72【レグ視点】本当に好きな人
「はあっ?プロポーズは成功したけど、失恋も同時にした?なんでそんな急展開になり、どうして失恋したんだ?」
キリフは驚いたように俺を見る。
「どうして失恋って、デボラに俺が別の女と引っ付くことを応援されたからだよ」
くそーっ!
かなり柔らかい表現で、告白に近い感じで、言わないけど伝わるよねという感じで攻めてみたのに……
同じパーティーで、同じ部屋にいなければもっとダイレクトに告白できたのに。
いや、俺と同室じゃなかったら、他の奴の部屋であの夜着事件が起きたのか?
そんなの、考えただけでぞっとする。
そもそも何で本当にこんな急展開に……
「そうだ!急展開の理由は、お前だ!キリフ!」
俺はキリフに指を突きつける。
突きつけられた肝心のキリフはキョトンとしている。
お前とデボラが結婚する可能性を考えて、先に阻止したかったからじゃないか!
「俺??」
キリフは、なんのことだと自分自身に指を刺し、思い当たる様子がない顔をした。
「水くさいぞ。お兄さんの事、なんで言ってくれなかった?」
俺は、少しむくれて怒った表情をする。
それに対して、「ああ、アレな」という感じで、キリフはケロッとしている。
「ユリアの件で壊した俺がいうのもなんだが、俺は自分の中で、デボラに頼むべきことは線引きをしている。デボラを意のままにして力を誇示したいという宗派内でのメンツにまきこまれるべきじゃないし、兄もトップに立つ性格じゃない」
俺は、キリフがもっと動揺したり、デボラとの関係に悩むと思っていたから驚く。
キリフの家族は、ユリアのこともあり、ここまで、結婚に無理強いしなかった。貴族だと異例のことだ。
その分、今度は、本気で家族がデボラとの良縁を望めばキリフは断りにくいかと思ったのに……
「家族に状況を確認したいと手紙を送ったよ。総長になるにしても急展開すぎる。返信があったら、カレンがギルドに送ってくれるだろう。それ待ちだ」
キリフは、面白くなさそうに、どんな返答が来ても対応は変わらないけどねと言い加える。
だが、ちょっと考える時間をあけて、意味ありげに、俺に向けてふふんと笑いかけてきた。
「もしかして、俺がデボラと結婚するのを阻止しようとプロポーズしたとか?」
キリフは、確信したように、それを聞いてむっとした俺を見て更に肩を揺らして笑った。
「笑い事じゃない。こっちは四方八方、どこから掻っ攫われてもおかしくないんだ。」
俺は、しぶしぶ頷きながら、デボラにプロポーズした話を伝える。
「キリフが家族からなんと言われようと、俺とデボラとの結婚を仄めかせば角は立たないし、アレンのことも考えると、どこかの家族が後見人にならないといけないだろ。
アレンも利用価値があるから、大人の餌食にしたくないじゃないか。俺たちが面倒を見るのが一番安心だと思う。デボラの情報漏れも防ぎたいしな」
俺は、急展開でも、このタイミングが一番だった理由を語った。
キリフはしたり顔で、「ははーん」と全てに合点がいった顔をしている
「つまり、そんな感じで利点を挙げ連ねたら、デボラが了承してくれたけど、同時にあなたの恋が実るように祈ってるとでも言われたか?」
「なんでわかる?」
俺はブスッとした顔で、キリフを見た。
そもそも、俺に好きな人がいるという誤解を与えたのは、キリフ!お前だ!
俺は起こったことを全てキリフに説明すると、ますますため息をつかれてしまった。
「それ、プロポーズも成功じゃないだろう。お前もデボラがわかってないねえ。デボラは、生きていくのに精一杯だった子だよ。ハッキリ言わないと、レグが自分を恋愛対象にしているなんて思うわけがない。」
「離れたくないってことは伝えたよ。それに、デボラだって仲間と死に別れたことを思い出して、不安定になっていただろう?結婚すれば、その気持ちだって緩和されると思ったんだよ」
俺は必死で、告白が曖昧だった言い訳をしながらも、誰が聞いても告白にしか聞こえないけど、負担にならないような言い方をしたことを伝えた。
それなのに、なぜかお互いの会話がすれ違うんだよ!
「うーん、でも、会話のすれ違いの原因が、レグが他の人が好きで自己犠牲だと思っているなら、デボラはレグの気持ちを尊重するに決まっている。告白するなら、好きな人がデボラだってきちんとはっきり告げないとね」
そう言われるとぐっと言葉に詰まる。
普通の男女の関係ならさっさと好きだと告げているさ。
パーティーの恋愛トラブルは本当に多いが、デボラの場合は、トラブルになったら行き先がないんだからな。
断れなかったら、可哀想だろうが。
「そんなのデボラが困るだろう?本当は俺のことなんてなんとも思ってなくても、今回のプロポーズみたいに、俺の提案に合わせて、俺に失恋させたくないから結婚するとかいうよ。
でも、それは、なんか弱い部分に付け込んだみたいじゃないか?」
俺はキリフをジロリと睨んで、抗議した。
「じゃあ、つけ込むようだからってデボラを諦めるか?無理だろう?失恋したら、自分のところに来いって言ってくれたんだから、デボラに責任とって貰えばいいじゃん。
全く、ジークたちといい、お前たちといい……なんでこんなにややこしいんだか……」
キリフは、めんどくさそうな顔をした後、少し思い出したようにホッとしたような顔をした。
「ただ、レグが貴族を抜ける決断までしたのは驚いたな。認められるのか?お前は嫡男だろう?」
「その貴族の嫡男が、ふらふら冒険者をしていることがおかしいってわかってるだろう。ヘンケルみたいに、愛人の子供ってわけでもなければ、バインやグレンみたいに魔力を理由に平民から貴族へ養子にされた子ではないんだぞ。」
俺の家は、伯爵家でそれなりの歴史もある名家だ。
普通なら、父親について領地運営を学んだり、家にいるのが普通だろう。
「俺の母とは魔力がある者同士の政略結婚で、父親が愛したのは最初から後妻だ。本当に継がせたいのは後妻の子供だけど、次男な上に魔力なしなんだよ」
高い魔力を持っているというのは、それだけで貴族のステイタスになる。
ただ、それだけ……親子の愛があるわけじゃない。
「もうデボラを守ることに決めたから、俺は継ぐ気はない。あの家が没落するならしたらいいさ。魔力を持つ俺がそばにいれば、弟もいつまで経っても世間から認められない。不幸になるだけだよ」
俺にはデボラ以上に愛せる人が出来るとは思えない。
父親も、自身の愛した人とその子供で家を支えたらいい。
魔力があろうとなかろうとそれが本来のあるべき姿だ。
貴族ではないと、プラチナカード持ちのデボラとの結婚が難しい可能性を考えた。
でも、もっと上の爵位の奴らが彼女を求めたら?
それなら、最初からデボラを掻っ攫うほうが、自由に動き回れる。
「なるほどね。ただ、最初の話に戻るが、認められるのか?継がせたい部分は利害は一致しているけど、後妻の子供に魔力がないのは痛いんだろう?」
俺は渋い顔をして、思案していた。
貴族の廃嫡は、本人が廃嫡を希望しても叶わない。
最終的には、現当主である父親が認めないと貴族籍のままだ。
そして、当主が認めて、枢機院の代表の7人の誰かに許可をもらわないといけない。
現実的に、俺もデボラを抱えている今、父にとって利用価値がある。
それが認められる公算は低い。
「まあ、デボラと本当に結ばれるなら、俺が神官として立会人になるよ。神に誓ってしまえば、権力があっても結婚は無効にはできないからね」
キリフは、「それこそ神への冒涜だろ」と、ふふっと笑って真顔に戻った。
「兄への手紙だが、シャルバンポール城に、兄貴への就任祝いをしにいきたいと伝えている。せっかくだから城の中も見るふりをして、デボラが欲しい情報をもらおうと思っている」
デボラから聞いた部分だな。
俺はデボラもそのつもりがあることを伝え、デボラも、アレンのことをかにかけていることを伝えた。
「デボラは、アレンが傷つくことがないようにすることを一番気にかけている。俺はデボラが魔女であることや過去のことを知られるリスクを考えて不安なんだけどね」
アレンが家に戻るなら、その存在は恐ろしい。
デボラが300年前の魔女であることを知っているのだから。
それでも、アレンの幸せを優先させるのがデボラなんだよな。
「デボラは、アレンの命の恩人だよ。300年前の魔女だと言ってもみんな信用しないし、デボラの味方であり続けるとは思うけど、まだ10才だからね」
キリフも、大人に約束するようにはいかないよなと困った顔をした。
理解していても、親からの期待に応えたい歳でもある。
大人の影響だってまだ、受けやすい。いつ、反旗を翻しても、おかしくない。
「それでも、デボラはアレンの意思を最優先させると思う。ダメなら戻ってきてもいいから親元に戻っていいと伝えるかもしれない。親の愛の重要性をデボラは一番わかっている」
デボラは、師匠が養母だったとはいえ、お母さんと呼んだことはない。
普通に親がいる家庭を羨ましく思っているところがある。
アレンはデボラと話し合った後、どうするのか?
その時──
「レグスタイン様、キリフ様、カレンより緊急信号が発信されました。私はすぐジーク様と向かいたいのですが、どうされますか?」
ソフィアが、やってきて淡々と俺に告げる。
自動人形は主人が留守の時に、危機があると近くにいる自動人形にSOSを送る仕組みになっている。
向こうの家には魔石5トンもそのままだし、カレンは戦闘系ではない。
金を目的にした強盗?
だが、元々、俺たちと縁繋ぎしたい人が来ることに備えて、玄関を開けないようにしており、かなり玄関も重厚にしてある。
普通に考えて、主人である俺たちの知っている人や丁寧に対応しなければならない人がやってきたか、その重厚な玄関を突き破る力で強引に押し入って、カレンに危害を加えた可能性が高い。
「全員で、家に向かう。デボラは……アレンとここに待機で」
俺は急いでみんなに指示を出す。
「レグ!私も行く」
デボラがカレンに危険があったことを知って、慌てて俺に駆けてくる。
しかし、俺は首を横に振った。
「相手がデボラを呼び寄せるためのものなら、ここにいてくれた方が動きやすい。ここはギルドの鉄壁の守りがあるんだから。頼む、大人しくしていてくれ」
そう伝えて、デボラの手を握りしめて俺は冷静に伝える。
「アレンとデボラは、私の部屋に。おかげさまで鉄壁の守りの中でも鉄壁だから」
ユリアがやって来て、デボラに声をかける。
確かにギルド長の愛が詰まった部屋だからな。
デボラはどうしようかと迷いながらも、俺の目を見て頷いた。
「レグ、絶対無事に戻ってきてね。ちゃんと待ってるから」
そういうデボラの手は震えている。
この間から、デボラの不安感は強い。
こんな時に俺が支えてやれないなんて……
「デボラ、何があっても離さないから安心して待っていて」
ちゃんと伝えようと、耳元で囁く。
先ほどまでの、キリフとの会話が頭の中に浮かぶ。
振られたらその時までか……
デボラが俺に気を使う結果になったとしても、そばにデボラに好意を持って守りたいと思っている男がいることを知って欲しい。
こんなに震えている手を、一人で耐えさせたくない。
俺は、口を開きゆっくり、はっきり伝えた。
「俺の好きな人はデボラだよ。だから、失恋させないでほしい」
デボラの目が、えっ?と見開く。
そうなるよな。
やっぱり今まで伝えたつもりの好意は伝わってなかったか。
俺は、最初からはっきり伝えたら良かったと後悔した。
「返事は帰って聞くから。では行ってくるよ」
すぐ結果を聞きたくない
卑怯な告白だとわかっていたけど、ここまでが俺の精一杯だ。
これ以上、デボラの反応を見る勇気はない。
俺は、それだけ告げて急いでその場を立ち去った。




