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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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64 いい女に仕立ててあげる

「デボラ!どうしたんだ!血まみれじゃないか。ギルド長も、何があったんだ!」



私とギルド長が地上に戻ったら、レグスタインが駆け寄ってきて、身体中に触れながら傷はどこだと心配される。


すごい心配されたのに申し訳ない。


実はまだ何も片付いてないんです、ただ、血濡れただけなんですっていう説明、ちゃんとしてくださいね。




私は、心配して待っていてくれたレグスタインたちに合わせる顔がなくて、ギルド長を軽く睨む。


それなのに、ギルド長は、みんなをそっちのけでユリアに詰められている。



「ちょっと、あの子と何したわけ?なんで二人で仲良く血濡れてるの?ただ、荷物を取り出しただけだよね?二人でここまで血濡れるってことは、仲良く二人で密着していた時に血を浴びたからじゃないの?」



相変わらず杖の暗器が、あら?ギルド長の首に……



「ち、ちがうよ!ユリア、君を置いていった僕がバカだった。きみ以外と密着するなんてありえないよ!あれは狼魔物の血だよ」



うーん、先ほどまでは狼魔物の血だったけど……


あれは魔物の血なのかしら?

暗器による自分の血なのかしら?


私はその様子をじっと三白眼で見つめる。



私は何もないけど、ユリアさんは、私とギルド長がいない間、キリフと過ごしているんだよね?



むしろここは、俺がいない間に浮気してないだろうな?とギルド長が先制パンチを入れてもいい場面だと思うんだけど、この3人の関係はよくわからない。


どうやら、ユリアさんはギルド長とキリフの愛が両方、自分に注がれないのは嫌な様子なのだ。


キリフはユリアさんとはもう無関係な人に思えるけど、前と違う距離感というのは嫌みたい。



私としてはなんだかキリフが気の毒に思えてしまうのだけど。



お酒飲んで失恋の傷を癒していたキリフを思い出し、少し胸が痛くなる。




「で、デボラは怪我は本当にないのか?」


キリフは、私の心配なんて気にしなくてもいいぐらい、この二人のやりとりは気にしていない。


もう失恋の傷も全くないようで、完全に二人を空気のようにスルーして、私のことを心配してくれるけど。




「大丈夫です。これは返り血ではないので……」



つい、恨めしそうにユリアを見てしまう。


だいたい、ユリアさん、密着って言い方は考えて欲しいものだわ。


私が密着した相手なんて、今までレグしかいないのだから……


密着……



ボッ!



絨毯や添い寝を思い出してしまったじゃないの。


あれも、事故みたいなもんよ。


ただでさえ血まみれなのに、顔まで赤くなるわ。


本当に恥ずかしい。


「キリフ、実は何も進んでないんです。何も片付いてないんです」


私は申し訳ないとがっくり肩を落とした。


すでに、潜ってから、一日経ってしまったわ。

本当に何してたんだか……


予想外に空間バッグに物を入れ直すのに時間がかかって、更に中の鮮度も落ちてしまったじゃないの。



私はゲンナリしながら、今までの空間バッグを出した後からの経過話をみんなに告げた。


「それは……ジークがデボラを舐めすぎだな」


キリフが、いまだに夫婦喧嘩を繰り広げている二人を見て、ふーっとため息をつく。


「私はちゃんと全部出していいんですねって確認しましたよ」


ぷーっと膨れっ面で、キリフに抗議する。


「まあ、俺たちが慣れすぎたってのはあるかもね。グレンとアレンが一緒にいたら違った意味で終わらなかっただろうし」


バインは、困ったようにグレンとアレンを見つめる。


どうやら、二人は元々気が合うようで、少しでも時間があれば魔法の話に花を咲かせている。

アレンも肩書きが消えて楽になったのか、すっかりグレンの弟のようなポジションだ。


「彼ら二人に、材料を渡してどんどん薬を作ってもらった方がいいかもしれませんね。」


1週間ぐらいひたすら3人で薬を調合しようかな?


グレンとアレンと私で調合の材料をたくさん消耗すれば、かなりスペースは減るし、勉強にもなる。

アレンは元々魔力が高いし、グレンもマナポーションを与えながら鍛え上げたら、少し魔力も上がりそうだ。


「えーっ!作りたい!デボラも一緒に作ろうよ。何から作る?」


アレンの表情がどんどん子供らしい好奇心旺盛な顔つきに変わっていく。


「そうね……基本のポーションの効能を上げるところから始めて、ハイポーションを……」


私は、アレンにニコニコ答えていると、レグが私の横に立って首を横に振る。


「とりあえず、魔物の血を浴びたままは良くない。清浄魔法を使ってもいいが、風呂をお借りしよう」


「たしかに……その血はね……」


グレンも、話に花がさきそうになるのをぐっとこらえて、私の姿を見直した。


「弾いているとはいえ、スピンウルフの血だからな。しかも、まだ、べたべた」


実際、傷を心配して私に触れたレグの手も血まみれになっていて、そうだろう?とその手をグレンに見せている。


だがアレンは、好奇心が勝って、その血の生々しさに感嘆の声をあげている。


「スピンウルフを見たことがなかったんだけど、ここまで血が乾かないのはこの世への執着みたいなものを感じるよね。使う内容によっては、血も素材になるかもね?色も鮮血のままだし」


「あら、目の付け所がさすがアレンね。乾かないからマージェスター通りの偽物みたいな染料には不向きだけど、人への害はないし、魔力も含むから美容パックとかどうかしら?このまま、血濡れたまま一晩実験してもいいかもしれないわ」


せっかくグレンがこらえてくれたのだけど、アレンの無邪気な声に、私は再び、うきうきと魔法談義に入ろうと……


それなのに──


「ギルド長、デボラは気にしないフリをしてくれているけど、普通の女性だったら、こんなに血を浴びて、トラウマになるレベルだよ」


私の反応なんて無視して、再びレグスタインの間接的ストップが入った。


トラウマ……ってなんでしたっけ?


レグスタインが、ギルド長にクレームを入れるから、うきうきを必死に隠して、普通の女性っぽいトラウマな顔をしないとダメじゃないの?


直接私に言っても止まらないからって他の人を仕向けるなんて

レグ!卑怯だわ!


私は、焦って、必死であの暗いダンジョンを思い出して、ぶるっと震える。


正直、怖かったのはあの瞬間だけだ。

一度入ったら二度と出られないんじゃないなという恐怖だ。


「デボラ……どう見ても圧死しそうになったり、血を浴びたり、見たこともない魔物のパレードを見せられた俺の方がトラウマになる気がするが?」


レグスタインとユリアに詰められているギルド長が、嘘だろという目で私を見る。



はい、嘘です。



そう言いたいけど、心配性のレグが、すごく心配しているんだもの。


悲しそうな顔だけはしないと……


「出来れば、今後はみんなと一緒に処理したいです。ただ、足の踏み場がなかったのは事実なので、先にギルドで欲しいものがあれば、一覧表をください。」


ギルドからの指定品を納品。


調合とこれだけで、少しは減らないかしら?

私がそういうと、再びギルド長の目がキラキラと光り始める。


「あら?それ、私もおねだりしていいのよね?」


うれしそうに、ユリアがギルド長におねだりをする。


「私、他の人が持ってなさそうなドレスの生地や宝石が欲しいの。魔石は宝石じゃないからいやよ。なんか、臭そうじゃない。あとは……そうねえ、杖の素材をもっと戦闘系に変えたいわよね」


杖は軽くておしゃれな魔鉱石がいいわねえ

刃物はそれに合わせて特注を入れようかしら?

いっそ魔物の牙みたいなのもありよね?



先ほどまでギルド長を締め上げていたはずのユリアの呟きが甘くなり、私とキリフの耳に入ってくる。


ユリアは女王様だから……


そうギルド長は言っていたわよね。


「俺……ユリアと一緒になってたら、破産してたな」


そのギルド長とユリアの会話を見て、キリフは複雑そうな顔をする。

私も、ユリアさんは、神官の妻には向かない気がしてしまった。





「デボラが一人部屋だと不安だから……グレンとアレンと同じ部屋にするか?」


「それはそれで不安じゃないか?止める奴がいない」


部屋割りを考えるレグスタインをヘンケルが止める。


「確かに何日も眠らずに調合しそうだな。じゃあ、ヘンケルとバインの部屋にするか」


レグスタインは、私が狙われる可能性を考えて不安だから、女性だけど誰かと同室にしようねと私に伝えてきたが、きっと私が出ていった日のことで、レグのトラウマにさせちゃったんだわ。


だが、部屋割りになりバインの様子がなんか変だわ。

疲れているような……えっ?私、疲れさせたかしら?


「いつもなら大喜びだけどさ、デボラが俺たちの部屋に来たら、絶対グレンとアレンが俺たちの部屋に住み着きそうだよ。レグとキリフの部屋にデボラを入れておくのが一番安全だと思うよ」


バインは、この二人の世話をするのは大変なんだと叫ぶ。


ああ、あの二人ね……


今までのバインは、みんなの中では弟のようなポジションで、甘えるポジションだった。


ところが、グレンがアレンと一緒に魔法が絡んで子供のような聞き分けのなさになってしまい、いきなり二人の面倒をみるお兄さんポジションに格上げしたらしい。


それは……大変かもしれない。


間違いなく、ここに私が加われば、バインは私も含めて3人の面倒を見ることになるわ。

私も魔法が絡むと子供に戻ってしまう自覚がある。


「じゃあ、レグと俺とデボラにするか。その方が、細かい打ち合わせでも、ジークやユリアと相談しやすいだろう」


キリフが「それが一番いいよ」と、うんうんと頷いて、レグの肩を叩く。


「そう……だな。たしかに、今後の打ち合わせや納品の話をするなら、俺たちが入る方がいいか……」


なぜか、レグスタインの顔が少し赤く、ソワソワしているように見えるのは気のせいかしら?


そして、なぜか、みんなが意味ありげににまにま笑っているのはなぜ?


私は、首を傾げて、なんか私だけわかってない気がするとう唸った。


「ああ、そうだ!デボラの身の回りは、ソフィアにさせる。やっとビルダーが返してくれたんだ。なにかあれば戦闘力もあるからな。あと、この時代への対応はユリアに任せるから、毎日時間を決めて彼女から講義を受けてくれ」


ギルド長が、ユリアさんに同意を得るように話しかける。

ユリアさんは頷いているし、二人で話がまとまっているのだろう。


「わ、わかりました。ユリアさん、よろしくお願いします」


私は頭を下げる。


最低限のマナーや常識を頭に入れておきたいのは確かだ。

少しでも、普通の女性のように生きたいわ。


ユリアさんは性格はきついけど、冒険者でもあるし、仲間と協調する立場も教えてくれるだろう。

みんなにかける気苦労もきっと減るわね。


女性視点からの指導がもらえるのはありがたいと感じた。

それなのに、レグスタインだけは不安そうだ。


「ユリア殿、彼女の良さは潰さないようにお願いしたい。俺は、普通を求めすぎて彼女を追い詰めてしまったから、負担をかけたくないんだ。」


そう言って、私の横で頭を下げる。

私は、やっぱり家出の前のレグとの言い合いで、レグの心を痛めてしまったんだと知って、焦りと訂正をしたい気持ちでいっぱいになる。


だって、あれはレグは悪くない。

アレンに起こった身の上を見ても、悪いのは私だわ。


「レ、レグ!あれは私が短慮だったのよ」


急いでレグに言い訳するわたしをみて、ユリアはじっと考え事をしている。


「レグスタインが、この子の将来に成り手がいなければ責任を取るっていうなら、この子の良さは残してあげる。だけど、良さは残してくれ、俺は違う世界で違う女性と仲良くやるっていうなら、無責任でしかない発言ね」


そう言われたレグは、表情が固まっている。


「ユ、ユリアさん!私は300年前の人間ですから、この時代で私を喜んで受け入れる人はいませんよ。普通に一人で生きていけたらいいんです」


慌てて、そういう私に、ユリアはふっと笑って、少し首を傾けて笑う。


「レグスタイン、聞いた? 一人で……だそうよ。デボラ、大丈夫、ちゃんと淑女としてあなたを娶りたいという人が殺到するレベルまでは鍛え上げてあげるわ。身分はなくても、プラチナカードの妻を持ちたい人なんて沢山いるわよ」


そう、まるでレグスタインに嫌がらせをするようにユリアは話しかける。


レグの表情は、どんどん泣きそうな顔つきになるし、それを見ると、すごく私も悲しくなってくる。


レグが私のやらかしのせいで傷ついて悲しむのは見たくないわ。

それに、居心地がどんどん悪くなるじゃないの!


ただでさえ苦手なユリアの気持ちが、私には全くわからずオロオロしっぱなしなのだった。



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