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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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61/64

61 好きな人はどんな人?

「魔力が戻ってる!」


翌朝、アレンの叫びでみんなは一斉に目を覚ました。


祠の中は、私が空間バッグから出した毛皮祭りになっていて、みんないろんな魔物の毛皮を布団にして、むくむくと起き出す。



「というか、何!この毛皮たちは?」


アレンは、自分の魔力の復活に驚いて目を覚ましたというのに、目の前の毛皮をペタペタ触り始める。


昨夜、みんなの布団を作ろうかと思ったけど、毛皮でいいと言われたのだ。

確かに、何個か毛皮を出すだけで、祠の中は豪華な毛皮の絨毯の出来上がりだ。



「アレン、魔力が戻って良かったわ。ちなみに、その毛皮は、ファイアーウルフの毛皮ね」


私はにこにこと笑いながら、毛皮の説明をし始める。

ファイアーウルフの毛皮は防炎毛皮で、水も火も弾くので、火山帯などの過酷なダンジョンで過ごす時には欠かせない。


「ファイアーウルフって、死んだら毛皮は燃え尽きるんじゃないの?」


アレンが何を言ってるんだと言う顔で私を見る。


「10秒で解体を終わらせれば、大丈夫よ。風魔法でやればいいわ。絶命した瞬間、目の色が変わるから、そこからが勝負なのよ」


目覚めてすぐに素材の解体方法を学びたいなんて、勉強熱心だわ。やっぱり、アレンはただ魔力が強いだけじゃなく、好奇心も高いのよ。


私は、ニコニコしてアレンに説明したが、グレンから肩を叩かれる。


「多分、アレンが驚いているのはそこじゃない。10秒で解体できる人は、この時代にはいないんだよ。アレン、ちなみに僕が寝た毛皮は、アイスベアーの毛皮だ」


なぜか自慢げに、グレンがアレンに毛皮を広げてみせる。


「ええええぇぇぇ!アイスベアーは、すべての毛が氷の針でできているはずだろう!それはどう見ても純白の毛皮じゃないか」


アレンは再び、手を震わせながら赤ちゃんのようにハイハイしてアイスベアの毛皮の上に乗る。


「針のままだとバッグから出す時に痛いでしょう?だからあえて溶かしているの。凍らせばまた針になるわよ」


私は、グレンもアレンも兄弟みたいに勉強熱心ねと笑いかける。


だが、ヘンケルはその2人のやりとりを冷ややかに見つめて声をかける。


「アレン、こんなので驚いていたらデボラの弟子にはなれないぞ。どのくらい魔力は戻ってる?」


「えー?なんか普通に戻っていると思うけど……」


アレンは、呪文を唱えながら、手のひらに火の玉をだしたり、風を出している。


「通り道を潰したんじゃなくて弾いただけだもん。前と一緒なはずよ」


私は、そう言いながら、じゃあ片付けるわねと言って、みんなの毛皮を一斉に空中に浮かせた。


「わああああぁぁぁ」


天井に無詠唱で突然浮かぶ毛皮に、アレンは驚きを隠せない。


だが、みんなはまるで悟りを開いたように、そんな時代もあったなと遠い目をするだけだ。


「デボラ、そこで何でもバッグの中に突っ込むからいけないんだ。ちゃんと毛皮というカテゴリーで、さらに属性か魔物別にまとめよう」


騒いでいるアレンを横に、一斉にバッグに入れようとする私をレグスタインは止めて、浮かんだ毛皮を下ろさせる。


「まだ解体してないのもあるし、全部し終わってからで良くない?」


保護者的レグのコメントに不満げに反論してみる。


「ダメ!昨日、バッグの中を見せてもらったけど、ゴミ屋敷みたいな状態じゃないか。どんなに瞬間保存だと言っても食べ物だって扱うんだからさ」


そんな私とレグの言い合いや、感嘆の声をあげるアレンとグレンとわちゃわちゃな祠の中を見ながら、キリフとヘンケルはため息をつく。


「何かが変わると進展を期待した俺たちがバカだったよ」


私は、べーっと舌を出す。


「ちゃんとレグの言うことを聞いているけど、片付けが苦手なんですもの。仕方ないわ!」


そんな短時間に私のバッグの中身が変わるわけないじゃない。

でも……


「デボラ、空間バッグの乱れは、心の乱れだと思って片付けてごらん」


レグにそんな風に諭されるように言われたら、私の心はすでにゴミ袋だわ。

私は半泣きだ。



レグに好きな人がいることを聞いて以来おかしいのだ。

レグの好きな人は片付け上手なのかしらとか

好きな人にはこんなこと言わないんじゃないかとか

ギルド長の家にいる間に、好きな人に会いに行くんじゃないかとか……



「わあああああ!おかしい!おかしいわ!」


私は、頭を掻きむしる。

それを見て、ますますレグスタインはため息をつく。


「何がおかしいの?早く片付けなさい。おかしいのは、君の持ち物の量だ!」


「俺たちが手伝おうか?」


アレンとグレンがうれしそうに駆け寄ってくる。


「ダメだ、お前たちは本当に見るだけで一日がおわる。ヘンケル、バイン片付けてやってくれ。グレンは移動用絨毯の準備をしておいて」


そのレグスタインの声にますます私は悲鳴をあげる。


「あ、あの……レグ……私、馬車か徒歩で……」


「無理!ギルド長の家まで何百キロある?そして、すでにヘンケルとバインについては、実家が行方を探している。猛スピードで絨毯で、一気にギルド長の家まで行くに決まってるだろ」


「あ……あああぁぁぁ……神よぉ……」


私はがっくし膝をつく。


あれにまた乗るのか……

レグに固定してもらっても揺れるのに……

前なんて、翌朝までレグを離さなかったのに……


はっ!

翌朝まで!!

知らなかったとはいえ、レグには好きな人がいるのになんてこと!


「あ、あの……レグ……今日はキリフに固定してもらうわ。ほら、この間みたいなことがあって、レグの好きな人に誤解されたら……ね?」


「……」


あら?レグが無表情になり、無言になってしまった。


キリフが、おやおやと言いながらくすくすと笑う。


「デボラがいいなら頑張って固定させてもらうよ。だって、レグは、好きな人をちゃんと抱きしめないとね」


と、チラッとレグを見て揶揄うように言う。


「ええ、でも抱きしめるじゃなくて固定よ」


と私は頷きながらも、今度は泣きたい気持ちになってきた。


レグが誰かを好きな人を抱きしめる……


それが頭の中で浮かびそうになり、急いで首を振る。


本当に何なのかしら?これは……


首を傾げたくなってくる。


しかも、レグは本当に嫌そうに、そして切なそうに眉をへにゃっと下ろして言うのだ。


「何度もいうように、余計な気遣いは不要だ。デボラも、そんな風に、好きな人のためにって何度も言われると、俺も傷つく」


ひゅっ


レグのそんな切なそうな表情は見たことがない。

私は、その言葉を放つレグスタインを思わず息を吸い込んで見つめてしまう。


もしかして、相手とは障害のある恋なのかもしれないわ。

でもなんで突然??


私を探してくれている時に出会った人なのかしら?



私は、言葉少なく「わかった」と頷くしか出来なかった。





「ぎゃあああああああああああ」


「おい、デボラ!お前、プラチナなんだろ?俺より強いんだろ?なんで空飛ぶ絨毯ぐらいで白目を向いてるんだ!」


「デボラ!頼むからよじ登らないでくれ!」


「レグ、デボラの確保を頼む」


「絨毯から飛び降りようとするな!」


「ぎゃああああああ」



絨毯の重力と風が、私の思考を停止させる。

段々慣れるどころか悪化してるわ。


みんなの声が聞こえるけど聞こえない。


うっぷぅ!


何度気を失っただろう。



その時──


ばさっと何かでふんわり覆われる。


「師匠さんのローブだ。これを被ったら少しは楽にならないか?」


レグスタインの声が聞こえて、視界が隠れる。


ああ、確かに師匠の世界だ。

300年前の世界だ。


暗闇なのに、体は重力に持っていかれるのに、まるで一緒に飛行訓練をしていた小さな時を思い出す。

私は、その柔らかい空間に目を閉じる。


あんなに強かった揺れも重力も、この世界の中なら大丈夫。


「えっ!あのローブ、デボラの師匠ってことは、もしかして始祖のローブ?ごめん、デボラ知らなかったんだ。そんな大切な人のローブって!」


遠くで焦るアレンの声が聞こえる。


「ああ、ダメダメ。絨毯の上のデボラには、謝っても何も記憶に残ってないって」


グレンの声だ。


「でも、ちょっと落ち着いたようだ。少し不安が取れたかな?良かった」


私の体をポンポンと軽く叩くのと同時にレグの声がするわ。


あ……師匠のローブなのに、レグの香りがする。


だから余計に安心できるのね。

あれ?キリフに固定してもらっていたのに、結局レグに抱きついてしまったんだわ。


レグ、恋が成就したらその優しさは、その人に注がれるんだよね。


私は、ぎゅっとローブ越しに、レグと思われる体を抱きしめる。すると、少し止まって、またポンポンと叩くリズムが始まるのだ。


そして、そのまま、また記憶が遠ざかっていくのだった。






次に目覚めた時には、私の前に鬼のようなユリアさんが、杖の暗器を私に突きつけていた。



「ちょっと、結局、あんたとキリフはできてるってこと?」


「へ?」


私はあのまま眠っていて、キリフに抱きついていたらしい。

今、私はキリフに抱き上げられている。


なんだ、レグの香りがしたと思ったのは気のせいだったのか。


少し寂しい……


いえ、今、私は、目の前に刃物を突きつけられているんだった。


「ユリア!誤解だよ!デボラは絨毯が苦手で、俺が固定していたけど、結局レグのところにデボラは移動したし、今、降りてからの間だけ俺が抱き上げただけで……」


しどろもどろで、いつもは理路整然としているキリフは何処に行ったの?

私は、目の前でぶんぶん振られるユリアの刃物付きの杖に、ひーっと悲鳴を上げるのみだ。


「情けない!なんて言い訳のオンパレード!確かに、わたしの好きな人はジークだった。それは悪かったと思ってる。

でも、だからって、すぐ、切り替えて、若い子に手を出すってどうなの?年相応っていう言葉があるでしょ」


目覚めた瞬間にユリアさんに、私が刃物を突きつけられているのは、私とキリフが出来ていると思われているからなの?


私は眠気が吹っ飛び、目を丸くする。


「あんたもあんたよ!あんたは、レグスタインとできてるんじゃなかったの?この尻軽!」


ええええええっ!


いつ、私がレグとできて、いつ尻軽にキリフに乗り換えたの?


「ユリア!落ち着け!落ち着くんだ!」


「うるさい!ジーク!あっちに行け!」


目の前では見たこともない弱腰のギルド長が、ユリアさんを必死に押さえ込んでいた。





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