことによる逆恨みか?
いや、逆恨みするほどアレンを溺愛しているなら、魔力がないからって、なくなった即日に解雇して、10歳児を追放するもんか。
俺は、偶然では片付かない様子に胸騒ぎがする。
なんだ?
この嫌な予感は?
「うちも、ドマイン教の幹部から連絡をもらったぞ。アレン総長は、実は、そのプラチナの女から力を吸い取られたのだと。そして、お前たちの財産や息子をたぶらかそうとしているから急いで拠点にある財産を確保しろと言われたんだ」
俺の父親が、そういって自分たちの行動を再び正当化しようと動き始める。
そこを、「黙れ!」とギルド長が、一喝する。
「私の話を聞かなかったのか?彼女は私の管理下にある。私が彼女がプラチナカードだと認めたのは、アレンと出会う前だ。
アレンの力を吸い取らなくても、それだけの能力を認めている。それとも、私がプラチナカードに値すると認めた彼女の力を疑う理由を聞こうじゃないか?」
再びギルド長は睨みつけて、ふっと息を吐いた。
そして、俺たち5人を見つめる。
「お前たち、実家と縁を切りたいと言ったな?」
「ちょっと待ってくれ、俺はまだ兄と話を何もしていない。」
キリフは、部屋の端で、ポツンと立ったまま何もしない男に目線を送った。
魔石をかき集めていたみんなをただ見つめるのみ、カレンが乱暴されても遠くから見て止めることさえできない、それがキリフの兄だった。
「すまない。みんなの勢いがすごくて、何もできなかった」
そう肩を落とす男は、キリフの兄のレイルと名乗った。
悪い人ではないが、事なかれ主義でキリフが枢機院の代表には向かないと言っていた理由がわかる。
何もしないやつが善なのか悪なのか、こんなやつが枢機院の代表になるのかと思うと、腹立たしくもなるが、本人もなりたくてなった雰囲気ではない。
まさに担ぎ上げられたのだろう。
困ったようにキリフに言葉をかけた。
「私はキリフから手紙の返信をしようと思ったら、丁度、ドマイン教のポンセというアレン総長の父親から連絡をもらったんだ。
アレン総長の力を失わせるきっかけになった女性が、キリフと懇意にしているから心配だと聞いてな」
「はっ?俺が?」
キリフは、家族が自分とデボラを引っ付けようとする可能性を考えていたが、まさかアレンの父親が自分とデボラを引っ付けようと考えているとは思わず、唖然とする。
「私は、クストス教の代表として枢機院の一員になることが決定した。それだったら一度どんな女性か会ってみようと思ったんだ。ポンセから今日のこの時間ならいると言われて……」
俺たちは一斉に顔を見合わせた。
俺の父親には、デボラが俺をたぶらかしたと言い、キリフの兄には、デボラとキリフが懇意だと言う。
100%嘘と言い切れないのは、俺はデボラを愛していて、デボラはキリフにいろんな相談をする関係というところだが……
見た視点が変われば、たぶらかされた、懇意にしていると表現する人もいるかもしれない。
俺とキリフはお互い気持ち悪さを感じて目線で合図をする。
これはおかしい。
誰かが、歪んだ情報を流している。
その時──
ギルド長がいらいらしたように大声を上げた。
「おい、ここにいる奴ら、そこにある魔石の一部をやってもいい。ただし、ここにいる息子たちと縁を切ると言う条件だ。廃嫡届を出して、廃嫡が完了すればやるがどうする?」
目の前の親たちは目を彷徨わせる。
「い、一部ってどのくらいですの?大事な息子ですもの。そんな、はしたでは息子が望んでも縁は切れませんわ」
バインの母親が、いやらしい目でこちらに微笑む。
クソが!
そう怒鳴りたくなる。
「お前たちが、最大限、抱えきれるだけだ」
ギルド長は冷たく言い放つと、目の前のレイル以外の全員が目の色を変えて、俺のものだ、私のものよと再び床に這いつくばりながら、かき集め始める。
俺は、それが自分の親で、貴族だということに、怒りと恥ずかしさと情けなさしか生まれなかった。
そして、こんな悪意のある話に巻き込み、持っていた魔石を明け渡すことになり、デボラに申し訳ない……
はっ!
そうだ!デボラは?
なんか、明らかにデボラに対しての攻撃がすぎる。
「ギルド長!もしかして狙いは、デボラか?」
「その可能性が高い。ただ、誰がやってきても、ユリアは絶対に俺が帰るまではドアは開けないはずだ。本人もそう言っていたし、外からは俺の魔力以外は開かない。ただ……」
目の前に、親やレイルがいるので、デボラやアレンの話は出来ない。
「キリフ、ここは任していいか?やつらの親からちゃんと廃嫡届をもらって、枢機院のレイルの印をもらえ。それでこいつらとはおさらばだ」
ギルド長にも焦りが見える。
俺と考えていることは同じだ。
内側からは部屋の鍵は開けられる。
デボラ、もしくはアレンが開ける可能性がないとはいえない。
「いそげ!戻るぞ」
俺はキリフにその場をまかせて、急いで絨毯に飛び乗る。
無事でいてくれよ!
デボラ!
だが、ついた先は、ドアの外に続く血の足跡と、血の鉄の匂いが充満していた。
その血の海で、虫の息のアレンと毒にうめくユリアが残され、デボラは、吐いたと思われる血を残していなくなっている。
「デボラ!どこだ!!」
「ユリア!しっかりしろ!すぐ治るからな!」
俺とギルド長の叫びが交差する。
俺は焦ってただ、部屋にいないデボラを求めて叫び続けるしかなかった。
明日は2回更新予定です。




