67 【レグ視点】みんな彼女の幸せを祈っている
俺──レグスタインは、デボラの服を取ってくると言って部屋を出た瞬間、はぁーっとため息をついた。
ばっちり、しっかり見てしまった
絶対デボラの趣味ではないナイトドレスを着せられたデボラの姿を………
痩せて細い背中から足先まで……
しかも、瞬間、前も……見えてしまった。
誰にも見られたくないと思っているであろうデボラの泣き顔をみて、胸が苦しくなったのに……
そんな望まない姿にされて怒りがあるのに、胸が高まった自分がいた。
それがユリアの思い通りになっているという情けなさ。
デボラがあんなにショックを受けているのに、どこか興奮している自分が恨めしい。
何も気にしない顔をちゃんと演じられただろうか?
元々今回のことも、夫を通じて、俺がデボラを好きであることを知っているユリアの嫌がらせみたいなものだ。
俺がこんな気持ちを持たなければ、デボラは嫌な気持ちになることはないのに……
しかも、キリフにも見られている腹立たしさ。
仮に10歳のアレンであっても嫌だ。
実は、アレンとデボラの年の差は、俺と大して変わらない。
よって、俺以外が見たということ全てが腹立たしい。
あんなに、キリフの苦い恋愛の話を聞いていたのに……
人の心は思い通りには動かない。
デボラにとって、俺は恋愛対象外。
俺に好きな人がいると思って、その恋愛を応援されてしまうぐらい対象外。
そう自分に何度も言い聞かせているさ。
それなのに、自覚した恋心は悪化を極めている。
こんなふうに誰かを独占したいと思ったこともなかったから、自分が一番驚いている。
デボラは、強くて弱くて予定外で規格外。
正直、俺の好きなタイプはああいうタイプなのか?と思うんだから、理屈じゃないんだ
今までの恋愛は……いや、アレを恋愛と思っていた俺は、いつかは結婚しなければいけないという妥協で、自分に合った身分や近い年齢、家からの打診などに応じていた。
本当の恋は、打算がない、感情が赴くままの恋愛で、俺はまさに今それをしているのだと思い知る。
冷静になろうとすればするほど、振り向かせたくなる。
自分から離れる恐怖から、誰にも見られないように囲いたくなった結果が、デボラの家出騒動だというのに。
彼女は、今まで人に恵まれているとは言い難い。
デボラの師匠ですら謎が多い。
だから、彼女の一番の理解者で一番頼りになる人になりたい。
今までデボラが一番信頼していた師匠は、アレンの話から、どうやら純粋にデボラの養母だったようには思えない。
デボラは考えないようにしているようだが、少なくとも騙していた時期があるのは確かだろう。
それなのに、そんなデボラを傷つけた奴らも愛する人たちも、もう居ない。
彼女は、ぶつける先もない。
これから新たに知る事実が、彼女を傷つけるものであっても、ただ彼女は受け入れることしかできない。
だから、そばにいてあらゆるものから守ってあげたいし、この時代に誰もいなくても、俺はいると伝えてあげたい。
だけど……
デボラは、これからどう生きることが幸せなんだろう?
誰かの庇護の元にいないと、どんなに強くても、あの性格だし、この時代に馴染めるとは思えず利用されるだろう。
その庇護が、彼女を利用しようとする立場だったら?
せっかく300年の時を超えて幸せになるはずの人生が、搾取されて終わる人生になりはしないか?
俺が、実家の跡目を継いでプロポーズしたらそんな奴らから守れるか?
いや、完全に守れるわけではないな。
貴族には、爵位がある。
デボラの能力、遺伝子を欲しがるものは、上になればなるほど増えるだろう。
更にこの国は、枢機院がある。
こちらも同様だ。
アレンを見てもわかるが、デボラを手にしたものが神を手にしたような状態になるのだから。
八方塞がりだ。
俺は、デボラの能力じゃなくて、人として彼女を愛している。
でも、そんなの、誰にでも言える言葉だよな。
もし、少しでも彼女が俺に恋愛感情を持ってくれるなら、掻っ攫ってどこにでも二人で行こうと告げるのに。
俺も家を捨てて、追っ手を振り払いながらでも彼女の行きたい道を守るのに。
改めて、ユリアの幸せを願って身を引いたキリフの凄さを思い知る。
俺は、いつか、デボラの幸せを祈り、身を引くことができるだろうか?
◇
「あれ?どうしたの?」
バインとヘンケルの部屋に行くと、ここ数日の疲れからか二人はベッドの上で横になっていた。
「眠ろうとしているのにすまないが、デボラの荷物を引き取りに来たんだ」
「ああ、そういえば俺が持ったままだったね。デボラはどう?久しぶりのベッドだからゆっくり眠れそう?」
バインはデボラの畳まれた服やカード、タグ、日用品、そして、デボラが消えた時に修理して残していた師匠のローブを取り出していく。
「早速色々ユリア殿が仕掛けてきてゆっくり休めていない。お前たちも、俺のことで気を使うのはやめてくれよ。デボラを好きになったことは認めるが、パーティーに迷惑はかける気はないし、勝手に片想いしているだけなんだから」
俺は、俺に対するみんなの気遣いが、デボラにとって良くないことにつながらないか不安だと告げた。
「だってさ、レグは非の打ち所がないし、みんなをいつも優先させると思っていたから、なんか嬉しいんだよ。ちゃんとレグにも譲りたくないものがあるんだって。いつものレグなら、誰かが出て行っても、それが望んだ道なら追いかけないっていうと思うんだ」
「そうそう、なんかレグも人の子なんだと安心したよね」
バインとヘンケルは、俺を見ながらくすくす笑うので、俺はムッとして反論する。
「そんなことない。女だし、この世界のことを何も知らないんだから追いかけるさ」
そんな薄情じゃない。
だれであっても……
俺は、そう言いながら自信がなくなっていく。
他の女性なら、自分が嫌で出ていったかもしれないと考えて、別の使用人や仲間に依頼して、俺は敢えて前に出て行かないと思う。
いや、そもそも女性とあんな言い合いしたことがない。
そして、この間のように、必死に自らデボラの形跡を追うようなこと、他の女性に対してしたいとは思わない。去ったらそれまでだと思うだろう。
「そうだな。今までだったら、どこかで一線を引いて付き合っていた気がする……なあ、俺どうしたらいいと思う?」
唐突に俺が二人に相談を持ちかけるので、二人も困惑している。だが、俺が真剣に悩んでいるからか、ヘンケルが少し考えて口を開いた。
「どうって言われても……レグはデボラとどうしたいの?」
俺も少し黙って、今の気持ちを打ち明けてみた。
「あれだけ女性問題を重視したパーティールールを作って、みんなにも強いて来た。それなのに、俺は気持ちに気づいてから、気持ちのコントロールが出来ないんだ。リーダーなのに、情けないんだけど、どうしたいというより好きである気持ちが止められない」
そういって、がっくし肩を落として、ベッドの淵に座り込んでいるとヘンケルが俺の肩を叩いてにやっと笑う。
「俺はレグの応援はしない。でも、デボラの幸せを祈っている。俺たちに預けた黒竜も、デボラの師匠さんもきっとそうだ。最後は彼女の幸せを祈っていたはずだ。だから、デボラがレグを好きだと思うなら、その恋が成就するのを祈るし、そんなことを思わずレグが鬱陶しいって言い出したら、止まらないレグの排除にかかるさ」
「俺は、レグが嫌だっていうなら俺にしない?って言うね。誰もいらないっていうなら、俺にしようよって言うだろうな」
バインが大真面目な顔で言うので、ヘンケルと顔を見合わせて思わず吹き出す。
「そうだな。もっと単純に考えたらいいのか。デボラの幸せを祈る。その幸せの一つに俺を入れてもらえるように伝えるだけか……」
俺は、立ち上がって部屋に帰ると二人に告げた。
「えっ!まさか告白?」
二人して、俺の言葉を聞いて焦ったような顔をして、目を丸くするので思わず笑いが漏れる。
「さすがに、そんなことしたらデボラの居心地が悪いだろう。ちゃんと言い方は考える。ああそうだ、デボラの相手に立候補するなら、仲間が相手でも俺は容赦しないからな」
そう伝えて軽く二人に牽制をかける。
二人は、顔を見合わせて頬を膨らませた。
「するわけないじゃん、デボラがいなくて発狂したレグを見てるんだもの。恐ろしすぎるよ」
そう、面と向かって言われると、俺は少し恥ずかしくなった。




