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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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63 空間バッグは乱れています

「自宅にダンジョンがあるんですか?」


ダンジョンには良い思いがないわ。


私はギルド長の誘導のまま、自宅の地下に降りるための魔法陣を何度も潜り抜けていくが足取りは重い。


しかも、魔法としての精度はあまり高い魔法陣ではないので、思わず描き直したくなる。


ただ、私の想像する転移陣と違うのかもしれない。

どこかに転移するという魔法陣ではなく、上下を通過するだけの穴から落ちるか登るかというような、階段に近い移動だと思っていた。


私が色々、魔法にかかわる部分を気にするそぶりを見せているからか、ふふんと笑いながら、ギルド長は進んでいく。


ちょっとぐらい、こっちに歩幅を合わせてくれたら良いのに!

本当にユリアさん以外には淡々としているよね


私は、ムカっとしながらも必死で後についていく。


「変な魔法陣だと思ったんだろう。これでいいのさ。魔物がダンジョンから外部に出なければいいだけだ。仮に出てきても、この魔法陣で下に留めることができる仕組みにしているんだ」


ギルド長は、こっちの考えていることがわかるかのように、ニヤッと笑う。


「そういうことなら、納得できます。魔物は魔法陣を通過できないようにしておけば、出口のない地下に閉じ込めているようなものですから」


私も、意図がわかって頷いた。


ただ不出来な魔法陣というわけじゃなくて、セキュリティーで必要に合わせたもののみに特化しているのね。それなら、納得だわ。


今回は、空間バッグの中のものを出す。

その中に危険があっても、このダンジョンの空間だけの話にできるということのようだ。



なるほど、うってつけの場所よね。

そして、その中に今回入れるのは、ギルド長と私だけ。


ただ──


「ユリアさん大暴れだったけど、本当に一緒に行かなくていいのかしら?」


「良くはない。そして、おそらくこの後は私は無事にはすまない。彼女は、生まれながらにして女王様だから。でも、知らない方が安全なことは多々あるから彼女を守れるならそれでいい。そして、同様に申し訳ないが、秘密の場所だから、他のみんなを連れて歩くことはできない」


なんだか、ギルド長の表情がとんでもなく青ざめているような気がするのだけど……


気のせいじゃないわよね。

あんなにみんなで一緒に行くんだと張り切っていたんだもの。


結局、私たちが空間バッグを解体する間に、キリフがユリアさんの話し相手になって時間を稼ぐことになった。

元気になったと言っても、あの足だと、魔物が出る可能性もあるダンジョンに行くのは難しいだろう。


早くバッグの中身を出して戻ったほうが良さそうだ。


ただ、ユリアさんは──


空間バッグを見たいというのは本音じゃない気がする。


どちらかというと、ギルド長やキリフたちと活動を共にしたいというのが本音だったような……


「あの……本当にギルド長は、ユリアさんを愛しておられるのですね」


「ああ、キリフには申し訳ないが、彼女が俺を選んでくれた今、命をかけても彼女だけは譲れないと思っている。ただ、この立場は、家族も含めて危険に晒されることは多い。君のことを守ると決めるのも正直かなり迷った」


ギルド長の顔が、ぎゅっと締まり、真面目な顔に戻る。


ギルドという組織が単体で枢機院と戦えるなら、そのぐらいその立場には危険が伴うということだ。


せっかくお互いが想いあってある夫婦だと認識しあえたんだもの。離れたくないし、夫の言動が不安になるのは当たり前だわ。


ましてや、私を行動を共にするということは、いよいよ、枢機院を敵に回すということ。


「単純な戦いなら負けない自信はあるのですが、政治的なものは全くわかりません。どう動けばいいのかも」


「だろうな。この時代に生きていてもそうなのに、300年前からやってきて、誰が味方で誰が敵かなんて分かるわけもない。

だが、まさか、枢機院のアレンを弟子にしているとは驚いたが」


「弟子というよりは、魔法の正しい使い方を知って欲しいといいますか……それで、私たちは迫害されたようなもんなので」


私は苦笑いする。


みんなも心配していたけど、ギルド長も、まさかこの間まで枢機院の一人だったアレンが私のそばにいることは想定外だっただろう。


「このダンジョンは本来なら誰にも知られたくないシークレットゾーンなんだ。君がいたダンジョンと同じで、古いし深い。我々の手に負えないからと閉じているわけだからね」


ギルド長が、私を案内した場所は、ギルド長の自宅の地下。

転移陣で降りても、岩で覆われた壁があるだけだ。


でも、すでにただの壁ではないことがわかる。

ギルド長が自身の魔力を入り口の壁に注ぎ込む。


「俺を殺したり、脅してもこの扉は開かない。ギルド長が自分の意志で開かない限り開かない扉だ」



そう話す声と同時に──


ゴゴゴゴォォォ


その岩の壁がゴゴゴゴと音をが立てながら、横にスライドして、中から冷たい冷気がぐっと噴き出してくる。


そこには、ただ、冷たい見慣れた真っ暗闇の広い空間が広がる。


「ついこの間、ダンジョンから出てきたのに、またダンジョンに潜らないといけないのね。」


私にとってダンジョンは処刑場のままだ。

目の前の暗闇が、私を飲み込もうと襲ってくるような錯覚があって、思わず、後退りしそうになり、気持ちをなんとか奮い立たせる。


今の温かい環境を知ってしまうと、最初の一歩を踏み込むことが恐ろしくなる。


もう戻れないんじゃないか。


助けて!

外に出たい!


仲間の最後の泣き声のような叫び声が聞こえた気がして、ぎゅっと目をつむった。


ここは──あのダンジョンじゃない。

私はあそこから出たんだ。


青い空を、ちゃんとこの手で掴んだんだ。

私は、一呼吸して目を開けた。


「ダンジョンの中を魔法で灯すのはアリかしら?魔物がいたら、興奮させてしまう?」


私は、少しでも違う空間に変えたくて、ギルド長に声をかける。


「なんとかなる。10階ぐらいまでは討伐しているから、多少の明かりは問題ないだろう。そして、ここなら好きになんでも出せるだろうから出してくれ」


私は、頷きながら周辺を見て、片手に火の玉を作る。


──火の妖精よ、その玉に宿り、この空間を照らせ。この空間の生きるものを把握せよ──


そう唱えながら、真っ暗闇の空間に火の玉を投げつける。

瞬間、四方八方に火の玉が飛んでいき、ふわっと明るい部屋に変わる。


それだけでも、ダンジョンの雰囲気は消えて中に入る時に足が勝手に震える感覚は減っていた、


「ほぉー、流石だな」


ギルド長は、明るくなった岩の部屋を見回しながら、火の光がきれいだなと呟いている。


「明るくないと、空間バッグのものを出したあとに処分の有無に困るので……」


その恐怖心を減らしたいからだと、なぜだか言い出せなかった。弱い言葉を出した瞬間、私はその空気に、ダンジョンに飲み込まれたしまう気がしたから……


早く中身を出して、さっさと仲間の元に帰ろう。


「ええと、早速なんですけど、どうやって中身を出しましょうか?」


一気に出すと、復活してしまう魔物もいるだろうな。

でも、一気に出してしまう方が、一気に片付くかしら?


私は思案する。

レグなら、きっと一つ一つ出していきなさいっていうけど、そんなことをしていたら一年以上経ってしまうわ


うーん


そう悩む私に、ギルド長はあっさりと答える。


「ただ、出したらいいんじゃないのか?深く考えない方がいいぞ。そのためにここを開けたんだし……」


ここは自由なんだから安心しろと私に語りかける。


あら、男前だわ。

そのきっぷの良さがユリアさんと似た者夫婦な感じでいい。


「言いましたね?言質はとりましたからね」


私は、空間バッグに向かって声をかける。


「空間バッグの全てよ。ここに中身の全てを表せ!」



その瞬間──



空間ががパッと開き、雪崩のように私の戦歴が一斉にとんでもない山となり、更に雪崩を起こし、こちらに向かって物と死骸の魔物が押し寄せてくる。


溜め込んだわね。

もちろん私のものだけじゃないけど、よく空間バッグが裂けないものだわ。


私は、その量の多さに、ため息をついた。


ところで?


「あれ?ギルドちょーー!ギルドちょーーーう!どこへ行かれました?」



私はふわりと浮遊する。


その床の雪崩は、まるで大海原のように止まらない。


落ち着いた時には、フロアの全てが埋まり、おおきなお宝の山が出来上がった。



早くしないと復活する魔物もあるから、さっさと解体を……



でも……ギルド長が……



いない……



「ぎ、ギルド長?もしかして、素材の下敷きに?物よ!!全て浮かべ!」


私は慌てて全てのものを浮かび上がらせる。


「た、たすけ……圧死するかと思った!ってうわわわわわわ!

おい、魔物が!」


ギルド長が慌てて空中に浮かんだまま、剣を取り出す。


「ああああっ!もうゴースト化し始めてる。ああ!こっちはファイアーウルフが燃え始めるし!」



浮かして正解!


燃えるなら、他のものに類焼するところだわ


「エアープレス!ゴーストウルフを確保!」


私は風魔法でキューブ型の風カプセルを作り、一斉に飛ばす。


それぞれのゴーストをキューブに入れて一斉に真空にして潰す作戦だ。


ゴーストといえど、出現する空間を無くして仕舞えば、終了ではないだろうか?



「お、おい!なんか空中に潰した内臓が何個も浮いてる!」


ギルド長の叫び声がする。


「内臓血まみれのやつは、ゴーストに変換される前のスピンウルフですから、血まみれの中から拾い上げたら魔石が出てくると思います。彫刻刀でガリガリやって頭の魔石を探していたんですけど、我ながらこの方がスマートですよね?」


こうすれば、ゴースト化する前のスピンウルフも、ゴーストになったゴーストウルフも圧縮密閉だ。


「スマート……?グロテスクの間違いだろ!」


ギルド長は額に汗を浮かべながら、ギョッとした顔でその圧縮された内臓入りの真空カプセルを避けるようにする。


「ギルド長……見た目は汚いですけど、血まみれになりながら魔石とるよりはマシですよ。さあ、一緒にこれを解体しましょう。」


横の小さなスペースに、圧縮されたスピンウルフ、ゴーストウルフ、ファイアーウルフなどの原型を留めない狼たちをふわふわ浮かしながら、ギルド長に手渡す。


圧縮真空カプセルのスピンウルフをギルド長が持つと、その瞬間力を入れすぎたのかパンッと真空が弾け、私たちの体は、魔物の血まみれになった。


だが、私はそこは冒険者の服にヒュドラを使った甲斐があって、血が弾かれ、床にボトボト流れ落ちる。


さすが防水。血にも効くのね。


私はご満悦だが、ギルド長は……


あら、ユリアさんがセレクトしたと思われるスーツが血まみれだわ。

どうしてこんなところまでスーツなのかしら?


「ま、まて!片付ける順番を考えよう。俺はちょっと300年の歴史を軽く考えすぎていた」


「300年狩り続けていたわけじゃないんですけど……順番というより、せめて防災防水エプロンは必要じゃないかしら?」


そうだわ!エプロンぐらいなら準備できるはず!


「私のこの服、ヒュドラの革なんですけど、大量に革が残ってるんです。いい感じに、火も水も血液も弾くんで、すぐエプロン作りますよ!」


私はぷかぷかと、冒険者服で使った残りの余りのヒュドラの頭が八個分ついたままの死骸を浮かせてギルド長に見せた。


「ひゆ……ヒュドラ??やっぱりなのか!ユリアもヘビの模様がデカすぎると言っていたが、ただの大蛇じゃないのか?いや、言ってる俺もおかしいか?ただの大蛇なんていない、大蛇でも十分だが……」


「大蛇は革素材としては悪くないんですけど、ヒュドラには劣りますし、どちらかというと開いて蒲焼きにする方が使い道としては便利なんです。大蛇よりは……ヒュドラにしません?」



私は一応、解体していない大蛇も浮かせてヒュドラを二つ同時にぷかぷか並べてみる


「わああああああああっ!」


ギルド長は、口をぱくぱくさせるのみだ。


「なんて声出してるんですか?大蛇もヒュドラも解体が面倒で入れただけです。もう死んでますよ。

ギルド長、レグより強いんでしょう?レグはそんな声出しませんよ」


レグは黒竜を前にして、負けを悟った時にはすぐに降伏を申し出た。

今から思えば、恐怖だっただろうに、みんなを守るために最後の賭けに出たのよね。


「俺は……初めてお前に対するレグスタインの度量の広さを実感したよ。これは無理だ。デボラ、とりあえず、もう一回全部入れ直そう。みんなの協力をもらうことにする。俺と二人で片付けるなんて無理だ!絶対無理だ!」


もはや、パニックに近いギルド長をみて、やっぱり300年前と今の常識は違うんだわと少し悲しくなる。


「わかりました。じゃあ、一度入れ直しますね。」


私は空間バックを全開にして、浮遊したものを一列に並ばせ、どんどん中に入れ込んでいく。


「入れるの時間かかるなあ。出すのなら早いんですけど」


私はため息をつく。その横でまだギルド長は叫んでいる。


「お、おい!見間違いなのか?俺、今ユニコーンがお前のバッグに吸い込まれていくのを見たんだが!お前!まさかユニコーン持ってるのか!」


ユニコーン……


そういえばそんな懐かしい話があったような。


「そうですね。ユニコーンですね。でも、もうギルド長はツノは必要ないですからね。解体して入れ直すだけです」



「ま、待て!必要ある!嘘だろ!」


ギルド長は、空間バッグに入るものを見つめては、全てが片付け終わるまで叫び続けるのだった。






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