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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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70 考える時間を作ってはならない

「大丈夫です。これは私の内面の問題なので、自分で解決しなくてはならないことです」


みんなは、口々に、医師の診察が必要ではないか?もう少し休んだほうがいいのではないかと提案してきたが、それを断った。



あの日──


私は一晩レグに抱きしめてもらって眠っていた。



「レグ、デボラは眠っているし、少しの間俺が変わるよ」


「いや、デボラが離れないでくれと俺に頼んだんだ。デボラは、人と関わりがなかったから、頼み事をするのは苦手だろう?それでも伝えてきたんだから、デボラにとって大切なことなんだ。そばにいてやりたい」




そんなレグとキリフの声が聞こえる。


レグが離れると思うと、身が硬くなるのを自分でも感じ取っていたから、レグも私から離れたらいけないと思ったのかもしれない。


結局、私が目覚めて、自分で大丈夫だというまで離さずにいてくれたのだから、どれだけレグの面倒見が良いかがわかるというものだわ。




私は、素敵な人を好きになった。



そして、好きになった人がレグで良かった。



好きな人ができたことに後悔はないわ。



でも、《好き》が《喪失の恐怖》に変わるとそれは恋じゃないわよね。



レグには、


「師匠が捕えられた時の記憶が蘇って、トラウマも一緒に蘇ってしまったの。丁度、そばにいたレグがその時の状況と被って見えて、勝手に混乱してしまったわ」


と説明した。



アレンも、私の状況を聞いて目を丸くする。



「今の時代は、コントロール出来ないほどの魔力をそもそも誰も、持ってないんだ。

同じような現象の逸話で聞いたことがあったのは始祖だけだな。

シャルバンポールの壁の一部に穴が開いていて、始祖の魔力が暴発したものだと言われているんだ」


「魔力の暴発?確かに似ているわ」



300年前でも、コントロールが効かなくなる魔力量なんて、周囲の魔女にもいなかったし、私も聞いたこともないわ。




始祖か……師匠かもしれない人……




その人はこんなに自分が自分でなくなるような苦しい思いをしたのね


私はまだコントロールが効いたけど、暴発させたとなれば相当、動揺した状態で、それを受け止めてくれる人もいない状況だったに違いない。




「始祖の魔力が暴発した原因はなんだったのかしら」



同じような経験をした者として、それが一番気にかかった。


今回の私の喪失体験と一緒だろうか?




「逸話は、どうしてそうなったかという理由よりは、魔力がコントロール出来ないほどの魔力持ちだった方が美化されているからなあ。」



アレンは、一生懸命逸話を思い出そうとしている。



始祖は、神のような扱いだから、逸話が多いらしい。

コントロール出来ないほどの魔力がないといけないけど、私からすればその苦しい体験すら英雄談にされてしまうことが、気の毒に思えてしまう。




そんな私の気持ちに、アレンは気づかない。


嬉しそうに手を叩いて、思い出したように笑顔で語った。




「そうだ!はっきりしないけと、最愛の人が亡くなった時という噂だったな。

もし始祖と師匠が同じ人なら、亡くなったと思われていたのは、デボラのことかもよ……だって、始祖は生涯独身だし」




そう言われて、思わず息が止まってしまう。


アレンに悪気はないのはわかっている。


それなのに、今度は途端にやりようのない悲しみが襲ってくる。



もし、始祖が師匠で、私のせいで、魔力をコントロール出来なくなったのだとしたら、私はなんて親不孝なことを師匠にしたんだろう。



師匠は生きていたんだから、私は終わることを望まず、帰ってこなきゃいけなかったのに……



私は、手の震えをこらえるのに必死だった。



それに気づいたのだろう。


「こらっ!アレン!デボラの気持ちを考えろよ」


グレンがアレンを叱る声が響く。




気にしないでと声をかけたが、師匠の最後が気になってしかたなかった。



すっかり落ち込み、気づけばすっかり時間が経っていた。


そっと私の手を握ってくれるレグの手を見て、再び現実に戻ってくる。


再び、その温かさに心が溶けそうになり、また離れないでほしいという感覚が襲う。




これは……このままではダメだわ。




【恋心】と【喪失】をセットにしたら、とんでもないことになる。

 



私は、再びその状況に陥らないようにどう対応すべきか考えていた。







「だからって、ひたすら調合しなくてもいいじゃん」


アレンの叫び声が部屋に響く。



「魔力量を減らしたいの。もし、またコントロール出来なかったら困るじゃないの」



私はそう言いながら聞き流す。



私は、ユリアさんからの指導時間以外、自分の持つ魔力を少し減らすため、グレンとアレンと私の3人で部屋に篭って調合を繰り返することにした。



何かやって、考える時間も減らせばいいわ



部屋に追加の山盛りのポーションの素材を出すと、今度はグレンが悲鳴をあげた。



「デボラ、ポーションをこれだけ作れば上手くなれるよ。だけどさ、延々とマナポーションを飲ませられたら、流石の俺もキツいよ」



二人が高品質なポーション作りに取り組む間に、私は二人のためにこれでもかという色とりどりの溶解剤を使ってマナポーションを作る。



「これを作っておけば、アレンもグレンもエンドレスに戦えるわよ」



そう自分にも二人にも言い聞かせて、何日もひたすら作り続ける。



なんだったら、途中からはユリアからの指導で、本を頭に乗せたまま調合に備え、本を頭に乗せたまま歩き、本を乗せたままご飯を食べる。



「浮遊魔法を使うには、体の重心がわかっていないと出来ないから、姿勢は楽勝なのよね」



見た目も、ソフィアが可愛らしい姿になんとかしてくれる。



その姿を鏡で見ると、レグの好きな人に近づけたかしらと、再び暗い気持ちになりそうになり、目を閉じた。




レグの好きな人と張り合っちゃダメ。


だって、レグは外見で選ぶ人じゃないもの……


どんな人なんだろう?


優しい人かしら?


それとも、ユリアさんみたいにはっきり物をいう人かしら?





意識しないようにするのに、勝手に頭の中にレグと見たこともないレグの好きな人が登場する。



「考えることは山ほどあるんだから、考えちゃダメ!」



私は、文字が読めないので、知識が、人から聞くことばかりになる。


この国の歴史など、学んだことを書き起こしたり、この時代の文字をひたすら勉強し続けるしかない。


そっちの足りないことに時間をかけるべきよ。


「他のことを考える時間がなくなって、新しい知識がつくなら、ちょうどいいじゃないの……」





自分の部屋に戻るのは、眠るときだけ。



体をクタクタにして、魔力を少しでも減らして、レグの顔は見ないようにして、心がざわめく前に眠りにつく。




「出来ることは他にないかしら?そうだ!」




次に、私はみんなの部屋に突撃して、片っ端からみんなの武器に付与効果をこれでもかと、つけまくっていく。



魔力を減らしたい!


考える時間を無くしたい!




レグは物言いたげにしていたが、最終的には何も言わずに私に剣を預ける。



全属性魔法防御50%アップでしょ。

物理防御に……剣なんだから物理攻撃100%アップとか……


盾は、羽より軽く……

浮いたわ!だめだめ、少し重く……


ええと、あとは……





グレンやヘンケルたちは、目をキラキラして見ているが、私はそれどころではない。



さすがにやりすぎたかというぐらい付与をつけまくり、それでも減らない魔力を恨めしそうに感じる。



どうしよう……使っても使っても魔力が減らないよ……


魔力を限界まで減らさないと、レグとの恋を楽しむどころの話じゃなくなっちゃう。




私はため息をつく。



「なんか、ポーションもすごい数だな。国内のギルドの出張所に置かせてもらおうか」


「最近は二人のポーションの品質が高くなってS級も作れるようになってきましたからね」


「S級って、もうハイポーションに近いじゃないか」




私は、ギルド長と話している間にも、マナポーションを作り続ける。



「マナポーションも少しもらえるか?元々すごく貴重なポーションで、ギルドにも、過去のアーティファクトとして年に数本確保出来るかどうなんだが……」



ギルド長がため息をついて、私の作ったマナポーションを見つめている。



「中身の一部は水ですから、アーティファクトを飲んだら腹を壊すと思いますよ」



ギルド長は、私の作るマナポーションが衝撃かもしれないが、300年以上前のマナポーションを飲もうとするほうが私にとっては衝撃だ。



「空間バッグで保管するので、欲しい時に声をかけてください。常温だったら、せいぜい消費期限は1週間じゃないかしら?」


「腹を壊しても命には変えられないだろう?」




ギルド長は、さも当然の選択のように話すけど、飲んで命を落とすレベルよ。300年前の水なんて……




私は、ぞっとして考えたくないと首を振る。




「ところで、この間の10トンの小さな魔石の分別の仕事を、貧民たちや怪我をした冒険者たちに振ることにしたんだ。新しい仕事ができて助かったよ」


それを聞き、私はやっと少し手を止めた。


「それは良かったです。カレンさんが残り5トンをしてくれていますが、あれは大変な作業なので。」



その大変な作業をやる暇がなくて15トンも魔石を溜め込んだのだから私も助かる。



元々、ギルド長は専用施設を作り、セキュリティーを行った上で職を探している人たちを集めていた。



私に、かつて魔石を売って欲しいと言ってたのは、それらを資金源にして、ギルド長が彼らにできる仕事を作ってやることだったらしい。



しかし、私の持っている魔石の分別そのものが仕事になったから良かったと喜んでいた。


「魔石の色分けと形分けは貧民にさせている。最後に、再起が難しい冒険者で知識がある奴らに、魔物別に魔石を分けさせているんだ」


そうすれば、私はすぐ調合に入って、もっと高値になるものに変えることができる。



しかも、元冒険者たちは、魔物の解体も出来るので、解体のお願いが出来そうな魔物の死骸も片付いていく。




その専用施設では、賃金ももちろんだが、食事や風呂にもありつける。

魔物のさばいた後の肉はそこで消費してもらえば一石二鳥だった。


そして、彼らは仕事をする間に、安定した居住地も探すようにするらしい。



賃金の交渉は苦手なので、レグとキリフにお願いしていたが、おそらくパーティーのみんなにもそれなりの費用が渡るだろう。



「アレンとグレンにも、様々な調合を伝授するつもりなの。いずれこの二人が、他の魔法使いにも300年前の消えた魔法を伝えてくれたら、魔法はもっとみんなにとって身近で便利なものになっていくわ」


私がそういうと、グレンとアレンも嬉しそうな顔をする。


そして、街で、貧民と言われる人が減り、病気で命を落としたり、寒い中で眠る人たちがいなくなれば、この世界に私が来た甲斐があるというものだ。



「少しはダンジョンのものが、未来に還元されるなら嬉しいわ。まだまだ解体されていない魔物も多いし……ああ、そうだわ。聞きたいことがあったんです」


私は、思い出したとばかりに、ギルド長しか手に入らないものを告げた。


「ペガサスの翼……それは……ユニコーン並に手に入らない素材だな」


ギルド長も、見たことがないという。


「師匠のローブの内側はペガサスの羽を加工したもので作られているんです。修理すれば、空間ポケットの中身が再現できるかもしれない。でも、ペガサスは、珍しい上に、天上を駆け巡るので私は倒したことがないんです」 



ポケットの中身は空かもしれない。

でも、師匠はいつも何かを入れていたんだもの。

ローブを復元すれば、ポケットから思い出の品がでてくるかもしれない。


そう思うと諦めがつかなかった。



「デボラの師匠だった人は、羽を持っていたんだよね。それなら、出入りしていたシャルバンポールのどこかにないかな?

そんな貴重な素材だったら、普通の魔法使いだと調合では使えないと思うんだよね」


アレンはそう言って手を止めて唸る。

ただ、やはり見たことはないという。



「羽かあ……なんか、魔石じゃないけど、貴族が服とか小物にわからずに付けてそうだよね」



グレンがケラケラと笑うが、そこで、ギルド長の目が光った。



「それは……あるかもしれないぞ。見たことがないから、鑑定できるやつがいない。だからこそ、普通の珍しい羽だと思って、素材ではなく普通に身の回りに使っているかもしれない」



「でも、鑑定ができないのでは、見つけられないわよね」


ギルドに出てきても、正体不明の羽で終わってしまうのでは手に入らないだろう。


私も、あの独特の軽い感じは触れればわかると思うけど、見た目で見抜ける自信はない。



「いや、絞り込めるんじゃないか?出所がシャルバンポールなら、枢機院しか取り出せないはずだからな。」


「支援を得るために、分からずにプレゼントした可能性はあるよね」


ギルド長とアレンが二人で、それはあるよなと確認しあっている姿を見て、10歳のアレンが、それが当たり前だと思う世界に身を投じていたことが苦しくなる。



やっぱり、この世界は歪んでしまっているんだわ。



そう思わずにはいられなかった。





「そういえば、キリフから兄のことを聞いたか?」


必要な取引の話を終えて、帰り際にギルド長が、私に問いかける。


「いいえ?お兄さんですか?」



私が部屋に帰ることを意図的に避けているのでキリフとも、ゆっくり話ができていない。


ギルド長は、アレンをちらっとみて、私を廊下に連れ出した。

そこで、キリフの兄が枢機院の代表の一人になることと、狙いを聞き、思わず口に手を当てた。



「私とキリフを引っ付けようというんですか?」


思わず口を押さえる。




キリフって私の一回り歳が上だよね?

年の差もあって、あまりにも考えたことがないわ。




周囲はキリフまで恋愛対象として考えようとするの?



それは、私には言えないはずだわ。



だって、その話をキリフが聞く直前に、私はレグのことを好きになったことを相談しているんだもの。


更に、聞いた後には、レグを失うことへの喪失のパニックの場面を見ているのだもの。





あっちゃー!


レグのことばかり考えて、キリフには頼ってばかりだったわ。




額に手を当てて、やってしまったと後悔する。


キリフが私にその気がなくても、キリフの宗派や身内の思いは別だ。

家族や私たちとの間で板挟みになるんだもの。





「キリフと話をしてみます」



私は、そうギルド長に告げると、更に、ギルド長から驚く提案があった。


「せっかくの機会だから、就任祝いを兼ねて、みんなで、シャルバンポールに乗り込もうとキリフに話したんだ」



私は、ギルド長から、このタイミングを逃すと城の中を見るチャンスはないと告げられ、わかりましたと頷いた。



「ただ、アレンともその時どうするか、話をしておいたほうがいい。俺たちについていくなら、完全に実家が良い顔をすることは絶対ないからな」


そう言って、子供に酷な話だが......と呟いた。




魔力が復活したアレンを、アレンの両親はどうするのだろう?


神から見放されて魔力を失った子供が新たに魔力を得るのだ。

しかも、おそらく次の総長よりも強い魔力で……


アレンを正しい道に導いてやらないといけないけど、それにはアレンの心を最大限に守ってあげることが前提だわ。



アレンが親元に戻りたいと思うなら、それを尊重してあげないといけない。


新しいトラブルが連続して、私は、不安感に押しつぶされそうになっていった。







「レグ?いるかな?相談に乗ってもらいたいことがあるんだけど……」



私は、気が重かったがレグに相談をすることにする。


だって、前に、家を離れた私を探してくれた時、迂闊なことをする前にレグに相談するって約束したんだもの。



部屋に戻ると、ちょうどシャワーを風呂から上がったばかりのレグがいて、更にドキッとする。


いつものレグよりも、少しくつろいでいるように見えて、フワリと香る石鹸の香りが空気に溶け込むのだ。


その香りに、私は浮き足立ち、もっと近寄りたくなる。



「やっと、こっちを向いたかい。デボラ?全く意味がわからず、避けられるとつらいんだけどね」



レグは笑って、ここ数日の私の葛藤なんてお見通しのようにそう言ってきた。



明日も二回更新予定です

昼ごろと21時10分を予定しています。


多分、来週がクライマックスになっていく予定です。

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