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【完結】死にたかった最強魔女は、300年後の世界で愛され魔女となっています  作者: かんあずき


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66 報われない恋の相手は誰?

「ソフィアさん、大至急ユリアさんと話がしたいのですが」


攻めろって言われても、そんな攻撃の仕方を私は学んだことがない。

頼むから、普通の服を……


私は、縋るようにソフィアを掴んだが、真面目な顔つきで首を横に振られてしまった。


「デボラさん、夫婦の夜をお邪魔すると馬に蹴られますよ」


「夫婦の夜を邪魔すると……馬に?あの、魔女の夜は活動の夜なんだけど?」


目をぱちぱちさせて聞くと、悩ましげにソフィアは首を傾ける。


「そうですね。わからないことは、生きた人間に聞くのが一番。人工知能は、まだまだ人の考えには及びませんからね。たしかに、なぜ夜で、なぜ馬なんでしょうね?」


さあさあ、レグスタイン様に見ていただきましょうねと、ソフィアはさらりと私の質問をかわし、ユリアに会いたいという要求が通ることも、夫婦の夜や突然出てきた馬の話に困惑する間もなく私はレグスタインとキリフの前に放り出される。





「ああ、デボラだ。良かった」


私が風呂から出てくるのを心配そうに待っていたと思われるレグスタインは、浴室から放り出された私を見た瞬間、くしゃっと泣き出しそうな安心したような気持ちがごちゃ混ぜになった顔をしている。


「確かに。この髪が俺たちの知るデボラだよな」


キリフも私の髪を見て同意するので、とりあえず、何事もなかったかのように振る舞おうと決意、髪については仲間の総意が得られた気持ちになっていた。


この髪型は、私の恋心により、レグ好みに戻したものではなくて、みんなの意見を参考にしたものだわ。


そう、これは恋心とは無縁──



そう自分の胸に手を当てて、うんうんと頷いていると、ソフィアによる新たな爆弾が落とされる。


「さあ、ガウンを取ってレグスタイン様に見ていただきましょうね」


ソフィアはがしっとガウンの襟元を握りしめる。


へっ?


と、とんでもない!


しかも、なんでレグに見てもらうって!!


「や、やめ!キリフ!助けて!!ユリアさんが!ユリアさんがぁ!!!ぎゃああああああ」


こんな時、カレンさんやココアさんならなんとかなる。

よりにもよって、なんでソフィアさんは戦闘系侍女なんですか?


私は、物理勝負になると全く力がないただの魔女なんです。


お互いガウンを引っ張り合い始めるので、レグスタインとキリフがどうした?と駆け寄ってくる。


こ、来ないでぇー!


ビリビリビリッ


ああっ!明らかに何かが破れる音が!


「おいおい!何が!うわあああ!」


私はそのまま背中の布が引きちぎれる音と共に床に顔を打ちつける。


背中に明らかにガウンがなくなった風を感じる。



ああ、終わった……


よりにもよって、恋を自覚したその日、好きな人と同室になり、好きな人の言葉を意識した一時間後に、あられもない、なんだったらもはや裸姿で床に這いつくばる私……


300年経とうと経つまいと、これは女子力最低点。

もう……恋していた事実を忘れよう……


スン……


ゆっくり起きあがろうと思ったが、ふわりと何かが背中にかかる。


「ソフィア、ユリア殿は少し勘違いをしているから、カレンと同じぐらいの温度で、デボラのケアをしてあげたらいい。キリフ、君からも少しユリア殿に伝えてくれ。華やかな格好をしなくても、デボラは俺たちの愛すべき仲間だ。ね、デボラ、大丈夫。みんな目をつぶったからほとんど見てないよ」


「ほんとに……」


「本当だよ。綺麗な髪に戻って嬉しいけど、怪我はしなかったかい?」


やぶれ、脱げかけたガウンのさらに上に、気づけばレグスタインのガウンがかかっていた。


私は、うつ伏せのまま恥ずかしくて上げられなかった体をヨロヨロと上げると、レグスタインがサッと前を閉じてくれた。


ここまで相手に気を遣わせるとは……完敗だわ。


レグ、好きな人と結ばれても、私ではダメだったのは当たり前だと納得できる気がしてくる。


「ああ、額を打ったんだね。ソフィア、冷やすものを準備してあげて。デボラ、前に俺たちが買った服をバインたちが全部持ってきているんだ。もちろん、ネームタグとプラチナカードもね。それを取ってくるよ」


レグは、そう言って、キリフに後を頼むと伝え、部屋を飛び出していく。


「デボラさん、申し訳ありません」


ソフィアが冷たいタオルを片手に持ってくる。


「デボラ、ユリアがすまない。悪気はないんだ。彼女は本当に今のデボラみたいな格好でジークの気を引こうとして普通に過ごしていたから。なんていうか、俺もジークも、当時のパーティメンバーも3日見たら慣れてしまったんだけどな。気にしなくて大丈夫だから」


キリフがユリアには困ったものだと呟きながら、私を誘導して、椅子に座らせる。


キリフは、パーティーで起こる恋愛事情のことで苦しんだ経験があるから相談に乗ってくれるかもしれない。


こんなことをこれから続けていたらパーティーの動きに影響が出てしまうわ。はやく、なんとかしないと。


私は、自分が気づいた気持ちをどうしたらいいかわからず、キリフに打ち明けることにした。


「ううん、私、またパーティーの掟を破りそうになったわ。キリフ、私、レグが好きになってしまったかもしれない。ううん、間違いないの。そのことに気づいてしまったの。だから、少しでもレグによく見られたくて、空回りしてしまったわ。だから誰のせいでもないのよ」


特にソフィアは与えられた命令を忠実にこなす自動人形で、それを、レグに見られるのは恥ずかしいという理由で、無理やり拒んだのは私だから仕方ない結果だ。


これがキリフたちだったら、魔法で認識阻害をかけてごまかそうとか考える余裕があったはずなのに、レグだから舞い上がってしまった。


「レグには好きな人がいるし、パーティーはこういうことを嫌って女性を入れなかったのを知っているのに、勝手にレグに惹かれていたの。可愛いと見られたかったり、レグが好きな髪型にしたかったり、顔を見るだけで恥ずかしくなったりするの」


「……それは……レグはともかく、デボラが突然目覚めるとは思わなかったな。今までデボラには、あまりそういう感情があるようには見えなかったんだけど?家を出てから、レグのことを考えるようになったの?」


キリフは驚いたように、ソフィアにレグが帰ってきそうだったら教えて、と伝えて私に向きなおる。


「いつからか分からないわ。過去に男の人はそばにいたことないから、それが恋だって気づかなかったの。レグがそばにいると安心したの。もちろん、みんなも安心するわ。ただ、レグがそばにいると、安心だけじゃなくて、とんでもなく胸がバクバク鳴って苦しくなるし、レグの好きな人に張り合おうとしてしまうの」


キリフは、そっか……と呟き、うーんと悩み始める。


「レグの好きな人のことは置いておくとして、デボラは故郷を回った後どうしたいか考えている?」


「先のことなんて……ただ、静かに過ごしたいわ。元々、魔女は人前に姿を現さないもの」


そう話す私に、キリフはそうだねと頷いている。


「ユリアが言ったように、プラチナカード持ちの女性を迎えて利用したい家は多いし、魔力があることを隠さない生き方をするなら、貴族との結婚も不可能ではないかもしれない。でも、今みたいに隠して生きたいなら、レグスタインは、実家といろいろ軋轢があるけど貴族の嫡男だからね。お互いが思い合えても最後はお別れが待っている」


「貴族……」


「先の皇帝たちを支援して、その後は、枢機院を支援している子孫がこの国の貴族だ。君にとって、本来俺たちは憎き相手の子孫なんだ。もちろん、デボラが個々を見て、俺たちを信用していることは知っている。でも、自分自身がその貴族になる覚悟があるかな?」


私は、そう言われて、過去の魔女の悲鳴が頭の中で蘇ってくるのを感じた。


魔女狩りを支援している貴族に自分がなる選択肢はない。



「なんだ……恋の成就も無理だけど、どっちみちレグとの将来なんてないんだわ。私の気持ちも、たいしたことないってわかった。嫌でも、魔力がある、利用価値があるってアピールしてでもレグを振り向かせようという気概がないんだもの」


私は、泣き笑いのような顔になり、キリフに伝えた。


「恋は熱病みたいなものだと魔女たちが言ってたわ。すぐ冷めるわ。初恋だったから焦っただけなの。でも、旅が終わったら、私は静かに過ごすから、二度と恋することもないかもしれない。だから、この気持ちに蓋をするまでちゃんと楽しむ方がいいわね」


キリフは、そういうふうに私が返答すると思わなかったらしく、驚いたような顔をした。


「多分、ユリアが聞いたら次の手を打ってくるだろうな。そうだな……ユリアがその立場なら、私のために廃嫡されて来いって相手を脅すだろうね」


そう言われて、それは実際にやりそうだと、キリフと二人で想像して、ぶるっと震えて笑った。


「デボラ、ユリアと君は違う。ユリアには伝えておくけど、君らしい姿で、しっかり恋を楽しんだらいい。レグの好きな人のことは知っているけど、デボラの恋の最中に邪魔してくることはないよ。相手への気遣いもしなくていい」


「それは……レグも報われない恋をしているのかしら?」  


「報われないとは思わないけど、デボラがレグと両思いになるぐらい難しいのは確かだ」



キリフの言葉に、自分の恋は難しい恋なのだと再認識して、少し胸が苦しくなる。

そして、あんなに優しいレグが、しばらくその人と想いを添い遂げることはないと知って安堵する黒い気持ちが横切った。


こんな気持ち嫌だわ……

好きな人の幸せを望まないなんて……


私は、300年前にはなかった感情を自分が持ち始めていることが嫌になる。


「何も変わりたくないのに勝手に何もかも変わっていくのね」


私はぽつりと呟く。そこに──


「レグスタイン様が帰って来られました」


ソフィアの声がして、私は急いで手で涙を拭った。


「デボラ、ソフィアにこれを着せてもらおう」



レグが多くの荷物を持って帰ってきた。

そして、差し出された服は、レグスタインの別宅で着ていた普通の綿の夜着だった。












明日は2回更新の予定です。

もうしばらく恋愛パートが続きます。

地味にストーリーも続きますのでお付き合いください

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