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【完結】死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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74 離れていくのは私

部屋は、かつて私が幻惑蝶と戦ったユリアの部屋だ。


派手な見た目とは異なり、可愛らしい少女のような装飾で、ピンクの花柄の壁紙に変わっている。



「ふふっ、冒険者をしていたからその反動ね。本当は可愛いものが好きだったんだけど、ジークは若い頃からモテたし、キリフは落ち着きがあるでしょ。だから、背伸びして派手な服や格好ばかりしていたんだけどね。あなたのおかげで生き延びたからちょっと本来好きなものに正直になってみたの」


そう言われて、私は納得したように頷く。



あの頃に比べると、療養のために中心にあったベッドは隅にいき、日中くつろいで過ごすソファや応接セットは、可愛らしいレースのクッションや小さなぬいぐるみが置かれている。



「ねぇ、デボラ、お茶入れてくれる?」


ユリアは、お湯を持ち運ぶのはまだ怖いのよと語る。



だが、申し訳ないことにこんなきちんとした食器でお茶なんて淹れたことがない。



「お茶……すいません。水しか出したことがなくて、いえ、お湯も魔法で出せるんです。ただ、自分でお茶を入れたことがないです。薬なら……」


その返答は、不合格だったらしい。



「ああ、もういいわ。ソフィアに言ってちゃんとお茶ぐらい入れられるように伝えとくから教えてもらって」


「はい……」


ユリアは一気に険しい表情になり、先ほどの上機嫌はどこへやら、私を睨みつける。



彼女の辞書に「できない」はないのだ。



でも、入れることはできても、飲めるものにならないわよ。

茶葉の量すらわからないわ。



私は心の中で悲鳴をあげる。


ソフィアさんもカレンさんのところに行っているから、身の回りをする人がいないのだわ



私は、どうしようと目線を彷徨わせる。




「デボラ……俺でもお茶を淹れることぐらいできるぞ」


アレンは、ため息をつきながら、ワゴンに置かれたポットと茶葉を見て近寄っていく。


「そこに座っていたくれ。すぐに入れて持っていくから」


「わ、わかったわ。アレンはすごいのね。10歳なのに、魔法も使えるし、お茶も淹れられるのだわ」


そう言う私をじろっと見て、「何を言い出すかと思ったら」と呟く。


「デボラはたくさん魔法が使えるだろう。そっちの方がすごいよ。俺、今日のハイポーションの作り方、もっと学びたかったな」


アレンはがっかりしたように、私を見つめる。




本当に魔法が大好きな少年なのね。


私は、そんなアレンの姿を微笑ましく見る。


でも、今日のアレンは、調合できなかったことが本当に悲しそうに見えたわ。


達観したような、諦めたような……




今日がダメなら明日やればいいのよ。


アレンは、温かい食事も食べたことがないといっていたし、諦めることが多かった日々だったのかしら?


「帰ってきたら、グレンとまた続きをしましょう。私、今日はアレンに色々聞きたいことがあったの」


「聞きたいこと?」


お湯をコポコポと沸き始める音が聞こえ、アレンが茶葉をサラサラ落とす音が耳に入る。



「うん、家のことよ。私は立場的に姿を隠している身でしょう。普通なら、あなたを保護したことをきちんと親御さんに伝えて、その上であなたを追放した時と気持ちが変わらないなら私が面倒を見ることを伝えないといけない。

でも、あの夜、あなたを助けて、あなたはそのまま行方不明になっているでしょう。

このままでいいのか考えるの。もしかしたら、あなたの親だって反省しているかもしれないじゃない?」


「……反省……してくれてるのかな」


アレンは、ティーカップにお茶を注ぐ。


そして、お盆にのせてお茶を持ってきた。




「デボラは、俺のこと邪魔?」


アレンは、じっと私を見つめる。

でも、その瞳はいつもの魔法を扱う時のキラキラした感じではなく、少し暗く沈んだ色に見えた。



「そんなわけないじゃないの。一緒にいたいわ。もう仲間でしょう。ただ、私は昔、親代わりの師匠と別れて、その後は二度と会えなくなったから、アレンの気持ちが気になったの。

実はね、キリフのお兄さんが枢機院の代表になるんじゃないかと言う話が出ているの」


「キリフのお兄さん……クストス教のレイル……だっけ?」


そう言いながら、再び、アレンは机の上にティーカップを置いていく。



「へぇ、さすが元総長。子供なのによその宗派の人の名前まで覚えているのね」


ユリアは、そう言ってアレンの知識の多さに驚く。




「アレンは本当にすごいもの。だってお茶だって美味しそうに淹れるんだもの」


綺麗な琥珀色のお茶は、爽やかな香りを立てている。




「それは、誰でもできることだよ。それで、キリフの兄さんが枢機院にいくなら、キリフはどうするつもり?」


私はアレンからそう問われて、ユリアを見た。


「キリフの性格を考えたら、家族からなんらかの要求があっても一線を引くと思うわよ。

ただ、キリフにも言ったんだけど、これはチャンスだと思ってら一度みんなでシャルバンポールに行ってはどうかと思うの」


そうユリアは答えて、ティーカップを持つ。


「シャルバンポールに?」


アレンは、想定外のことを聞いたという顔をする。


今まで、枢機院から逃げ回ったのに、わざわざ敵の本拠地に乗り込むなんて驚かれるのも無理はないわよね。


その理由をアレンに伝えて、アレンがどうしたいか判断してもらおう。


私は、ギルド長やレグスタインと話しあった内容を伝えた。


「城にしかない、始祖が書いたかつての魔女の情報が見られたらと思うの。キリフのお兄さんの就任祝いのために行くなら、自然に城に入れるでしょ。

ただ、アレンが一緒に行くと、家族から完全にこちらに寝返ったと思われるからどうしたらいいか相談したかったの。

城の中のことはわからないから、一緒に行って始祖の資料について教えてもらえると助かるけど、留守番しても問題はないわ」


そう言って、私はアレンの反応を待つ。


アレンは、少し迷っているような表情だった。



「確かに城に行けば……知りたいこともわかるね、お茶が冷める。二人とも飲んで」


アレンにそう言われて、ユリアと目を合わせる。



急にそんなことを言われても、アレンだって困るわよね。


少し考える時間が必要だわ。


それに、もしかしたらご両親と和解できれば家に戻りたいというかもしれないし……


レグは反対していたけど、実の親であっても一緒にいない方が良いのかしら。




「そうね、いただくわ」


その重苦しい空気を裂くように、ユリアは口にお茶を含む。


私も「ありがとう」と話して一口飲む。




「美味しい!爽やかな味ね」


「うん、ソフィアと同じぐらい上手だけど、何かしら?いつもと違う爽やかな……ぐぽっ……」



ユリアが私の目の前で突然血を吐き出す。


「えっ!ユリアさん!」



私は驚いて立ち上がる。



だが、私もおかしいわ。

胸がムカムカして、のどが焼けつきそう。




これは……毒だ!




「ユリアさん!なんで!デボラ!吐いて!」


アレンが叫んでいる。


「この毒は……何?」


「眠らせるお薬だと言われたのに……お父様から……眠らせろって……」


私は、毒耐性がある程度ある。


だが、耐性が効いてないということは、私が知らない種類……




「浄化せよ!」


私は、痩せて体がすでに弱っているユリアに最大魔力で浄化に入る。



「ぐぽっ」


私の口からも血が流れ始めた。




「瞬間固定!浄化継続!」




私の体から力が抜けていく。

私の魔力の減りと浄化が同時に行われる。



とりあえず瞬間固定したので今よりは悪化しないはずよ。



ただ、私は床に崩れ落ちる。



自分に浄化を……

ユリアと同時にできるか?


やばい。



「デボラ!ごめん!きっと渡された薬に手違いがあったんだ」


慌てて、アレンがドアを開ける音が聞こえる。




だが──


アレンの開けた扉から、瞬間銀色にキラリと光る刃が目に映る。


その瞬間、かつての魔女狩りで、仲間が磔にされ、槍に貫かれた瞬間を思い出す。


「アレン!」




ズシャッ



目の前で、目を見開くアレンが、血まみれになり倒れていく。



「アレン!アレ……ン」


私は、血を吐きながら、必死に叫んだ。




この毒さえ、解毒できれば……


なんの毒?



ああ、そうか……分からないということは現代の素材だ。


だから、私は耐性がないし、解毒の仕方が分からないんだわ。





「ヒール!」


私は最後の力を振り絞り、全ての残りの力をアレンの傷にヒールとさらに攻撃を受けることがないように防御をかける。



でも、ユリアの浄化と瞬間固定にごっそり魔力を削られて、私も毒で力が入らないから、アレンが、どこまで回復して、守ってくれるか?




これ以上、アレンに失望を与えないで!


私の目がゆっくり垂れ下がっていく。




毒が回っている。


何個かは耐性のあるものも混ざっていたのだろう。


少し時間を稼げたが、そこまでだ。


意識が遠のいていく。






「おいおい、本当にアレンが言ったように魔女なのか。おい、死なない程度の解毒をしてやれ。これはいい。300年ぶりに魔女復活か」



遠くで知らない男の声がする。


アレン、ユリアさん……大丈夫かしら?


みんなごめんなさい。


二人を守れなかった。


レグ……あなたを好きだと伝えたら良かった。





会いたい


離れていくのはレグじゃない。

離れてしまうのは私だ。




自分の目から涙が溢れるのを感じる。


体が勝手にどこかに運ばれ、レグとは違う嫌悪しか感じない匂いが鼻につく。




「レグ……助けて……」


私の声は、空気と共に消えていった。






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