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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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57 お前は俺の憎き敵

「アレン、少し休んで体力を回復させましょう」


私は、ご飯を食べ終わったアレンに声をかける。


「いいけどさ……これ、なんの布団?なんかすごいボリュームで体の覆われ感が半端ないんだけど……」


アレンは、自分が横になっている布団を胡散臭げにみている。


「あら?さすが目の付け所が素晴らしいわ。私が作った特製布団なのよ」


ふふん、レグの家で学んだのよ。


ふかふかお布団っていうものがあるの


私は心の中でほくそ笑む。


この祠でアレンの治療をした後、お布団を作成したのだ。


中身は、グリフォンの羽で、300年前に私が使っていた布でくるんだ掛け布団、敷布団はそのグリフォンを毛皮の敷布団にしてみたわ。


グリフォンが、希少かどうかはわからないけど、念の為怪しまれないように顔の部分は切断しておいたわよ。


「なんかさ……ふつうの毛皮より毛深くない?相当大きい獣なんじゃないの?」


そう言いながら、アレンはくんくん毛皮を匂う。


あら……流石、枢機院。


見るところが毛深さとはね。


「やあね、ちゃんと清浄魔法で清潔にしておいたものだから、獣臭くないわよ」


毛皮は動物、羽もただの鳥だと言えばわからないはず!


所詮は子供、誤魔化されてくれるはずよ!


我ながらナイスだわ!


「ねえ、なんか設定忘れてない?ちなみに俺は、あんたに名前を伝えてないはずなんだけど……」


アレンは本当に困ったように私を見る。


「設定??あら……?そういえば……いえ、アレンは有名人だから当然、他国に住んでいても、名前を知っているに決まっているじゃないの。言われて思い出した!うん!」


私は、アレンの手を取った。


確かに、私はアレンの治療をする謎の魔法使いだったはずだ。


「あんたさ……女でしょ。魔女ね……世界初?」


「な、なに……なんで……」


私は慌ててあわあわする。


ずっと身バレ連敗中なのに、ここに来て10歳児にまで身バレするって!


私、どれほど詰めが甘いの!!


レグたちに会うことはもうないけど、それでも合わせる顔がないわ。


「だって、俺を抱きしめてくれた時、男の体の硬さじゃなかったし、声も女に戻ってるし……」


さーっと血の気が引く。


会話して、ご飯を食べたら気が緩んでしまったわ……


「警戒しないで大丈夫。俺はもう何もないただの子供だから。それより、居なくなられる方が困る」


アレンはそう言って眠たそうに目を瞑った。


あ、あら?なんか淡々としてる。


もしかして、私、残念な大人にならなくて済んだのかしら?



たしかに──



アレンにとっては私が魔女かどうかより、これからのことが一番心配に決まってるわよね。


私は、できるだけ優しい言葉をかけようとする。



「アレン、私はいなくならないわ。少し魔力の流れを見るから、魔力を通すわよ」


アレンの手に魔力を細く通していく。


するする伸ばしていくと、うーん、眉間のところがまだ少し途切れてるわ。


でも、今日でデコピンして2日目だし、あと少しかしらね?


「うん、一眠りして体力が回復したら魔力も回復するわ」


私は、そうアレンに優しく声をかけて元気づける。


「そっか。いてくれるんだ……あのさ……これから、俺、行き先ないんだよ。あんたは、どこか行く場所があるのか?」


アレンは、目を再び開けて、布団に横になったまま心配そうな顔で私を見る。


「それが、食べるものはあるんだけど、お金もないし、住むところも決まってないのよ。

ここがどこなのかも分かっていないし、シャルバンポール城の近くの村を目指していたんだけど……」


「金ないのかよ!」


アレンは目を見開き、どうするんだよと言う顔をする。


「とりあえず、ここの祠には防御魔法と認識阻害を展開させているから、しばらくはここを拠点にするしかないわ。でも、魔法を展開させてなくても、誰もここにはこないのよね……」


私は、ちらっと外を見るが、やはり誰一人歩いている様子はない。


「この国のあちこちにこんなふうに誰も活用していない祠があるんだ。俺の宗派の始祖が昔作ったんだってさ」


アレンは、祠の天井をぼんやり見つめる。


石造りが多い建物の中で、木で作った温かみのある祠だ。

かつて、私が身を隠す時に、木々に守られていた感じと似ている。


「活用していない祠なの?木で出来た素敵な祠ね。なんだか守られているみたい。始祖って人はセンスがいいわ」


そういえば、祠はあるのに神様らしきものは何もない。

それなのに、何かに守られているような温かみがある。


「そうだな。確かに、横になっていると何かに守られてるみたいに安心できる。すごいよな。始祖は。大昔に、皇帝に対してクーデターを起こして、枢機院を作った人なんだぜ。」


「へぇーっ、皇帝にクーデターを……すごい人なのね」


アレンだったその歳でその枢機院のトップの一人なんだからすごいわよ。


今ならそう言ってあげられたのに……


アレンはローブを乱暴に扱いたかったわけじゃなくて、すごい人なんだってみんなに自慢したかっただけなのよね。


私は、眠いのに、ひたすら始祖のことを自慢げに話すアレンに耳を傾けていた。



「始祖はね。300年前の皇帝の双子の弟だったんだ。兄は権力者で魔力がない、始祖は、魔力、魔法能力が高かったのに、権力欲はないんだ。崇高な人だよな」


「そうだったの?」


私は、そのアレンが語る横で、始祖が皇帝に与えた影響について考えていた。


皇帝が魔力がないのは知っていた。


でも、双子で魔力のあり、魔法が使える双子の弟がいたら、ますます魔力がないことに卑屈になっていたのかもしれないわね。


初めて聞いたその弟の存在に驚きを隠せない。


300年前に魔女仲間でも、皇帝の話は出ても、弟の話は出たことがなかったわ。


「でも、皇帝が独裁的になり、魔法が使えるものを嫌悪し始めたあたりから始祖とは不仲になって、最終的には、皇帝を殺して、当時出来つつあった7つの宗派に権力を分散させるようにしたんだ」


「へぇ……それで、枢機院はできたのね」


私からすると、皇帝が7倍になって怖いだけなんだけど……

1人の判断が誤っても、6人で止められるようにと思ったのかしら?


皇帝が完全に独裁者だったものね。

あの時、彼を止めることができる人はいなかった。


今でも、仲間の死に際を思い出すと、その残虐な行為に震えが出てしまう。


「俺さ、自分がこうなった今、独裁を嫌った始祖が求めていることと自分がやってきたことは真逆だったってわかるよ。俺はきっと皇帝だった。始祖はそんな子孫を見てがっかりしてるよ」


アレンは、布団を頭まで被る。

体が震えている。


泣いているのをこらえているんだわ。


その原因を、作ってしまったことに責任を感じる。



「アレン……あなたはまだ子供よ。それを気づかないといけないのは、あなたを追放した大人たちなのよ」


ましてや親の愛は絶対だ。


私は師匠とは本当の親子じゃなかったけど、愛情をかけてもらったからここまで頑張れたんだもの。


アレンは、まだ大人から愛情を受け取る歳だわ。


「この祠は、魔力を持って生まれた人が、それによって不利な状況に陥った時に使って欲しいとあちこちに建てられてるんだ。だから、魔力がある人しか見えないし、入れない。

始祖はわかっていたのかな?俺みたいなやつが、将来現れるかもしれないって……」


「……そうなの?じゃあ、本当に守られてるのね。あなたの始祖、すごい人だから、本質を見ると思うの。だから、アレンにはがっかりしないけど、アレンみたいないい子をちゃんと導かない大人に怒っているわ。絶対だわ」


会ってみたかった。


その始祖はどんな人だったんだろう?


シャルバンポールに師匠が潜っていたなら、その人とも会ったことがあるんでしょうね。


もしかしたら、師匠のローブは、アレンの先祖の始祖と一緒に仕事をして、紛れ込んでいたのかもしれないわ。


城で、師匠が迫害されたり、魔女だとバレなかったか心配だったけど、そんなすごい人がいたならきっと、師匠はその人に協力していたのね。


政治の内側から、なんとか私たちを助けようと頑張ってくれていたのね。


それなのに……


ごめんね。師匠……


先に騙されて捕まって、ダンジョンに入ってしまってごめん。




私が師匠のことを考えている間に、アレンは泣きながら眠りに落ちていた。


魔力は戻るけど、体と心の怪我は回復過程だ。


休養が必要だわ……



私は、もう一度祠の天井を見上げた。


魔女狩りの時に、こんなふうに安心して眠れる場所があれば良かったわね。


師匠が、その始祖に、私たちみたいに困った人が出てきた時のために頼んでくれたのかしら?


私も少し眠ろう──



横になり、久しぶりに浮いた状態で眠りに入ろうとする。


レグたち、どうしているかしら?

心配させちゃったよね。

特にレグは責任感が強いし……


少ししか一緒にいなかったのに、あの場所は、すごく安心できたの。

本当はずっと一緒にいたかった。


字がわからないから手紙も残せなかった。

お礼も言えずごめんね。



5人の顔が浮かんでは消える。



私は、安心できる環境を、私のために作ろうと頑張ってくれていたレグを怒らせてしまった。


そして、アレンの人生を私が変えてしまったように、みんなを危険な目に合わせてしまうのは時間の問題だわ。



深いため息をついた。


そのため息が、すーっと天井に吸い込まれていくような気がした。


アレンにまで魔女だってバレて、私、これからどうしたらいいんだろう。


アレンの魔力が戻って、もし枢機院に戻れるなら、私の身バレは前よりもひどい状況になるわよね。



私もアレンの不安が伝染して段々と泣きたくなる。


しかも、アレンは私が魔女というところまではわかっても、私がこの自分をこの状況に追い込んだプラチナ女だとは気づいてないのだ。


騙す形になったし、早めに自分の正体を明かして謝った方がいいよね



謝って、許されるわけではないけど……


アレンに関しては、グレンに助けを求めたほうがいいかしら?

それとも神官のキリフかしら?


レグ……アレンだけでも保護してあげてくれないかな?



どちらにしても、文字を書けないんだから、助けを求める方法すらない。


ほろりと涙が出て、ごしごし目をこする。




その時──


「デボラ!いるのか?いるんだよな!頼む!出てきてくれ!」


悲鳴のような声が聞こえてくる。


まさか!


その声は、レグスタインの声だった。


私は、思わずドアの向こうに駆け出しそうになる。


だが──


「レグスタインの声だ……デボラ……って?もしかして、あんたプラチナの女なの?プラチナの女は魔女だったの?だからプラチナなのか?」



レグスタインの声で何事かと起き上がったアレンは、私の反応を見ていたようだ。


冷たい目で私を睨みつける


「アレン……」


私は、どうしていいかわからず呆然として、その場から動けなかった。









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